離婚後に元配偶者から慰謝料請求されたときの支払い義務と対処法
婚姻中の不倫が発覚した場合、離婚後であっても、元配偶者や不倫相手の配偶者から高額な慰謝料を請求されるケースがあります。
「不倫も離婚も、すでに過去のことだから…」と無視し続けていると、思わぬ不利な展開や大きなリスクを負う可能性があるため、注意が必要です。
本コラムでは、離婚後になってから、離婚する前の不倫慰謝料を請求されたときに確認すべきことや対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
目次
1、離婚後、請求された慰謝料を支払う義務はある!? 無視したらどうなる?
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(1)離婚後でも不貞慰謝料の支払い義務はある
婚姻中に妻(夫)以外の人と性交渉をもつことを「不貞行為」といいます。不貞行為は、夫婦間の貞操義務に反し、また、夫婦生活の平穏を壊す行為として慰謝料の支払義務が生じます。
このことは、離婚が成立した後に婚姻期間中の浮気が発覚した場合でも同じです。相手に気付かれないまま離婚が成立したからといって、慰謝料の支払義務から解放されるわけではありません。
したがって、財産分与や養育費の取決めもきちんと行い、正式に離婚が成立した後であっても、その取決めの内容次第では、元妻(元夫)から婚姻中の不貞を理由に慰謝料を請求されれば、支払わなければならない法的義務があるのです。
にもかかわらずこれを無視していると、相手から法的権利としての慰謝料請求権を行使されることになり、さまざまなリスクが考えられます。 -
(2)無視すると考えられる展開とは?
(2)-1 相手が引き下がる可能性はほぼ皆無
離婚後の不貞の慰謝料請求は、相手の代理人である弁護士からの内容証明郵便から始まることが一般的です。突然の弁護士からの書面に驚くのは当然ですが、これを放っておいても事態が好転することは期待できません。
すでに説明したとおり、不貞をした以上、原則として慰謝料を支払う義務があるわけですし、弁護士に依頼してまで請求をしていることはその意思が強いことの現れですので、請求を無視したところで相手が引き下がることは想定し難いからです。
なお、元妻(夫)が子どもの親権者となっている場合、過去の浮気がばれたことに怒って、子との面会交流を拒否することもあります。もちろん、子どもとの面会交流は、過去の不貞行為とは関係ないものですが、子どもの年齢が小さい場合は、実質的には親権者の意向に面会が左右される点も否定できません。
このように感情的なもつれから子との交流が阻害されるリスクもありますから、相手への対応は慎重を期すべきです。
(2)-2 裁判の被告として訴えられる可能性がある
無視されたことで相手はさらに怒りを強め、慰謝料の支払いを求めて訴えを提起する可能性が高まります。
訴訟になれば、長期間にわたり、被告として裁判に対応しなければならないことになり、長い闘争の末、敗訴判決を受けて遅延利息も含めた慰謝料を支払わされる可能性が十分にあります。
(2)-3 いきなり仮差押えをされるリスク
実は、裁判に持ち込まれることよりもさらに恐れるべきことがあります。法的に支払義務があることが明白であるにもかかわらず、相手を無視するなどの請求に応じない態度を見せることで最も危険なのは、給料や銀行預金への仮差押えです。
他人同士の場合と異なり、元夫婦間の争いでは、自分の勤務先や銀行口座まで知られている可能性が大です。そうなると、相手は裁判という時間のかかる方法で勝訴判決を受ける前に、いきなり何の予告もなく、仮差押えという方法であなたの給料や預貯金を差し押さえることができるのです。
まだ正式な判決が出る前の「仮の」差押えですから、実際に相手にお金がとられるわけではありませんが、会社や銀行などに仮差押えがなされる旨の通知が届いた場合、仮差押えの対象が給与債権であれば一定の範囲で支払いが制限され、預金債権であれば各金融機関はその口座を凍結させることになり、あなたは自分のお金を自由に受け取ることができなくなります。
仮差押えは、金銭的な面でもリスクですが、不貞の事実(少なくとも何らかのトラブルを抱えていること)が勤務先に知られることになりますし、銀行預金の仮差押えはご自身の信用に大きな支障となります。
(2)-4 欠席判決のリスク
提訴されると、裁判所から特定の日(平日の日中いずれかの日時)に裁判所に出頭するようにという呼出しを受けます。この呼出しを無視すると、被告が不在のままで裁判が進み、いわゆる欠席判決となって被告が敗訴します。
敗訴すればもちろん判決で言い渡された金額を支払わねばならず、支払わなければ給与や預金などを差し押さえられます。この差押えは、訴訟の前の仮差押えと異なり、強制執行手続であり、差し押さえられた財産がそのまま相手が有する債権の支払いに充てられてしまいます。
このように、離婚後に不貞の慰謝料請求を無視しても決して良い結果は期待できません。何らかの対応をしなければならないものと心得ましょう。 -
(3)時効について(慰謝料請求される可能性のある期間)
法的な金銭の請求権にはすべて消滅時効が定められており、一定の期間が経過すると請求権自体が消滅することになります。現行法上、不貞行為のような不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知った時から3年です。
また、時効とは異なりますが、同様に一定期間が経過すると権利の行使ができなくなる除斥期間について、不法行為の時から20年を経過した時点と定められています。これらのうちいずれか早い方が経過した段階で慰謝料請求権を行使することができなくなります。
(3)-1 不貞が原因で離婚した場合
不貞行為が原因となって離婚した場合は、不貞行為それ自体に加え離婚に至ったことによる精神的苦痛も損害と考えます。
この場合には、元妻(夫)が元夫(妻)の不貞行為を離婚段階で認識していたことになりますので、離婚が成立した時を時効の起算点とし、離婚成立時から3年が経過すると元妻(夫)から元夫(妻)に対する慰謝料請求権は時効により消滅します。
(3)-2 離婚原因は不貞と認定できないが、不貞があった場合
この場合は、離婚ではなく、不貞行為自体を不法行為と考えます。その場合、元夫(妻)が不貞行為をしていることを知った時点で慰謝料の支払いを請求することができますので、元夫(妻)の不貞行為を知ってから3年の経過により元妻(夫)から元夫(妻)に対する慰謝料請求権は消滅するのが原則です。
ただし、夫婦間の請求権については、例外的に、離婚成立後6ヶ月間は時効が完成しないという特別の定めがあります。一般的に、婚姻期間中、一方の配偶者は他方に対して請求しないためです。
したがって、最後の不貞行為から20年または、元妻(夫)があなたの不貞行為を知ってから3年が経過していても、離婚が成立してから6ヶ月間は時効が完成せず、消滅時効を主張することができませんので注意が必要です。
なお、いずれにしても、時効制度とは、時の経過によって自動的に権利が消滅するのではなく、時効を援用するという意思表示によって初めて効果が発生する(相手の請求権を消滅させる効果が生じる)ものです。したがって、時効完成に必要な期間が経過しているとしても、安心して放置するのではなく、相手に消滅時効を援用する旨をきちんと伝えなければなりません。
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なる場合がございます。
2、離婚後に慰謝料請求されたらまず確認すべき5つのこと
離婚後の慰謝料請求を受けたら、まずは、以下5つのことを確認しましょう。
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(1)事実の確認
(1)-1 不貞に基づく請求か
相手が主張する不貞の事実は何なのか、慰謝料請求の根拠はどのような行為かという点をよく確認しましょう。
相手としては何らかの事情で怒ったり傷ついたりしたために慰謝料を請求しているわけですが、男女間の交際のすべてが不貞行為に当たるわけではありません。法的な意味における不貞行為とは性交渉であり、キスやハグ、手をつなぐといった行為だけでは、一般的には、慰謝料原因となる不貞行為とは認められないのです。
もちろん、配偶者が他人とキスなどの行為に及んでいれば不快や苦痛を感じるのは当然ですが、法的な慰謝料に結びつくかはまた別の話です。相手の主張する内容が性交渉を示すものなのか、よく確認しましょう。
(1)-2 夫婦関係が破たんしていなかったか
不貞行為が不法行為として慰謝料の発生原因となるのは、平穏な夫婦関係を壊す行為だと考えられるからです。平穏で安定した夫婦関係は保護されるべきだという法の考え方を示したものといえます。ということは、夫婦関係が完全に冷え切ってすでに破たん状態にあるならば、すでに保護すべき平穏な夫婦関係が存在しないわけですから、不貞を行っても慰謝料を支払う義務はありません。
もっとも、夫婦が破たんしていたかどうかの客観的判断は難しいものであり、少なくとも同居している夫婦間であれば、破たんが認められることは稀といえます。ひとつ屋根の下に暮らしている以上、多少不仲であったとしても破たんとまでは言えないという考えが主流のようです。
したがって、自分としては、もう妻とはやっていけないと思い、離婚も前提とした上で不貞に及んでいたとしても、結果として破たんが認められず、慰謝料の支払義務を負うことも十分に考えられますので要注意です。 -
(2)要求内容の確認
(2)-1 金額の確認
慰謝料の請求額がいくらなのかは重要なポイントです。人の心の苦痛は他人には測れないものですが、不貞慰謝料については、おおむねの相場が決まっています。不貞の実態(たとえば、不貞の期間や頻度、相手との関係性など)に照らして、不当に高額な請求であれば減額の交渉をする余地があります。
また、時として、請求金額を明示しないで連絡をしてくる場合もありますので、このような場合も、相手がどの程度の請求を考えているか、具体的に確認することは必須となります。
なお、不貞慰謝料は、本人だけでなく不貞相手に対しても同時に請求を行っている場合があります。法的には、配偶者とその不貞相手が連帯して慰謝料を支払う義務を負います。そのため、二人から別々に多額の慰謝料を払うことにならないように、元妻(夫)が誰に請求しているかも確認する必要があります。
(2)-2 金銭以外の要求の確認
不貞慰謝料請求でよく見られるのが、謝罪の要求です。本人だけでなく、不貞相手にも謝ってほしいという要求もよくあります。もちろん相手は怒っているわけですから当然といえば当然ですが、謝罪要求に応じて本人同士で交渉を開始するのは危険です。
感情が高ぶって危ない状態になる可能性も否定できませんし、相手の勢いが激しく、冷静な判断ができない状態で不利な内容の書面などに押印をさせられてしまっては、元も子もありません。
他方、お金よりも真摯な謝罪が欲しいという場合もありますから、相手の要求をきちんと理解することは重要です。 -
(3)時効の確認
先のご説明のとおり、慰謝料請求権には消滅時効があります。
消滅時効を過ぎた請求は法的には応じる必要がありませんが、うっかり誤った返答をすると返答内容によっては、消滅時効を援用することができなくなったり、もう少しで迎えるはずだった消滅時効について自ら中断(これまで進行してきた消滅時効の期間がリセットされること)させてしまい、全額を支払わなければならなくなるというおそれがあります。 -
(4)相手に証拠があるかどうか
相手の請求の確実さは、相手の持っている証拠の内容により大きく変化します。民事訴訟のルールとして、請求する側が請求の根拠(不貞慰謝料請求であれば、婚姻中の不貞の事実)となる証拠を出さねばなりません。
したがって、相手がいくら威勢よく請求してきても、証拠を持っていなければ不貞の事実を立証できないわけですから、相手が素直に応じるとは限りませんが、相手の手持ち証拠の確認は大変重要です。 -
(5)弁護士がついているかどうか
不貞慰謝料請求事件の場合、弁護士をつけずに自分で請求してくるケースもしばしばあります。請求自体は比較的シンプルなものだからです。にもかかわらず弁護士を経由して請求している場合には、謝罪だけで済まされることはまず考えられません。
弁護士費用を払って、慰謝料請求事件として取り組む意向があるわけですから、いわば本気で請求しているわけです。依頼をされた弁護士も責任がありますから、話し合いが進まなければ速やかに訴えを提起する可能性が十分にありますので、安易な対応は禁物です。
3、慰謝料請求された場合の対処方法
慰謝料請求のパターンはいくつかに分けられます。パターンごとの注意点は次のとおりです。
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(1)元妻(夫)からメールや電話で請求された場合
本人から突然メールや電話で連絡が入る場合です。予期せぬ連絡に誰しもが動転しますが、重要なのは相手の要求をきちんと確認し、法的に応じる必要があるかを検討することです。自分に非がある場合に誠意を持った態度を示すことは大切ですが、例えば消滅時効が完成している場合や、要求された金額が不当に高い場合には安易に対応するべきでないこともあります。
また、最初にどんな返答や対応をしたかによって、その後の展開がまるで変わってくる可能性もありますから、慌てずに、最初の返答をする前に、弁護士に一度だけでも相談するほうが安全です。
なお、弁護士に相談することなくご本人同士でやりとりをしてしまった場合には、そのやりとりの記録をきちんと残しておきましょう。また、感情がもつれて、時として脅迫に近いような状況になることもありますから、どんな状況でも危険を感じたら警察を呼んだり、弁護士に相談するなどして、身を守ることも大事です。 -
(2)内容証明で請求された場合
内容証明が届くと、多くの方は強い不安に支配され、冷静な判断が困難になります。たとえば、「○月○日までに○○円を支払え」などと書いてあると、○月○日が近づくと、いてもたってもいられないという心理状況に追い込まれます。
しかし、このような期限の設定は、いわば相手の一方的な希望の記載に過ぎず、法的な拘束力はありません。したがって、その日までに支払いをしなくとも、ただちには問題にはならないことを理解しておいてください。
とはいえ、そのまま放置しておくとリスクにつながることはご説明したとおりですから、速やかに対応はしなければなりません。 -
(3)訴状や調停の呼出し状が届いた場合
何の連絡も内容証明の送付もないまま、突然に訴状や調停の呼出状が自宅に届くこともあります。この場合は、○月○日○時に裁判所に来るようにという具体的な期日が指定されています。
調停の場合は出頭しなくても勝手に進行することはありませんが、訴訟の場合は、放置すると欠席判決で敗訴してしまいますから、絶対に放っておいてはいけません。裁判への出頭要請が届いたら一日も早く弁護士に相談して対応を練りましょう。
4、まずは落ち着いて弁護士に相談
このように、不貞の慰謝料請求に対する対処は、離婚後であっても決して放置してはいけない一方で、安易に返答をすることもリスクであるという難しさを持っています。
また、どのような対応が望ましいかは、事案によって異なりますから、たとえばネットで調べたことをそのまま実行したとしてもそれがベストとは限りません。
不貞の慰謝料請求を受けたら、まずは弁護士に相談して、ベストな対応を決めていくことが得策です。
また、弁護士を経由せず、本人同士で協議を進めた場合でも、最終的な合意内容を示す協議書や公正証書を作成する段階では、弁護士に相談することをおすすめします。相手に一方的に有利な文言が無いか等、法的な観点からチェックする意義は大きいものです。
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5、まとめ
離婚後に、突然の慰謝料請求を受けた際のショックは大きいものです。自分のやったこととはいえ、「すでに過去のこと」という思いもありますから、その対応は気の進むものではないでしょう。
しかし、放置によるデメリット・安易な対応による損失は計り知れませんし、感情的になっている相手とやりとりを続けることによるストレスも相当なものです。
事案がこじれる前に早めに弁護士に相談することでリスクを最小化し、支払金額の見込みを立てて、そして、場合によっては交渉を任せることでストレスからある程度開放されることにも意味があります。
べリーベスト法律事務所では、離婚成立前はもちろん離婚後の場合でも、過去多数の不貞慰謝料問題の実績を重ねており、事案に精通した弁護士が在籍しています。
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