熟年離婚に踏み切る前に! 年金受給のために考えておきたい年金分割の基礎知識
結婚生活30年、当初から、今でいうモラハラ状態が続いていたけれども、夫には理解してもらえなかった。離婚そのものが珍しく、女ひとりで生活できる時代じゃなかった。毎日が辛かったが、「亭主元気で留守がいい」と自分に言い聞かせて我慢してきた。
ところが、これまで家庭を顧みたことなんてロクになかったのに、定年退職後は夫がべったりでうんざりする……。
個人の権利と尊厳が重視されるようになった今、長年連れ添っていたものの離婚を選択する「熟年離婚」が増えています。
熟年離婚をしようと考えているとき、気になることと言えばお金のこと、特に「年金分割」についてです。年金制度は老後の命綱となるにもかかわらず、その詳細についてはよくわからないという方も少なくありません。熟年離婚する際、どのように年金分割すればよいのか迷われる方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、年金受給までの流れや受け取り期間などの疑問を解消するため、まずは年金制度に関する基礎知識、離婚の際に行われる年金分割のポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、「年金分割」の前に年金制度について知っておこう
国民皆年金制度のもとすべての国民と関係がある「年金」。しかし、「年金」という言葉は知っているし、毎月年金保険料は支払っているけれども、その詳細についてはよくわからないという方は少なくありません。
年金については、「国民年金法」という法律が定められていて、この法律のもとに運用されています。国民年金法の冒頭となる第1章総則 第1条では、年金が「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している憲法第25条第2項の理念に基づき、運用されるものであることが明記されています。
そのほかにも国民年金法では、国民年金の給付条件や分割についても定められているのです。では、離婚に伴う年金分割に関係する部分をピックアップして解説していきます。
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(1)そもそも年金の構造はどうなっているの?
年金分割の話をする前に、年金はどのような構造になっていて、今まであなたやあなたの配偶者が支払ってきた年金はどれに当たるのかを知っておく必要があります。それは、年金分割できるかどうかという根本的な部分まで関わってくるためです。
日本の年金は、簡単に説明すると3つの層があり、どれぐらいの期間を加入しているかによって受け取ることができる金額が異なります。
第1の層が、年金制度の土台となる「国民年金」です。これは、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方に加入義務があり、「基礎年金」とも呼ばれています。
第2の層は、民間企業や公務員、教職員として働いている方が加入している「厚生年金」です(「共済年金」は平成27年10月1日から「厚生年金」に一元化されました)。これらには基礎年金分が含まれており、さらに企業や個人が収入に応じた「報酬比例部分」を上乗せして支払う制度で、将来より手厚い保障を受けられるようになっています。
第3の層は、さらに手厚い保障を受けるために任意加入できる年金です。企業型、個人型などがありますが、「厚生年金基金」「国民年金基金」「確定給付企業年金」「確定拠出年金」などがこれに当てはまります。保険会社が運用する年金保険はここに当てはまりません。
また、専業主婦の方等は、自分自身は年金保険料を支払っていないけれども、夫の扶養に入っているという方もいらっしゃると思います。厚生年金保険に加入している者の配偶者に扶養されている人は、第3号被保険者として年金に加入することができ、年金保険料を支払っていないけれども扶養に入っている方はこれにあたります。横にスクロール
まずは基礎知識として、年金にはベースとなる「国民年金(基礎年金)」と2つの層があり、「層を厚くすればするほど、受け取ることができる年金の金額が上がる」こと、夫の扶養に入っている方は第3号被保険者となっていることを、基礎知識として覚えておいてください。
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(2)年金だけで生活できる?
答えは残念ながら「NO」です。
日本年金機構のホームページには、現時点の受給年金額が記載されています。たとえば令和5年4月から受け取ることができる老齢基礎年金の受給年金額の満額は、年間79万5000円となります。20歳から60歳になる40年間ひとときも欠かさず全期間保険料を納め、据え置き期間を経て65歳から受け取りを始めた方のみがこれに該当し、それ以外の方は減額されます。
年収79万円といえば、単純計算をしても月額66000円程度です。これだけ生活できるかといえば、現在の日々の生活費から考えても「難しい」と言わざるを得ないでしょう。
ただし、第1の層である基礎年金だけでなく、第2の層となる「厚生年金」や、第3層に当たる「年金基金」などへ加入していた場合は、受け取ることができる金額が増えます。
逆に、支払い免除制度などを使用して年金を支払わない期間が長ければ長いほど受取額は減額されます。また、年金の保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が合計10年に満たない場合は、基礎年金すらもらえなくなる点に注意が必要です。
実際に受け取ることができる金額については、保険料納付期間や世帯主が勤めていた会社の厚生年金制度、さらに年金制度の改正などによって異なります。詳しくは、ねんきんネットで確認するか、年金事務所に問い合わせるとよいでしょう。
いずれにせよ、離婚の話し合いを行う前に、あなた個人がいくら受け取ることができるのかを、あらかじめ調べておくことをおすすめします。 -
(3)専業主婦でも年金はもらえる?
基礎年金は原則、日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方に加入義務があるものです。自営業の場合は2人分の請求がありますし、厚生年金の場合も2人分天引きで支払われる……という制度になっています。
配偶者の扶養に入り、長らく専業主婦だった方も、原則、第3号被保険者として年金に加入しているハズ……ということになります。「ハズ」がついてしまうのは、例外があるためです。自営業などで支払ってこなかったというケースもありますので、注意が必要です。 -
(4)年金はいつから、どれぐらいもらえるの?
年金をもらえるケースは、主に3つあります。
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老齢年金
一般的に「年金を受け取る」という表現で想像されるものが、この老齢年金です。老齢基礎年金は、原則65歳から受け取ることができます。
ただし、もっと早くから受け取りたい場合は、「繰上げ請求」を申請すれば60歳から一定の割合を差し引かれた金額を受け取ることができます。逆に、「まだ働いているからもっと後から受け取りたい」という方は、66歳から70歳までの希望する年齢から、一定の割合を増額して支給してもらえる「繰下げ請求」を選択することも可能です。
「繰上げ請求」を選択し、60歳から老齢基礎年金を受け取る場合、受取額は42%も減額されます。
逆に、「繰下げ請求」を選択し、70歳から老齢基礎年金を受け取る場合は、受取額が188%増額されます。(※昭和16年4月1日以前に生まれた方)
出典:日本年金機構
また、厚生年金に加入していた方の老齢厚生年金の受け取りは、国民年金のみ加入していた方とやや異なります。まず、老齢厚生年金を受け取るためには、「厚生年金保険の被保険者期間が1ヶ月以上あること」という条件があります。しかし、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あれば、老齢基礎年金以外の部分についてのみ、60歳から受け取ることができます。
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障害年金
障害年金は、年金加入者が一定の障害のある状態に陥った際に受け取ることができます。
障害年金の対象となる障害は、ケガなどの外部障害のほか、統合失調症、うつ病などの精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も含まれます。ただし、障害年金を受け取るためには障害の認定をしてもらう必要があり、認定されるタイミングは、障害の内容によって異なります。
また、障害年金として受け取ることができる金額は、障害の程度と扶養中の子どもの数によって異なります。
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遺族年金
受給資格期間が25年以上ある年金加入者が亡くなったとき、加入者の扶養家族が受け取ることができる年金が「遺族年金」です。
ただし、受け取ることができる扶養家族は、「子どもがいる配偶者」と「子ども」に限られています。ここにいう「子ども」とは、健常であれば18歳到達年度の3月31日まで(高校を卒業するまで)、障害年金の給付対象者になる障害がある場合は20歳未満と限られています。
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そのほかの給付
そのほかにも年金を受け取ることができるケースがあります。
まず、「寡婦年金」という制度があります。寡婦年金は、第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が10年以上ある夫が亡くなった時に、10年以上継続して婚姻関係にあり、かつ、扶養されていた妻に対して支給されるものです。受け取ることができる期間は、60歳から65歳になるまでの間で、年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3になります。
また、「死亡一時金」の支給制度もあります。あなたの配偶者が国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36ヶ月以上あり、かつ、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることが1度もないまま亡くなったとき、一時金として年金を受け取ることができるという制度です。死亡一時金を受け取ることができる方は、その方と生計を同じくしていた方のうち、配偶者・子ども・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の中で、もっとも優先順位が高い方となります。
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老齢年金
2、年金分割の基礎知識
年金の基礎知識をベースに、実際に離婚する際に行われる年金分割について解説します。
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(1)年金分割とは、どんな制度?
現在の年金分割制度は、平成19年に施行されたものです。それ以前は厚生年金の上乗せ分(第2の層)となる部分はすべて夫のものとなってしまい、妻は老齢基礎年金に相当する部分しか受け取ることができず、老後保障が十分ではない状況に陥るケースが多くありました。
年金分割については、厚生年金保険法78条に詳細が記されています。わかりやすく説明すると、年金分割制度とは、夫婦が婚姻中に支払ってきた年金保険料の金額に応じて、離婚後、各々が受け取ることとなる年金受給額を調整する制度です。あなた自身が年金保険料を支払っていなくても、夫の年金の一部は妻の内助の功によるものであると認められるというわけです。
あなたの配偶者が加入していた年金の中でも「婚姻期間中に支払った年金保険料に対応する部分」が対象となるため、受け取ることができる年金額のすべてが半分ずつになる制度ではない点に注意が必要です。
また、年金分割は全ての年金に対してできるわけではありません。年金分割の対象となる年金は、種類が限られています。年金分割制度の利用を検討している際は、注意が必要です。 -
(2)年金分割できるケース
年金分割制度を利用できるのは、前段「(1)そもそも年金の構造はどうなっているの?」で解説した中の、第2の層となる部分、つまり「厚生年金」のうち、基礎年金分を除いた部分です。厚生年金において、収入に応じて保険料を納める「報酬比例部分」のみが、年金分割対象となるということです。
また、そのほかにも年金分割制度を利用する際は条件があるため、注意が必要です。
以下の条件すべてに当てはまるケースのみ、年金分割が可能となります。- あなたの配偶者が第2号被保険者として「厚生年金」に加入している
- あなた自身が、夫が加入している年金の「第3号被保険者」であり、10年以上の加入期間がある
- 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある
- 平成20年3月以前に結婚している場合は、合意分割に合意した書類が用意できる
これらのケースに当てはまってさえいれば、あなたが専業主婦ではなく、パートで働いていたとしても、年金分割請求は可能となります。
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(3)年金分割できないケース
以下のケースに関しては、年金分割制度の利用ができません。
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加入していたのが夫婦ともに、第1の層となる「基礎年金」のみだった
基礎年金部分は、年金分割の対象ではありません。あなたを扶養していた配偶者が厚生年金などに加入できない自営業者や非正規雇用者である場合も、ここに当てはまります。 -
第3の層となる各種「年金基金」や「確定拠出年金」の分割
個人的に加入を選択する貯蓄的要素が強いため、年金分割制度の対象にはなりません。ただし、「財産分与」の対象に可能性がありますので、交渉してみることをおすすめします。 -
配偶者が婚姻前に支払っていた厚生年金
分割対象となるのは、婚姻期間中の年金のみとなります。 -
平成20年3月以前に結婚した方で、分割合意書が作成できない
たとえあなたが厚生年金の第3号被保険者であっても、平成20年4月より以前の分のみ、分割合意書が必要となります。平成20年4月以降分は3号分割制度(双方の合意がなくとも、当事者の一方からの請求により自動的に分割する制度)を利用することで、合意書がなくても分割可能です。 -
離婚するとき、「年金分割はしない」という文面がある離婚合意書に署名捺印した
離婚する際、すでに離婚合意書にサインしてしまっている場合は分割の請求はできなくなります。 -
離婚した日の翌日から2年以上経過している
年金分割請求には、請求期限が定められています。原則は、離婚した日(第3号被保険者資格を喪失し、婚姻関係が解消した日)の翌日から起算して2年以内に請求しなければなりません。ただし、2年以内に調停などを起こしている場合は、年金事務所に分割請求を行うタイミングが請求期限を経過していても特例として受付けられることがあります。
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加入していたのが夫婦ともに、第1の層となる「基礎年金」のみだった
3、年金分割の請求方法
年金分割の請求方法は、結婚した年によって異なります。まずはこの項を参考に、年金分割請求を進めるとよいでしょう。
なお、年金分割の割合については、合意や裁判による場合、上限を50%とし、下限を分割を受ける側の分割前の持分相当割合とし、その範囲内で按分割合を決定します。
あなたが専業主婦の場合、分割できる割合は50%となることが多いでしょう。しかし、あなたがパートなどで働いていた場合は、その収入を考慮して、分割割合が決められてゆきます。
また、以下で説明する3号分割による場合には、自動的に2分の1に分割されます。
年金分割請求が完了したら、あなた自身の厚生年金記録と、相手から分割された標準報酬月額と報酬賞与額に基づいた年金額が再計算されます。
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(1)平成20年3月以前に結婚していた方
平成20年3月までの年金について分割請求する場合は、相手の合意が必要な「合意分割」をする必要があります。その場合は、以下の手順で手続を進めてください。
- ①年金事務所に問い合わせをして「離婚時年金分割に関する情報通知書」をもらう。
- ②第2号被保険者である配偶者と話し合い、合意を得たら、年金分割に関する合意書を作成する。合意を得られないときは家庭裁判所における調停などで調停調書等を入手する。
- ③手順②で入手した書類を年金事務所へ持って行き、事務手続を行う。
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(2)平成20年4月以降分の年金分割の手続
平成20年4月以降分の年金については、相手の合意がなくとも分割ができるようになりました。これを「3号分割」と呼ばれています。請求の手順はごく簡単で、離婚が成立したら、年金事務所に行き、事務手続を行うだけで完了します。
もし、合意分割分と「3号分割」の対象となる部分の双方がある場合は、合意分割分の請求を行うと同時に、自動的に3号分割の請求が行われたとみなされます。 -
(3)話し合いで決まらなければ調停や裁判へ
現時点で熟年離婚を考えている方のうち、多くのケースで、話し合いによる合意が必要となると考えられます。もし話し合いで合意してもらえないときや、話がこじれてしまいそうなとき、あなたひとりで対応することが難しいときは、弁護士の力を借りることもひとつの手です。婚姻期間が長ければ長いほど複雑化しがちな財産分与などとともに、まとめて交渉してもらうことも可能となります。
ぜひ離婚問題の実績豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
4、まとめ
離婚後の生活を安定させるためには無視することができない年金分割について、詳しく解説しました。そもそも年金という制度自体が複雑でわかりにくく、かつ受け取ることができる金額も年々削られているという現状があります。具体的にいくらぐらいもらえるのかという点については、状況の確認が必要となりますので、年金事務所や弁護士に相談するとよいでしょう。
月あたり数万前後の増額であっても、年金は長期間受け取っていくものですので、トータルで大きな違いがあります。場合によっては、慰謝料や財産分与と合わせて交渉することで、有利に離婚することも可能です。ぜひ諦めずに年金分割制度を利用してください。相手が話し合いに応じない、交渉方法がわからないというときは、迷わず離婚や財産分与に関する経験が豊富な弁護士にご相談ください。熟年離婚のお悩みに関する無料相談を受付けております。必ずあなたの力になります。お気軽にお問い合わせください。
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