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熟年離婚をしたら年金分割はいくらになる? 算出方法や注意点

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更新日:2024年05月14日  公開日:2024年05月14日
熟年離婚をしたら年金分割はいくらになる? 算出方法や注意点

熟年離婚をする際に押さえておきたい制度のひとつに、年金分割があります。

熟年夫婦が離婚した後の生活を考える上で、年金がいくらもらえるかは非常に重要な問題です。年金分割制度を利用することによって、将来もらうことができる年金を増やせる可能性があるため、理解を深めるようにしましょう。

本コラムでは、熟年離婚をする際の年金分割制度の概要や金額算出のシミュレーション、年金分割をする際の注意点などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、年金分割の基本概要と年金分割できないケース

熟年離婚をする際に問題となる年金分割とは、どのような制度なのかを見ていきましょう。1章では、熟年離婚と年金分割制度の概要を説明します。

  1. (1)熟年離婚とは

    明確な定義はありませんが、熟年離婚とは、一般的に長年連れ添った夫婦が離婚することを意味します。

    厚生労働省が公表するデータである「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」によると、令和4年に同居期間が20年以上の夫婦が離婚した数は3万8990組で、全体の約22%を占めている状況です。

    熟年離婚は増加傾向にあります。

  2. (2)年金分割制度とは

    年金分割制度とは、離婚した際に、婚姻期間中の厚生年金記録を分割して、それぞれの年金にすることができる制度です。

    厚生年金記録は年金受給額算定の基礎になるため、年金分割を行うことで厚生年金記録の分割ができれば、自分が将来もらえる年金を増やすことができます。

    年金の分類は「3階建ての構造」と言われるように、階層が分かれています。

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    • 3階……国民年金基金、厚生年金基金、個人型・企業型確定拠出年金、確定給付企業年金(企業などが運営する私的年金)
    • 2階……厚生年金(会社員などが対象となるもの)
    • 1階……国民年金(国民全員が加入するもの)


    このうち年金分割の対象になるのは、2階の厚生年金部分に限られます。
    熟年離婚の場合、その後の生活に不安を抱える方も多いですが、年金分割により将来もらえる金銭が増えれば、老後の不安も多少は解消されるでしょう。

  3. (3)年金分割できないケース

    年金分割は、離婚した夫婦であれば必ず利用できる制度というわけではありません。

    以下に該当する方は年金分割ができないため、注意が必要です。

    • 夫婦ともに国民年金のみに加入していたケース(自営業の夫婦など)
    • 婚姻前の期間の厚生年金記録を年金分割したいというケース
    • 離婚時に年金分割をしない旨の合意書があるケース
    • 離婚をした日から2年以上経過しているケース
    など


    離婚を決断するとともに、自分たちの場合はどうなのだろうかと疑問に思うことがあれば、離婚問題に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。

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2、年金分割をする2種類の方法|合意分割・3号分割

年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。2章では、それぞれの年金分割の方法について説明します。

  1. (1)合意分割と3号分割の概要

    合意分割と3号分割の概要は、次の表のとおりです。

    合意分割 3号分割
    請求方法 当事者の一方からの請求 被扶養配偶者からの請求
    請求時の合意 必要 不要
    分割の対象期間 婚姻期間中のすべての期間 平成20年4月1日以降の婚姻期間中における第3号被保険者期間
    按分割合 上限50% 一律50%
    請求期限 離婚した日の翌日から起算して2年

    このとおり、請求方法や按分割合などに違いがあるため、ご自身の場合はどちらの対象になっているのかを確認する必要があります。

  2. (2)合意分割とは

    合意分割とは、夫婦の合意により分割割合を定めて、厚生年金記録の分割を行う方法です。

    夫婦の話し合いにより合意することが基本ですが、話し合いがまとまらないときは、裁判所の調停、審判、(離婚訴訟と一緒に行う場合には)裁判により、分割割合を決める必要があります。

    合意分割を利用するためには、次の条件を満たさなければなりません。

    • 平成19年4月1日以降に離婚をしている
    • 夫婦の合意または裁判手続きにより年金分割の割合を定めている
    • 請求期限を経過していない


    合意分割を行う手順は、5章「(1)合意分割の流れ」で解説しています。

  3. (3)3号分割とは

    3号分割とは、国民年金第3号被保険者からの請求により、相手の厚生年金記録を2分の1ずつ分割する方法です。

    3号分割を利用できるのは、会社員や公務員に扶養されていた配偶者(国民年金第3号被保険者)ですので、主に専業主婦(専業主夫)がこの制度を利用することになります。

    3号分割を利用するためには、次の条件を満たさなければなりません。

    • 平成20年5月1日以降に離婚をしている
    • 平成20年4月1日以降、夫婦どちらか一方に国民年金の第3号被保険者期間がある
    • 請求期限を経過していない


    なお、婚姻期間中に共働き期間と専業主婦(専業主夫)の期間がいずれもある方が合意分割の請求をすると、合意分割とともに3号分割の請求があったものとみなされます。

    3号分割を行う手順は、5章「(2)3号分割の流れ」をご覧ください。

3、【ケース別】年金分割でもらえる金額の算出シミュレーション

熟年離婚をした場合、年金分割でどのくらいの年金をもらうことができるのか、具体的に計算したものを見てみましょう。ケース別に、年金分割の金額を算出する方法を紹介します。

  1. (1)専業主婦(専業主夫)の場合

    • 夫が会社員(厚生年金受給権者)で妻が専業主婦
    • 夫の対象期間標準報酬額が6600万円
    • 妻の対象期間標準報酬額が0円
    • 按分割合が50%


    まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。

    6600万円+0円=6600万円


    次に、按分割合50%で、分割後の夫婦それぞれの対象期間標準報酬額を計算します。

    • 夫:6600万円×50%=3300万円
    • 妻:6600万円×50%=3300万円


    最後に、夫婦それぞれの老齢厚生年金額を計算します。

    3300万円×5.481÷1000=18万873円(年額)

    ※5.481は給付乗率で、老齢厚生年金を算出するための国で定められた係数です。年齢や婚姻期間によって変わります。

    このシミュレーションでは、妻の支給年金額が18万873円増えることになります。

  2. (2)共働き夫婦の場合

    • 夫と妻がともに会社員
    • 夫の対象期間標準報酬額が6600万円
    • 妻の対象期間標準報酬額が2200万円
    • 按分割合が50%


    まずは、夫と妻の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。

    6600万円+2200万円=8800万円


    次に、按分割合50%で、分割後の夫婦それぞれの対象期間標準報酬額を計算します。

    • 夫:8800万円×50%=4400万円
    • 妻:8800万円×50%=4400万円


    最後に、夫婦それぞれの老齢厚生年金額を計算します。

    4400万円×5.481÷1000=24万1164円(年額)

    ※5.481は給付乗率で、老齢厚生年金を算出するための国で定められた係数です

    このシミュレーションでは、妻の年金額が12万582円増えることになります。

4、熟年離婚で年金分割をする際の注意点

4章では、熟年離婚で年金分割をする際に注意すべき3点をご紹介します。

  1. (1)年金分割だけでは生活できないこともある

    年金分割をすることによって、将来もらえる年金を増やすことができますが、それだけでは生活費として十分なお金にはなりません。

    3章で見た専業主婦(専業主夫)のシミュレーションでは、専業主婦(専業主夫)の方が年金分割により18万873円(年額)の年金を増やすことができています。しかし月額でみると、約1万5000円程度にしかなりませんので、これだけでは生活していくのは困難でしょう。

    そのため、熟年離婚をする際には、年金分割以外にも財産分与でしっかりと老後の資金を分けてもらうことが大切です。

  2. (2)離婚から2年が経過または相手が死亡してから1か月が経過すると請求できない

    年金分割には、請求期限があります。その期限を経過してしまうと、年金分割を請求することはできません。

    具体的には、離婚をした日の翌日から2年が期限になります。また、離婚成立後に相手が亡くなった場合、死亡日から起算して1か月を経過すると、年金分割は請求できません。

    時間は思っている以上にあっという間に過ぎてしまうため、離婚をしたら速やかに年金分割の手続きを行うようにしましょう。

  3. (3)相手より収入が少なくても請求されるおそれがある

    年金分割というと、収入の少ない方が多い方に対して請求する制度だと理解している方も少なくありません。

    しかし年金分割は、収入の多い方が少ない方に対して請求することもできます。そのため、収入が少なかったとしても、相手から年金分割を請求されることで将来の年金が減る可能性があることに注意が必要です。

  4. (4)年金分割の手続き自体が複雑

    5章で解説しますが、年金分割を行うにあたっては、配偶者と話し合いをしたり、必要書類を準備したり、年金事務所に赴いたり、いくつかの段階を踏んでいく必要があります。

    配偶者と話がしにくい状況にある方や、仕事の都合上、2人で一緒に年金事務所に行く時間が取れない方もいらっしゃるでしょう。そもそもの手続き自体が複雑なため、不安に思う方も多いはずです。

    そのようなときには、弁護士に相談・依頼して、代理人となってもらうことをおすすめします。元配偶者と連絡が取れない場合にも審判などにより解決ができますし、不備なく、負荷が少ない形で年金分割を進められるため、安心です。

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5、年金分割を行うときの手順

年金分割で合意分割を行う流れと3号分割を行う流れについて、解説します。
なお、年金分割の手続きを始める前に、本人確認書類となる運転免許証、もしくはパスポートやマイナンバーカードの氏名変更手続きを完了させておく必要がある点にご注意ください。

  1. (1)合意分割の流れ

    合意分割の手続きの流れは、以下のとおりです。

    ① 年金分割のための情報通知書を入手する
    「年金分割のための情報通知書」とは、年金分割の割合などを定めるために必要な情報が記載された書類です。
    原則、請求者の住所地を管轄する年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すれば、通常2~3週間程度で「年金分割のための情報通知書」が送付されてきます。請求書を提出する際には、基礎年金番号通知書や戸籍謄本などを一緒に送付することが必要です。

    なお、按分割合が決まっているときは、情報提供請求をせずに、年金分割の合意書を提出して完了させることも可能です。その際は計算書がないため、年金がいくら増減するかがわからなくなる点に注意しなければなりません。

    ② 按分割合の定め
    合意分割の按分割合は、まずは夫婦の話し合いにより、上限50%の範囲内で定めます。話し合いで按分割合が決まったら、合意書などの書面に残しておくようにしましょう。
    夫婦の話し合いがまとまらないときは、裁判所の手続き(調停、審判、裁判)により割合を定めます。

    ③ 年金事務所で年金分割の請求
    分割割合が決まったら、年金事務所において年金分割の請求を行います。合意分割の場合には、基本的には夫婦2人で手続きを行わなければなりません。
    なお、年金事務所に出向くにあたって、事前に電話で予約を取ることが必要です。混雑している場合は2か月先を案内されるケースもありますので、早めに動くようにしましょう。

    ④ 標準報酬改定通知書の受領
    年金分割の手続きが完了すると、標準報酬改定通知書が送られてきます。
    標準報酬改定通知書には、年金分割により変更となった年金記録が記載されています。
  2. (2)3号分割の流れ

    3号分割の手続きの流れは、以下のとおりです。

    ① 年金事務所で年金分割の請求
    3号分割をする場合には、請求者がひとりで年金事務所において手続きを行うことができます。年金事務所の窓口で「標準報酬改定請求書」と必要書類を提出すれば手続きは完了です。

    ② 標準報酬改定通知書の受領
    3号分割の手続きが完了すると、標準報酬改定通知書が送られてきます。

6、まとめ

熟年離婚をする際には、年金分割により将来の年金を増やすことができます。
しかし、年金分割だけでは十分な生活費を確保することはできません。そのため、離婚時には財産分与により婚姻期間中に形成した夫婦の財産をしっかりと分けることが大切です。

離婚や年金分割の不安・トラブルは、弁護士にご相談ください。

ベリーベスト法律事務所では、離婚専門チームを組成しており、離婚問題に詳しい弁護士が在籍しています。「後悔のない財産分与を行いたい」「損する形で離婚したくない」「年金分割の手続きでサポートしてほしい」など、離婚に関するご希望やお悩みがある際は、ぜひベリーベスト法律事務所までお問い合わせください。
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この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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