これって「多産DV」? チェックリストで判断│離婚・強要回避するには

多産DVとは、避妊してほしいという妻の意向を無視して夫が性交渉を行い、望まない妊娠・出産を繰り返させることをいいます。
多産DVは、女性の心身に深刻な影響を与える行為ですが、被害者・加害者ともに自覚しにくいのが特徴です。「もしかして多産DV?」と感じた際には、本記事のチェックリストを活用し、適切な対応をとることをおすすめします。
今回は、多産DVの判断と対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、多産DVとは
多産DVとは、避妊してほしいという妻の気持ちがあるにもかかわらず、夫が性交渉を行い、望まない妊娠・出産を繰り返させることをいいます。
以下では、多産DVが起きる背景と妻に与えるリスクについて説明します。
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(1)多産DVはなぜ起こるのか?
多産DVが起きるのは、夫婦が対等な関係ではなく、支配・被支配関係にあるのが原因であると考えられます。
たとえば、経済的・精神的に妻が夫から支配されていると、夫から理不尽な要求をされたとしても、それを拒否できず、性行為を受け入れてしまうことが多くなります。
また、妻が夫に対して恐怖心を抱いているのも多産DVの要因のひとつです。日常的に夫からDVやモラハラを受けていると妻の自尊心や正常な判断力が奪われ、「悪いのは私」、「自分が我慢すれば大丈夫」などと誤った考えを刷り込まれてしまいます。
夫の「子だくさんは幸せの象徴」「出産を拒否することは罪悪」といった考えを否定できず、心身が限界にもかかわらず多産DVに陥るという被害者の方もいらっしゃるでしょう。 -
(2)多産DVが妻に与えるリスク
多産DVは、妻に対して以下のようなリスクを与えます。
① 妻の心身に多大な負担を与える
子ども1人の妊娠・出産でも女性の心身に大きな負担がかかります。まして多産ともなれば、その負担は非常に大きなものとなります。
また、出産後は、育児による睡眠不足やストレスが生じ、体調不良に悩まされる方も少なくありません。多産になると、このような状況が繰り返されます。休む暇がなく、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
② 経済的な余裕がなくなる
子育てにはお金がかかります。子どもの人数が増えれば増えるほど出費が増え、経済的な余裕がなくなります。
多産になれば仕事と育児の両立が難しくなるため、共働きで収入を増やすという選択肢がとれません。子どもが増えたとしても夫の収入が増えるわけではありませんので、経済的な不安を抱えながら生活するケースも少なくありません。
③ 子どもが増えることで離婚がしづらくなる
夫と離婚をすると、妻は自分ひとりの収入で子どもたちを育てていかなければなりません。多産となれば、その経済的負担はさらに大きなものになりますので、離婚をしづらい状況に追い込まれてしまいます。
子どもが自立したタイミングで離婚を決断する方もいますが、子どもの人数が多いとすべての子どもが自立するまで長い時間がかかります。それも多産DVを受けている妻が離婚しづらくなる要因のひとつです。
2、多産DVチェックリスト
多産DVは、被害にあっても、なかなか気付けないケースが少なくありません。
以下のチェックリストに該当する場合には、早めに適切な対応をとることをおすすめします。
多産DV チェック行動 | 対策 |
---|---|
性行為の意思確認がされない | 配偶者と性行為の前に意思確認がない場合、まずはご自身の希望や要望を伝え、対話を試みましょう |
避妊について話しにくい雰囲気がある | 避妊の話し合いができない場合、多産DVにつながるおそれがあります。夫婦問題のカウンセラーへ相談することも検討しましょう |
避妊を拒否される | 避妊を拒否され続けると、妻の身体的・精神的な負担が増すリスクが高まります。できるだけ早く、カウンセラーなどの専門家へ相談することをおすすめします |
産後すぐに性行為や次の出産を強要される | 産後に性行為を強要され、次の出産について一方的な決定がなされる場合、多産DVに該当する可能性があります。早めに自治体の相談窓口などに相談しましょう |
出産費用や生活費について話すと怒られる | 必要な費用について共有できない関係性は、婚姻生活の破綻につながる問題です。外部へ相談・支援を求めることをおすすめします |
性行為をしないと離婚や別居をすると脅される | 明らかに生活の安全が脅かされている場合は、早期に自治体の窓口や弁護士に支援を求めることをおすすめします |
経済的な制約で避妊や支援を受けられない | 経済的コントロールは深刻な問題であり、弁護士や支援機関の助けが必要といえます |
性行為や妊娠を拒否すると暴力を振るわれる | 身体的暴力を伴う場合、即座にシェルターなどに避難し、警察や弁護士などに支援を求めましょう |
なお、このチェックリストはあくまで目安です。
以下の解説では、それぞれの段階について説明しますが、現在「つらい」「苦しい」と感じている場合は、早めに「多産DVの相談先」へ連絡することをおすすめします。
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(1)性行為の意思確認がされない
性行為をするかどうかについて、妻の意思確認が常になされない場合には、多産DVにつながる可能性があります。
まずは夫との対話を試みたいところですが、対等な会話が困難な場合もあるでしょう。自治体の支援機関、友人・知人、カウンセラーなど、信頼できる第三者を早めに探しておくことが大切です。 -
(2)避妊について話しにくい雰囲気がある
望まない妊娠を避けるには、避妊が有効な手段となります。避妊には、男性側の協力が不可欠ですが、夫婦の関係性によっては避妊について話しにくい雰囲気が存在することもあります。
避妊についての話し合いができない場合には、深刻な多産DVにつながるリスクがあります。 -
(3)避妊を拒否される
避妊をするかどうかはお互いに話し合って合意の上で決めるべきことです。妻が避妊を希望しているのに、それを一方的に拒否され、避妊をせずに性交渉を強要されている場合には多産DVの可能性があります。
避妊の拒否が続く場合は、国のDV相談窓口(DV相談プラス)や自治体の窓口に、早めに支援を求めることをおすすめします。 -
(4)産後すぐに性行為や次の出産を強要される
多産DVの特徴として、産後すぐに性行為や次の出産を強要されるということが挙げられます。出産直後は、女性の身体的なダメージが大きく、体調の回復のためにある程度の時間が必要になります。
産後すぐに性行為を強要される場合、妻に対する配慮が著しく欠けているといえ、多産DVに該当する可能性があります。 -
(5)出産費用や生活費について話すと怒られる
子どもの妊娠・出産にあたっては、出産費用や生活費などの費用が生じます。子どもが増えれば必要な生活費も増えます。
出産費用や適切な金額の生活費の確保は、安心して子育てを行うために重要ですが、こうした話題を出すと怒られる場合、多産DV以外にも経済的DVやモラハラの可能性も高いといえます。おひとりで抱え込まず、公的支援や窓口に相談することをおすすめします。 -
(6)性行為をしないと離婚や別居をすると脅される
離婚や別居を盾にして強制的に性行為をするようなケースは、多産DVや精神的DVに該当する可能性が高いといえます。
自治体の窓口はもちろん、夫婦問題の解決実績がある弁護士に早期に支援を求めることをおすすめします。 -
(7)経済的な制約で避妊や支援を受けられない
夫による経済的な制約を受けているため避妊ができない状況は、深刻な多産DVかつ経済的DVに該当するといえるでしょう。
モラハラや悪意の遺棄に該当する可能性もありますので、このような状況から脱するには、弁護士や支援機関の助けが必要になるでしょう。 -
(8)性行為や妊娠を拒否すると暴力を振るわれる
性行為や妊娠を拒否すると暴力を振るわれるという状況は、極めて深刻な多産DVに該当します。
身体的暴力を伴う場合、命にかかわりますので、即座に避難し、まずは警察や自治体のシェルターに支援を求めましょう。またその後の生活を安定させるために離婚問題の実績がある弁護士にも相談しましょう。
3、多産DVを回避する方法
以下では、多産DVの相談先と多産DVを回避する方法について説明します。
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(1)多産DVの相談先
主な多産DVの相談先を紹介します。ご自身の状況を踏まえて、適切な相談先を選択するようにしましょう。
① 友人・家族
まずは友人や家族など信頼できる周囲の第三者に相談してみるのもよいでしょう。客観的なアドバイスをもらうことで、自分の置かれている状況を冷静に把握することができます。
ただし、夫婦問題の専門家ではないため、偏った意見になるリスクもある点に注意が必要です。
② DV相談ナビ(男女共同参画局)
DV相談ナビとは、配偶者からの暴力に悩んでいる方を対象とする、無料の電話転送サービスです。全国共通の電話番号(#8008)に電話をすれば、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターに転送され、相談員による電話相談を受けることができます。
③ DV相談プラス(内閣府)
DV相談プラスは、電話だけでなくメールやチャットで365日相談を受け付けている、国の相談窓口です。チャットは12時から22時まで受付、電話やメールは24時間対応になっているため、都合のよいタイミングですぐに相談することができます。
④ 配偶者暴力相談支援センター
深刻なDVにより一時保護を受けなければならないケースもあります。このようなケースでは、配偶者暴力相談センターでの相談をおすすめします。
配偶者暴力相談支援センターでは、配偶者からのDVに悩んでいる方に対して、以下のような支援を行っています。配偶者暴力相談支援センターの支援内容
- 相談や相談機関の紹介
- カウンセリング
- 被害者の緊急時における安全確保および一時保護
- 自立生活を促進するための情報提供
- 被害者が居住できる保護施設の利用に関する情報提供
- 保護命令制度の利用についての情報提供
②の「#8008」に電話をすると、お近くの都道府県の配偶者暴力相談支援センターにつながります。
⑤ 弁護士
多産DVのチェックリストに該当する場合、弁護士にも相談しましょう。
特に経済的DVや身体的DVなど、別居や離婚を考える場合には、弁護士の助けを得て、必要に応じて法的な措置もとっていくことが重要です。
離婚を決断した場合、多産DVをする夫を相手に妻が対等に交渉を行うのは困難といえます。直接会うことで危険が生じる場合もあります。しっかりと交渉して、慰謝料や養育費をしっかり確保するためにも、離婚の交渉は弁護士に任せた方がよいでしょう。 -
(2)多産DVを回避する具体的な方法
多産DVを回避するには、以下のような方法が考えられます。
① まずは夫と話し合いをする
多産DVは、夫に加害の意識がないケースも少なくありません。妻からの指摘によってはじめて自分の行為の重大さに気付くこともあります。直接の対話が難しい場合は、無理せず第三者の支援や介入を求めましょう。
② 信頼できる相手・機関へ相談
多産DVの被害に遭っている女性は、「自分が我慢すればよい」と考えて、精神的に追い込まれてしまう方も少なくありません。そのような方に必要なのは、離婚問題に知見のある第三者の客観的なアドバイスです。信頼できる弁護士や支援機関に相談をすることで、自分の置かれている状況を理解するきっかけになります。
③ 別居を検討する
夫からの性交渉の要求を拒否すると暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりするような場合は命の危険を伴います。夫との同居生活に危険を感じたときは、別居を検討することも必要です。
ただし、別居の準備を進めていることが夫にバレてしまうと、暴力や暴言がエスカレートするリスクがあります。準備を進める際は十分に注意してください。配偶者暴力相談支援センターへの事前の相談も行うとよいでしょう。
④ 離婚の準備を進める
夫との話し合いをしても多産DVが改善されないような場合には、離婚も選択肢のひとつとなります。
いきなり離婚を切り出しても、離婚を拒否されたり、不利な条件の離婚になったりするおそれがあります。離婚を決断したときは、証拠を集めるなど、しっかりと事前準備を行ってから切り出すようにしましょう。離婚問題の解決実績がある弁護士のアドバイスやサポートを受けて着実に準備を進めることをおすすめします。
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4、多産DVを理由に離婚する方法
多産DVを理由に離婚する場合、以下のような方法が考えられます。
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(1)離婚問題の実績がある弁護士に相談する
多産DVを理由に離婚を決断したときは、まずは離婚問題の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談をすることで、多産DVを理由とする離婚の進め方や決めるべき離婚条件などについて具体的なアドバイスが得られ、今後の方針が明確になるでしょう。 -
(2)多産DVの証拠を集める
まずは夫から多産DVを受けていたという証拠を集めるようにしましょう。
多産DVの証拠があれば、夫が離婚を拒否しても裁判離婚が認められる可能性があり、その際に慰謝料を請求できる可能性もあります。証拠があれば、今後の離婚を有利に進めることができますので、離婚を切り出す前に十分な証拠を集めておきましょう。 -
(3)別居する
深刻な多産DVの被害を受けている場合、夫と同居している状況で離婚を切り出すと、暴力や暴言などがエスカレートするリスクがあります。自分や子どもに対する危害から身を守るためにも、夫と別居をすることも検討した方がよいでしょう。
なお、別居中は婚姻費用という生活費を請求することができますので、それにより経済的な不安なく別居生活を送ることができます。 -
(4)離婚調停を申し立てる
多産DVの事案では、妻から離婚を切り出しても拒否されてしまい、協議離婚が困難なケースが多いです。このような場合には、家庭裁判所に離婚調停の申立てを行います。
離婚調停は、家庭裁判所の調停委員が間に入ってくれますので、夫と直接顔を合わせることなく離婚の話し合いを進めることができます。当事者だけでの話し合いが難しいようなケースでは、積極的に離婚調停を利用していくとよいでしょう。 -
(5)調停が不成立なら離婚裁判を提起する
離婚調停は、話し合いの手続きですので夫が離婚に同意しなければ、調停不成立となります。調停が不成立になった場合、引き続き離婚を希望するのであれば、家庭裁判所に離婚訴訟を提起しなければなりません。
ただし、離婚訴訟では法定離婚事由に対応する事情がなければ離婚ができません。多産DVが法定離婚事由に該当するのか、法定離婚事由を立証する証拠があるのかなどを判断するには、法的観点からの検討が必要になりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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5、まとめ
多産DVは、女性の心身に深刻な影響を及ぼします。ただし、多産DVの被害に遭っていても被害者であると気付いていないケースも少なくありません。また、モラハラや経済的DVと複合的な被害を受けていることもあります。
本記事のチェックリストの項目にひとつでも該当する場合には、早めに適切な相談窓口に問い合わせることをおすすめします。また、経済的DVを受けている、離婚や別居を視野に入れている場合は、弁護士のサポートが有効です。
ベリーベスト法律事務所では、離婚トラブルの豊富な解決実績がある弁護士が多数在籍しています。まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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