有責配偶者からの離婚請求|応じる義務はある? 親権はどうなる?
不倫をしたのは夫(妻)のほうなのに、離婚したいと言ってくるなんて……。
配偶者の不倫を許したにもかかわらず、その配偶者から離婚を切り出され、ショックを受けて頭にくる方もいるでしょう。
「そのような立場にある有責配偶者からの離婚の申し出は、いったい許されるものなのか」「有責配偶者は離婚できないのではなかったか」などと、疑問に思う方も少なくありません。
有責配偶者に離婚を請求する権利はあるのか、子どもの親権を請求する権利はあるのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、不倫(不貞)した配偶者は、有責配偶者となる
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(1)有責配偶者とは?
有責配偶者とは、平和な婚姻関係を壊し法律上の離婚原因を作った側、つまり、配偶者に対して法的な責任を負う行為をしてしまった側の配偶者のことです。具体的には、民法770条1項に挙げられているケースに該当する人のことです。
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(2)有責配偶者になるケース
民法770条1項を見てみましょう。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
民法では上記のいずれの行為も結婚した以上は認められない行為とされています。したがって、これらの行為をすると相手配偶者に対して法的責任を負う、つまり、有責配偶者になるわけです。
この中で、もっとも多いのは、1項にある「不貞な行為があったとき」です。
不貞とはいわゆる不倫のことで、配偶者以外の異性と性的交渉を持つことです。
結婚すれば、配偶者以外との性交渉は違法です。したがって、結婚後に不貞を行うと、たちまち有責配偶者となるわけです。
2、有責配偶者からの離婚請求は認められない!?
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(1)原則、有責配偶者から離婚請求することはできない
有責配偶者とは、夫婦として違法な行為、たとえば、不貞を行った側の配偶者のことです。
たとえば、夫が女性と不貞行為をしていたことが発覚したとします。この場合、妻としては「こんな夫は信頼できない」と離婚を申し出ることができます。悪いのは夫の方で、いわゆる有責配偶者に該当します。夫は、妻からの離婚請求を拒むことはできませんし、妻への慰謝料も支払う必要があります。
しかし、妻のほうが「夫を許してやり直そう」と決意したにもかかわらず、夫の側から、妻に対して「離婚したい」と言ってくる場合もあります。
これが、有責配偶者からの離婚請求です。この場合、夫からの離婚請求を認めれば、妻は不貞されたうえに見捨てられるわけですから、いうなれば踏んだり蹴ったりという状況です。これでは、あまりにも妻が気の毒だろうという理由で、昔の裁判所は、夫側、つまり、有責配偶者からの離婚請求を認めませんでした。 -
(2)有責主義から破たん主義へ
しかし近年では裁判所の考え方も次第に変わっており、現在では、有責配偶者からの離婚請求だからといって、その請求がまったく認められないというわけではありません。
とはいえ、有責性のない場合に比べて有責配偶者からの離婚請求が認められる条件は相当厳しくなっています。
その条件を具体的に見ていきましょう。 -
(3)有責配偶者からの離婚が認められる3つの要件とは?
有責配偶者からの離婚請求に関する基準とされているのは、最高裁が昭和62年9月2日に出した判決です。
ここでは、①別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び(別居要件)、②その間に未成熟の子が存在しない場合には(未成熟子の不存在要件)、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれるなど離婚を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情(経済的要件)がないのならば、有責配偶者からの離婚請求を認めることはあり得る、と述べられています。
①別居要件
ある程度長期にわたる別居期間は必須条件です。別居年数は、それまでの同居期間との対比で決まるので、同居期間が長いほど、長く別居している必要があります。年数の決まりはありませんが、おおむね、10年前後の別居期間は必要と考えるべきでしょう。
②未成熟子の不存在要件
親から経済的に独立して自分の生活費を稼いでくることを期待されていない子ども(未成熟子)が存在しない、ということです。ここでいう未成熟子というのは、単純に未成年の子を指すものではありません。たとえば就職して安定的な給料をもらっていれば、18歳でも未成熟子にはあたりません。
未成熟子がいる場合、裁判所が有責配偶者からの離婚請求を認めると、まだまだ保護が必要な子どもを親が見捨てた状況を裁判所が作ってしまうことになりかねません。このような状態を裁判所は良しとしません。有責配偶者からの離婚請求で、夫婦間に未成熟子が存在する場合は、別居期間が相当に長く、次に説明する経済的な観点を十分に満たしていることが特に重要になります。
③経済的過酷状態
上記最高裁判決では「精神的・社会的・経済的」な過酷状態と表現されていますが、実際に判断されているのは「経済的」な過酷状態です。精神的、社会的な状態は評価が困難ですが、経済的な点はある程度は客観的に判断できますので、裁判所としても、とにかくお金だけはちゃんと払いなさいと言っているわけです。
具体的には有責配偶者がちゃんと家に生活費を入れてきたか、離婚にあたって相手に財産の支払いを約束しているか、そもそも相手には離婚後の収入が確保できる状態なのかといった点から総合的に判断されます。
3、不倫(不貞)した有責配偶者が親権者になる可能性は?
不倫をした側から、「子どもの親権をとれないのですか?」という質問もしばしばあります。実際のところ、不貞をしたことと、親権をどちらがとるかという点は直結していません。不貞したからといって直ちに親権を失うというものではないのです。では、どんな基準で親権が判断されているのでしょうか。
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(1)親権の判断基準
親権の判断にあたっては、以下の5つの原則が用いられています。
・母性優勢の原則
特に子どもが乳幼児のときに重視されます。一見、母親が有利に見えますが必ずしもそうではなく、発達心理学的な観点から子にとって養育的な立場をとってきた親が親権者としてふさわしいという考え方です。いわゆる専業主夫の家庭や、父親が主に子育てを担当してきた場合は、父に母性的地位がある可能性があります。
・監護の継続性の原則
離婚に伴う環境変化は子どもに大きな影響を与えます。安定した成長のためには、精神的動揺や不安はできるだけ避けたいものです。その観点から、以前から子育てを主に担当してきた人に、離婚後も養育を継続させようという考え方です。なお、継続とは、単に親だけでなく、環境についてもあてはまります。つまり、引っ越しを伴うか、転校があるかといった点も重要なポイントです。
・きょうだい不分離の原則
兄弟姉妹は、お互いに影響を与え合って成長する大切な関係です。昔は、きょうだいをひとりずつ引き取るといったこともありましたが、現在の裁判実務では、できるだけきょうだいを引き離すことなく、一緒に育てさせる傾向があります。
・子の意思の尊重
子どもにとって、これから自分が誰に育てられて、誰と暮らしていくかは大問題です。法律上も、15歳以上の子には裁判所が意見を聴取するように明記されています。15歳未満でも、家庭裁判所の調査などによって、できるだけ子ども本人の気持ちを尊重する運用がなされています。
・寛容性の原則
離婚すると、親権を持たない親は子どもと離れ離れになってしまいます。そして、別れた相手と子どもを会わせるのを嫌がる親もいます。親が嫌がれば子どもは自分で会いに行くことは難しく、次第に疎遠となっていきます。
しかし、離婚しようが親権がどうであろうか親であることに変わりはありません。そして、子どもが成長の過程で離婚後に離れた親と良好な関係を築くことは、子どもの心に良い影響を与えることが知られています。
また、離れてしまった親にとっても自分の子どもと交流することは、権利として認められています(面会交流権)。とすると、親権者となった親は、自分が育てる子どもと、離れた親とを面会させる寛容さが必要となります。裁判所も、親権者としての資格として、離れた親との面会を認めることを重要視するようになっています。 -
(2)判断のポイント
以上が5つの基準ですが、実際のところ、子どもの年齢や家族状況により適応が異なります。たとえば、子どもが小さいほど母性が重視されますが(生後1ヶ月であれば、母が圧倒的に有利でしょう)、高校生3年ともなれば母性の必要性は低くなり、本人の考えがしっかりしてきます。したがって、もっとも重要な要素は子自身の意思ということになります。このように、実際のケースに応じてさまざまな要素を検討しながら判断されています。
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(3)親権を渡したくない場合の対処法
親権を渡したくない場合、5つの判断基準に沿って、有利な状況を証明する必要があります。今まで自分が育ててきたのであれば、子どもが病気のときに病院に連れて行ったことや、予防接種の記録、学校参観の様子などをきちんと説明できるようにしておくことが大事です。
また、家庭裁判所の調査官が養育環境を調査する目的で自宅を見に来ることがあります。この場合は、自分がきちんとした親であること、子どもが育つのに適した住環境であることを示しましょう。なにもぜいたくをさせる必要はなく、清潔で整った家屋状態が望ましいとされています。
すでに夫と別居しており、自分が子どもを連れて行って転校させた場合には、転校先の学校や友人たちと子どもがうまく適応していることも有利な材料です。
働く母親の場合は、祖父母など、養育を手伝ってくれる存在も重要です。たとえば子どもが病気になったときもしっかり面倒を見られる態勢が整っていることをアピールしましょう。なお、子どもの意思が重要だからといって、子どもに対して、別れた配偶者を悪く言ったり、会ってはダメだといった発言をするのはおススメできません。
子どもにとって、親は親です。たとえ子どもがその親を嫌っている場合でも、その悪口を片方の親から聞くのは、子どもの成長には望ましくありません。離婚はしたけれども、親としてはふたりとも子どものことを大切に思っているということを、子どもに感じさせてあげることが重要です。
4、離婚を拒み続けることは可能?
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(1)離婚したくない場合の対応方法と想定される流れ
有責配偶者からの離婚請求を受けた場合、あなた自身が離婚したくないのならば応じる必要はありません。あなたが拒み続ける以上、原則としては、離婚は成立しません。離婚する気がないのであれば、相手に流されることなく、きっぱりとNOを伝え続けましょう。離婚には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚がありますが、このうち、協議離婚、調停離婚については、あなたが離婚に同意しなければ離婚は決して成立しないのです。
・離婚を拒否するメリット
離婚を拒否し続ければ夫婦関係は続くので、婚姻費用をもらう側であれば払ってもらえます。夫名義の家でも、妻であれば住み続けることができます。そのほか、子どもの学校関係などで離婚を延ばしたいなど、それぞれの事情に応じたメリットがあり得るでしょう。
・離婚に応じるメリット
夫が不貞をした以上、離婚するかしないかはあなたの気持ち次第という状況です。ということは、このように強い立場にあるからこそ、今なら、あなたにとってかなり有利な条件で離婚できる可能性があります。
上記のように、有責配偶者からの離婚請求であっても、別居期間が長くなり子どもが成長すると、離婚が認められる可能性が高まります。そうすると、あなたの有利さは次第に薄れていくわけです。したがって、いずれ離婚するのであれば、有利な条件を突き付けることができる早期の段階で離婚するというのものひとつの手でしょう。
もちろん、信頼できない相手と縁を切って、心身ともに立て直し、早く再スタートを切るという決断自体も離婚に応じるメリットととらえることができます。 -
(2)それでも離婚したいと言われたときの対処法
・離婚届不受理申し出
相手の離婚希望が強い場合、あなたが離婚を拒み続けると勝手に離婚届を提出されてしまう恐れがあります。もちろん、勝手に出された離婚届は法的には無効です。しかし、役所で一度離婚届が受理されると、戸籍の形式上は離婚したことになってしまいます。その後で、離婚の無効を主張するには、あなた自身が裁判所に申し出なければならず、大変な手続きが待っているわけです。
勝手に離婚届を提出されないように、役所で「離婚届不受理申出」をしておきましょう。この申し出により、相手が勝手に離婚届を出しても受理されません。書類は役所の窓口にあります。なお、この申し出はいったん提出すると自分で取り下げない限り永久に効果が続くという強力なものです。したがって、後日、本当に離婚届を出したい場合には、あなた自身が不受理申し出を取り消す手続きを先に行う必要があります。
・不貞の証拠を固めましょう
あなたが離婚を拒むことができる最大の強みは、相手の請求が有責配偶者からの離婚請求であること、つまりは、相手が不貞を行ったという事実です。この事実を誰から見ても動かぬ証拠にしておくことが重要です。
実際、当事者間では認めていた浮気を裁判になったら夫がいきなり態度を変え、知らぬ存ぜぬと言い出すことも決して珍しくありません。こうなると、妻の側で不貞の証拠を集めて提出しなければならず、証拠がなければ不貞は認められません。
繰り返しますが、あなたが有利でいられるのは、あくまで相手が有責配偶者、つまり不貞を行った張本人だからです。その証拠がなければ、あなたの有利な立場も消えてしまいます。
また証拠があれば、慰謝料を請求することもできます。浮気が発覚したら、とにかく証拠集めに尽力し、SNSや写真、メールのやりとり、探偵の調査など、できるだけの方法で、証拠を確保しておくべきです。
・別居となった場合-婚姻費用の請求
離婚を求める夫と一緒に暮らし続けるのが苦しくなって、別居を考える場合もあるでしょう。しかし、もしもあなたが本当に離婚したくないならば、別居はお勧めできません。なぜなら、別居期間が長くなれば、それを理由に離婚が認められやすくなるからです。
とはいえ、同居によって精神的につらくなるなら、無理に同居を続けるのも難しいでしょう。また、こちらが同居する気持ちがあっても、相手が一方的に出て行って、結果として別居となる可能性もあります。
別居したら、一番大事なのは生活費です。別居と同時に相手が生活費を払わなくなることがよくあります。この場合は、婚姻費用を相手にしっかり請求して、ご自身とお子さんの生活を守ることが重要です。なお、婚姻費用は、夫婦双方の収入を基礎として決定されます。したがって、相手の収入を把握することが重要です。 -
(3)離婚拒否を続けた場合、想定される流れと裁判例
・離婚調停
離婚を拒否し続けていると、次に想定されるのは、相手からの離婚調停の申し立てです。
調停は裁判所で行われますが、あくまで当事者間の話し合いの場です。つまり、双方が結論に納得して合意しなければ、離婚は成立しません。したがって、あなたがその時点でも離婚したくないならば調停でもその気持ちを伝えて、離婚しないと回答すればよいのです。
・離婚裁判
調停が成立しないままに終わり、それでも相手が離婚をしたい場合、離婚を求める裁判を起こされることになります。
裁判は、お互いの話し合いの場ではなく、双方が裁判官に対して、それぞれの主張を証拠とともに申し立てて、判決を求めることになります。
ここでは、証拠が何より物を言いますので、相手が不貞したという証拠があるかないかは判決の行方を大きく左右します。有責配偶者からの離婚請求であれば、原則として離婚が認められないからです。
なお、長期の別居や未成熟子の不存在などの事情がそろえば、有責配偶者からの離婚請求であっても、離婚が認められてしまう可能性はあります。
過去の実例を挙げておきます。
●有責配偶者からの離婚請求が認められたケース
「東京高等裁判所平成14年6月26日判決」
夫が有責配偶者で、別居期間は6年以上、ふたりの子も成人して大学を卒業していて夫婦間に未成熟の子どもがおらず、妻は学校に勤務して相当の収入があり、夫は、離婚に伴って妻に自宅を渡し、残りの住宅ローンも完済すると申し出た事情から、夫からの離婚請求を認めた。
●有責配偶者からの離婚請求が認められなかったケース
「大阪高等裁判所平成26年12月5日判決」
夫が有責配偶者、別居期間は約12年1月(同居期間は約2年3ヶ月)、この間に、夫(医師)から妻に対して3回の調停申し立ておよび2回の訴訟提起を行ったが妻は離婚を拒否、訴訟も夫が敗訴し続けた。もともとは、夫が妻の浮気を疑って暴力を振るいつつ、自分は女性と不貞関係を持って家を出ていったもの。夫は、別居後の約3年は婚姻費用を払ったものの、その後は、妻が申し立てた婚姻費用調停が成立するまでの5年間で通算260万円程度しか支払わなかった。夫は、離婚に際して妻に500万円を払うと申し出たが、裁判所は、次のように認定して、夫の離婚請求を棄却した。
- 婚姻破たんの原因は、もっぱら夫の浮気や暴力など悪行にある。
- にもかからず、夫は妻を一貫して非難し、妻と幼い娘を不安定な生活に追い込んだ。
- 娘は、14歳(中学2年生)の未成熟子である。
- 妻は離婚を拒んでいる。
これらのケースを見ると、有責配偶者からの離婚請求においては、不貞の事実だけでなくその他の細かい事情や経過が重要であること、その事情によって、離婚の判断が分かれていることがよくわかります。
5、まとめ
不貞をした張本人である有責配偶者から離婚を申し出られたときの気持ちは、耐え難いものがあるでしょう。これからの生活のこと、子どものこと、悩みと苦痛は尽きないと思います。
離婚が認められるかは人生の重大事です。メリット・デメリットも、そのときの人や状況によって大きく異なります。離婚については、普段は冷静な方であっても、ご自身で検討し、判断することが難しいものです。できるだけ自分や子どもを守るため、早期に弁護士などに相談されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、有責配偶者からの離婚請求に関するご相談も多数お寄せいただいています。迷いが生じたら、いつでもお気軽にご相談ください。
- 所在地
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