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養育費は扶養控除の対象になる? 年末調整や税金対策も解説

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更新日:2022年05月23日  公開日:2019年10月10日
養育費は扶養控除の対象になる? 年末調整や税金対策も解説

離婚が決まり、元妻が親権者となった子どもに養育費を支払うなら「扶養控除」が適用されて税金が安くなる可能性があります。

どのようなケースで養育費による扶養控除が適用されるのか、その場合の注意点、自営業者の場合の確定申告などについて弁護士が解説いたします。

1、扶養控除とは?

そもそも「扶養控除」とはどのような制度なのでしょうか?
扶養控除とは、扶養している親族がいる場合に一定額の所得を控除してもらえる制度です。
所得税は、稼いだ金額である「所得」に応じて課税されるので、所得が「控除」されると税額が減ります。つまり妻や子どもなどをあなたが扶養していたら、扶養控除によってあなたの合計所得金額が減るのでその分あなたが払う税金が安くなります。

ただ扶養親族となるには、扶養されている親族自身の所得が38万円以下でなければなりません。子ども自身が働いている場合、子どもの所得が38万円以下の場合に扶養控除が適用されます。

子どもがアルバイトやパートなどの給与所得者として収入を得ている場合には、「給与所得者控除」という控除が適用されるため、年収103万円までであれば扶養控除の対象となります

2、別居していても大丈夫? 両親への送金も扶養控除の対象となる?

離婚した元妻が子どもの親権者になった場合、養育費を支払う元夫は子どもと同居していません。同じ家の居住者でない長男などへの送金であっても、扶養控除の対象にしてもらえるのでしょうか?

  1. (1)別居している子どもや親も扶養に入れられる

    扶養控除の適用の可否について、対象家族との「同居」は必須条件ではありません。別居していても「生計を一にしていること」つまり「扶養している実態」があれば扶養控除してもらえます。別居している場合でも、生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときなどは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

    つまり、別居の子どもに養育費の支払いをしている場合も扶養控除してもらえます。さらに子どもだけではなく、両親に対する送金であっても扶養控除の対象となります。

    扶養親族にはいくつか種類があり、パターンによって所得控除額が異なります。


    扶養親族の種類 所得控除の金額
    特定扶養親族(19歳から22歳) 63万円
    同居老親 (70歳以上で同居している自分や配偶者の親) 58万円
    老人(70歳以上) 48万円
    一般の扶養親族(16~18歳、23歳以上) 38万円

    このように、養育費の支払先の子どもが16歳から18歳までなら38万円、19歳~22歳までであれば63万円の扶養控除を受けられます。子どもが高校生なら38万円、大学生なら63万円が控除されるイメージです。
    親も扶養控除の対象です。自分の親でも配偶者の親であってもかまいません。別居の親なら48万円、同居の親なら58万円を所得から減額してもらえます。

  2. (2)別居している子どもを健康保険に入れることも可能

    税金控除だけではなく、別居している子どもを元夫(父親)の健康保険に入れることも可能です。

  3. (3)16歳未満の子どもは扶養控除を適用できない

    以上に対し、16歳未満の子どもには所得税の扶養控除の適用がありません。16歳未満の子どもを「年少扶養親族」と言いますが、この場合には「児童手当」が支払われる代わりに控除は適用しないことになっているためです。

    ただし、離婚後ひとりで子どもを育てている人や夫と死別して子どもをひとりで育てている人については「寡婦控除(かふこうじょ)」が適用されます。この場合、子どもが16歳未満でも38万円分の所得控除が適用されます。

  4. (4)養育費の扶養控除で、どのくらい手取り金額が増えるか

    子どもへの養育費の送金によって扶養控除の適用を受けると、具体的にどのくらい手取りの額が増えるのか(税額が減るのか)シミュレーションしてみましょう。

    まずは所得税の税率を示します。


    課税対象所得 税率 控除額
    195万円以下 5% 0円
    195万円を超え 330万円以下 10% 9万7500円
    330万円を超え 695万円以下 20% 42万7500円
    695万円を超え 900万円以下 23% 63万6000円
    900万円を超え 1800万円以下 33% 153万6000円
    1800万円超え 4000万円以下 40% 279万6000円
    4000万円超 45% 479万6000円

    課税対象所得700万円の元夫が高校生の子どもに養育費を払っているとします。この場合、扶養控除によって所得から38万円引いてもらえるので、元夫の所得は662万円となります。すると所得税額は89万6500円となります。
    一方扶養控除を適用しない場合には、所得税額が97万4000円となります。

    扶養控除する場合としない場合との所得税の差額は7万7500円です。さらに住民税も安くなります。住民税は所得の10%となることが多いのですが、そうなると上記の場合、70万円-66.2万円=3.8万円節税できます。
    以上のように、養育費を払って扶養控除を受けると、所得税と合計で11万5000円分元夫の手取り金額が上がることとなります。

3、扶養控除とならない2つのケース

別居の子どもに養育費を払っていても扶養控除の適用を受けられないケースがあります。それは以下の2パターンです。

  1. (1)養育費を一括で送った場合

    ひとつは元妻に子どもの養育費を一括で支払ったケースです。扶養控除は「実際に扶養している」ことを前提とした制度です。一括払いをした場合「日々の扶養を行っている」とは言いにくくなるので、扶養控除が認められません。
    養育費の送金によって扶養控除を受けたければ、毎月など継続的な送金が必要です

  2. (2)扶養が重複した場合

    もうひとつ「扶養の重複問題」があります。
    ひとりの扶養親族は、ひとりの納税者の税額控除にしか適用できません。元妻とあなたの双方がひとりの子どもを被扶養者として控除対象にはできないのです。
    どちらも扶養控除を希望する場合には、話し合ってどちらに適用するか決める必要があります

4、養育費を支払っている子どもを扶養に入れるためのポイントは?

離婚した元夫が子どもに養育費を払っているとき、子どもを扶養親族にしようとすると妻が反対するケースが多々あります。
妻自身が働いており「夫ではなく自分の税金を引いてほしい」と考えることもありますし、「子どもを元夫の扶養に入れると子どもをとられてしまう」、「親権まで奪われてしまうのでは?」という気持ちになるからです。

このようなとき、子どもを元夫の扶養親族にするためには妻とよく話し合うことが大切です。妻側は、たいてい「自分が親権者なのに子どもが元夫の扶養になるのは納得できない」「子どもを取られる」という不安感を抱いているので、その不安を解消してあげるとうまくいきやすいです。

たとえば「扶養控除は親権とは無関係」「ただの税金控除の制度である」ことを伝えましょう。そして元夫に扶養控除を適用しても、妻と子どもの生活は今まで通り全く変わらないことがわかると、妻も納得しやすくなります。
また元夫が扶養控除を受けると元夫の手取り金額が上がります。その分を養育費に上乗せすることで、元妻にとってもメリットを感じてもらうことができます
子どもを扶養に入れることによって毎年20万円税金が安くなるのであれば、毎月養育費を今までより1万円多く支払うことを条件に交渉してみましょう。

養育費の扶養控除の問題は、できれば協議離婚や離婚調停の際に決めておくべきです。離婚後にあらためて話し合おうとすると、トラブルになる可能性もあります。協議離婚する際は、作成する公正証書に書き加えてもらうとよいでしょう。

5、扶養控除の取り合いでトラブル? 重複した場合の対処方法

  1. (1)どちらか一方に追徴課税される

    養育費を払っているので子どもを扶養に入れたいと言っても妻が納得せず、両方が子どもを被扶養者として申告した場合や、元妻と話し合いをしていなかったためにお互いが知らずにそれぞれ子どもを被扶養者にして重複した場合、どのような問題が起こるのでしょうか?

    元夫婦の双方がひとりの子どもについて税額控除の書類を税務署に提出すると、税務署側で「重複しているのでおかしい」と判断されます。扶養控除の重複適用は認められないので、どちらかの支払税額が不足していることとなり、税務署から追徴課税されます。

    この場合「早く申告した方に扶養控除が適用される」という定めがあり、それでは決まらない場合、「所得の多い方」に扶養控除が適用されます
    基本的には「早く申告した人に控除が適用される」制度となっているのです。

  2. (2)異議申し立て、税務訴訟も可能

    元妻と扶養控除の申告が重複してこちら側に追徴課税されて納得できない場合、その処分に対する異議申し立てが認められます。申し立てをすると税務署長が請求人に対する処分内容を見直します。

    変更されなかった場合、国税不服審判所長に対し「審査請求」を行って再審査を求めることが可能です。
    それでも結果に納得できない場合、裁判所に税務訴訟を起こして解決する必要があります。税務訴訟では裁判所が所得税法などの法律に従って、税務署の判断が妥当であったかどうか判断します。

6、年末調整や確定申告での税金対策について

養育費の支払いによって扶養控除を適用されるには、扶養控除についての「申告」が必要です。
会社に勤めているサラリーマンなどの場合には、年末調整の際に勤務先に「給与所得者の扶養控除等申告書」という書類を作成して提出します。ここには扶養親族である子どもの氏名や住所、個人番号などを記載する必要があります。

自営業者の場合には、毎年の確定申告の際に申告書に扶養控除を記入します。「扶養控除」の欄に、養育費を支払っている子どもの住所や氏名等の情報を書き込み、控除額(38万円または63万円)を適用して所得税額を計算して税務署に提出すれば、控除を適用した前提で所得税が課税されます。
給与所得者の方は勤務先から申告書を渡されるので忘れることがないでしょう。しかし、自営業者の場合には誰も言ってくれないので、自主的に申告書に扶養控除の記載をする必要があります。養育費を支払っているなら、申告書作成の際に忘れず控除を適用して税額を計算しましょう。

7、まとめ

養育費を支払っている場合、元妻とよく話し合い、理解を得た上で勤務先に申告して扶養控除を適用してもらいましょう。
妻との離婚協議がうまく進まない方や養育費の扶養控除の仕組みを理解しにくい方は、一度弁護士や税理士のアドバイスを受けられることをおすすめします。
ベリーベストグループには弁護士だけではなく税理士も在籍していますので、お気軽にご相談ください。

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この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
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[ご相談窓口]0120-663-031
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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