共働きでも年金分割の対象になる? 損をしないための基礎知識
令和3年の調査では、専業主婦世帯は566万世帯、共働き世帯数は1247万世帯と2倍以上という結果になっています。
令和4年に厚生労働省が発表した「令和4年度 離婚に関する統計の概況」によると、令和2年中に約19万3000組の夫婦が離婚していますが、この離婚件数には、共働き世帯が相当に含まれていると考えてよいでしょう。
共働き世帯・専業主婦世帯にかぎらず、離婚は今後の生活のための年金分割、財産分与など、お金のことについて配偶者と話し合い、合意する必要があります。
そこで本コラムでは、共働き世帯の年金分割や財産分与について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「図12専業主婦世帯と共働き世帯」
参考:厚生労働省 「令和4年度 離婚に関する統計の概況」
1、知っておきたい年金制度の知識
日本の年金制度は3階建て、つまり3層の構造で成り立っています。以下で、その概要を抑えておきましょう。
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(1)国民年金
国民年金は、年金の1階部分ともいわれ、学生を含む20歳から60歳未満のすべての国民が国民年金に加入します。
被保険者は自営業者などの「第1号被保険者」、会社員などの「第2号被保険者」、第2号被保険者の被扶養配偶者である「第3号被保険者」に分類され、65歳から老齢基礎年金の受け取りが可能です。
ただし、すべての国民が老齢基礎年金を受給できるわけではありません。老齢基礎年金を受給できる被保険者は、国に保険料を納付した期間である受給資格期間(保険料免除期間を含む)が、原則として10年以上であることが要件とされています。 -
(2)厚生年金
会社員や公務員は、1階部分である国民年金に加えて厚生年金に加入します。このため、厚生年金は、2階部分ともいわれます。
厚生年金保険の被保険者期間を充足し、かつ老齢基礎年金の受給資格を満たすと、65歳から老齢基礎年金に上乗せして報酬比例の年金を受給することができます。 -
(3)私的年金
私的年金には、企業年金と金融商品のひとつである個人年金があります。
企業年金制度には、確定給付型の「厚生年金基金」、「確定給付企業年金」、「確定拠出年金(企業型)」の3つがあります。
また、私的年金に分類される個人型の年金には、iDeCoの愛称で呼ばれる「確定拠出年金(個人型)」などが該当します。
2、年金分割とはどんな制度?
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(1)資産の少ない配偶者への救済処置
平成19年の厚生年金保険法改正により、離婚後に夫(妻)の厚生年金の一部を妻(夫)が受け取ることができる年金分割の制度が制定され、平成20年4月から施行されました。
年金分割制度が制定された背景は、相対的に収入と資産の少ない配偶者が離婚すると、老齢基礎年金のみの受給となり、老後に経済的に困窮してしまうケースが多かったため、その救済措置の一環といわれています。 -
(2)年金分割には2種類の分割方法がある
年金分割には、合意分割と3号分割があります。
- 合意分割 共働きの夫婦が婚姻期間中の厚生年金記録に基づいて、夫婦の話し合いにより分割割合を決定する方法です。
- 3号分割 平成20年4月1日以降の婚姻期間で国民年金の第3号被保険者(年収130万円未満の主婦など厚生年金加入者に扶養されている配偶者のこと)だった配偶者と、厚生年金記録を2分の1ずつ分割する制度です。
もし婚姻期間中に後述する3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。
3号分割の分割割合は2分の1と決められており、分割割合について夫婦の合意は必要ありません。離婚成立後、分割を受ける当事者が年金事務所で手続きを行うだけで3号分割は成立します。専業主婦に適用される年金分割は、3号分割と理解しておいてください。 -
(3)合意分割と3号分割が両方対象になるケース
ここで、夫婦がお互い25歳で結婚し、30年間の婚姻期間を経て55歳で離婚したとします。夫は22歳から60歳まで厚生年金保険料を支払っており、一方で妻は婚姻してあと10年間は厚生年金保険料を払っていたものの、後の20年は退職して第3号保険者だったケースを考えてみましょう。
この場合は、合意分割と3号分割を併用することになります。先ほどの例でいうと、妻が会社に勤務し厚生年金保険料を払っていた結婚後10年間については合意分割とし、妻が会社を辞めたあとの20年間については自動的に3号分割となります。
なお、分割対象となる厚生年金は婚姻期間中に保険料を支払った分のみです。したがって、夫が22歳から結婚する25歳までに支払った保険料、および離婚後の55歳から60歳までに支払った保険料に関する部分については、年金分割の対象外となります。 -
(4)共働きの場合の注意点
公的年金のうち年金分割の対象となるのは厚生年金(標準報酬月額・標準賞与額)と旧共済年金のみです。
そのため、国民年金・国民年金基金・確定給付企業年金・厚生年金基金の上乗せ給付部分・確定拠出年金・そのほかの私的年金等は年金分割の対象外です。つまり、自営業者や勤務先に厚生年金制度がない場合は、共働きであるか否かに関係なく年金分割そのものがないのです。
3、年金分割の請求方法と注意すべきこと
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(1)年金分割の請求方法
年金分割をするためには、各地域の年金事務所に申請して所定の手続きを経る必要があります。これは合意分割と3号分割に共通して定められています。
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(2)分割請求には期限がある
年金事務所に年金分割を請求する権利は、離婚した日の翌日から起算して2年を超えると時効となってしまいます。つまり、年金を合意分割する場合はその割合について離婚してから2年以内に配偶者と合意しなくてはなりません。
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(3)配偶者が年金分割を拒否するケースもある
3号分割については、離婚成立後2年以内に年金事務所あて所定の手続きをすることで、相手方の同意がなくとも成立します。
しかし、合意分割はそのかぎりではありません。相手方の同意が得られなければ、合意分割は成立しないのです。そのため、合意分割は調停や裁判で争点となりやすい傾向があります。もし合意分割について相手方と話がまとまらない場合は、弁護士と相談しながら調停や裁判上の手続きを行うことをおすすめします。 -
(4)年金分割だけでは少額になる可能性がある
厚生労働省が毎年公表しているデータによると、令和2年の合意分割前の平均年金月額は5万1585円で、分割後は8万2358円であり、その差額は3万774円増となっています。3号分割では、女性のみでみると合意分割前の平均年金月額は4万954円、分割後は4万6895円なので、増加額は5950円です。この金額では、老後の生活が心もとないでしょう。
そのため、離婚の際は年金分割だけではなく、財産分与についても確実に取り決めておく必要があります。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
4、併せて確認したい財産分与の取り決め
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(1)財産分与の基礎知識
民法第768条第1項では、婚姻期間中に夫婦で形成・維持してきた財産は共有財産として、それぞれの貢献度に応じて平等に分けるという考え方に基づき、協議上の離婚の際には相手方に対して財産分与を請求することができると規定しています。
財産分与は、離婚の際に必ずしなければならないというわけではありません。したがって、財産分与の有無および分与する財産の種類については、離婚時の話し合い、あるいは審判、裁判などで決めることになります。
また、肝心な財産分与の割合は民法でも明確な規定がなく、客観的な基準がありません。したがって、財産分与の割合についても離婚時の話し合い、あるいは審判、裁判などで決めることになります。
ただし、過去の判例などから、別居時あるいは離婚成立時点における共有財産額の「2分の1ずつ」とすることがひとつの基準であると考えられていますが、はっきりと決められているわけではありません。
したがって、配偶者と財産分与をめぐる交渉を行うときは、共有財産額の「2分の1ずつ」を財産分与額とすることから始めることが多いでしょう。
財産分与については、主に以下の3種類があります。
- 清算的財産分与 結婚後から夫婦で形成・維持してきた共有財産は名義に関係なく夫婦の共有財産として貢献度に応じて離婚時に分配するというもので、もっとも一般的に行われている財産分与の考え方・方法です。
- 慰謝料的財産分与 不倫や家庭内暴力など、夫婦の一方に離婚原因があった場合に、慰謝料の支払いとして行われる財産分与です。
- 扶養的財産分与 離婚をすることで、夫婦の一方が収入がなくなり生活が困窮してしまう場合、あるいは相手方が高齢や病気であるため働くことができない場合に、相手方の稼得能力などの事情を考慮して行われる財産分与です。
ただし、結婚前から夫婦が個人で所有していた財産は「特有財産」として、基本的に財産分与の対象とはなりません。また、婚姻期間中に相続で取得した財産についても特有財産として財産分与の対象とはなりません。
「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
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(2)財産分与にも請求期限がある
民法第768条の規定により、離婚の成立後2年を経過すると財産分与を請求する権利は消滅してしまいますので、注意が必要です。
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(3)共働きの財産分与について
夫婦が共働きである場合、勤務形態がフルタイム・時短・パートなどを問わず婚姻期間中に夫婦双方が築き上げた財産が共有財産として財産分与の対象となります。
たとえば夫の共有財産が400万円・共働きの妻が200万円であり、2分の1ずつの財産分与に合意した場合は、夫が妻に対して100万円の財産分与を行うことになるのです。 -
(4)夫の退職金は対象となるか
すでに配偶者が退職して退職金が支払われている場合は、共有財産として財産分与の対象になると考えられます。この場合、財産分与の対象となる退職金は婚姻期間に相当するものであり、別居期間中は考慮されません。
また、配偶者が在職中のため現時点では退職金が支払われていない場合であっても、会社の就業規則・経営状況・勤務状況などを総合的に考慮して退職金が支払われることが確実と見込まれる場合は、婚姻期間中に相当する退職金額が財産分与の対象になると考えられます。
このほか、在職中に確定拠出年金を積み立てられている場合も、婚姻期間中における積立金相当額が財産分与の対象になる可能性が高いでしょう。
退職金に限った話ではありませんが、財産分与については慎重な調査と配偶者との交渉が必要になります。財産分与を確実に受け取るためには、弁護士へ相談することが有効です。
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5、まとめ
結婚と比べると、離婚は負担が大きいものといわれています。特に年金分割や財産分与の話し合いは、お互いの利益が相反するものであることから、精神的な負担が大きくなるケースが少なくありません。
そのため、早く離婚を成立させたいがために、配偶者と年金分割や財産分与についての協議内容に安易に妥協してしまい、その結果として老後資金が不足し生活が困窮してしまった事例があるのです。
そのような事態に陥らないために、離婚においてはあなたの権利と今後の生活を守るため、できるかぎり早いうちから弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、離婚全般に関するご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。
また、「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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