繰り返し万引きを行う夫(妻)と離婚したい!万引きを理由に離婚できる?
夫や妻が万引きをすると、配偶者はそのたび警察に呼び出されます。何度同じことを繰り返しても改善しなければ、「もうこれ以上一緒にやっていけないかも。離婚しようか」と考えることもあるでしょう。
しかし、そもそも配偶者の万引き癖を理由として、離婚することができるのでしょうか?
今回は、ご主人や奥さまが万引きを繰り返してお困りの方が、真剣に離婚を考えたときに知っておきたい情報をご紹介します。
1、万引きを理由に離婚は可能か?
当事務所でも、配偶者の万引きを理由にした離婚のご相談があります。そういった人たちの中には、「万引きが原因でも離婚できますか?」と尋ねられる相談者がおられます。
まずは、旦那さんや奥さんなど、配偶者による万引きを理由として離婚できるのか、明らかにしましょう。
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(1)相手の合意があれば離婚できる
日本で離婚するときには、当事者の意思が優先されるので、夫と妻の双方が離婚を了承すれば、特に問題なく離婚できます。そこで、万引きしている当事者に離婚の話を持ちかけ、相手が離婚に応じれば、協議離婚や調停離婚の方法で、離婚が可能です。
協議離婚なら離婚届に必要事項を書き入れて市町村役場に提出すると離婚が成立しますし、離婚調停であれば、家庭裁判所で調停をして、お互いが離婚に合意すれば、調停調書が作成されて、離婚できます。 -
(2)相手が合意しない場合、法律上の離婚原因が必要
これに対し、相手が離婚に応じない場合には、家庭裁判所で離婚訴訟をしなければなりません。訴訟で離婚が認められるためには、法律上の離婚原因が必要です。
民法上、裁判上の離婚事由として認められているのは、以下の5種類です。
- ① 不貞(不倫、浮気)
- ② 悪意の遺棄
- ③ 3年以上の生死不明
- ④ 強度の精神病
- ⑤ その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
「配偶者が万引きしている」というだけでは、①~④には該当しないので、⑤の「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかを判断することになります。
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(3)その他婚姻関係を継続し難い重大な事由になるか?
配偶者が万引きを繰り返している場合でも、「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」に当てはまるかどうかについては、ケースによって異なります。
万引きをしていても、まだ逮捕されたことがなく、本人も反省していて子供の面倒などもきちんと見ており、家族生活が壊れていない場合には、離婚理由に該当しないと判断される可能性もあるでしょう。
これに対し、窃盗罪で逮捕されて刑事裁判となり、懲役刑を選択されて刑務所に行かねばならなくなった場合などには、夫婦関係の継続が難しいと判断されて、離婚が認められやすくなります。
つまり、配偶者が万引きなどの罪を犯したからと言って、当然に離婚理由として認められるわけではなく、離婚の可否については、ケースごとの事情に応じて個別に判断されるということです。 -
(4)万引きのケースで「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる要素
万引きのケースで「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」になるかどうかについての判断では、以下のような要素を考慮されます。
婚姻年数
婚姻年数が短ければ離婚が認められやすいですし、長ければ離婚が認められにくくなります。
犯罪の内容
重大な犯罪であれば離婚が認められやすく、軽微な犯罪であれば離婚が認められにくいです。万引きであれば、その回数や被害金額などが問題になるでしょう。
服役が必要かどうか
懲役刑となり、服役が必要になると婚姻生活の継続が難しくなるので、離婚が認められやすくなります。微罪処分や不起訴となった場合や罰金刑となった場合、執行猶予となった場合には、離婚が認められにくいです。
当事者の意思
夫婦の意思として、離婚を望む気持ちが強ければ離婚が認められやすいです。
子供の有無や離婚によって与える影響
子供が小さく、離婚によって受ける不利益が大きければ離婚が認められにくいですが、犯罪事実が重大で、離婚した方が子供にとってもよいと判断されるようなケースでは離婚が認められやすいです。
同じ犯罪を繰り返している、反省がない
たとえば、何度も同じ万引き窃盗行為を繰り返していると、反省がないとして離婚が認められやすくなります。ただし、万引きを繰り返す場合「クレプトマニア」という病気が理由になっていることもあり、そういったケースでは当然に離婚が認められるとは限りません。
2、そもそもなぜ繰り返し万引きをしてしまうのか?
配偶者が何度も万引きを繰り返す場合、理由を明らかにすることも大切です。
以下で、よくあるパターンを見てみましょう。
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(1)単純な窃盗癖
1つは、単純な窃盗癖のケースです。もともとの性格や犯罪傾向などにより、スーパーや本屋、コンビニなどの店舗で万引きをしてしまいます。窃盗行為にあまり罪悪感を有していない人たちもいます。このようなケースでは、本人の責任が重く、比較的離婚しやすいです。
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(2)認知症
実は、万引き癖には、病気が隠れていることがあります。
1つは、「前頭側頭型認知症」などの認知症です。これは、人が40代くらいから発症することのある若年性の認知症ですが、一般的にはまだあまり知られていません。
前頭側頭型認知症になると、記憶が難しくなったり、最近の出来事を忘れてしまったりします。また、衝動的な行動が増えるので、抑制が効かなくなって犯罪に及びやすくなります。我慢ができなくなり、万引きなどの窃盗行為を繰り返してしまうのです。
脳の画像検査をするとすぐに病気が判明しますが、一般的には「万引き=認知症」という発想を持たれることが少ないので、見逃されたまま有罪判決を受けてしまうことも多いです。
高学歴な方や地位のある方でも、この病気になると、急にたいして価値のないものを大量に万引きし始めて、周囲が驚くケースも見られます。
配偶者に不審な行動があれば、まずは精神科を受診した方が良いでしょう。 -
(3)クレプトマニア
「クレプトマニア」という精神障害が原因となる万引きもあります。
クレプトマニアとは、病的な衝動により、万引き窃盗を繰り返してしまう症状です。
通常の窃盗と違うのは、利益目的を一切持たないことです。盗った物を利用しようとか、得をしようという気持ちはありません。そのこともあり、盗るものにはほとんど価値のないことが多く、盗んだ物を捨ててしまうケースも見られます。
また、愉快犯で万引きしているのではなく、衝動的に繰り返してしまうもので、どちらかというと「自分でも止められない」状態で、本人も悩んでいることがあります。
しかし、クレプトマニアになると、何度も万引き行為を繰り返してしまうので、罪としては大きくなります。当初は見逃してもらえても、繰り返し警察にお世話になっているうちに、そのうち逮捕・勾留されて裁判となり、有罪判決を受けてしまうこともあります。
クレプトマニアになる人は、精神病を抱えていることが多いです。特に多いのが、摂食障害(拒食症、過食症)です。この病気になると、非常にお金に細かくなり、食べ物に対する依存性が極めて強くなるので、コンビニなどでちょっとした食べ物を万引きしてしまう方も多いです。
うつ病や知的障害、発達障害(自閉症スペクトラム障害)、強迫性障害、てんかんや統合失調症などのケースでも、万引きが繰り返されるケースがあります。
以上のように、夫や妻が万引き行為を繰り返す場合、病気が原因になっていることも多いです。そういったケースでは、自分たち家族だけで解決することが難しくなるので、専門機関を受診すべきです。
3、万引きを繰り返す夫(妻)との離婚を考えた時にするべきこと
もしも、配偶者が万引きを繰り返すので、これ以上は家族としてやっていけないと感じたら、どのように対応すれば良いのでしょうか?以下で、推奨される対処方法を紹介します。
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(1)万引きの原因を探る
まずは万引きの原因を探ることが大切です。
単なる愉快犯や、配偶者の犯罪傾向などの場合には、あまり同情の余地がないので、離婚を検討した方が良いかも知れません。
これに対し、認知症や摂食障害などの病気が原因になっているのであれば、治療を優先すべきです。 -
(2)専門機関を受診する
万引きの原因が病気の可能性がある場合、精神科や心療内科などに相談に行きましょう。ただ、摂食障害などは専門性が高く、対応できない医療機関も多いので、類似の事例の解決実績の高い専門的な病院を受診する必要があります。認知症でも同様です。ネットや本を使って情報を集めたり、実際に病院に電話で問合せをしたりして、難しい症例の解決実績や、対応の基本方針などを聞き出し、受診機関を決定しましょう。
また、病気が発見されたとしても、簡単には治るものではありません。家族がしっかりと病気を理解し、改善のために環境を整えるなど協力することが必要です。
精神障害には、その人の生育歴や生活習慣、周囲の人間関係なども大きく関係してきますし、病気の発症や進行について、親子関係が問題になっていることもあります。そういったケースでは、配偶者の実家の義両親に協力を求める必要もあります。 -
(3)クレプトマニアに理解の深い専門家に相談する
また、病院だけではなく、クレプトマニアに理解の深い専門家に相談することも有用です。
たとえば、これまでにクレプトマニアの相談を受けた経験のあるカウンセラーにかかるのも良いですし、クレプトマニアの事例の解決実績の高い弁護士に相談することも役立ちます。
専門の弁護士であれば、クレプトマニアの治療方法や医療機関について知識を持っていることも多いので、「良い医療機関がない」と悩んでいるならば、良いアドバイスを受けられる可能性があります。 -
(4)別居する
万引きを繰り返す配偶者と一緒に暮らしていると、配偶者が事件を起こすたびに警察に呼び出されて身元引受人となり、被害者に謝ったり示談金を支払わなければならない場合もあり、大変です。
もはや愛想が尽きて、これ以上一緒に暮らせないという場合には、別居してしまうのも1つの方法です。たとえば、万引き癖のある妻を実家に引き取ってもらうと、今後妻が万引きによる窃盗事件を起こしたときに、実家の親が対応するようになることが多いです。そうすれば、配偶者の立場である自分が毎回警察に呼び出されて、警察や被害者に謝り続けるといった苦痛から解放される可能性があります。もっとも、別居をする場合には、自分自身の行為が悪意の遺棄であると解釈されないよう注意する必要はあります。 -
(5)離婚協議をする
いろいろと努力をしても、相手の万引きが改善せず、これ以上の結婚生活継続が難しくなるケースがあります。相手に前科がついた場合などには、子供のためにも、離婚を決意した方が良いこともあるでしょう。
そのような場合には、まずは相手と離婚の話し合いをすることをお勧めします。
話し合いにより、お互いが離婚に合意できれば、スムーズに離婚できるからです。
相手が病気の場合には、相手の離婚後の生活のことも考えて、財産分与もきちんと行い、解決金を払うことなども検討した方が良いでしょう。
離婚しようかどうか、お悩みを抱えた場合には、離婚に踏み切る前に弁護士に相談してみてください。 -
(6)離婚調停する
相手が離婚に応じない場合には、家庭裁判所で離婚調停をする必要があります。
調停をすると、家庭裁判所の調停委員が間に入って離婚の話し合いをすすめてくれます。
相手の万引き癖の原因が、単なる愉快犯などである場合には、調停委員も相手に対し、離婚に応じるよう説得してくれることもあるでしょう。
そうではなく、相手がクレプトマニアなどの病気である場合には、これまで自分が改善のために努力を重ねてきたことなどを説明して、これ以上は耐えられないことを伝えて離婚の必要性を理解してもらいましょう。 -
(7)離婚訴訟を起こす
調停をしても離婚に応じてもらえない場合には、離婚訴訟を起こすことで、裁判所に離婚を認めてもらわなければなりません。
裁判で離婚を認めてもらうには「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することが必要です。相手が単なる愉快犯や利益目的の窃盗を繰り返している場合には離婚が認められやすいですが、病気が原因の場合、判断は厳しくなる可能性があります。
また、離婚の際には慰謝料請求できるかどうかも問題です。
相手の行為が単なる愉快犯や利益目的の場合には、それによって家族が迷惑を受けてきた事実を証明できれば慰謝料請求する余地もあります。
これに対し、万引きの原因が病気の場合には、相手に責任を問いにくいので、慰謝料は認められにくいときもあります。 -
(8)不倫や悪意の遺棄で離婚が認められる可能性
万引きを繰り返している配偶者が不倫しており、不倫相手の女性や男性と肉体関係がある場合には、法律上の離婚原因である「不貞行為」に該当し、離婚でき、慰謝料も請求できる可能性があります。
また、相手が働ける状態であるのに、働かずに万引きを繰り返して家族生活の維持に協力しない場合には「悪意の遺棄」がとなり、離婚が認められる可能性もあります。
万引き癖のある配偶者と離婚する方法については、万引きの理由によっても大きく異なってくるので、お悩みの場合には、離婚問題に強い弁護士にご相談下さい。
4、万引き癖(盗癖)がある夫と離婚したケース
以下では、当事務所の過去の取扱い事案で、万引き癖(盗癖)のある夫と離婚したケースをご紹介します。この事例は、相手が特に病気ではなかったものです。
盗癖のある夫との離婚につき慰謝料を獲得した事例
5、万引きを繰り返す夫(妻)と離婚の話し合いが纏まらない場合は弁護士へ相談
以上のように、夫や妻が万引きを繰り返す場合、離婚できるケースとできないケースがあります。
裁判を起こしても「離婚原因がない」と判断されて離婚が認められない可能性があるので、まずは相手と話し合いを行い、協議離婚を目指すべきです。
万引きには、認知症やクレプトマニアなどの難しい病気が隠れていることもあるので、対応は簡単ではありません。子供がいる場合には、息子さんや娘さんに対する影響も考える必要がありますし、離婚後の配偶者の生活方法についても検討しておくべきです。
夫や妻が万引きを繰り返すので、困り果てて離婚を考えておられるならば、離婚問題の相談数や解決実績の高いベリーベスト法律事務所まで、まずは一度ご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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