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「求償権」って何? 慰謝料交渉において損をしないためには

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更新日:2024年07月19日  公開日:2020年09月24日
「求償権」って何? 慰謝料交渉において損をしないためには

不倫で慰謝料請求されると、「求償権」が問題となるケースがよくあります。
求償権とは“不倫相手に支払った慰謝料の一部を返還請求する権利”です。

相手の配偶者から「求償権を放棄してほしい」といわれたら、その意味を正しく理解した上で判断しないと損をしてしまう可能性があります。

今回は弁護士が求償権についてご説明します。本コラムをご覧いただき理解を深めてから、慰謝料交渉の準備をしていきましょう。

1、そもそも求償権とは何か

いきなり「求償権」といわれても、耳慣れない言葉で何のことかわからない方が多いでしょう。
求償権は法律用語の中でも専門的なものですので、当然です。まずは「求償権」とは何か、理解していきましょう。

  1. (1)求償権とは

    求償権とは、連帯債務者が自分の負担部分を超えて払ったときに他の連帯債務者へ超過部分の支払いを求める権利です。
    連帯債務とは、「債務者全員が全額の支払い義務を負う債務」です。それぞれの連帯債務者は、債権者から支払い請求をされたら全額の支払いをしなければなりません。「他の連帯債務者へ請求してほしい」といって支払いを拒絶できないのです。

    ただし連帯債務者間では「負担部分(割合)」があります。たとえばAさんとBさんが300万円の負債について連帯債務を負う場合、Aさんの負担部分が150万円、Bさんの負担部分が150万円などとなります。

    こういった状態においてひとりの連帯債務者が自分の負担部分を超えて支払いをしたら、他の連帯債務者の負担部分を払ってあげるのと同じになります。そこで他の連帯債務者へ、払いすぎたお金の返還請求ができるのです。その権利が「求償権」です。連帯債務に関する求償権は、民法442条に規定されています。

    上記のAさんとBさんのケースの場合、Aさんが債権者へ300万円の負債全額を支払ったら、Bさんの負担部分である150万円の求償請求が可能となります。

  2. (2)求償権が発生する場面

    求償権が発生するのは、以下のような場面です。

    ●住宅ローンを組むとき夫婦で「連帯債務」としたが、夫が全額支払った
    住宅ローンを組むとき、夫婦の収入を合算するために「連帯債務」にするケースがよくあります。このとき「夫婦の負担割合を2分の1ずつ」にしたとしましょう。住宅ローンの設定後に離婚して夫が住宅ローンを全額払ったら、後に元妻へ2分の1の金額を求償請求できます。

    ●複数の人が共同不法行為をし、ひとりが全額支払った
    複数の人で、相手に対して損害を与えた場合など(不法行為と言います)には、各共同不法行為者は「連帯債務」関係になります。たとえば複数の人が交通事故を起こし、加害者が複数になるケースです。

    不法行為者が複数いる場合、ひとりの加害者が被害者へ全額の損害賠償をしたら、その人は他の不法行為者へ求償権を行使して負担を超える部分の支払いを請求できます。
    このように、不法行為によって成立する連帯債務関係を「不真正連帯債務」といいます。

    ●使用者責任が発生したとき、雇用者と労働者のいずれかが全額を支払った
    労働者が業務の執行に際して不法行為をした場合には、雇用者も不法行為責任を負います。
    使用者または労働者が全額の損害賠償をしたら、他方へと求償請求できます。

  3. (3)求償権を行使するための条件

    連帯債務を負っている人が「求償権」を行使するには以下の条件を満たさねばなりません。

    ●自分の支出により他の連帯債務者の債務がなくなったこと
    自分が負債を払ったことによって他の連帯債務者の負債が消滅する必要があります。つまり自己負担分を超えて債権者へ支払ったら、基本的に求償権が発生します。

    ●事前や事後に支払いの通知をすること
    債権者へ支払う際、「事前に」他の連帯債務者へ通知しなかった場合、他の連帯債務者は債権者へ主張できた抗弁を主張できます。すると求償をしても、その抗弁を主張されて拒まれる可能性があります(民法443条1項)。

    債権者への支払いをした「後に」他の連帯債務者へ通知しなかったために他の連帯債務者が知らずに支払いをしてしまい「二重払い」になったら、他の連帯債務者は「自分の支払いが有効」とみなすことができます。この場合にも求償できなくなる可能性があります(民法443条2項)。

    求償権発生のために事前や事後の通知は必須ではありませんが、通知をしないと求償できなくなる可能性があります。支払いをする際には、安全のために事前と事後に他の連帯債務者へ通知すると良いでしょう。

2、不倫問題における求償権

1章では「求償権」の基本について解説しました。それでは不倫の場面において、求償権はどのような関係があるのでしょうか。以下で見ていきましょう。

  1. (1)不倫慰謝料は不真正連帯債務になる

    「不倫と求償権について何の関係があるのだろう?」と疑問を持たれる方もいるでしょう。
    実は不倫(不貞行為)は法律上「共同不法行為」と評価される行為です。配偶者と不倫相手のふたりが共同で、不倫をされた配偶者を害するからです。

    そこで配偶者か不倫相手のどちらかが、相手に多めに慰謝料を払った場合には、他方へ求償権を行使して負担を超える部分の返還請求ができます

    不真正連帯債務の負担割合は必ずしも2分の1ずつではありません。ケース・バイ・ケースで、基本的にふたりの責任の大きさによって決まります。たとえば男性側が積極的で年齢も高く、女性側が受け身で若く収入も低いなどの事情があれば、男性側の負担割合が3分の2、女性側の負担割合が3分の1などとなる可能性もあります。

  2. (2)不倫の求償権の具体例

    夫が不倫して、奧さんが不倫相手の女性に慰謝料300万円請求したとしましょう。夫の負担割合が3分の2、女性の負担割合が3分の1の場合、奧さんから請求を受けた女性が300万円を払ったら、その人は夫へ200万円(夫の負担分)の求償請求が可能です。するといったんは300万円を払っても、最終負担額は100万円になります。

    このように、不倫慰謝料を請求されたとしても「求償権」を行使したら、最終的な慰謝料負担額を大きく抑えられる可能性があります。


    以下の「不倫・浮気の慰謝料を請求された方へ」のページでは、より詳しく慰謝料請求に関するポイントや注意点を解説しています。あわせてご一読ください。

    浮気・不倫の慰謝料請求をされた方へ

3、求償権は放棄しないで! 求償権を放棄するデメリットとは

既婚者と不倫して相手の配偶者から慰謝料請求をされた時には、「求償権を放棄してほしい」といわれるケースがあるので、くれぐれも注意してください。

もしも求償権を放棄したら何が起こるのでしょうか?デメリットをみていきましょう。
求償権を放棄した場合、自分が全額支払っても不倫相手に請求できず、全額が自己負担になってしまい損をしてしまいます。本来は求償権の行使によって、負担すべき慰謝料を減額できる可能性があるのに、放棄するとみすみすそのチャンスを逃してしまうのです。

求償権を放棄するよう言われても、簡単に放棄すべきではありません。慰謝料に関しての合意書に署名押印する前には、「求償権を放棄する」という条項が含まれていないか、しっかり確認しましょう

4、不倫で慰謝料請求されたら、弁護士相談すべき理由

このように求償権を放棄した場合のデメリットはかなり大きいです。それを回避するためには、ひとりで判断して対応するのではなく、弁護士に相談されることをおすすめします。ここでは弁護士へ相談するメリットについてご紹介します。

  1. (1)慰謝料請求されたら弁護士のサポートが必要

    配偶者のある人と不倫をして配偶者から慰謝料請求をされた場合、ひとりで解決するのは困難です。相手の請求をそのまま受け入れてしまうと損をしてしまう可能性がありますが、自分で減額交渉をするのも難しいでしょう。
    また相手から強く「求償権の放棄」を求められて、「断りたいけれど断りにくい」と感じる方もたくさんいます。

    そんなときには、合意してしまう前に弁護士までご相談ください。弁護士が「慰謝料額はいくらが適正か」などのアドバイスもしますし、代理人となって配偶者と交渉することもできます。

    特に不倫相手の配偶者が弁護士をつけている場合、こちらも必ず弁護士をつけるべきです。相手は交渉や訴訟のプロなので、ひとりで対応すると圧倒的に不利になってしまうでしょう。相場より高額な慰謝料を払わせられてしまうリスクも高くなります。

  2. (2)不倫で慰謝料請求されたらひとりで相談する方が良い

    不倫で慰謝料請求されたときの法律相談は、「おひとりで」なさるよう、おすすめしています

    不倫相手と一緒に相談に来られた場合、不倫相手とあなたは「求償権」の点で利害が対立するため、あなたの権利が守られないおそれがあるのです。

    あなたが求償権を行使したら、不倫相手は支払いをしなければなりません。あなたが求償権を放棄するとあなたご自身は損をしますが、不倫相手は得をする関係です。
    このようにふたりの関係は「利害対立」するので、ふたりが同じ弁護士に相談・依頼するのは適切ではありません。ふたりで行動していると、最初は良くても「求償権」の問題が出てきた時点で関係が悪化してトラブルになるリスクがあります。

  3. (3)弁護士に依頼するメリット

    不倫で慰謝料請求をされたとき、弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。

    ●慰謝料を減額できる可能性が高い
    相手の請求額が高すぎる場合、弁護士が交渉すると、慰謝料を相場の金額まで減額できる可能性が高まります。状況によっては相場以上に減額できることもあるでしょう。

    ●精神的なストレスの軽減
    慰謝料請求の話し合いは非常に大きなストレスとなりますが、弁護士に任せてしまったら気持ちが楽になるでしょう。

    ●訴訟になっても安心
    万が一、相手との話し合いが決裂して訴訟を起こされても、弁護士に任せた場合には適切に対応できるので安心です。

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5、まとめ

配偶者のある人とおつきあいをしていて、突然慰謝料請求の内容証明郵便が届いたら、誰でも驚いてしまうでしょう。まずは気持ちを落ちつけて、弁護士までご相談ください。

「そもそも支払う必要があるのか」「減額できないか」などを一緒に検討し、最善の解決方法をご提案いたします。ひとりで抱え込んでいても良い方向には進みにくいものです。お早めにご連絡されることをおすすめいたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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