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離婚慰謝料の“時効は3年” 期限を更新させる方法はある?

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更新日:2022年08月17日  公開日:2020年11月12日
離婚慰謝料の“時効は3年” 期限を更新させる方法はある?

不倫やDV、モラハラなど、相手の有責行為が原因で離婚する場合、精神的な苦痛を受けた配偶者は離婚慰謝料を請求できます。ただし離婚慰謝料には時効があり、時間が経過すると請求できなくなってしまいます。

本記事では、離婚慰謝料の時効についての基本的な考え方や、時間が経過してしまった場合の対処方法について解説します。

1、期限は3年・20年|離婚慰謝料の時効について

  1. (1)離婚慰謝料とは

    離婚慰謝料とは、離婚の際に配偶者へ請求できる慰謝料のことです。離婚慰謝料は相手の「不法行為」によって離婚をし、それにより精神的苦痛を受けたときに発生します

    たとえば以下のような事由から離婚をした場合、配偶者は強い精神的苦痛を受けることから、離婚時に相手に慰謝料を請求できます。


    • 不倫(不貞)をされた
    • 暴力を振るわれた
    • モラハラ行為をされた
    • 家出をされた
    • 生活費を支払ってもらえなかった


    慰謝料請求権は「不法行為にもとづく損害賠償請求権」の一種です。たとえば不倫によって離婚した場合の慰謝料は、配偶者の「不倫」という不法行為によって離婚となり、それにより「精神的苦痛」が発生するので、その損害を賠償するものとして慰謝料が発生します。


    なお、離婚慰謝料は、原則として配偶者のみにしか請求することはできません(最判平成31年2月19日)。
    たとえば、不倫が原因で離婚に至った場合、配偶者だけではなく、不倫相手に対しても慰謝料を請求することができます。ただし、不貞相手に対して請求する慰謝料はあくまでも不倫(不貞行為)に対する慰謝料であり、離婚慰謝料ではありません。不倫相手に対して、不倫慰謝料を請求することはできますが、離婚慰謝料を請求することは基本的には認められません。

    例外的に不倫相手が離婚させることを意図して、婚姻関係に不当な干渉をしたと評価される場合には離婚慰謝料も認められる可能性があります。

  2. (2)離婚慰謝料の基本的な時効の起算点

    不法行為にもとづく損害賠償請求権には、民法第724条で規定されている「時効」があり、権利を行使しないまま時間が経過すると、時効により請求権は消滅します
    時効の起算点、つまり時効のカウントがスタートする時点と時効期間は次のとおりです。


    • 損害および、加害者を知ったときを起算点として3年間
    • 不法行為のときを起算点として20年間


    なお、時効期間は請求できる状態になってから進行します。離婚慰謝料の場合には、離婚と同時に請求できる状態になることが通常ですから、「離婚時」から3年が経過すると時効が成立するのが一般的です。

  3. (3)民法改正により「除斥期間」ではなく「時効」になった

    令和2年(2020年)に民法が改正されたことにより、「不法行為のときから20年間」という規定は、除斥期間ではなく消滅時効と変更されました。
    わかりにくい部分ですが、両者の違いは次のように説明できます。


    ●除斥期間
    権利を行使しなければ原則として期間の進行を止めることはできず、期間が経過すれば当然に権利が消滅します


    ●消滅時効の場合
    完成猶予・更新が適用されます。
    詳細は後述しますが、簡単に説明すると、一時的に時効の完成を延ばしたり、時効の進行をリセットしたりすることが可能です。


    つまり、消滅時効と規定されたことで、慰謝料を請求できる範囲が広がったといえます。

  4. (4)離婚後に不倫(不貞行為)を知った場合の起算点

    前述したとおり、離婚慰謝料は離婚したときが起算点となります。
    しかし、相手が秘密で不貞(不倫)していた場合には、離婚時にその事実を知らないケースも考えられます。その場合「損害や加害者」を知らないので離婚後も慰謝料の3年の時効は進行しません。


    このようなケースでは、元配偶者との関係では、離婚後「元配偶者の不貞行為を知ったとき」が時効の起算点となり、その日から3年間は離婚慰謝料を請求できます。他方、不倫相手との関係では、時効の起算点は、不倫相手の名前や住所を知った時となり、そこから3年間となりますので、元配偶者よりも時効完成が遅くなることがあります。


    ただし、元配偶者の不貞行為を知らなかった場合や相手を特定できなかった場合でも、不貞行為から20年間が経過すると時効が完成し、請求する権利は消滅してしまいます。

  5. (5)時効完成が猶予される場合

    夫婦間で何らかの請求権を有している場合、離婚後6か月は時効が完成しません(民法第159条)。

    たとえば、お金を貸していて返還請求する権利を持っている場合、婚姻中に時効期間が経過しているとしても、離婚後6か月以内なら請求可能です。また、不貞行為を知らないまま20年が経過してしまった場合でも、離婚後6か月以内であれば請求することが認められます。

2、配偶者に離婚慰謝料を請求できるケース

離婚の際、慰謝料請求できるケースとして不倫(不貞行為)のみが浮かぶ方も多いかもしれませんが、不倫以外にも請求できるケースはあります。
離婚慰謝料を請求できる場合と、できない場合について解説します。

  1. (1)離婚慰謝料が発生するケース

    ・配偶者の不貞行為
    相手が別の異性と肉体関係をもっていた場合、慰謝料を請求できます。ただし基本的に肉体関係が必要であり、プラトニックな関係であれば慰謝料が発生しないか、発生するとしても非常に低額になります。

    ・配偶者からのDVやモラハラ
    相手から暴力やモラハラ被害を受けていた場合も、慰謝料を請求できます。

    ・悪意の遺棄
    相手が家出した場合や生活費を払ってもらえなかった場合などにも慰謝料を請求できる場合があります。


    ただし、どのケースにおいても、慰謝料を請求するためには、証拠が必要です。どのようなものが証拠となり得るのかは状況により異なるため、弁護士のサポートを得ることをおすすめします。

  2. (2)離婚慰謝料が発生しないケース

    一方、次のようなケースでは、離婚慰謝料を請求するのは難しいでしょう。


    ・性格の不一致が原因
    性格の不一致で離婚する場合には、どちらが悪いともいえないので離婚慰謝料を請求できません。

    ・宗教観、政治思想などの不一致
    宗教観や政治思想の違いなどが理由で離婚する場合にも慰謝料請求できません。

    参考:慰謝料に関する基礎知識

3、時効完成後に慰謝料を請求することはできない?

時効が完成してしまった場合は、原則として離婚慰謝料を請求することはできませんが、例外的に元配偶者が任意で支払いに応じる場合は、この限りではありません。
ただし、相手を脅迫したり、あまりに高額な金額を請求したりしてしまうと、トラブルに発展してしまうおそれがあります。あくまでも任意であることを理解したうえで、相手と交渉することが大切です。

4、離婚慰謝料の時効を更新(中断)させる方法とは?

離婚慰謝料は、基本的に「離婚後3年以内」に請求しなければなりません。しかし、さまざまな事情によって、時間が足りないケースもあるでしょう。

そのような場合には、時効を止める方法が認められています。これは時効の「更新」と呼ばれています。また、更新させる時間すら確保できない場合、「完成猶予」させる方法というものがあります。以下で時効の更新と完成猶予について、ご説明します。

  1. (1)時効の更新とは

    一定の事情があると、法律上の時効期間は更新されてまた0からの数え直しになります。これを「時効の更新」といいます。
    更新されるのは以下のような場合です。


    ・債務者による承認
    債務者本人が「支払います」と述べたり書面を差し入れたりして債務を承認すると、時効が更新されます。


    ・裁判の確定
    相手に訴訟や支払い督促を申し立てて権利が確定すると時効期間が更新されます。この場合、新たな時効期間は「10年」に延長されます。


    ・強制執行
    相手の給料や預貯金などを差し押さえた場合にも時効期間が更新されます。

  2. (2)時効の完成猶予とは

    時効の更新が認められないケースでも、一時的に時効の完成が延びる可能性があります。これを時効の「完成猶予」といいます。
    たとえば以下のような場合、時効の完成猶予が認められます。


    ・内容証明郵便による催告
    相手に対し、裁判外で請求すれば時効の完成が6か月間猶予されます。ただし口頭や普通郵便、メールによる請求では不明確です。確実に請求した証拠を残すため「内容証明郵便」を利用して請求しましょう
    猶予された6か月の間に訴訟を起こして、判決等で権利が確定すると、時効が更新されて、10年延ばすことができます。


    ・仮差押え、仮処分
    相手の資産を仮差し押さえしたり仮処分を行って財産を保全したりすると、6か月間時効の完成が猶予されます。その間に訴訟を起こして、判決等で権利が確定すると、時効を10年間延ばせます。


    ・訴えの提起
    裁判を起こすと、その時点で時効が完成猶予されます。裁判が終わるまで時効は完成しません。
    判決等により権利が確定すると、10年間時効を延ばせます。


    ・強制執行の申し立て
    慰謝料請求権などの権利にもとづいて差し押さえなどの強制執行をすると、時効の完成が猶予されます。残債務については、時効が更新されます。

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5、時効を完成させずに離婚慰謝料を請求する方法と注意点

時効が完成しないように離婚慰謝料を請求する方法と、注意するべき点について確認していきます。

  1. (1)離婚慰謝料を請求する流れ

    離婚後、時効を完成させずに離婚慰謝料を請求するには、以下の流れで進めましょう。


    ・相手に承認させる
    まずは相手に慰謝料支払い義務を認めさせましょう。債務者が支払い義務を認めると、時効が更新されて、完成時期が3年間延長されます。

    具体的にはメールや電話などで話し合いを持ちかけ、慰謝料の支払い方法についてお互いに意見を述べ合い「支払いに関する合意書」を作成しましょう。支払い方法についての合意に時間がかかる場合、「支払いをします」という自認書だけでも書いてもらうことができると、時効を更新できます。


    ・相手が承認しない場合、訴訟も検討する
    相手が支払い義務を認めない場合には、訴訟を検討しましょう。訴訟を起こせば時効の完成が猶予されるからです。
    すぐに訴訟を起こせない場合には、内容証明郵便で請求書を送ります。そこから6か月間時効の完成が猶予されるので、その間に提訴の準備を進めていきましょう。
    なお、内容証明郵便による完成猶予は1回しか認められません

  2. (2)離婚慰謝料請求に向けて早めに行動すべき理由

    離婚後、慰謝料請求をするなら早めに行動を開始すべきです。理由は以下のとおりとなります。


    ・証拠集めに時間がかかる
    慰謝料請求するには証拠が必要です。たとえば不倫の場合、相手が不倫していた証拠を集めねばなりません。実際に証拠を集めるのには時間がかかります。その間に1年、2年が経過してしまい、時効に間に合わなくなる可能性があります。


    ・準備を進める間に時効期間が進行する
    相手に裁判を起こそうとしても、すぐに訴えを提起できるものではありません。証拠集め、弁護士への依頼、訴状の作成などある程度の準備期間が必要です。
    そのような時間的なロスを考えると、3年の時効完成間際になってから動くのでは時間が足りません。早めに行動を開始すべきといえます。

6、離婚慰謝料について弁護士にアドバイスを受けるメリット

離婚慰謝料を請求する際には、弁護士によるアドバイスを受けておくと安心です。
弁護士であれば「いつ時効が成立するのか」を正確に把握することができ、時効の完成を猶予したり、更新させたりする方法も熟知しています。

個人で対応した場合は「知らない間に時効が成立していた」という事態に陥るケースもありますが、弁護士への相談でそのような不利益を避けられる可能性があります。
離婚後に配偶者の不倫が発覚して、困ったときにはお早めに弁護士までご相談ください

7、まとめ

個人で慰謝料の時効の完成を猶予させ、配偶者や不倫相手に請求することも可能です。しかし、手続きを進めていくうえで不確実な要素もあり、手間がかかるケースが少なくありません。
また、元配偶者や不貞相手との交渉も必要となり、精神的な負担は軽くはありません。

離婚慰謝料や不倫慰謝料請求の経験が豊富な弁護士に依頼した場合、よりスムーズに支払いを受けやすくなる可能性が高くなります。
離婚後相手の不倫を知り、離婚慰謝料を請求したい、時効の期限が迫っているなどのお悩みをお持ちであれば、お早めにベリーベストの弁護士までご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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