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「婚姻費用の審判結果に納得できない」 即時抗告の流れと注意点を解説

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更新日:2022年08月29日  公開日:2021年03月04日
「婚姻費用の審判結果に納得できない」 即時抗告の流れと注意点を解説

婚姻費用の分担は、当事者間での交渉が難しいことから、調停や審判といった裁判所の手続きの利用が増加していると言えます。

実際に裁判所が令和元年7月に公表した「家庭裁判所における家事事件の概況及び実情並びに人事訴訟事件の概況等」によれば、別表第2事件の件数(婚姻費用分担にかかわる家事事件を含む)は、おおむね増え続けています。平成21年の時点では約64,000件でしたが、平成28年には80,000件を超え、平成30年は80,458件でした。

裁判所の力を借りて話し合い、当事者が納得し、合意ができれば調停で終了しますが、合意ができなければ審判に進みます。
審判となると、当事者の意思とは関係なく、裁判所が金額を判断します。裁判所が判断した金額に納得できない場合に行うのが、『即時抗告』です。

ただし、即時抗告という手続きは、行えば有利な結果が出るというものではありません。本コラムでは、ベリーベスト法律事務所の弁護士が、即時抗告の流れや注意点について解説しています。ぜひご参考にされてください。

1、婚姻費用分担請求の調停、審判、即時抗告の違い

婚姻費用とは、夫婦間で生じる協力扶助義務に基づいて支払い義務のある生活費のことです。婚姻中の夫婦は、どちらか一方に扶助の必要性が生じた場合、もう一方が、夫婦が同じ生活を送れるように生活費を渡さなければいけません(民法第752条)。
子どもの生活費だけでなく、婚姻相手の生活費を含むのが、離婚後に支払う「養育費」との大きな違いです。

婚姻費用の基準額は、年収や子どもの数および年齢に応じて変わります。裁判所のウェブサイトに公表されていますが、ベリーベスト法律事務所でも婚姻費用計算ツールを用意しています。
条件を入力するだけで簡単に算出できますので、ぜひ一度お試しください。

参考:婚姻費用計算ツール

扶助義務(婚姻費用支払いの義務)は法律で定められているため、もしそれを相手が履行しない場合は、裁判所を介した手続きで求めることができます。それが、婚姻費用分担請求の調停、審判、即時抗告です。
まずは、それぞれの違いを確認しましょう。

  1. (1)調停とは

    調停とは、裁判所によって設置された調停委員会を介して話し合いを進める手続きです。婚姻費用分担の場合、申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります(家事事件手続法第245条)。

    調停では、手続きを申し立てた者(申立人)と申し立てられた者(相手方)が交互に調停委員と話し、収入に関する資料を提出するなどして、話し合いを進めていきます。
    この話し合いで合意ができれば、調停が成立し、調停で合意した額の婚姻費用を支払うことになります。

  2. (2)審判とは

    調停で合意できなかった場合、審判へ移行し、裁判官に判断を委ねることになります。調停から審判へ進むのに特別な手続きは必要ありません。審判では、調停で提出した書面や収入資料をもとに判断がなされます。

    審判が確定した場合、婚姻費用の支払い義務が発生した当事者は、それに応じなければいけません。もし、拒否した場合は、強制執行の手続きが取られる可能性があります

    なお、審判に移行する際は、申立人とその相手が同時に調停室に呼ばれて伝えられるのが一般的です。ただし、双方が同席するのが困難な場合は別々に伝える、同席に対して消極的な場合は弁護士が席の間に入るなどの処置がとられることがあります。

  3. (3)即時抗告とは

    もし審判に納得がいかない場合、裁判所に「もう一度判断してください」と申し立てることが可能です。この手続きを即時抗告と言い(家事事件手続法第156条)、申し立てた方を抗告人と言います。

    即時抗告がなされた場合、家庭裁判所ではなく、高等裁判所が判断します。

2、即時抗告とその注意点

即時抗告は、審判の内容について不服があるときに、裁判所に再度の判断を求める旨を申し立てる手続きです。以下、即時抗告の基本的な情報と注意点についてご紹介します。

  1. (1)即時抗告にかかる費用

    婚姻費用分担請求審判に対する即時抗告にかかる費用は1,800円です。これ以外に、連絡用の郵便切手が必要ですが、こちらは各家庭裁判所によって異なるので、事前に確認しましょう。
    また、弁護士に依頼している場合は、別途費用がかかることが一般的です。

  2. (2)必要書類

    即時抗告をするためには、抗告状となぜ即時抗告をするのかを示す証拠書類を、当該審判を下した家庭裁判所に提出しなければいけません

    抗告状の書式は、裁判所のウェブサイトからダウンロードすることが可能です。
    ウェブサイトには「認容審判に対する即時抗告」「却下審判に対する即時抗告」、それぞれの記入例があるので参考にするといいでしょう。なお、抗告状は抗告理由を詳しく書かずに、「追って主張する」とだけ記載することもできます。ただし、その場合は、理由を詳述した即時抗告理由書が別に必要です。

    参考:即時抗告の抗告状(認容審判に対する不服)|裁判所
    参考:即時抗告の抗告状(却下審判に対する不服)|裁判所

  3. (3)即時抗告するときの注意点

    即時抗告は不利益変更禁止の原則(申立人が不利益を被るような変更はできないというルール)が適用されません。簡単に言えば、最初の審判(原審判)より不利な結果が出る可能性もあります
    そのため、即時抗告するかどうかは、十分に検討することが大切です。

3、婚姻費用審判に対する即時抗告の流れ

婚姻費用審判における即時抗告は、第1章で解説したとおり、婚姻費用分担調停、審判を経てはじめておこなわれるものです。調停、審判、即時抗告へと進んでいく手続きの流れを見ていきましょう。

  1. (1)即時抗告を申し立てるまでの流れ

    婚姻費用分担請求を行う場合に、まず行うのは調停です。互いの収入資料をもとに、調停委員会からのさまざまな提案を受けながら、お互いに納得できる結論が出るように話し合いを進めます。調停でまとまらなかった場合、審判に自動的に移行します。

    審判に移行するときに審問の期日が通知されますが、これは調停不成立日の2週間から1か月の間が通例です。ただし、すでに証拠資料がそろっている場合は、調停不成立日と同じ日に行われることもあります。

    裁判所が公表している統計によれば、平成30年の婚姻関係事件の平均審理期間(調停から審判に移行し、解決に至るまでの平均日数)は5.8か月でした。ただ、審理期間別に対する事件の割合を見ると、審理期間が6か月超の事件が30%以上あり、半年以上かかるのは珍しくないと言えるでしょう。
    もっとも、婚姻費用分担は請求している側の生活に直結しますので、早期に審判が出されることが多い傾向にあります。

    家庭裁判所から下された審判は、2週間たったら確定し、法的拘束力を持ちます。審判内容に不服がある場合は、審判が出され、その審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に即時抗告をしなければなりません。なお、非常に重要な期間制限ですので、ご自身の場合はいつまでなのか、裁判所に具体的な日にちを確認されると良いでしょう。

    また、即時抗告理由書が必要な場合は、抗告状を提出してから2週間以内に提出する必要があります。

  2. (2)即時抗告を申し立てたあとの流れ

    家庭裁判所は、即時抗告が申し立てられると、審理の記録を高等裁判所に送ります。次に高等裁判所が原審判を検討し、相手方にも答弁書(反論の文書)を提出する機会が与えられます。高等裁判所が、再審理が必要と判断したら審理終結日(高等裁判所が審判を下す日の2週間前の日付)を当事者に通知します。
    この期限を過ぎたあとに提出した資料は、審判に考慮されなくなるので注意が必要です。また、審問期日は開かれないのが一般的となっています。

  3. (3)即時抗告の結果について不満があるときは?

    即時抗告の結果に不服がある場合には、当該決定の告知を受けた日から5日以内に特別抗告を申し立てる方法(家事事件手続法94条)と抗告許可を申し立てる方法(同法97条)があります。

    ただし、特別抗告の提起ができるのは、高等裁判所の決定が憲法に違反しているときのみ、抗告許可の申し立ては、高等裁判所の決定が、基本的には最高裁の判例(最高裁の判例がない場合は、大審院や上告裁判所、高等裁判所の判例)と相反する場合のみ、と非常に限定されており、再度判断される可能性は非常に小さいものと言えます。

4、即時抗告を行う前には弁護士へ相談を

婚姻費用の話し合いを進めていたものの合意ができず、最終的には審判になることもあるでしょう。
審判が確定すれば、審判で支払いを命じられている額について、今後支払っていかなければならなくなります。また、支払わなければ強制執行がなされることも考えられますので、審判で出された金額に不服がある場合には、即時抗告を検討することになります。

しかし、2週間という期限があるため、判断を急がなければなりません。
審判後すぐに弁護士にご相談いただければ、即時抗告に向けた早めの対応が可能になります。審判が出たが、不満があるという場合には、まずは弁護士にご相談されるのをおすすめします。

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5、まとめ

婚姻費用分担請求は、交渉や調停でまとまらず、審判に移行し、裁判所が判断することがあり、その判断が思わぬ額になってしまうこともあります。
審判内容に不服がある場合には、即時抗告を検討することになりますが、期限もあり、手続きも煩雑のため、お悩みの方もいらっしゃると思います。

審判後なるべく早期にご相談いただければ、すぐに対応することが可能です。ぜひ審判が出たが不満があるという場合には、すぐに弁護士にご相談ください。適切な結果になるように対応、サポートいたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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