親権争いで母親が負けるケースとは? 親権決定の判断基準も解説!
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未成熟子(経済的に自立していない子ども)のいる夫婦が離婚するとき、ほとんどの場合は母親が親権を持つことになります。実際、令和元年度の司法統計によれば、調停で母親が親権を取る割合は90%以上にもおよびます。しかし、残りの約10%は母親が親権を獲得できていないのです。
親権争いでは母親が有利だと考えられますが、親権争いで母親が負けるケースとはどのような場合なのでしょうか。親権決定の判断基準や子連れ別居をするときの注意点などとあわせてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、親権争いで母親が負ける可能性のある5つのケース
離婚後には母親が親権を持つケースは依然として多いものの、最近では育児参加に積極的な父親も増えていることから、父親が親権を勝ち取るケースも少なくありません。ここでは、親権争いに母親が負ける可能性があるケースを5つ取り上げて解説します。
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(1)母親が虐待やネグレクト(育児放棄)をしている
母親が子どもを虐待したり、ネグレクト(育児放棄)をしたりしている場合は、母親に親権は認められません。
たとえば、以下のようなケースが該当します。身体的虐待 子どもをたたく、蹴る、髪の毛を引っ張る、強くゆさぶる など 精神的虐待 子どもに暴言を吐く、近づいてきても無視する、しょっちゅう怒鳴りつける など ネグレクト(育児放棄) 食事の用意をしない、お風呂に入れない、子どもを不衛生な環境に置きっぱなしにする、病気になっても病院に連れていかない など -
(2)母親が精神疾患を患っていて育児ができない
母親がうつになって動けない、幻覚・幻聴の症状があり子どもの面倒を見られないなどの場合は、育児に耐えうる状態ではないと判断され、親権を得ることが難しくなります。ただし、精神疾患を患っていても最低限の育児ができる場合は除きます。
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(3)子どもが父親と暮らすことを望んでいる
子ども自身が「転校したくない」「お父さんと一緒に暮らしたい」などの理由で父親と暮らすことを望んでいる場合は、子どもの意思が尊重されます。そのため、母親が親権を望んでいても親権争いで負ける可能性があります。
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(4)父親に育児をまかせきりにしている
親権争いではどちらの親がより子どもの監護にあたっているかが重視されます。そのため、「仕事が忙しいから」と保育園や習い事の送迎や食事の準備など、子どものことをすべて父親にまかせきりにしている場合は、父親が有利となり母親が親権を得ることができない可能性があります。
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(5)離婚のときに子どもが父親と一緒に暮らしている
離婚協議を始めたときや離婚調停を申し立てたとき、すでに子どもが父親と一緒に暮らしている場合は、親権争いをしても母親が負ける可能性が高くなります。離婚手続きを始める前にはすでに夫婦が別居しているケースも少なくありませんが、子どもが父親と暮らしている場合は子どもの生活の安定性が重視されるため、母親側に不利になるのです。
2、親権の決定におけるポイント
親権者を決めるときには、子どもの福祉が重視されます。子どもの福祉とは、「どちらと一緒に暮らすほうが子どもにとって幸せか」ということです。その子どもの幸せを判断する基準として、次の7つのポイントがあります。
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(1)監護の実績
保育園や幼稚園、習い事などの送迎や食事の支度など、親として子どもに必要なことをしてきたかどうかがポイントになります。また、実績だけではなく、親の健康状態に問題ないかどうか、子どもの世話に耐えうる体力や能力があるかどうかなど、監護能力も問われます。「父親・母親のどちらのほうが親権者としてふさわしいか」というよりも、「育児をしていく能力等で著しく欠如している点はないかどうか」のほうが重要視されます。
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(2)監護の継続性
離婚手続きに踏みきるまで子どもの監護していたほうに、親権を与えるべきとする考え方です。その時点で一緒に暮らしている親との生活が安定している場合、その親子関係をむやみに変更すると子どもの情緒が不安定になり、人格形成にも影響が出るためにこのように考えられています。
ただ、この看護の継続性で有利になろうとして、片方の親が留守中にもう片方の親が子どもを勝手に連れて出て行ってしまう事案が発生していることが問題視されています。 -
(3)子どもの意思の尊重
子どもの意思は、小さいうちはあまり関係ありません。一方、中学生くらいになってくると判断能力もついてくるので、家事事件手続法では子どもが15歳以上の場合は子どもの意見を聞くことが義務付けられています。ただ、実務上は10歳ごろから子どもの気持ちを聞いて意思を裁判や調停に反映させることも少なくありません。
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(4)きょうだい不分離の原則
子どもが複数いる場合は、原則としてきょうだいが引き離されることのないよう配慮すべきだとする考え方です。きょうだいがともに暮らして成長していくことが、子どもたちの情緒安定や人格形成にもつながるためです。
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(5)母性優先の原則
母性優先の原則とは、子どもとの心理的な結びつきの強いほうを親権者として優先すべきとする考え方です。
かつては、特に子どもが乳幼児のうちは、母親のほうを必要としているため母親が優先されるべきとする「母親優先の原則」という考え方がとられていました。しかし、近年は共働き世帯も増え、子どもの面倒を見る父親が増えてきたことから、より心理的な結びつきの強いほうを親権者とすべきとする考え方に変わってきています。そのため、たとえば母親が毎日仕事の帰りが遅く、父親のほうが子どもの世話をしている場合は、親権争いで母親が負ける可能性が高くなります。 -
(6)面会交流の寛容性
子どもと一緒に暮らしたいという親が別居親との面会交流に寛容であるかどうかも、親権を決めるときに重視されます。
子どもにとって、親が離婚しても親子関係はずっと変わりません。そのため、離れて暮らしていても定期的に会ったり連絡を取り合ったりすることで、別居している親からの愛情を確認できることが、子どもの情緒安定の上で非常に重要です。夫婦同士はお互いにもう会いたくないと思っていても、子どもの「別居親に会いたい」という気持ちを尊重できるかどうかが、親権者としての適格性を判断するポイントとなるのです。 -
(7)育児のサポート体制
シングルになったら、ひとりで育児を担っていくのが大変なことがあります。そのため、近くに祖父母や自分のきょうだい、親戚が住んでいるなど、育児のサポート体制が整っているかどうかもポイントです。父親が平日は仕事で忙しく子どもの面倒がなかなか見られない場合でも、父方の祖父母が面倒をみられる場合は父親に有利になり、母親が負ける可能性もあります。
参考:親権についての基礎知識
3、経済力や離婚原因は親権決定に影響するのか?
親権を争うときに気になるのが、経済力や離婚原因は親権の決定に何か影響をおよぼすのかどうかです。たとえば、専業主婦(夫)の場合は経済力に不安があるでしょうし、自分側が不倫や浮気をしたことが離婚を招いた場合も、親権を取れないのではないかと心配になるでしょう。これらは親権決定を左右する要素になりえるのでしょうか。
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(1)経済力は親権の決定では重視されない
監護者の経済力の有無については、親権の決定には特別関係ありません。そのため、専業主婦で無収入であっても、日頃から子供の面倒を毎日見ていて情緒的に結びつきが強いと考えられる場合は、親権をとることは十分可能です。経済力の面は、公的扶助や相手方からの養育費や財産分与を受け取ることができれば問題ありません。
ただし、母親が莫大な借金を抱えている、浪費グセがあるなどの場合は、親権争いで不利になる可能性はあります。 -
(2)母親の不倫・浮気もあまり関係ない
母親の不倫や浮気がきっかけとなって離婚に至った場合、「不倫(浮気)するようなふしだらな人間には子どもをまかせられない」と考える方もいるでしょう。しかし、監護者が不倫(浮気)していたとしても、実は親権争いにはあまり関係がありません。たとえば、子どもが保育園や学校に行っている間に不倫相手と会っていたなど、子どもとの関わりに影響がない形での不倫であれば問題にならないのです。ただし、夜に子どもを一人家において不倫相手に会いに行っていたなど、子どもに悪影響を及ぼすような場合は、監護親として不適格と判断される可能性があります。
4、子どもとともに別居する場合について
離婚するときは、その前に別居していることが多いのですが、子どもを連れて別居する場合はいくつか注意点があります。子連れ別居を検討している場合は、これらの注意点をあらかじめ知っておきましょう。
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(1)合意なき「連れ去り」は違法
親権がほしいあまりに、子どもと同居している既成事実を作ろうとして、配偶者のいない間に子どもを勝手に連れ出す事案が横行しています。このように、配偶者が合意していないのに子どもを勝手に連れ出すことは、合意なき「連れ去り」とされ違法となります。
たとえば、以下のようなケースが「連れ去り」と判断されます。- 配偶者が留守中に子どもをこっそり連れ出す
- 子どもを保育園や学校に迎えに行ってそのまま連れ去ってしまう
- 下校時間に子どもを待ち伏せして連れて行ってしまう
- 面会交流が終わった後、子どもを監護親に返さない
日本国内では当事者間だけの問題とされる連れ去り別居ですが、国際結婚した夫婦の間で起こると国際問題に発展することがあります。なぜなら、ハーグ条約で配偶者の同意のない子どもの連れ去りを禁止しており、国によっては実子誘拐とみなされ刑事訴追されることもあるからです。国際離婚するときに子どもを連れて別居する場合は、特に注意しましょう。
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(2)事前に子どもの意思を確認する
突然子どもを連れて別居しようとすると、子どもが動揺したり、無理やり連れ去ろうとした親をかえって嫌いになったりすることがあります。どれだけ自分について来てほしくても、事前に子どもの意思を確認し、子どもの意思を尊重することが大切です。
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(3)別居したあとも婚姻費用を請求できる
夫婦は別居したあとも、離婚が正式に成立するまで戸籍上は夫婦のままです。そのため、民法上の生活保持義務にもとづき、収入の多いほうが収入の少ないほうに生活費を渡さなければなりません。このお金のことを婚姻費用といいます。婚姻費用は別居していても請求できるものなので、夫より妻のほうが収入の少ない場合は相手方に忘れずに請求しましょう。
5、まとめ
親権争いは母親のほうが有利になりやすいものの、油断はできません。「子どもの福祉」すなわち「子どもの幸せ」の観点から、さまざまな要因から母親側が監護者として不適格と判断されれば、親権争いに負ける可能性もあります。
とはいえ、親権が欲しいからと言って、配偶者の合意もなく無理やり子どもを連れて家を出ることは違法です。離婚するにあたり親権について配偶者ともめている場合は、弁護士に相談すれば問題解決の糸口が見つかる可能性があります。まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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