「単身赴任」は離婚につながりやすい? 原因について弁護士が解説
単身赴任の期間が長くなると、夫婦のお互いの気持ちが離れてしまい、離婚に至るケースも少なくありません。
ただ、自分が離婚したいと思っても、相手が離婚に同意しないと協議離婚することができず、離婚裁判となる可能性があります。
単身赴任で配偶者と心が離れて離婚したいと思ったとき、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?
今回は、単身赴任を原因とする離婚方法について、弁護士が解説します。
1、なぜ単身赴任は「離婚」につながりやすいのか?
単身赴任になると、当初は仲の良かった夫婦でもだんだんと疎遠になって、離婚につながるケースが多くあります。
より詳細に見ると、以下のようなことが離婚の原因になっていることが多いといえます。
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(1)浮気
単身赴任による離婚原因として非常に多いものは、「浮気(不倫)」です。
単身赴任した側が、家族と離れて一人暮らしとなって孤独感を感じることと、配偶者の目がなくなることから、浮気に走ってしまう例が多々あります。
家に残された配偶者の方が近くの異性と不倫してしまうケースも見られます。浮気をしてそれが発覚すると、お互いの気持ちが急激に離れますし、配偶者から離婚を切り出されやすくなるなど、離婚に直結します。 -
(2)コミュニケーションが不足する
夫婦のコミュニケーションが不足すると、どうしても関係性の維持が難しくなるものです。
たとえば、夫が転勤で単身赴任すると、物理的に距離が遠くなるので、お互いに直接会ってコミュニケーションを図ることは難しくなります。そうなると、お互いに相手への気持ちが小さくなることは避けがたいものです。
たとえ電話やメールのやり取りをしていても、同居しているときの親近感とは異なりますし、電話やメールの頻度すら少なくなって、相手とのコミュニケーションがほとんどなくなってしまうケースもあります。 -
(3)相手の必要性を感じなくなった
単身赴任となり、お互いが1人(または子どもと一緒)で生活するようになったことで、かえってのびのび過ごせることがよくあります。
たとえば妻は、家に夫がいないと、これまで抑えていた仕事をバリバリとこなすようになったり、趣味に時間を使えたり、友人付き合いに積極的になったりすることがあります。夫の方も、単身赴任先で独身時代に戻ったような気分になり、夜遅くまで飲み歩いたり夜中まで起きて、自由な生活をしたりすることがあります。
このように、相手がいない環境を心地よいと思ってしまったら、「なぜ再度同居しないといけないのか?」と疑問を持ってしまいます。 -
(4)お金の問題
夫が単身赴任をしてしばらくして、生活費を支払ってくれなくなるケースがあります。
夫が単身赴任先で不倫をし始めたら、家族のことがどうでもよくなりお金を渡さなくなるパターンもあるようです。そうでなくても、単身赴任を開始する際に、きちんとお金のことについて取り決めをしていなかったら、「今月、お金がないからそっちへはあんまり送れない」などと言い出して、家族のお金を渡してくれなくなることがあります。すると、妻は困ってしまい、夫を信用できなくなって離婚したいと考えます。
また、お金を送る側である夫の側で、送金が厳しくなることがあります。単身赴任すると、単身赴任先ともとの住居とで、二重に生活費がかかってしまうので、余分なお金がかかるためです。手当をもらっても足りず、単身赴任先で夫が「このままでは生活していけない」と感じ、嫌気がさして離婚したいと考えてしまいます。
2、裁判で認められる離婚原因に「単身赴任」は含まれない!
このように、単身赴任が原因で夫婦関係が悪化してしまうパターンはさまざまですが、単身赴任を原因として、離婚することができるのでしょうか?
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(1)協議離婚、調停離婚なら、相手が同意すれば離婚できる
まず、日本では、協議離婚や調停離婚をするときには、相手が納得すれば離婚することができます。
協議離婚とは、夫婦が話し合いして合意の上で離婚することで、市区町村役場に離婚届を出すことで成立させることができます。調停離婚とは、裁判官や調停委員といわれる専門家に間に入ってもらって話し合いを行うことです。
いずれも、法定での離婚原因は必要ないので、お互いに離婚について合意すれば離婚できるということです。単身赴任で別居中の相手と話合いをして、相手が離婚を了承すれば、どのようなケースでも離婚できます。
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(2)単身赴任は「法定離婚原因」に入らない
これに対し、相手が離婚を拒絶している場合には、協議や調停で離婚することが認められず、離婚訴訟によって離婚を認めてもらう必要があります。離婚訴訟で離婚をするには、法定離婚事由が必要ですが、そこに、単身赴任は含まれているのでしょうか?
民法第770条1項の定める法定離婚事由は、以下の5つです。
- ①不貞
- ②悪意の遺棄
- ③3年以上の生死不明
- ④回復しがたい精神病
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
上記に「単身赴任」は入っていません。
⑤の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は、①~④に匹敵するほどの重大な事由を表すと考えられています。この一例として長期間の「別居」が考えられますが、「単身赴任」は夫婦関係が悪化しての別居ではなく、双方が同意の上で別々に住んでいるに過ぎないなどと考えられますので、いわゆる「別居」にはあたらないと考えられています。
これは単身赴任しても離婚に至らず、夫婦円満に過ごしている方がたくさんいることからもわかります。「単身赴任」という事情だけをもって離婚訴訟で離婚を認めてもらうことは困難といえます。
3、単身赴任を原因に離婚が認められるケースとは
「単身赴任」そのものが離婚原因にならないとしても、他の事情によって法定離婚原因が認められるケースがあります。
それは、以下のようなケースです。
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(1)配偶者の浮気(不倫)
1つは、相手が浮気(不倫)しているケースです。単身赴任そのものは離婚原因になりませんが、浮気(不倫)は離婚原因になります。
法律上、浮気や不倫のことを「不貞」と言いますが、不貞と言えるためには、通常は、単に好意を持っているだけではなく、肉体関係があることまで必要となります。相手に「あなたが不倫しているから離婚したい」と言っても、相手が認めなければ離婚できないので、相手の不倫によって離婚したい場合は、浮気の証拠を集めることが重要です。
しかし、単身赴任の場合、ご主人が赴任先で不倫していても、相手の女性が誰であるか分からず、証拠も集めにくいことが多いです。単身赴任している配偶者が不倫していると疑ったら、普段とは異なる時間に相手に連絡を入れてみたり、ときには会社に連絡してみたりして、相手の生活の様子を探りましょう。
抜き打ちで相手の家の様子を見に行くこと浮気(不倫)が発覚することもありますので、一度実行してみるのもいいかもしれません。
これらの方法でも証拠を集められない場合には、探偵事務所に依頼することもひとつの方法です。探偵事務所に依頼するときには、現地の探偵社に依頼すると、交通費や出張費を抑えられます。効果的な不倫の証拠の集め方が分からない場合、弁護士からアドバイスすることも可能ですので、まずはお問い合わせください。
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(2)相手が生活費を支払わない
単身赴任した夫が生活費を支払ってくれなくなった場合にも、離婚原因となりえます。
この場合、法定離婚理由の中でも「悪意の遺棄」に該当するためです。これまで入金のあった通帳(送金を止められた通帳)や、相手に催促したメール、それに対する返信内容などが証拠となります。
メールでやり取りしている場合には、送信メールが消えてしまわないように保護しておきましょう。
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(3)別居期間が長期に及び、夫婦関係が破たんした
単身赴任が長期に及ぶと、夫婦のやり取りがほとんどなくなり、お互いに行き来することもないまま数年が経過することがあります。
このように、別居期間が長期に及び、実質的に夫婦関係が破綻していると認められる場合には、「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」があるとして、離婚が認められる可能性があります。
しかしながら、単身赴任の場合、もともと仕事の都合で別々に暮らさざるを得なくなるわけですから、裁判所において、特に夫婦仲が悪いことを理由にする別居とはいえない、と認定され、単身赴任の期間が別居期間に含まれないと判断される可能性も大きいです。
したがって、離婚にむけた別居期間を裁判所に認めてもらいたいのであれば、配偶者に書面などで離婚の意思を明確に示すなどの行動が必要となります。
また、お互いが、結婚生活をやり直すための具体的な意思をどの程度持っているかも評価されます。相手が「離婚したくない」と言っていても、実際には元に戻る努力を一切しておらず、客観的に見て復縁を希望しているようには見えない場合には離婚を認めてもらいやすいです。
反対に、別居期間が長くなっていても、相手がきちんと遅れずに生活費の送金を続けており、年に数回は必ず自宅に戻って子どもと交流しているというケースでは、離婚は認められにくいです。
4、単身赴任の夫(妻)と離婚する方法
単身赴任中の夫や妻と離婚するとき、具体的にはどのような段取りで話を進めていけば良いのでしょうか?
以下で、離婚の手順をご紹介します。
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(1)協議離婚
まずは、相手との協議によって離婚する「協議離婚」を目指しましょう。協議離婚は、夫婦の双方が離婚することに同意するだけで成立します。
法定の離婚理由が不要なので、それまで夫婦関係が円満であった場合にも、離婚ができます。不倫をしていたなどの特殊な事情がない限り、お互い、慰謝料を支払う必要もありません。
ただ、協議離婚するときには、子どもの親権や養育費、財産分与などの取り決めをする必要があります。子どもの親権については決めなければ協議離婚できませんし、その他の事項についても、後のトラブルを防止するために、必ず取り決めておくべきです。
離婚することに合意ができて、離婚条件の取り決めもできたら、「離婚協議書」を作成して、書面化しておきましょう。相手から支払いを受ける立場であれば、離婚協議書を「公正証書」にしておくことをおすすめします。そうすれば、相手が支払いを怠ったときに、すぐに相手の資産や給料を差し押さえることができるからです。 -
(2)離婚調停
話し合いによっては相手が離婚に応じない場合や、財産分与などの離婚条件で合意できない場合には、家庭裁判所で離婚調停をする必要があります。
離婚調停の申立先は、基本的に相手の住所地を管轄する家庭裁判所なので、相手が遠方にいる場合には、不便になる可能性があります。調停が始まると、だいたい月1回くらいの頻度で調停期日が開かれますが、その際には、当事者が裁判所に出頭しなければなりません。
1回の調停は、午前または午後の1~2時間程度ですが、毎回往復の交通費がかかりますし、1日で往復できない距離なら宿泊費用も発生します。
ただ、今は、家事調停に「電話会議」や「テレビ会議」が導入されており、遠方の当事者が関与するケースでは、電話やビデオを利用して、出頭しなくても手続が進められるようになっています。
テレビ会議の利用が認められるためには裁判所による許可が必要なので、どのようなケースでも利用できるわけではありませんが、認めてもらえると費用的にも労力的にも非常に楽になります。離婚調停申立の際に、テレビ会議を適用してもらえるよう上申書を提出すると良いでしょう。 -
(3)離婚裁判
調停は話し合いの手続きなので、調停でも離婚や離婚条件に合意ができなければ、不成立となり、離婚することができません。
その場合には、離婚裁判(離婚訴訟)によって、離婚手続を進めるしかありません。離婚訴訟で離婚を認めてもらうためには、先に説明した5種類の法定離婚理由のうち最低1つが必要です。
訴訟では不貞や悪意の遺棄などを証明する証拠も必要となりますし、法律的に主張を整理して、適切に訴訟をすすめていかなければなりません。
法律的な知識のない方がお一人で離婚訴訟を進めると、不利になることが多く、また敗訴となると取り返しがつかない結果を招きかねないので、訴訟をするならできる限り弁護士に依頼しましょう。
5、まとめ
この記事では、単身赴任によって離婚できるケースとその方法について、解説しました。
単身赴任をすると、夫婦が一緒に過ごせない状態になるので、お互いに心が離れて離婚に至りやすくなります。しかし、単身赴任だけでは離婚理由にならないので、離婚を進めるためには慎重な対応が必要です。
弁護士によるサポートも可能となりますので、単身赴任をきっかけに離婚されたい方は、一度、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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