子なし夫婦が離婚するときの流れと、離婚を切り出す前に考えること
子なし夫婦が離婚するにあたって、子どもの親権や養育費の金額、離婚後の面会交流など、子どもに関する条件等を決める必要がないことから、子どもがいる夫婦に比べて、一般的に離婚へのハードルが低いといえます。
しかし、子なし夫婦だからといって、必ずスムーズに離婚が進むというわけではなく、離婚をする際に注意すべきポイントがないということもありません。
本コラムでは、子なし夫婦が離婚をするときの流れや離婚前後で確認しておくべきことについて、ベリーベスト法律事務所 離婚・男女問題専門チームの弁護士が解説します。
1、子なし夫婦が離婚するときのタイミングや相手への切り出し方
子なし夫婦が離婚をするタイミングとしては、いつが最適なのでしょうか。
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(1)子なし夫婦をとりまく実情
「DINKs(ディンクス)」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
DINKsとは、「Double Income No Kids」の略語であり、子どもを持たないことを自分たちの意志で選択した共働き夫婦のことを意味します。子どもが欲しくても、何らかの事情により子どもができない夫婦は含みません。
国立社会保障・人口問題研究所が公表する「日本の世帯数の将来推計(全国推計) 2018(平成30)年推計」によると、子どものいない夫婦の割合は、1980年には12.5%だったものが2015年には20.2%まで増加し、2040年には21.1%になるものと推計されています。
このように、家族の形として、子なし夫婦を選択する家庭が年々増えているのです。 -
(2)子なし夫婦が離婚を考えるに至るケース
子なし夫婦が離婚を考えるに至る原因はさまざまなものがありますが、その代表的なケースとして考えられることは、以下のような内容が挙げられます。
- 子どもに関する意見の相違
- 性格や価値観の不一致
- 共働きによる生活のすれ違い
- 不貞行為やDV
子なし夫婦は共働きであることが多いため、仕事の忙しさから一緒の時間を持つことができず、生活にすれ違いが生じやすくなります。また、どちらか一方が子どもを望んでいるにもかかわらず、他方がそれを拒んでいる場合も離婚を考えるきっかけのひとつです。
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(3)子なし夫婦が離婚するタイミングはいつがよいのか
子なし夫婦は、離婚するのに子どもの都合を考えなくてもよいため、お互いにベストだと考えるタイミングで離婚をすることができます。共働きの夫婦だと、経済的にお互い独立しているという事情から別居に踏み切りやすいという側面もあり、自由なタイミングで離婚を決断することが可能です。
ただし、離婚を切り出す際には、事前にしっかりと準備をする必要があります。また、離婚の切り出し方や話し方にも注意しなければなりません。
特に別居については、「離婚前からパートナーと別居するのかしないのか、する場合はどちらが出ていくのか、婚姻費用の支払いをどうするのか」などを自分の中で考えておくようにしましょう。
なぜなら、離婚を切り出した後にいきなり別居となったり、いきなり相手が家から出ていった後に帰ってこなくなったりするといったトラブルも生じ得るからです。
また、離婚の話し合いはどうしても感情的になりがちです。話し合いをするときは、相手と冷静に話すように努めましょう。子なし夫婦でも決めなければならないことがいくつかあるため、一度の話し合いですべて決めようとせず、時間をかけて話し合いを進めていこうという気持ちが大切です。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
2、離婚の手続きをするときに必要な書類と実際の流れ
子なし夫婦と子あり夫婦とで、離婚の流れが大きく変わるわけではありません。しかし、話し合う内容などに違いがありますので、子なし夫婦が離婚するときの流れを理解しておくと、戸惑うことが減るでしょう。
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(1)協議離婚
夫婦が離婚するとき、まずは話し合いを行うことになります。話し合いでは、離婚をするかどうか、離婚をする場合にはどのような条件で離婚をするのか、といったことを決めていくことが必要です。
子なし夫婦の場合には、子どもの親権や養育費、面会交流の取り決めが不要であるため、主に、財産分与や慰謝料、年金分割といった条件を決めていくことになります。
話し合いで双方が離婚の合意に至ったら、離婚届に記入・押印をし、市区町村役場に離婚届を提出することで離婚成立です。
離婚条件を定めた場合には、離婚協議書の作成も忘れずに行いましょう。
作成した離婚協議書は、公正証書の形式にしておくことをおすすめします。そうすることによって、万が一、相手が金銭の支払いを怠ったとしても、裁判手続きを行うことなく、直ちに強制執行の申し立てをすることが可能になるからです。 -
(2)調停離婚
当事者同士の話し合いだと離婚の合意が成立しないという場合には、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。離婚調停の申し立てには、以下の書類が必要です。
- 申立書
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- (年金分割の申立てをする場合)年金分割のための情報通知書
離婚調停も話し合いの手続きになりますので、調停が成立するためには、夫婦双方が離婚に合意をする必要があります。
協議離婚との違いとして、離婚調停は当事者が直接顔を合わせて話し合いをするのではなく、家庭裁判所の調停委員が間に入って、助言や解決策の提案をしてくれるという点があります。そのため、当事者だけで話し合いをするよりもスムーズな解決が期待できる離婚手続きといえるでしょう。
調停が成立した場合には、その内容が調停調書にまとめられます。その書類を離婚届とともに市区町村役場に提出することで、離婚が成立します。 -
(3)離婚裁判
離婚調停でも離婚の合意が成立しなければ、最終的には、家庭裁判所に離婚訴訟を提起して、裁判所に離婚を判断してもらうことになります。
ただし、協議離婚および離婚調停とは異なり、離婚裁判では、民法が定める以下のような法定離婚事由がなければ離婚することができません。- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 配偶者が強度の精神障害をきたし、回復見込みがないこと
- 婚姻を継続しがたい重大な事由
また、主張がある場合には準備書面と呼ばれるものに主張内容をまとめて提出しなければならず、有利な事実認定をしてもらうためには、それを裏付ける証拠の提出も必要になります。
裁判手続きは非常に複雑かつ専門的な手続きであり、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。
3、相手に離婚原因がある場合は慰謝料請求が可能なケースもある
相手に離婚原因があるときには、離婚時に慰謝料を請求することができる可能性があります。
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(1)離婚時に慰謝料請求ができるケースとは
離婚をすれば相手に慰謝料を支払ってもらえると考える方も多いかもしれませんが、常に慰謝料を請求することができるわけではありません。慰謝料を請求するためには、相手が離婚に至る原因を作ったといえる事情が存在する必要があるからです。
一般的によくある離婚理由の「性格の不一致」や「価値観の相違」などでは、どちらか一方が明確に悪いというわけではないため、慰謝料を請求することはできません。
離婚時に慰謝料を請求することができる代表的なケースとしては、以下のものが挙げられます。- 浮気、不倫(不貞行為)
- 暴力行為
また、離婚訴訟の中で慰謝料を請求するときは、相手が有責であると基礎付ける理由を証拠によって立証していかなければなりません。
たとえば、相手の不貞行為を理由に慰謝料請求をする場合には、不倫相手とホテルに入っていくところの写真や不倫相手との連絡のやりとりなどが証拠となります。また、相手からの暴力があったようなケースの証拠は、怪我の写真や診断書などが挙げられます。
慰謝料請求をするときは、これらの証拠をしっかりと集めてから行うようにしましょう。 -
(2)慰謝料請求をする場合の流れ
慰謝料請求を行う流れとして、まずは離婚の話し合いの際に、「慰謝料として○○万円を請求します」と相手に伝えることから始めます。慰謝料の支払いを争ってきた場合には、離婚調停や離婚裁判に発展することが多いです。
相手と直接やりとりをしたくないときには、弁護士が窓口になって対応することができますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
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4、離婚前に確認するべきことや離婚後に必要な手続きの例
スムーズに離婚を進めるため、離婚の前後に必要な確認・手続きについて紹介します。
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(1)離婚前に確認するべきこと
離婚前には、自分の中で以下の7つのことを考えておくようにしましょう。
① 婚姻費用
別居をした場合には、離婚に至るまでの間、「婚姻費用」という生活費を請求することができます。離婚の話し合いが揉めてしまうと、離婚成立まである程度の期間がかかることになるため、忘れずに請求するようにしましょう。
② 共有財産の確認
離婚時には、財産分与によって夫婦の共有財産を清算することができます。財産分与をする際には、お互いの財産を洗い出す必要がありますが、相手が正直に自分の財産を申告してくれるとは限りません。そのため、前もって相手の財産に関する資料を集めておくとよいでしょう。
③ 離婚後の居住先
離婚をすれば、夫婦は別々に生活することになります。今住んでいる場所にそのまま住み続けるのであればよいですが、自宅を出ていくという場合には、離婚後の居住先を探す・見当を付けておくなどのことを忘れずにしておきましょう。
④ 離婚後の姓
婚姻時に姓を変更した方は、原則、離婚をするときは旧姓に戻ることになります。婚姻中の姓をそのまま利用したい場合には、婚氏続称という手続きをとる必要がありますので、離婚時に慌てることのないように、あらかじめ離婚後の姓について考えておくとよいでしょう。
なお、離婚が成立してから3か月が経過すると、婚氏続称の手続きを行うことができず、旧姓のままになります。再び婚姻時の姓に戻したい場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可の申立」をしなければなりません。氏の変更の許可を得るのはハードルが高いため、必ず期限内に手続きをするようにしましょう。⑤ サブスクなどの契約関連の確認
契約名義の変更や引き落とし先口座の変更が必要になるものがあります。あらかじめ契約しているものをリストアップし、変更が必要な契約を把握するようにしましょう。特に各種サブスクの確認は漏れがちであるため、忘れずにリストアップするように留意してください。
⑥ ペットの引き取り
婚姻中に購入したペットは夫婦の共有財産になるため、財産分与の対象となります。お互いに愛情をかけて育ててきたペットは、子どもの親権と同じようにどちらが引き取るかで揉めることも少なくありません。ペットをどうするかについても、あらかじめ考えておくようにしましょう。
⑦ DVや不倫の証拠集め
配偶者のDVや不倫は、法定離婚事由に該当する事情かつ慰謝料を請求することができる事情になります。そのため、離婚の話を切り出す前にDVや不倫の証拠を集めておくことが大切です。
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(2)離婚後に行うべき手続き
配偶者との離婚成立後に行う手続きとしては、以下のようなものが挙げられます。
① 姓の変更
前述のとおり、離婚届の提出時に手続きをしなければ、原則として旧姓に戻ることになります。婚姻中の姓を引き続き利用したい場合には、離婚成立から3か月以内に「婚姻の際に称していた氏を証する届」を提出することが必要です。
② 住民票の異動
離婚によって居住先が変わることになった方は、住民票の異動手続きをしなければなりません。同一市区町村内であれば、転居先で転居届を提出すれば事足りますが、他の市区町村に引っ越しをする場合には、転居元で転出届を提出し、転居先で転入届を提出する必要があります。
③ 公的身分証明書の変更
離婚によって、住所・姓の変更があったときは、運転免許証やパスポート、マイナンバーカードといった公的身分証明書の記載事項の変更手続きを行いましょう。
④ 名義変更
財産分与によって不動産を譲り受けた場合は、不動産の名義変更が必要です。また、離婚によって姓が変わった場合には、銀行口座の名義変更も忘れずに行わなければなりません。
5、まとめ
子どもがいる夫婦に比べて、子なし夫婦は自分たちのタイミングで離婚をすることができ、子どもに関する取り決めも不要であるため、離婚に対するハードルは低いといえます。
しかし、「子なし夫婦の離婚ならトラブルが生じない」というわけではありません。納得のいく離婚をするために、弁護士に相談をしながら準備を進めていくことも選択肢のひとつです。
離婚に関する問題や慰謝料・財産分与に関するトラブルについては、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
離婚を決意されたお気持ちを尊重しながら、知見のある弁護士が誠心誠意、しっかりとサポートいたします。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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