未払いの養育費を強制執行で回収する流れと方法
養育費の支払いについて取り決めをしたのにも関わらず、元配偶者から養育費が支払われない場合は、強制執行を申し立てることで養育費が回収できる可能性があります。
特定の文言が記載された公正証書や調停調書がある場合には、すぐに強制執行を申し立てることが可能です。
強制執行の手続きについてご不明点がある場合は、お早めに弁護士へご相談ください。今回は、養育費の強制執行の手続きや注意点などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、養育費の強制執行とは?
元配偶者から支払われなくなった養育費は、裁判所に強制執行を申し立てることで回収できる可能性があります。
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(1)強制的に養育費を回収する手続き
「強制執行」とは、債務者が債務の履行を拒否している場合に行われる、権利を強制的に実現するための法的手続きのことです。
養育費についても強制執行が認められおり、義務者の財産を差し押さえたうえで換価・処分し、未払いになっている養育費の支払いに充当されます。 -
(2)直接強制と間接強制
養育費を回収する強制執行の方法は、「直接強制」と「間接強制」の2種類が認められています。
① 直接強制
債務者の財産を差し押さえて換価・処分し、強制的に債務の履行へ充当する手続きです。
② 間接強制
債務者が期限までに債務を履行しない場合に、精神的な圧迫をするために間接強制金の支払いを義務付ける手続きです。間接強制金が支払われない場合、債務本体と併せて直接強制を申し立てる必要があります。
本記事ではこれ以降、原則的な形態である直接強制の手続きについて解説します。
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(3)強制執行を申し立てるための要件
強制執行手続きを申し立てるためには、執行文の付与された債務名義の正本を裁判所に提出しなければなりません(民事執行法第25条)。
債務名義とは、強制執行の申し立てに必要な公文書です。具体的な種類はのちほど紹介しますが、判決書や強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)などが債務名義に該当します。
執行文とは、債務名義に執行力があることを公的に証明する文書です。執行証書以外の債務名義については裁判所書記官が、執行証書については公証人が執行文を付与します(同法第26条)。
養育費の強制執行を申し立てる際には、あらかじめ執行文の付与された債務名義の正本を準備しましょう。 -
(4)養育費請求権の消滅時効に注意
養育費請求権の消滅時効は、調停や裁判など裁判所で確定した養育費については、確定日から10年です(民法第169条第1項)。
上記以外の場合、養育費請求権の消滅時効期間は、権利を行使できることを知った時から5年となります。
消滅時効が完成すると、時効が完成した養育費については支払ってもらえなくなってしまいますので、養育費の請求には早めに着手してください。
2、養育費の強制執行を申し立てる手続きの流れ
養育費の強制執行の手続きの流れは、差し押さえる財産の種類によって異なります。
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(1)裁判所に強制執行を申し立てる
強制執行の申し立ては、差し押さえる財産の種類にかかわらず、相手の住所を管轄する裁判所に対して行います。
養育費の強制執行を申し立てる際の主な必要書類は、以下のとおりです。- 申立書
- 債務名義正本の送達証明書
- 執行文
- 債務名義の正本(謄本)の送達証明書
- 住民票(債務名義記載の住所から転居した場合のみ)
- 戸籍謄本(債務名義記載の氏名と現在の氏名が異なる場合のみ)
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(2)不動産執行の手続きの流れ
不動産に対して強制執行をする場合、裁判所は強制競売の開始決定を行ったうえで、権利者のために不動産を差し押さえます(民事執行法第45条第1項)。強制競売の開始決定は義務者に送達されるほか(同条第2項)、当該不動産について差し押さえの嘱託登記が行われ、執行官による現況調査(同法第57条)、評価人による不動産評価(同法第58条)などが行われた後、強制競売が行われます。
落札者が確定し、代金が支払われたら、その代金が権利者に配当され(同法第92条第1項)、権利者への配当後に残額があれば、義務者に交付されます。 -
(3)動産執行の手続きの流れ
動産に対して強制執行をする場合、執行官がその動産を占有して差し押さえます(民事執行法第123条第1項)。
執行官は、入札方式によって動産を売却した後(同法第134条)、売却代金を権利者に対して配当します(同法第139条第1項)。権利者への配当後に残額があれば、義務者に交付されます。 -
(4)債権執行の手続きの流れ
預金債権や給与債権などの債権に対して強制執行をする場合、執行裁判所は差押命令を発令します(民事執行法第143条)。
差押命令は、義務者および第三債務者(当該債権の債務者)に対して送達され(同法第145条第3項)、差押命令の送達後、第三債務者は義務者に対する債務の支払いを禁止されます。
差押命令が送達された日から1週間を経過すると、権利者は当該債権を取り立てが可能となり(同法第155条第1項)、権利者は、養育費請求権の額の限度で、第三債務者から支払いを受けることが可能です。
3、公正証書がないと強制執行はできない?
離婚公正証書などの公正証書は債務名義になり得ますが、調停調書や審判書など他の債務名義を用いた強制執行の申立ても認められています。また、すべての公正証書が債務名義に該当するわけではなく、強制執行認諾文言の記載が必要である点にご注意ください。以下で詳しく説明します。
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(1)公正証書以外の債務名義があれば強制執行可能
債務名義として認められている公文書は、以下のとおりです(民事執行法第22条)。
- ① 確定判決
- ② 仮執行宣言付判決
- ③ 抗告によらなければ不服申し立てができない裁判
- ④ 仮執行宣言付損害賠償命令
- ⑤ 仮執行宣言付届出債権支払命令
- ⑥ 仮執行宣言付支払督促
- ⑦ 訴訟費用等の金額を定める裁判所書記官の処分
- ⑧ 執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)
- ⑨ 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
- ⑩ 確定した執行決定のある仲裁判断
- ⑪ 確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書・審判書など)
養育費については、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)のほか、確定判決・和解調書・調停調書・審判書などを強制執行の債務名義として用いることができます。
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(2)公正証書があっても、強制執行認諾文言がなければ強制執行できない
公正証書を強制執行の債務名義として用いるためには、「強制執行認諾文言」の記載が必須です。
強制執行認諾文言とは、公正証書内に記載された、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述です。(例)
「甲は、本書に基づく債務が不履行となった場合には、直ちに強制執行に服することを承諾する。」
強制執行認諾文言がない公正証書は、強制執行の債務名義として用いることはできないので、別の債務名義を改めて取得しなければなりません。
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(3)債務名義がない場合の対処法
債務名義が手元にない場合には、強制執行を申し立てる前に債務名義を取得する必要があります。
相手方の同意が得られるのであれば、公証役場で強制執行認諾文言付公正証書(執行証書)を作成するのがよいですが、そうでない場合は、家庭裁判所における調停・審判・訴訟などの法的手続きが必要となりますので、弁護士にご相談ください。
4、強制執行をする相手の住所がわからない場合は?
養育費の強制執行を申し立てる際には、相手の住所を把握していなければなりません。しかし、離婚後に引っ越しをしていた場合など、相手の現住所がわからないというケースもあるでしょう。
もし相手の住所がわからない場合には、戸籍の附票や住民票の除票を確認したり、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)を行ったりする方法があります。弁護士にご依頼いただければ、相手方の住所を特定するためのサポートができますので、お早めにご相談ください。
5、強制執行で差し押さえることができるもの・できないもの
養育費の強制執行では、義務者が所有する財産全般を差し押さえることが可能ですが、すべての財産を差し押さえられるというわけではなく、差し押さえが禁止とされている財産が一部存在することにご注意ください(民事執行法第131条、第152条)。
- ① 不動産…土地、建物
- ② 動産…車、美術品、骨董(こっとう)品、貴金属など
- ③ 債権…預貯金債権、勤務先に対する給与債権、売掛金債権、契約に基づく債権など
① 差押禁止動産
- 生活に必要な衣服、寝具、台所用具、建具
- 1か月間の生活に必要な食料、燃料
- 66万円以下の現金
- 業務、学業上必要な道具、器具
- 実印その他の印で、職業または生活に欠くことができないもの
- 仏像、位牌(いはい)など、礼拝または祭祀(さいし)に必要な物
- 系譜、日記、商業帳簿など
- 勲章など
- 法令で設備が必要な防災用の機械または器具や避難用具、その他備品
- 未公表の発明、著作
- 義手、義足などの補助器具
② 差押禁止債権
- 公的年金の受給権
- 給与債権の4分の3※(毎月の手取り額が44万円を超える場合には、33万円以下の部分のみ)
※養育費の強制執行では2分の1 - 退職金債権の4分の3※
※養育費の強制執行では2分の1
6、未払い養育費の請求は弁護士にご相談を
強制執行を申し立てて、未払い養育費を回収したい場合や、スムーズに解決を目指したい場合には弁護士への相談をおすすめします。
また、ベリーベスト法律事務所では、未払い養育費の請求に特化したサービスをご提供しております。
参考:「養育費の回収についてお悩みの方へ」(ベリーベスト法律事務所)
養育費はお子さまの未来をつくるお金でもあり、養育費の支払いは義務ですが、毎月きちんと支払ってもらえているひとり親は、4人に1人程度しかいないのが実情です。お子さまやご自身のためにも、弁護士のサポートを受け、強制執行による未払いの養育費の請求をご検討ください。
7、まとめ
取り決めた養育費が未払いとなっている場合は、強制執行により回収を目指しましょう。
強制執行の申し立てには、専門的な知識や対応が求められるため、弁護士へのご相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所では、養育費の未払いでお悩みの方をサポートするため、弁護士が中心となって誠心誠意尽力いたします。
未払いになっている養育費を請求したいとお考えの場合は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
-
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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