男性不妊が原因で妻から離婚したいと言われたときに知っておくべきこと
近年、不妊治療を行う夫婦が増えています。しかし、テレビドラマでも話題になりましたが、不妊治療はとてもつらく大変なものです。ドラマのように協力して絆を深める夫婦がいる一方、不妊が原因で離婚を考える方も少なくありません。
もしも不妊の原因が夫側にあり、妻から男性不妊を理由に離婚を希望された場合、夫は離婚に応じなければならないのでしょうか?
今回は、ベリーベスト法律事務所の弁護士が、男性不妊を理由にした離婚に関する基本的な部分から、慰謝料を請求される可能性、離婚を回避する方法について解説します。
1、不妊の原因は夫婦半々!? 精子も老化するという研究結果
国立社会保障・人口問題研究所が公表する「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、『不妊の検査や治療を受けたことがある』という夫婦の割合が、令和3年においては22.7%(4.4組に1組)であることを発表しており、前回調査結果の18.2%から4.5%増加しています。
最近では、妊娠を目指して行動することを『妊活』と称する媒体も増えているようです。
不妊に関する研究が進み、現在では、不妊のおよそ半数が、男性に原因があると考えられています。「卵子の加齢による老化」は以前から指摘されていましたが、精子も老化することが認識されつつあります。
そして、男性不妊の80%以上が、精子を作る機能に異常がある「造精機能障害」だと言われています。他には勃起不全や射精障害なども原因となります。原因が判明するものばかりではありませんが、薬物療法や、手術を行うことで克服できたケースもあります。
2、不妊が原因で離婚する理由とは?
原因がどちらにあっても、夫婦の関係に亀裂が入ってしまうこともある不妊治療。ここでは、不妊が原因で離婚に至ってしまう理由を探ります。
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(1)不妊治療で発生する夫婦間の温度差
不妊治療は、体にかかる負担が男女で大きく異なります。それは、検査の段階から顕著になります。
問診や触診、視診などは男女共通ですが、男性の不妊検査は、精液検査と採血、精巣の超音波検査などにとどまります。精液検査は精子の状態を見るために行われ、採集した血液は、脳下垂体機能やホルモンの状態などをみる内分泌検査に使用されます。原因が判明し、実際に不妊治療に取り組んでいけば、男性も状況によっては痛みを伴う検査や治療が発生することもあるでしょう。
一方、女性は治療開始前、基本検査の時点で、採血だけではなく、膣内に器具や薬品を入れるなどの痛みを伴う検査をする必要があるのです。
夫婦がそろって医療機関へ足を運び、それぞれの状況に適した不妊治療に取り組んでいく必要があるのが、不妊治療です。しかしながら、中には、夫が自分には原因がないと思い込んで検査や治療を拒否した結果、妻だけが体に大きな負担がかかる効果の薄い不妊治療を行っていた……というケースも存在しています。
また、夫婦間では夫側に不妊原因があることがわかっていても、親族などから妻が不妊を責められているとき、夫は何も言わない、妻を矢面に立たせたまま放置していた……というケースもあるようです。 -
(2)不妊治療に伴う経済的な負担
数年間にわたって不妊治療を続けた場合、治療費が膨らみ、最終的に1000万円程度かかってしまうことも少なくありません。さらに、治療によって体調不良が生じたり、病院へ通院するためのスケジュール調整が難しくなったりして、仕事と両立することができずに離職するケースも数多くあります。金銭的な余裕が失われるのに伴い、心の余裕が失われてしまうことも、離婚の原因といえるでしょう。
なお、お住まいの自治体から「特定不妊治療への助成」とした援助を受けられるようになりました。この助成制度は「治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦」を対象としています。さらに、43歳未満であっても年齢によって、受けられる生殖補助医療の概要や給付額も異なるので、詳しい給付内容については自治体のホームページなどで確認してみてください。
3、男性不妊を理由に離婚は認められる?
子どものいない夫婦が珍しくなくなった今でも、不妊を理由に離婚を考える方は少なくありません。夫婦が互いに納得していれば、何が原因であろうと離婚することができます。一方、あなたが離婚したくないと考えていても、妻から不妊を理由に離婚を迫られたら、離婚に応じなければならないのでしょうか?
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(1)不妊だけを理由として離婚に応じる必要はない
一方のみが望んでいる離婚を認められる(望まない離婚を強制される)のは、民法770条第1項に定められた、以下の「法定離婚事由」に該当すると認められた場合のみです。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
「不妊」は法定離婚事由として挙げられておらず、また、不妊だけでは「婚姻を継続しがたい重大な事由」にも該当しないと考えられますから、不妊を理由に直ちに離婚が認められるわけではありません。
もっとも、不妊が原因で長期間の別居状態になってしまった、不妊治療がつらくて不倫をしてしまった……のように、不妊を発端として法定離婚事由にあたる事情が発生した場合には、不妊が原因でない場合と同様、法定離婚事由に該当するとして離婚に応じなければならなくなる可能性があります。 -
(2)性生活の不満(セックスレス)
調停や裁判などの場においては、夫婦間における性交渉の問題は重要視されています。離婚調停を申し込む際に必要な書類に、離婚したい理由を答える欄がありますが、ここにもあらかじめ「性的不調和」という選択肢が設けられているほどです。
もし、あなたが不妊を原因として性交渉を拒み続けていたのであれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。 -
(3)不妊が原因のDVやモラルハラスメント
不妊治療中は、身体的にも金銭的にも大きな負担がかかることから、互いにストレスがたまります。もし、不妊が引き金となって妻に対してDVやモラハラをしてしまっていたら「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断され、離婚しなければならなくなる可能性があります。
一方、もしも妻から、男性不妊を責められ続けられたり、人としての価値を貶められるような言葉を日常的に投げかけられたり、暴力を受けている場合も「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると主張して、あなたから離婚を申し出ることが可能です。
4、男性不妊が原因で離婚した場合の慰謝料請求
たとえあなたに不妊の原因があろうと、そのことだけを理由に妻から慰謝料を請求されることはないでしょう。
しかし、不妊とは別に、何らかの法定離婚事由に当てはまる行動をしていれば、慰謝料を請求される可能性が高まります。たとえば、不妊を理由としたセックスレスや、不倫、DVやモラハラをしてしまっていたときは、慰謝料を請求される可能性があります。
一方、以下の状態に当てはまるときは、妻に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
- 妻が不倫をした
- 妻が勝手に別居をしてしまい、長期間経っている
- 不妊原因が判明してから、妻が性交渉を拒む
- 妻が不妊原因のあるあなたを貶める発言を続ける
- 妻があなたに暴力をふるう
5、男性不妊が原因で離婚する場合の流れや手順
離婚には、話し合いで合意に至る「協議離婚」、調停を通じて結論を出す「調停離婚」、裁判所の審判を仰ぐ「審判離婚」、裁判で争い結果を出してもらう「裁判離婚」の4種類のパターンがあります。
もし妻があなたの男性不妊を理由に離婚を希望して、あなたも合意する場合、どのようなプロセスをたどることになるのか、あらかじめ知っておきましょう。
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(1)話し合いで協議離婚を目指す
離婚するには原則としては相手の配偶者の同意が必要ですので、まずはどの夫婦も話し合いをして協議離婚を目指すことになるでしょう。
離婚とは、突き詰めれば「籍を抜いて他人になる」ための手続きです。しかし、婚姻期間が長ければ長いほど共有財産も増えますし、離婚する前に決めておかなければならないことが多くなっていきます。離婚後に問題が発生しないよう、離婚する前に、十分に話し合っておくことをおすすめします。弁護士に法律的な問題に関して相談してアドバイスをもらっておくのもよいでしょう。 -
(2)話し合いで結論を出せない場合
夫婦で協議しても結論が出ない、もしくは、協議できない状況のときは、家庭裁判所で調停を行うことになります。調停では、調停委員を介して互いの要望を伝え、それぞれの状況を第三者が加味して合意への道を探ってゆきます。
調停で互いに合意に至れば、調停を通じて決めたことを記載した調停調書が作成され、「調停離婚」が成立します。
この調停で話し合いがまとまらないときは、調停の話し合いに基づいて家庭裁判所が審判を下す「審判離婚」となるか、裁判において離婚を認めてもらう「裁判離婚」を目指すことになります。
審判離婚は、限定的な場合のみ認められるものである上、異議を申し立てることができるので、実際にはほとんど利用されていません。
そうなると、協議・調停がまとまらない場合は「裁判離婚」を目指すことになりますが、手続きや準備などに専門的な知識が必要不可欠です。離婚についての話し合いがまとまらず裁判になりそうなときは、弁護士に依頼することを強くおすすめします。
6、男性不妊が原因で離婚したくない場合、離婚を回避する方法
あなた自身に「法定離婚事由」を生じさせた責任がある場合は、離婚を避けられないこともあるでしょう。そうでない場合は、冷静に「なぜ離婚したくないのか」をよく考え、自身の考えを配偶者に伝え、しっかり話し合いましょう。
また、法的な面でも、「離婚届の不受理申出書」を提出するなど勝手に離婚されないためにとっておくことのできる手段もあります。具体的にどうすれば離婚を回避できるのかについては、こちらの「離婚したくない!今すぐすべき&絶対してはいけない5箇条」を参考にしてみてください。
7、夫婦間で冷静な話し合いができない場合は専門家へ相談を
離婚を決めたとしても、夫婦関係の修復を目指すとしても、話し合いは避けて通れません。しかし、状況によっては、冷静な話し合いができないケースもあるでしょう。その場合は、第三者の手を借りることになります。
- カウンセラーの力を借りる カウンセラーは、精神的な問題や心理的な負担に対して相談に乗り、解決までの手助けをしてくれる専門家です。不妊治療はどうしても心にも負担がかかるものです。夫婦だけで心の負担を解消できないときは、一緒にカウンセリングを受けるというのもひとつの手です。
- 夫婦関係調整調停 裁判所が開催している調停の一種です。基本的には、どうしたら夫婦関係を修復できるかに主眼を置いた協議を行います。離婚調停同様、調停委員を介した話し合いとなるため、面と向かって話し合いを行うものではありません。話し合いの内容によっては、そのまま離婚調停へ舵を切りなおすこともできます。
- 弁護士に相談 カウンセラーへの相談や夫婦関係調整調停は、夫婦関係を良好に維持する意味では有効ですが、「もし離婚へと話が進んでしまった場合にどのような不利益があるか」のような法的な不安を解消してもらえるわけではありません。
離婚を決意していて、離婚に伴う財産分与などで争われている場合や、慰謝料が伴う話し合いになっているときは、自分に不利な内容で話が進んでしまう前に弁護士に相談しておくことは非常に重要です。
まだ配偶者との対立が激しくない段階でも、その後の展開によっては、弁護士が必要となることも十分考えられます。自分自身の対応に不安があったり、法的な面のアドバイスが必要となりそうなときは、あらかじめ相談しておくといいでしょう。
また、DVやモラハラなどを受けていて相手と顔を合わせたくないときなども、弁護士を代理人として介入させることで、直接の顔を合わせるのを避けることができます。
今回は、男性不妊をテーマに解説しました。自分が不妊の原因だったことにショックを受けているところに、離婚を希望してくるなど、ひどい仕打ちだと感じる方もいるでしょう。しかし、子どものことを含めた家族設計については、夫婦でじっくり話し合うことしか解決する道はありません。
もし離婚を受け入れる場合でも、離婚にあたっては様々な法的事項について話し合っていかなければなりません。配偶者との話し合いでは、前提知識がないままでは自分に不利な形で話が進んでしまう危険があります。離婚の可能性が現実的になってしまった段階で、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
離婚をするとなれば、状況によっては決めなければならないことが数多くあります。弁護士は、あなたにとってベストな状態で離婚できるよう、法律的な面からバックアップしてくれる力強い味方となってくれるはずです。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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