DVを理由に離婚するときの慰謝料相場と請求方法とは? 弁護士が解説
配偶者からの身体的暴力や精神的暴力(モラハラ)といったDVに悩み、離婚を決意する方は少なくありません。
離婚に踏み切る際には、これまで受けた精神的・身体的な被害に対して「慰謝料を請求したい」と考えるのも当然のことです。しかし、DVの慰謝料相場がどのくらいなのか、そもそも請求できるのか、証拠はどのように集めればよいのかなど、不安や疑問を抱える方も多いことでしょう。
本コラムでは、DVを理由に離婚するときの慰謝料について、相場や請求可否、証拠の集め方、慰謝料請求の流れなど、ベリーベスト法律事務所 離婚専門チームの弁護士が解説します。
目次を
1、DVによる離婚での慰謝料相場と金額を左右する要素
DVを理由に離婚する場合、相手に対して慰謝料を請求できるのか、また相場はいくらになるのかといった疑問をお持ちの方もいるでしょう。
1章では、DVによる離婚での慰謝料請求の可否と相場、慰謝料を左右する要素について説明します。
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(1)身体的暴力・精神的暴力などのDVは慰謝料請求できる?
配偶者から受けた殴る蹴るなどの身体的暴力はもちろん、精神的圧力や人格否定、無視や支配的言動などの精神的暴力(=モラハラ)も、慰謝料請求の対象となり得ます。
法律上、慰謝料とは、不法行為によって生じた精神的苦痛に対する損害賠償のことです。暴力行為だけに限らず、繰り返される精神的虐待も違法と評価されます。
実際の裁判でも、「日常的に罵倒され続けた」「無視や監視によって精神的に追い詰められた」といった精神的暴力の被害者に対し、慰謝料の支払いを命じた判決が出されています。 -
(2)DV慰謝料の相場は? 身体的暴力・精神的暴力で異なる金額
DV慰謝料の相場は、身体的暴力と精神的暴力とでは異なる点にご留意ください。
具体的には、身体的暴力の場合でおおむね50〜150万円、精神的暴力の場合で50〜100万円程度が相場といわれています。
ただし、DVの態様や被害の程度によっては、200万円を超える高額の慰謝料が認定されるケースもあります。たとえば、重度のケガや後遺症、うつ病などを発症して長期治療が必要になったような場合は、慰謝料も高額になりやすいといえます。 -
(3)慰謝料が増減する主な要素
慰謝料の金額は、以下のような要素を考慮して左右されます。
- DVの内容や回数、継続性(1回限りか長期間か)
- 結婚期間の長短(婚姻期間が長くなればなるほど慰謝料が高額になる)
- 心身に生じた被害の程度(うつ病やPTSDなど)
- 子どもへの影響(目撃や被害がある場合は加算される)
- 離婚原因としての重大性(DVが主たる原因であるか)
- DV加害者の収入や資産など経済的状況(支払能力との関係)
また、医療機関での通院を余儀なくされたり、仕事を辞めざるを得なくなったりなどの事情があると、慰謝料の増額要因となることもあります。
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(4)【注意】身の危険を感じるときは避難を優先しましょう
慰謝料請求の手続きを進める前に、DVによる身の危険を感じるような状況であれば、まずは避難を最優先にしてください。特に、身体的暴力が日常的に行われている場合、自分だけで対処しようとするのは非常に危険です。
一時保護施設や婦人相談所への相談、警察署や行政機関の窓口を活用して、安全な場所への避難を優先しましょう。
なお、DV加害者からの離れるためのサポートを行っている弁護士もいます。避難後でも、慰謝料請求や離婚手続きまで進める場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
お悩みの方はご相談ください
2、離婚と慰謝料請求にはDVの証拠が必要? 証拠になり得るものとは?
DVによる離婚や慰謝料請求をするには、DVの証拠が重要です。2章では、DVの証拠になり得るものや証拠収集の方法について説明します。
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(1)DVによる慰謝料請求には証拠が不可欠
DVによる慰謝料を請求するには、DVをされたことを証拠により立証していかなければなりません。特に、精神的暴力は目に見えにくいため、モラハラの証拠がない場合は慰謝料請求が認められにくい傾向があります。
配偶者がDVを否定している場合、証拠があるかないかで結論が大きく変わると言えます。慰謝料請求の前に、十分な証拠を集めておくことがおすすめです。ただし、身の危険がある場合には、避難を優先しましょう。 -
(2)DVの慰謝料請求で必要になる主な証拠と収集方法
DVを立証する証拠としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 暴言や脅迫が書かれているLINEやメールの履歴(削除される前にスクリーンショットを取り、日付が確認できるよう保存する)
- 録音データ(モラハラ発言などは、スマートフォンの録音アプリやICレコーダーで記録する)
- 暴力による傷跡などの写真や動画(撮影日時や場所が特定できるようにメモと一緒に撮る)
- 被害状況をつづった日記(紙の手帳やスマートフォンのアプリに時系列で記録する。客観性を高めるため、日時と内容の具体性が重要となる)
- 病院の診断書(うつ病やPTSDなどの診断名があると証拠価値が高まる)
- 第三者(友人・親族・医師・支援団体など)の証言や相談記録
なお、証拠は複数を組み合わせることで、証拠としての価値を高めることもあります。
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(3)証拠が不十分でも、離婚できる可能性はゼロじゃない!
DVの証拠がない、または不十分であったとしても、離婚できる可能性があります。証拠がないからといって離婚を諦めるのではなく、まずは弁護士に相談しましょう。
特に、モラハラ加害者は離婚調停の場でもモラハラ言動を見せることが多く、調停委員や裁判官もあなたの主張に理解を示し、相手を説得してくれる可能性があります。
3、離婚と慰謝料請求の流れ、弁護士に相談するメリット
3章では、DVが原因で離婚する場合と離婚しない場合に分けて、慰謝料請求の流れや弁護士に相談するメリットについて説明します。
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(1)離婚および慰謝料請求の基本的な流れ
DVを理由とした慰謝料請求は、離婚とセットで進めていくのが一般的です。
しかし、子どもが幼い、経済的な余裕がないなどの理由から離婚を決断できない方もいるかもしれません。そのような場合は、婚姻関係を継続しながら慰謝料請求だけを行うということも可能です。① 離婚する+慰謝料請求の流れ
離婚をする場合、DVの慰謝料請求は離婚手続きの中で行うことになります。
- 相手と別居して身の安全を確保する
身体的・精神的な被害から逃れ、落ち着いた環境を確保することが最優先です。シェルターや行政の一時保護制度を活用しましょう。 - 相手との話し合い(協議離婚)
身の安全を確保したら、相手との話し合いによる離婚および慰謝料の合意を目指します。その際は、相手との直接交渉は避け、弁護士を通じたやり取りが望ましいです。 - 離婚調停の申し立て
協議が調わない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。ここで慰謝料の金額や支払方法についても協議されます。 - 離婚訴訟の提起
調停が不成立となった場合、裁判に移行します。裁判では、証拠に基づきDVの有無が判断され、慰謝料の金額が決まることになるため、証拠を収集しておきましょう。
② 離婚しない+慰謝料請求の流れ
DV加害者に対して慰謝料請求をすると、相手の感情を逆なでしてDVがエスカレートするリスクがあります。離婚しないにしても、相手との同居を解消してから慰謝料を請求するようにしましょう。
- 相手と別居をして身の安全を確保する
DV加害者と同居したまま慰謝料請求をするのは、現実的ではありません。まずは、DV加害者と物理的に距離を取り、暴力や精神的圧力から逃れることが第一です。
離婚をしない場合でも、相手との別居は必須といえるでしょう。 - 慰謝料と別居中の生活費(婚姻費用)を請求する
別居中でも法律上の婚姻関係が続いている場合、生活費(婚姻費用)を請求することが可能です。慰謝料とあわせて請求することで、経済的な自立を図ることができます。 - 婚姻費用の支払いに応じないなら家庭裁判所に婚姻費用分担調停の申し立て
別居に際して相手が生活費を支払わない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てましょう。相手が婚姻費用の支払いを認めなかったとしても、最終的には審判によって適正な額の支払いが命じられます。 - 相手が慰謝料の支払いに応じないなら裁判所に訴訟を提起
慰謝料の請求に応じてもらえない場合は、証拠をそろえて損害賠償請求訴訟を提起します。訴訟手続きは専門的な知識が必要になるため、弁護士のサポートを受けて進めていきましょう。
- 相手と別居して身の安全を確保する
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(2)DVを理由とする離婚・慰謝料請求の注意点
DVを理由に離婚および慰謝料請求をする際には、いくつかの注意点があります。下記を確認し、手続きを進めていくようにしましょう。
① 身の安全を確保してから手続きを進める
DV加害者と同居したまま離婚や慰謝料の話し合いを始めると、相手が逆上し、さらに激しいDVを受けるおそれがあります。そのため、DV事案については、まずは身の安全を確保することが最優先です。
各自治体が設置している配偶者暴力相談支援センターや24時間態勢のDV相談ナビに連絡し、シェルターや一時保護施設の利用を検討しましょう。
また、差し迫った危険があるときは、警察に相談することも有効な手段です。
避難後は、安心できる環境で心身を休めたうえで、弁護士と連携し、慰謝料請求や離婚手続きに進んでいくことが望まれます。
② 慰謝料請求には時効がある
DVを理由とする慰謝料請求には時効があるため、時効期間内に請求していかなければなりません。
離婚と慰謝料請求を同時に行う場合には、離婚成立から3年が時効になります。離婚後に慰謝料請求する場合でも、同様に3年が時効となっていることに注意しましょう。
また、離婚をせずにDVの慰謝料請求をすることも可能ですが、その場合、婚姻期間中は時効は完成しません(時効によって請求ができなくなることはありません)。離婚後6カ月で時効が完成し、相手方が時効を主張すれば、請求が認められなくなります(民法159条)。 -
(3)DVによる離婚・慰謝料請求で弁護士を入れるメリット
DVによる離婚や慰謝料請求を検討する際、弁護士に依頼することで得られるメリットは多岐にわたります。
① 相手と交渉してもらえる
DVの加害者と直接やり取りすることは、心身ともに危険を伴います。弁護士が間に入ることで、相手との接触を避け、安全な状態で手続きを進めることができるようになるため、自分で対応するのではなく、弁護士に任せるようにしましょう。
② 適正な慰謝料を請求することができる
DVの慰謝料には一定の相場があるため、相場を把握せずに請求すると、不利な条件を押し付けられるリスクがあるでしょう。
弁護士は、DVの態様や期間、被害の程度などを踏まえて、妥当な金額を算定することができるため、現実的かつ納得のいく金額で請求できる可能性が高まります。
③ 証拠収集のアドバイスが受けられる
DVを理由に離婚および慰謝料請求をするには、DVを立証できる証拠が重要になります。弁護士は、どのような証拠が有効か、どのように集めればよいのかといったアドバイスをすることが可能です。
録音のタイミングや診断書の取得方法、日記の書き方などの助言を受けることで、離婚や慰謝料請求の手続きを適切に進めることができるでしょう。
心身の負担を軽減し、適切かつ安全に対応を進めるためには、弁護士の力を借りることが重要です。
以下の特設ページでは、DVの解決事例や弁護士相談のメリットなどを解説しています。ぜひご参考ください。
4、離婚やDV慰謝料の話を切り出す前に考えておくべきこと
DVを理由に離婚や慰謝料請求をお考えの方は、以下の点について考えておきましょう。
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(1)離婚や慰謝料請求の前に整理すべきポイント
離婚や慰謝料の話を切り出す前に、以下の点について事前に整理しておくことでスムーズに離婚の手続きを進められるようになります。
① 財産分与|預貯金・不動産・保険・退職金など
夫婦が婚姻期間中に築いた財産は共有財産にあたり、原則として2分の1の割合で分けることができます。財産分与にあっては、相手の財産を正確に把握する必要があるため、可能な範囲で調べておくとよいでしょう。
② 養育費|月額・支払期間・支払方法
夫婦に子どもがいる場合は、養育費についても決めておくことが必要です。
養育費の金額は家庭裁判所の算定表など利用することで相場を把握することができるため、事前に養育費の相場を把握しておきましょう。
なお、ベリーベスト法律事務所では、養育費を無料で簡単に計算できる「養育費計算ツール」を公開しています。ぜひご活用ください。
③ 親権|どちらが子どもを育てるか
夫婦に子どもがいる場合、どちらが子どもの親権者になるかも決めておかなければなりません。
親権は、子どもの生活環境や福祉を最優先に判断されます。そのため、配偶者によるDVを立証できれば、親権獲得にあたって有利に進めることができるでしょう。
なお、今後日本に導入される共同親権の詳細については、「【離婚後の共同親権とは】いつから始まる? メリット・デメリットを解説」のコラムをご一読ください。
④ 今後の生活設計|住居・収入
離婚後の住まいや経済状況も検討しておく必要があります。転居の必要性や就職・収入の見通し、生活保護や公的支援の利用可否も含め、弁護士や行政の窓口で相談することが望ましいです。 -
(2)DV加害者からの避難を優先したいなら「保護命令」を検討
DV被害を受けている方が安全な生活を送るには、DV加害者との物理的な距離を置くことが重要です。相手からの暴力や脅迫が差し迫っているときは、DV防止法に基づく保護命令を検討すべきでしょう。
家庭裁判所に保護命令の申し立てをすることで、以下のような保護命令が出されます。- 接近禁止命令:接触・つきまとい・待ち伏せなどを禁止する
- 子どもへの接近禁止命令:子どもへの接触を禁止する
- 親族への接近禁止命令:兄弟姉妹や両親などへの接触を禁止する
- 電話やメールの禁止命令:SNSや通信手段を含めた接触を禁止する
- 住居からの退去命令:住居からの退去を命じる
なお、保護命令に違反すれば、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が科されます。
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(3)弁護士は避難や保護命令の手続きをサポートできる
弁護士は、単に離婚や慰謝料請求の代理人としてだけでなく、DV加害者からの避難や保護命令の取得においても重要な役割を果たします。
- 保護命令の申立書類作成、裁判所への申し立て手続き
- 一時避難先(シェルター等)の確保に向けた行政との連携
- 警察や支援団体との連携による緊急対応
- 精神的負担への配慮を踏まえた手続きサポート
DV被害者がひとりでこれらを行うのは、非常に大きな負担が掛かります。
弁護士が支援に入ることで、安全と安心を両立しながら、避難と同時並行で離婚や慰謝料請求の準備を進めることができるようになるでしょう。
5、弁護士からのメッセージ
配偶者からの肉体的暴力や精神的暴力(=モラハラ)などのDV被害を受け、離婚と同時に慰謝料請求したいと考える方もいるでしょう。
しかし、話を切り出したときの反応を想像して怖くなったり、どういう風に手続きを進めてよいのか分からなかったりで、なかなか一歩が踏み出せずにいる方も少なくありません。そのようなときは、弁護士に相談することで安全かつ適切に対応する道が開けます。
十分な証拠がない、相手と連絡を取りたくないといった状況であっても、慰謝料請求を含む離婚全体の戦略を立てるために、早い段階で弁護士に相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所では、DVによる離婚や慰謝料請求、DV加害者からの避難・保護などのご相談を受け付けております。離婚専門チームの知見・経験豊富な弁護士がサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
なお、弁護士相談については、お近くの事務所での対面、もしくは電話やZoomを活用したオンラインで行うことが可能です。
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- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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