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離婚慰謝料に「税金」はかかる? 具体例をもとに弁護士が解説

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更新日:2022年09月05日  公開日:2016年12月26日
離婚慰謝料に「税金」はかかる? 具体例をもとに弁護士が解説

離婚するにあたって発生する慰謝料や財産分与は、金銭のみで受け渡しした場合には税金に関してさほど心配することはありません。
しかし金銭ではなく不動産や有価証券などで譲渡したケースにおいては、税金の基準が変わり、やや複雑になります。

今回は、離婚時に受け取った慰謝料にかかる税金について、ケースに応じて注意したいことをご紹介したいと思います。

1、離婚の慰謝料には基本的に税金はかからない

まとまった金銭を受け取ったとき、基本的には税金がかかるものです。
たとえば身内が亡くなったことにより財産を受け取ったときには相続税、個人から受け取った場合は贈与税、会社などの法人から受け取ったものであれば所得税などです。

しかし慰謝料はまた性質が異なります。
慰謝料とは、命・肉体・自由・名誉・貞操など、相手に不法な侵害を与え、離婚の原因を作った方が精神的損害を与えられた方へ、賠償として支払うものです。

基本的に、離婚の慰謝料として金銭が支払われるケースは、家庭内暴力(DV)や浮気など、精神的な損害に対する賠償、つまりは補填となります。「モノを破損した」などというような事項ではないため、補填と言われてもピンと来ないかもしれません。しかし、「故意に車を壊された」など、持ち物に損害を受けたケースと同様であると解釈されます。

つまり慰謝料は、「損失・損害を受けたという事実に対する補てん」という性質上、「新たな利益を得る」という税金がかかる行為とは異なります。よって、「『基本的に』税金がかかることはない」のです。
それは離婚で受け取った慰謝料についても同様に扱われます。これは、所得税法施行令 第三十条で定められています。

<所得税法施行令 第三十条>
第三十条  法第九条第一項第十七号 (非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号 の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。

ただし、あくまで「『基本的に』税金がかからない」という点に気を付けてください。
たとえば損害賠償金とは認められないほど、多額の金銭や不動産を受け取ったケースなど、状況によっては税金がかかってしまうこともありえます。
ぜひ最後までご確認いただき、税金がかからないように気を付けてください。

2、離婚の慰謝料代わりにもらった不動産に税金はかかる?

離婚の慰謝料として受け取るものは、金銭だけではありません。場合によっては不動産を受け取るケースもあるでしょう。住んでいたマンションや土地といった資産を慰謝料、もしくは財産分与として受け取る可能性のある方は多くいらっしゃいます。

離婚に伴う慰謝料として、もしくは財産分与として不動産を受け取った場合は、税法上、どのような扱いになるのでしょうか。

結論から言うと、離婚に伴う不動産の慰謝料・財産分与は、金銭で受け取る慰謝料同様、基本的に税金はかかりません

慰謝料については先にご説明したとおりです。
一方、離婚と同時に為される財産分与は、「これまで婚姻中の生活において二人で築いた財産を分割したもの」であり、また同時に離婚後の生活保障の一環とみなされ、慰謝料の一部であるとも考えられています。
これらを総合し、「財産分与請求権に基づいて受け取ったものであり、相手から贈与されたものではない」とみなされるのです。

  • 財産分与とは?
    離婚に伴い、同居・協力及び扶助の義務を定めた「民法第752条」、婚姻費用の分担について定めた「民法第760条」、夫婦間における財産の帰属について定めた「民法第762条」に基づき、婚姻中に協力して蓄積した財産を清算する性質のものです。民法第768条、民法第771条に基づいて分与されます。
  • 財産分与請求権とは?
    民法768条に明示された権利のひとつです。協議上の離婚について定められた第771条も準用されます。そのため、特に自宅不動産を慰謝料として譲渡された場合は、税金がかからないと考えてよいでしょう。


<民法768条第1項>

  • 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
  • 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
  • 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

    ただし、不動産を受け取った際も、金銭を受け取った時と同様、状況によっては税金がかかってしまうケースがあります。

3、離婚の慰謝料で税金がかかるケースとは?

基本的に、金銭や不動産で離婚の慰謝料や財産分与を受け取っても、税金はかかりませんが、一部のケースで税金がかかってしまうことがあります。事前にしっかり確認をしておきましょう。

  1. (1)婚姻期間と比較して慰謝料が過大だと判断されたケース

    慰謝料や財産分与という名目で受け取った金額が多すぎると第三者に判断された場合、贈与税がかかります。
    慰謝料や財産分与は、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産なのか、受けた精神的損害に見合ったものなのかなどを考慮されます。各家庭によって所得はもちろん、事情は異なるものです。

    そこで、「すべての事情を考慮してもなお多過ぎる」と課税庁が判断した場合、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。

    たとえば、「夫の財産が不動産含め5000万円あり、婚姻期間が2年間の夫婦が離婚する際、夫の財産のすべてを妻に渡したケース」などは、慰謝料・財産分与が過大であるとみなされてしまうことがあります。そのときは、夫婦として作り上げた財産以上の部分に別途贈与税、もしくは譲渡所得にまつわる税金がかかってしまうのです。

  2. (2)自宅の不動産の所有権を離婚成立前にもらったケース

    これまで居住していた自宅を、慰謝料もしくは財産分与として譲渡された場合、前述したとおり、基本的に受け取った側には税金はかかりません。しかし、一部の例外があります。

    それは、離婚が成立する前に慰謝料もしくは財産分与として自宅の不動産を受け取ったケースです。この場合、受け取った側に贈与税がかかってくるのです。ただし、以下の3つの条件すべてに当てはまる場合は、2000万円の配偶者控除が受けられます。

    • 条件1 婚姻期間が満20年以上
    • 条件2 受け取った不動産が居住用であること、もしくは居住用不動産を取得するための金銭を受け取り、その金銭で居住用不動産を取得した
    • 条件3 不動産を受け取った人が、又は金銭で取得した人が、受け取った翌年の3月15日までその不動産に住んでいて、その後も住み続ける見込みがあること


    元々贈与税には年間110万円までの基礎控除があります。そのため、配偶者控除を適用できれば、2110万円まで税金はかからないということになります。
    ただし、別荘やセカンドハウス、その他不動産には適用されません。

  3. (3)不動産の登記手続き関連で税金がかかるケース

    純粋に夫婦の財産を分割する目的で受け取った、自宅以外の土地やマンションなどの建物をはじめとした不動産には、基本的に不動産取得税はかかりません。
    しかし、慰謝料や受け取る側の生活保護を目的として、不動産を受け取った場合は、不動産取得税がかかります

    この金額は意外と大きく、土地及び住宅は固定資産税評価額の3%です。
    そのほか、土地の場合は固定資産税評価額の半分の3%、建物は新築であれば1200万円の控除の特例を受けることができます。価値のある不動産ほど支払わなければならない税金が高くなる可能性があるということです。

    また、受け取った不動産の登記を申請するために税金がかかります。これを登録免許税と言いますが、こちらは固定資産税評価額の原則2%かかることを覚えておきましょう。

    不動産は時価であり、売買取引される金額は時期によって変わるものです。また、ローンの有無などによっても手続きなどが大きく変わります。受け取る際は、特に注意が必要です。
    あらかじめ離婚の際に「不動産取得税や登録免許税は分与したほうが支払う」などの取り決めをしておくことをお勧めします。

  4. (4)離婚が偽装離婚だったと判断されたケース

    戸籍上で離婚をしたとしても、その離婚が事実とは反していると判断されると、贈与税がかかる対象となります。「贈与税や相続税を免れるために離婚した」とみなされるためです。

    たとえば、「どちらかが多額の借金をしてしまったため、財産を守るために財産分与をして離婚をした」それから「どちらかが遺産相続をしたが相続税が払いきれないため、慰謝料として財産を分けて離婚をした」、「戸籍上では離婚したものの、実質的な内縁状態が続いている」などのケースが当てはまります。

  5. (5)慰謝料を支払う方が税金を払わなければいけなくなるケース

    受け取る側であれば基本的に税金はかからない慰謝料や財産分与ですが、支払う側は立場が異なるため、以下のケースで贈与税や譲渡所得税などがかかることがあります。

    1. ケース1 手持ちが足りず、親など第三者が代わりに慰謝料を払った
    2. ケース2 第三者から見て「高すぎる」と判断される額の慰謝料を渡した
    3. ケース3 不動産(譲渡益が3,000万円までの居住用不動産を除く)や有価証券など、金銭以外で慰謝料を支払った


    ケース1の場合は、慰謝料を支払う側がほかの方から譲渡を受けて慰謝料を支払ったとみなされるため、贈与税がかかることがあります。
    ケース2では、脱税や資産隠し、偽装離婚を疑われる原因にもなります。ケース3は、渡した不動産や有価証券の価値によって、税金がかかってくるかどうかが変わってきます。受け取る側にも関係してくることなので、専門家に相談したほうが良いでしょう。

    支払う側が払う税金については、受け取る側には関係がない話だと思うかもしれません。
    しかし、特に不動産に絡んだ税金は、数百万~1千万円以上にも及ぶこともあり、莫大な金額になりがちです。そうなると、トータルで受け取れる額が変わってしまうことでしょう。ここはぜひ協力して、支払う税金をできるだけ抑えたほうが良いのではないでしょうか。

4、離婚で慰謝料をもらったら書面に残しておこう

金銭で受け取った慰謝料は非課税となるので、一般的に確定申告の必要はありません。

しかし、後日調査が入った際など、税金逃れではないということを証明するためにも、離婚協議書は作っておきましょう。税務署から通知や問い合わせが来た際、正式な離婚協議書があれば説明しやすいですし、慰謝料や財産分与であることを証明できるため、課税されることはありません。

しかし自宅を含めた不動産を慰謝料・財産分与した場合は、受け取った側も渡した側も、必ず確定申告をしておきましょう。確定申告を行うことで、あらかじめ控除が受けられる可能性があります。

確定申告を行わなくても、不動産の所有権移転登記などを行った後、およそ3カ月から6カ月ほどで、お住まいの都道府県税事務所から納税通知が届きます。その際は、離婚協議書や提示された必要書類などを持参して、財産分与や慰謝料などの説明を行ってください。改めて申告を行う必要があるケースもあります。

5、まとめ

今回は離婚時に受け取った慰謝料にかかる税金についてお送りしました。
離婚とともに発生する慰謝料や財産分与を金銭のみで受け渡しした場合は、税金に関してさほど心配することはありません。しかし金銭ではなく不動産や有価証券などで譲渡したケースにおいては、かかってくる税金の基準が変わり、やや複雑になります。

離婚する際は必ず、慰謝料や財産分与について、離婚協議書などの書面に残しておきましょう。手続きなどで不安がある場合は、弁護士や税理士に依頼したほうがトータルで出費を抑えることができるはずです。ぜひご相談ください

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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