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勝手に出された離婚届が受理された! 無効にするための対処法とは

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更新日:2023年06月13日  公開日:2019年11月21日
勝手に出された離婚届が受理された! 無効にするための対処法とは

結婚している夫婦の中には、何かしらのきっかけで離婚話になり、その勢いで離婚届に署名をしてしまったという経験をお持ちの方もいるかもしれません。

あるいは過去に不倫がバレて、そのとき作成した離婚届を「もしもまた不倫をしたら、すぐに離婚届を提出するからね」と、配偶者が保管しているといった状態になっているケースも考えられます。

そのように保管されている離婚届を配偶者が勝手に提出してしまった場合、その届けは受理されてしまうものなのでしょうか。仮に受理されたとしても、無効化させたいという気持ちが湧いてくるでしょう。

今回は、配偶者が勝手に離婚届を提出した場合、その届けは法的にどのように取り扱われるのか、さまざまなケースを想定しながら、ベリーベスト法律事務所の弁護士がくわしく解説していきます。

1、勝手に提出された離婚届が受理されることはある?

  1. (1)協議離婚の有効要件

    離婚届を提出して離婚する方式を、協議離婚と呼びます。
    協議離婚は、夫婦双方が離婚届を出す時点で、離婚するという意思を持っていることが有効要件です。したがって、離婚する意思がないのに、勝手に作成された離婚届を出しても離婚は無効です。

    また、離婚届を書いた時点では確かに離婚の意思があったけれども、その後気持ちが変わることもあります。けんかの勢いで離婚届を書いたけれど、冷静になって思い直したような場合です。
    この記入済みの離婚届を、その後相手が勝手に提出しても、離婚は無効です。離婚届の提出時点で、夫婦の一方に離婚の意思がないからです。

  2. (2)無効なのに受理されるの?

    とはいえ、法的な有効・無効の点と、役所の窓口で受理されるかどうかという点は、実は全く別の話です。
    役所では、夫婦それぞれの署名・捺印欄を含む所定の記載事項がすべて埋められているか、形式面しか確認しません。

    そもそも離婚届の提出は夫婦そろって窓口に出向く必要はなく、代理人による提出もできますし、郵送でも提出できます。したがって、提出の際に夫婦の離婚意思を役所が確認することはそもそも予定されていないわけです。
    形式面が整ってさえいれば役所は離婚届を受理することになるのです。

  3. (3)署名、捺印が本物の場合

    離婚届の署名捺印が間違いなく本人によってなされている場合、提出時点で離婚する意思を夫婦両方が持っていたならば、その離婚は法的に有効です。
    しかし、署名捺印をした後に気持ちが変わり、提出時点で離婚意思がないならば、その離婚届を出しても離婚は法的に無効です。しかし、役所では離婚意思を確認することはありませんので、形式的に整った署名捺印済みの離婚届が出されれば、正式に受理されてしまいます。

  4. (4)署名、捺印が偽物の場合

    そもそも離婚届自体書いていないのに勝手に配偶者が内容をすべて記入し署名捺印までしてしまったという場合、署名は自分がしたけれども捺印はしていなかった場合、離婚自体は無効です。
    しかし、この場合でも、記入事項に漏れがなければ離婚届は受理されてしまいます。

2、一度受理してしまった離婚届を無効化することはできる?

  1. (1)離婚届が受理されるとは?

    離婚届が受理されると、法律上は離婚が成立します。法的には夫婦関係が消滅し、いわば他人となるわけです。いったん受理されたあとは、離婚届の撤回や取り戻しは許されていません。役所には離婚に関する調査権限もなく、窓口でいくら訴えても無駄です。
    離婚は無効だと主張して戸籍を戻してほしい場合は、役所ではなく家庭裁判所を相手に主張しなければなりません。

  2. (2)受理されてしまった離婚届。どうすれば無効化できる?

    ① 協議離婚無効確認調停
    離婚の意思がないのに勝手に離婚届を出された場合、たとえ受理されていても法律上その離婚は無効です。
    無効と主張したい場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて離婚は無効であることの合意を求めることができます。これが「協議離婚無効確認調停」です。

    この調停を申し立てると相手方に裁判所から呼び出しがかかり、双方が調停に出頭して、調停委員を交えて話し合いの機会がもたれます(直接顔を合わせて話し合うことはなく、調停委員を通じた話し合いです)。

    この話し合いで、協議離婚が無効であると双方が合意し、家庭裁判所もその合意が正当であると認めれば、合意に従った離婚無効の審判がなされます。なお、調停はあくまで話し合いの場です。したがって、相手が合意しない場合や、そもそも調停に出席しない場合は、調停は不成立で終わり、次は裁判を提起して改めて無効を主張することになります。

    ② 協議離婚の無効の確認を求める訴えを提起する
    調停が不成立に終わった場合、決着をつけるには、協議離婚の無効の確認を求める訴えを裁判所に提起します。
    訴訟は話し合いの場ではなく、あくまで証拠に沿って裁判所が最終判断を行う場です。双方が自分に有利な証拠をできるだけ提出し、裁判所がこれを精査して、離婚届の時点で双方に離婚意思があったのか無かったのか、離婚届は偽造なのかを判断します。

    その結果、裁判所が離婚届は偽造であると認めた場合、離婚は無効だという判決がくだされます。
    調停や判決によって離婚無効が確定すると、離婚状態が解消され、もともとの婚姻関係が法的に復活することになります。なお、離婚無効が確定し、相手が勝手に離婚届を出していたことがはっきりした場合は、相手に対して、慰謝料を請求することも可能です。

3、受理されてしまった離婚届 戸籍はどうなる?

  1. (1)離婚届が受理された場合の戸籍

    いったん離婚届が受理されると、役所では戸籍の書き換えを行います。離婚までは、夫婦が同じ戸籍に記載されています。離婚届が受理されると、婚姻によって名字を変えた側の配偶者が婚姻中の戸籍から抜かれ、新たに戸籍を作るか、もとの戸籍に戻るか、離婚届に記載した方法にしたがって異動します。

  2. (2)離婚が無効と認定された場合の戸籍

    婚姻無効を求めた調停や訴訟の結果、離婚の無効が認められた場合には、その審判や判決の確定の日から1ヶ月以内に、本籍地のある市町村役場に、戸籍訂正の申請を行います。

    申請には、調停・審判に基づく場合には①審判書謄本と②確定証明書が必要となります。
    判決に基づく場合には①判決書謄本と②確定証明書がそれぞれ必要となります。

    手続きをした裁判所からこれらの書類の交付を受けて、住所地または本籍地の市区町村役場の戸籍課(戸籍係)に戸籍訂正の申請をしましょう。

4、まだ離婚届が出される前なら、不受理申出制度を利用して事前対策を

離婚届がたとえ勝手に作られたものでも、相手から離婚届が提出されてしまうと役所で受理されてしまいますから、それを無効だと争うには大変な手間と労力がかかります。
こうした事態を避けるため「離婚届不受理申出」という制度が用意されています。
離婚届が出される前に、役所に対して、離婚届が出されても受理しないでくださいと申請しておくのです。

これを提出しておくと、離婚届が提出されても受理されません。もし配偶者が勝手に離婚届を提出してしまうような事態が想定されるなら、事前にこの手続きを済ませておきましょう。
なお、離婚届不受理申出は、一度申請すると無期限で効力が続きます。したがって、その後、実際に離婚することとなった場合は、不受理申し出を行った配偶者がこの申し出を取り下げてから、離婚届を提出することになります。

5、離婚届を勝手に出すことは犯罪です

離婚届を勝手に出した結果、結婚や戸籍がどうなるかという点は民法上の問題です。しかし、離婚届の偽造は、刑法上の犯罪行為に該当します。
具体的には、離婚届の署名捺印を偽造した場合は「私文書偽造罪」(刑法159条1項)、その離婚届を役所に提出すると「私偽造文書行使罪」(刑法161条1項)に問われます。
また、提出すると、役所は戸籍簿という重要な文書に虚偽を記載させることになるので公正証書原本不実記載等罪も成立する可能性があります(刑法157条1項)。

このように、離婚届を偽造して提出する行為は、複数の刑法違反の犯罪行為です。日本の刑法では、ひとつの行為が複数の罪に該当する場合は、牽連犯(けんれんはん)といってもっとも重い刑が適用されます(刑法第54条後段)。決して安易な気持ちで離婚届を勝手に出してはいけません。

6、まとめ

勝手に離婚届を提出されたことを知ったときの衝撃は、言いようもないほど大きいものでしょう。さらに、偽造された離婚届でも、いったん受理されたら離婚が成立するという扱いは、勝手に出された側にとってはとんでもない話です。

無効を主張して戸籍を戻すには、調停しか方法はありませんが、通常、勝手に離婚届を出した相手が簡単に非を認めることはそうそうありません。
裁判になると複雑な手続きが待っており、また、離婚意思がないということは、たとえば別居しているような場合は特に、立証困難なときもあります。

つまり、家事事件のなかでも、離婚の無効確認は難しい案件といえますので、離婚無効確認案件の経験を持つ弁護士に相談するようにしましょう。

結婚・離婚は人生の重大事です。ベリーベスト法律事務所では、離婚問題の経験豊富な弁護士が多数在籍しており、離婚無効に関してさまざまな法的アドバイスをご提供しています。ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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