妊活をきっかけに別居や離婚を考えるときに知っておきたい5つのこと
妊活を続けていると、肉体的な苦痛や経済的負担、精神的ストレスなどによって夫婦関係がぎくしゃくし始め、ついには離婚に至るケースも少なくありません。
もし、妊活をきっかけとして夫婦関係が壊れてしまったような場合、妊活を理由に離婚することはできるのでしょうか? この記事では、妊活が離婚原因になるのかという問題や慰謝料や婚姻費用など、妊活で離婚や別居を考える夫側が知っておくべき5つのことを弁護士が解説します。
1、不妊治療が増加する中、夫婦の悩みは多岐にわたる
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(1)増加する不妊治療
現実に子どもができず不妊治療を受けている夫婦はどのくらいいるのでしょうか?
厚生労働省が発表している「不妊専門相談センターの相談対応を中心とした取組に関する調査」(平成30年1月)によると、体外受精や顕微授精によって出生した赤ちゃんの数は、平成18年時点では約2万人でしたが平成26年には約4万7000人へと増加しています。総出生児に対する割合にすると、不妊治療によって生まれた子どもの割合は平成18年には1.79%でしたが平成26年には4.71%となっています。なお、ここには不妊治療を受けても失敗して子どもができなかった件数は含まれていません。
以上のデータからすると、子どもを授かりたいと思い不妊治療を受けている夫婦の数は決して少ないとはいえず、むしろ急激な増加傾向にあるといって間違いないでしょう。 -
(2)不妊治療(妊活)によって生じるさまざまな悩み
妊活(不妊治療)を受けると、夫婦には次のような悩みが発生します。
・身体的、精神的な負担
不妊治療の過程では、女性側に痛みを伴う採卵や注射による下腹部の腫れなどの身体的な負担が発生します。また、薬の服用によってイライラ感や落ちこみが発生することも少なくありません。苦しい治療を受けているのに排卵日に排卵しておらず、ショックを受けることもあるでしょう。こういった苦しみが女性側に集中して、男性側との関係がぎくしゃくし始めるケースが多々あります。
また、ストレスのたまった妻から厳しくあたられたり、男性不妊のケースで妻から責められたりすると夫側にもストレスがたまっていきます。
・経済的な負担
不妊治療にはお金がかかります。たとえば人工授精をすると、1回1~3万円、生殖補助医療は1回20万円~70万円程度かかるとされます。このように高額な費用がかかることも夫婦の生活を危うくします。
・パートナーとの考え方のズレ
夫婦のうちどちらかは不妊治療に熱心でもう一方はそうでもない、負担が妻にばかりかかっている、治療を続けてもいつまでも妊娠出産に成功しないなど、さまざまな事情によって夫と妻の間にすれ違いが生じるケースがあります。 -
(3)妊活による心の悩みを相談できる「不妊専門相談センター」
このように妊活や子作りに関連して悩みを抱える夫婦が多いことから、国は全国各地の都道府県や中核都市に「不妊専門相談センター」を設置しています。センターでは、医師や助産師などの専門家による不妊に関する専門相談や心の悩み相談が実施されています。また病院などの医療機関における不妊治療の実施状況などに関する情報も提供してもらえます。
不妊治療に悩んだとき、よければ一度利用してみてください。
2、「妊活がつらい」を理由に離婚できるか
妊活がつらく追い詰められた気持ちになると「離婚したい」と考え始める方も少なくありません。妊活がつらい、配偶者を信用できなくなった、そんな気持ちになったとき、離婚できるのでしょうか?
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(1)離婚が認められるための「法定離婚事由」とは
法律上、裁判で離婚を認めてもらうには「法定離婚事由」が必要です。法定離婚事由とは、民法が認める離婚原因です。
具体的には以下の5種類の法定離婚事由が認められています。・不貞(不倫)
配偶者が他の異性と肉体関係をもち、不倫している場合です。
・悪意の遺棄
相手が生活費を払ってくれない、家出したケースなどです。
・3年以上の生死不明
相手が行方不明になって生死も分からず3年が経過した場合です。
・回復しがたい精神病
相手が重度の統合失調症などになっていて回復見込みがなく、これまでじゅうぶん看護を尽くしてきたケースなどです。
・その他婚姻生活を継続し難い重大な事由
暴力やモラハラが酷い場合、セックスレスの場合などです。 -
(2)妊活がつらいだけでは離婚理由にならない
妊活がつらいことだけでは、上記の法定離婚理由に該当しません。ただ、妊活がきっかけで夫婦仲が悪化し相手からひどい暴力を振るわれている場合、セックスレスになっている場合などには法定離婚理由と認められ、裁判によって離婚できる可能性があります。
3、妊活をきっかけに離婚する場合の流れ
妊活を理由に離婚したいなら、以下のような流れで離婚に向けた手続きを進めることができます。
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(1)話し合い(協議離婚)
まずは自分たち夫婦で話し合いを行います。相手も離婚に合意し、財産分与や慰謝料などの離婚条件を取り決めたら離婚届を作成して役所に提出します。この方法による離婚を「協議離婚」といいます。協議離婚の場合、財産分与や慰謝料などの詳細な離婚条件を定めなくても離婚届さえ出せば離婚することができますが、後々のトラブルを避けるために必ず条件を取り決めて「協議離婚合意書」を作成しておくことをおすすめします。
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(2)話し合いで合意できなければ調停へ(調停離婚)
話し合いをしても相手が離婚に納得しない場合や、財産分与などのお金の面で合意できない場合には、家庭裁判所で「離婚調停(夫婦関係調整調停)」を申し立てる必要があります。
調停で裁判所の関与によりお互いが離婚することと離婚条件に合意できれば、調停離婚できます。 -
(3)調停でも決着がつかなければ裁判へ(裁判離婚)
調停をしてもお互いの意見が合致しない場合には調停は不成立になります。すると家庭裁判所で「離婚訴訟(裁判)」をしなければなりません。裁判では上記で紹介した「法定離婚事由」がないと離婚が認められません。「妊活がつらい、相手に不信感をおぼえる」というだけの理由では離婚が認められる可能性は低いといえます。
4、妊活がきっかけで離婚する場合、慰謝料が生じるケースとは?
妊活をきっかけに離婚するケースで慰謝料が発生する可能性はあるのでしょうか?
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(1)妊活がつらいという理由では慰謝料請求できない
一般的に、「妊活がつらい」「子作りに関して意見が合わない」などの理由で協議や調停によって離婚する場合には、慰謝料は発生しません。離婚慰謝料は、夫婦のどちらかに「有責性」が認められる場合に発生するものだからです。有責性とは、婚姻関係を破綻させる原因を作ったという意味です。
妊活によってすれ違いが発生するときには、夫婦のどちらにも有責性がないので互いに慰謝料は発生しません。
ただし、以下のようなケースでは、有責性が認められて慰謝料が発生する可能性があります。 -
(2)妊活がつらく不倫(浮気)をした
妊活のストレスが強く配偶者以外によりどころを求めたりして、不倫してしまうようなケースです。
不倫して配偶者以外の人と肉体関係を持つと慰謝料の支払い義務が発生するので、この場合には妊活が原因の離婚であったとしても慰謝料を支払わなければなりません。 -
(3)妊活のストレスでDV(暴力)をしてしまった
男性側が妊活に強いストレスを感じると、妻に暴力を振るってしまうケースもあるものです。そのような場合には家庭内暴力として男性側に有責性が認められ、慰謝料が発生します。もちろん妻が男性に暴力を振るい身の危険を発生させた場合には妻側に慰謝料の支払い義務が発生する可能性もあります。
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(4)妊活がつらく、家を出てしまった
妊活が原因で夫婦関係がぎくしゃくしてくると、家で相手と顔を合わせるのもつらく感じるようになって家を出てしまう方もおられます。
しかし、妊活がつらいことは家出の正当事由にはなりません。一方的に相手を見捨てたとして有責性が認められ、慰謝料が発生する可能性があります。
5、妊活を理由に別居や離婚するとき考えておくべきこと
妊活がつらいという理由で相手と別居や離婚を考えているなら、以下のようなことは最低限押さえておく必要があるでしょう。
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(1)婚姻費用
相手と別居するときには「婚姻費用」に注意が必要です。婚姻費用とは夫婦がお互いに負担すべき生活費です。夫婦が結婚している間は互いに扶助義務を負うので、別居していても生活費を負担し合わなければなりません。具体的には収入の多い方が少ない方へと生活費を支払う義務を負います。
妊活がつらくて家を出るなら、別居中は配偶者へ婚姻費用の送金を続けなければなりません。婚姻費用の支払いは離婚か別居解消まで続くので、早期に離婚を成立させない限りいつまででも支払いの負担が継続してしまいます。 -
(2)財産分与
離婚するときには、夫婦の共有財産を清算し「財産分与」を求めることが可能です。そこで配偶者が離婚に応じるとしても財産分与を請求されるでしょう。そうなったら家や預貯金、保険などの半分を配偶者に渡す必要があります。手元にある財産は原則として半分になります。
このように、妊活や不妊治療がつらいために配偶者と別居や離婚しようと思ったら、それなりの出費を覚悟しなければなりません。
「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
6、まとめ
妊活は、女性にストレスがかかるイメージがありますが、実は男性にも大きな負担をかけるものです。男性不妊の場合には男性が周囲から責められるケースもありますし、そうでなくともストレスのたまった妻から責められたり八つ当たりされたりする例が多々あります。
子どもを作るか作らないかは夫婦お互いの人生にとって重大事項であり、本来ならふたりで乗り越えていくべき課題です。しかしどうしても妻と一緒にやっていけないケースもあるでしょう。
もしも本気で離婚を決意されているなら、弁護士までご相談ください。ご自身のケースで離婚できるのか、どのくらいの婚姻費用や財産分与が発生するのか、慰謝料は発生するのかなどを判断し、アドバイスをいたします。ひとりで悩まず、できるだけ早めにご相談くださいましたら幸いです。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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