統合失調症の夫や妻と離婚したいときに知っておくべき大事なこと
統合失調症の夫や妻との生活が続くなかで、「これ以上婚姻を継続するのは難しい」と感じ、離婚を考える方もいらっしゃいます。幻覚や妄想、感情の起伏、社会生活の困難など、統合失調症特有の症状によって、配偶者に大きな負担となるケースもあります。
かつて民法には、「強度の精神病(精神疾患)にかかり回復の見込みがないこと」が裁判上の離婚事由として明記されていましたが、令和8年(2026年)4月1日施行の改正民法により、これは削除されました。しかし、このことで、統合失調症を抱える配偶者との離婚が不可能になったわけではありません。改正後も、状況次第では「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。
本コラムでは、統合失調症が夫婦生活に与える影響や改正民法のポイント、離婚が認められやすい条件、離婚の進め方・注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 離婚専門チームの弁護士が解説します。
目次を
1、統合失調症が夫婦関係に及ぼす影響
統合失調症は、症状の内容や程度によって、夫婦関係に大きな影響を及ぼすことがあります。特に、幻覚・妄想・意欲低下などが生活面に広く影響すると、配偶者が日常の多くを支える必要があり、大きな負担を抱えることも少なくありません。以下では、統合失調症の基礎知識と婚姻生活への影響について説明します。
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(1)統合失調症とは
統合失調症とは、現実とのつながりの喪失、幻覚、誤った強い思い込み、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理等)の問題を特徴とする精神疾患です。これにより、思考や感情、行動にさまざまな変化が生じます。原因は明確には解明されていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因の両方が複合的に影響すると考えられています。
現実には存在しないものが見えたり聞こえたりする「幻覚」、誤った確信を持つ「妄想」などの陽性症状、感情の平坦化や意欲の低下などの陰性症状、さらに段取りが苦手になったり判断力が低下したりする認知機能障害があります。
治療は、抗精神病薬の服用と、生活支援やカウンセリングなどの心理社会的アプローチを組み合わせることが基本とされています。ただし、症状の安定には時間がかかることも多く、再発のリスクもあるため、長期的な治療とサポートが必要です。 -
(2)婚姻生活に与える影響
統合失調症の症状が進行・慢性化すると、夫婦関係や家庭生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。
たとえば、幻覚や妄想が強い時期には会話がかみ合わず、配偶者の言動を過剰に被害的に受け止めてしまうことで、日常的な衝突が生じやすくなります。また、症状が悪化すると暴言や暴力に発展するケースもあり、配偶者や子どもの安全が脅かされることもあります。
さらに、認知機能の低下により金銭管理や家事が難しくなり、生活に支障が出ることもあります。育児への悪影響が生じることもあり、家庭全体が不安定になりやすい点も大きな問題です。
家庭内の混乱が継続すれば、配偶者の精神的・身体的負担が限界に達し、婚姻関係の維持が困難と感じるケースもあるでしょう。
2、統合失調症の夫や妻と離婚は可能か?
「夫や妻が精神病だと離婚できないのではないか」という疑問を持つ方もいるでしょう。結論としては、統合失調症の配偶者であっても、状況次第では離婚が認められる可能性があります。
以下では、法改正のポイントと統合失調症の配偶者との離婚が認められやすい具体的な状況について説明します。
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(1)2026年4月の改正民法で「強度の精神病」が離婚原因から削除に
民法770条1項には、裁判による離婚を請求できる「法定離婚事由」が定められています。
改正前は、4号として「強度の精神病にかかり回復の見込みがないこと」が明記されていましたが、令和8年(2026年)4月1日の改正により、この項目は削除となりました。
この改正の背景には、「精神病」という文言が現代の医療・福祉における表現として不適切であり、偏見や差別的認識を助長しかねないという指摘がありました。
また、実務上もこの条項を直接の根拠として離婚が認められる例がほとんどなく、実際には、家庭生活が破綻しているかどうかを「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)を基準として判断する運用が主流でした。
そのため、今回の法改正によって条文が削除されても、実務に大きな混乱はなく、従来の判断枠組みが今後も継続して適用されると考えられています。 -
(2)そもそも精神病を理由にした離婚請求はハードルが高かった
実務では、精神疾患を理由に離婚を請求することは、改正前から非常に難しいとされてきました。精神疾患は、治療によって回復が期待できる点や配偶者には病気の治療を支える一定の義務がある点が重視されていたためです。
とりわけ、統合失調症は治療や支援により症状が安定し、日常生活を送れるようになる例も多いため、「病気そのもの」だけを理由に離婚が認められた裁判例は非常に限られています。裁判では、家庭内暴力、生活の著しい破綻、長期別居など、病気に付随する事情があるかどうかが焦点とされてきました。 -
(3)「婚姻を継続しがたい重大な事由がある」として離婚が認められた例はある
実際の裁判でも、統合失調症を抱える配偶者との婚姻生活が破綻していると判断され、離婚が認められたケースがあります。
たとえば、東京地裁平成16年10月14日判決では、次のような事情が重視されました。- 夫が統合失調症妄想を伴う双極性感情障害と診断されていたが、夫は治療を拒否し続けた
- 妄想などの精神症状により、社会生活・家庭生活が著しく困難だった
- 就労が長続きせず、収入も不安定であった
- 別居後、他の女性と同居し、一夫多妻制を尊重したいと発言するなど、婚姻関係を軽視する行動があった
これらを踏まえ裁判所は、婚姻関係は「完全に破綻しており、回復の見込みがないことは明らかであるというほかない」と判断し、民法770条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在するとして離婚を認めています。
このように、統合失調症そのものではなく、統合失調症による社会生活や家庭生活の困難さなどが積み重なって夫婦生活が破綻しているという事情がある場合には、離婚が認められる可能性は十分にあります。
お悩みの方はご相談ください
3、統合失調症の夫・妻と離婚するためのポイント
統合失調症の配偶者との離婚を進めるにあたっては、婚姻継続が難しい状況を客観的に示す準備が欠かせません。以下では、統合失調症の配偶者と離婚を検討するときに知っておくべき実務上のポイントを説明します。
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(1)医師の診断を受け経過を残す
配偶者が統合失調症と思われる症状を示している場合、まずは医師の診断を受け、診断書や通院歴、薬の処方内容などを記録しておくことが重要です。
症状の変化や生活への影響を時系列でまとめたメモや日記も、後に「婚姻生活が継続困難となった経緯」を示す有力な資料になります。
また、治療を勧めても本人が拒否し続けている場合、その事実自体が「生活改善の見込みが乏しい事情」として評価されることがあります。 -
(2)DV・モラハラ・虐待などの証拠を残す
統合失調症に伴う妄想や感情の高ぶりによって、暴言や暴力が見られる場合には、必ず客観的な証拠を残しておくことが重要です。
録音データ、けがの写真、医師の診断書、破損物の写真、LINEやメールのやり取り、警察への相談記録などは、調停や裁判で事実関係を裏付ける有力な証拠になります。
精神疾患に起因する行為であっても、配偶者や子どもの安全が脅かされている状況であれば、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があると判断される可能性が高まります。 -
(3)離婚前に別居する際の注意点
別居は、婚姻関係が破綻したことを示す重要な要素になりますが、進め方には注意が必要です。
まず、暴力の危険がある場合は、シェルターや支援機関の利用を含め「安全の確保」を最優先にしてください。子どもがいる場合は、監護体制(育児・教育・生活環境)をどのように整えるかも重要です。
また、無計画に家を出ると生活費や家財の持ち出しなどでトラブルになりやすいため、事前に弁護士へ相談し、別居時に残すべき資料・持ち出す物・住所秘匿の方法などを整理しておくことが望ましいでしょう。
別居後も相手の治療を促す努力を行った記録を残しておくことで、「配偶者を一方的に見捨てたのではない」という主張にもつながり、裁判での心証形成にも役立つ可能性があります。
4、統合失調症の夫や妻と離婚するときの手順
統合失調症の配偶者との離婚は、相手の症状や意思能力の有無によって進め方が大きく変わります。以下では、配偶者の意思能力の有無に応じた離婚手続きの流れを説明します。
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(1)配偶者に意思能力がある場合
配偶者に意思能力がある場合には、以下のような手順で離婚を進めていきます。
① 協議離婚を検討する
相手が意思表示できる状態であれば、まずは協議離婚からスタートします。症状によって冷静な話し合いが難しい場合は、書面でのやり取りや弁護士を介した調整など、負担の少ない方法を選択します。
② 家庭裁判所の離婚調停を利用する
協議で合意できなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
調停委員が双方の意見を踏まえ、合意できるポイントを探ります。調停では、成立するときを除いて基本的には相手と直接顔を合わせる必要はありません。暴力などの危険がある場合には偶然出くわすこともないように配慮してくれることが多いです。
③ 離婚訴訟で判断を求める
調停が不成立となった場合は離婚訴訟に進みます。訴訟では以下のような事情を証拠に基づいて主張し、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかを判断してもらいます。- 症状の悪化や治療拒否
- 家庭生活が成り立たない事情
- 長期別居の経緯
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(2)配偶者に意思能力がない場合
配偶者に意思能力がない場合には、以下のような手順で離婚を進めていきます。
① 成年後見人を申し立てる
判断能力が大きく低下している場合、本人が離婚に関する意思を適切に示すことができません。この場合は、家庭裁判所に後見開始の申し立てを行い、裁判所から成年後見人が選任されます。
② 後見人を通じて離婚手続きを進める
意思能力がない場合、協議離婚や調停離婚を成立させることはできません。したがって、離婚手続きは原則として裁判による解決を目指すことになります。
後見人は、本人の利益を守る立場から裁判に参加し、離婚の可否や条件については裁判所が最終的に判断を下します。
5、統合失調症がきっかけの離婚で弁護士に相談するメリット
統合失調症の配偶者との離婚は、病気そのものを理由に離婚が認められるわけではなく、婚姻生活がどのように困難になっているかを丁寧に説明し、証拠をそろえる必要があるため、専門家のサポートが重要です。以下では、統合失調症の配偶者との離婚を弁護士に相談すべき理由を説明します。
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(1)離婚が認められるかどうかについて意見をもらえる
統合失調症と離婚の問題では、症状の内容、治療状況、別居の経緯、生活の破綻度合いなど、さまざまな事情を総合的に見て判断する必要があります。
弁護士は、裁判例・実務の基準に照らして、「現在の状況で離婚が認められる可能性はどの程度あるか」「どの点を補う必要があるか」を具体的にアドバイスすることができます。
誤った方法で離婚を進めてしまうと、逆に不利な結果になることもあるため、早い段階で相談することが重要です。 -
(2)訴訟を提起するための準備もしやすい
統合失調症に関する離婚は、治療拒否、生活破綻、暴言・暴力の有無、別居の経緯など、多くの証拠を整理して主張を構築する必要があります。
弁護士に依頼することで、以下のようなサポートを受けることができます。- 必要な資料・証拠の整理
- 別居準備や安全確保のアドバイス
- 後見人が関わるケースでの手続き対応
- 訴訟での主張立証の組み立て
このように、法的な専門知識や、複雑な手続きが必要な場面でも一貫してサポートを受けられるため、離婚までのプロセスを安心して進めることができます。
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(3)手続き面・精神面の両面をサポート
統合失調症の配偶者との離婚は、精神的にも大きな負担を伴います。症状によるトラブルや安全面の不安がある場合、自分だけで対応するのは非常に困難です。
弁護士が代理人となって相手とのやり取りを行うことで、直接やり取りする必要がなくなり、心理的負担を大きく減らすことができます。
さらに、子どもの監護、生活費、住所秘匿、別居後の生活設計など、離婚後の生活に関するアドバイスも受けられるため、今後の生活に向けた準備もしやすくなります。
統合失調症の配偶者との離婚でお悩みの方は、おひとりで問題を抱え込まず、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
離婚問題の知見・経験豊富な弁護士が、状況に応じた最適な解決方法をご提案します。
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