借金を繰り返す夫と離婚したい! 離婚後に負担が及ぶ可能性は?
配偶者の繰り返す借金が耐えられなくなって離婚を希望する方はたくさんいます。
謝罪して「もう二度と借金しない」と誓ったにもかかわらず、また借金を繰り返されたら不信感を抱いてしまうのも当然です。しかし、借金を理由に離婚した場合、その借金はどうなるのでしょうか?
離婚後も負担しなければならないのであれば、離婚したくないという方もいると思います。
今回は、借金を理由に離婚したときの財産分与における借金の取扱いについて、弁護士が解説いたします。
1、夫の借金を理由に離婚は可能か?
夫が借金を繰り返すと、生活費などに充てるお金が足りなくなって、生活が苦しくなりますし、子どもにも不自由な思いをさせてしまいます。このようなとき、夫の借金を理由として離婚することができるのでしょうか?
夫の借金を理由として離婚できるかどうかは、離婚手続きの種類によって異なります。
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(1)協議離婚、調停離婚の場合
協議離婚や調停離婚で離婚する場合には、夫婦が合意しさえすれば離婚が成立します。 協議離婚の場合には、夫婦が自分たちで離婚届を作成して市町村役場に提出するだけで離婚できるからです。この場合、子どもの親権者以外の離婚条件を決める必要すらありません。
調停離婚の場合には、家庭裁判所で話し合いをしますが、調停手続の中で、夫婦が離婚に合意したら離婚が成立します。調停で離婚する場合には、調停成立後に家庭裁判所から送られてくる「調停調書」を市町村役場に持参して離婚届を提出する必要があります。
このように、協議離婚や調停離婚の方法で離婚するときには、離婚理由は問題になりません。夫の借金をはじめとして、どのような事情であっても夫婦の双方が離婚を受け入れてさえすれば離婚できます。 -
(2)離婚裁判
離婚調停をしても夫婦が離婚することや離婚条件に合意できない場合には、調停は不成立となってしまいます。この場合、離婚裁判をしないと離婚できません。
離婚裁判で離婚するためには、「法律上の離婚理由」が必要です。法律上の離婚理由は、民法770条1項各号に定められている以下の5つです。
- ① 不貞
- ② 悪意の遺棄
- ③ 3年以上の生死不明
- ④ 回復しがたい強度の精神病
- ⑤ その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
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(3)不貞で離婚できるケース
まず、夫が借金している場合にも、夫が他の女性と不貞(不倫、浮気)しているのであれば、①の「不貞」を理由として離婚が認められます。配偶者の一方が不倫や浮気をしていると、夫婦関係の維持が困難になるからです。
ただし、不貞を理由として離婚するためには、夫と不倫相手との肉体関係を証明する必要があります。 -
(4)悪意の遺棄で離婚できるケース
夫が家にも帰ってこず、働けるにもかかわらずパチンコばかりして借金を繰り返している場合などには②の「悪意の遺棄」によって離婚が認められる可能性があります。夫が借金していて「お金がない」と言って妻に生活費を渡さない場合にも、悪意の遺棄と評価されて離婚できる可能性があります。
夫婦が別居している場合、別居後に夫から生活費(婚姻費用)も支払われていない場合にも、悪意の遺棄が成立して離婚が認められます。
夫が借金している場合、③④に該当することは少ないでしょう。借金癖があることだけでは「回復しがたい強度の精神病」になりません。 -
(5)婚姻関係を継続し難い重大な事由について
5番目の「その他婚姻関係を継続し難い重大な事由」は、①~④にも匹敵する程度に重大な事由です。
単に「夫が借金している」というだけでは、この事由に該当しないと考えられています。たとえば、夫が消費者金融で借金しているとしても、きちんと働いていて生活も成り立っているという場合には離婚裁判をしても離婚できないでしょう。
これに対し、夫が稼いだお金をすべてギャンブルにつぎ込んで借金を繰り返し、家族の生活が破綻しているケースではこの事由に該当する可能性があります。
もともとは夫の借金がきっかけで夫婦が不仲になった場合でも、夫婦が別居して長期間が継続して結婚生活の実態がなくなっている場合などでは、離婚裁判によって離婚が認められる可能性があります。 また、夫が借金しているだけではなく暴力癖があり、DV被害を受けている場合やモラハラの被害を受けている場合などにも、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚できる可能性があります。
以上のように、夫が借金している場合、借金のみを理由として裁判離婚することは難しいですが、他の事情によって離婚が認められるケースも多いです。
夫に不貞や悪意の遺棄(生活費不払い)、DVなどがある場合には、慰謝料請求することも可能ですので、夫の借金で離婚できるかどうかわからない場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
2、離婚後、夫の借金も財産分与の対象となる?
夫の借金が原因で離婚する場合、問題になるのは夫の借金の取り扱いです。離婚後、妻は夫の借金を背負う必要があるのでしょうか?
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(1)財産分与はあくまでプラスの財産のみ
離婚の際、夫婦の共有財産を夫婦が2分の1ずつ分け合いますが(財産分与といいます)、夫の借金は基本的に財産分与の対象になりません。 なぜなら、財産分与の対象は、あくまでプラスの財産(積極財産)だけだからです。夫婦が離婚したことをきっかけに負債が夫婦2分の1ずつになってしまうと、債権者にしてみれば債務者を勝手に変更されてしまうこととなり、不利益が及びます。
たとえば夫の返済能力を信用して貸付をしたのに、離婚したら無収入の妻にしか請求できなくなると、債権の回収可能性が減ってしまいます。これは債権者にとっては想定外の事態となることでしょう。また、妻は債権者と金銭消費貸借契約を締結していません。借金の返済義務は個人ごとに発生するものなので、妻自身が借入をしていない以上、債権者が妻に対して支払い請求する根拠がありません。
以上より、借金などの消極財産は財産分与の対象にならず、夫名義の借金があっても、基本的に妻には負担が及びません。離婚後に、夫の債権者から支払いが来ることもありませんし、夫に対して借金残額の2分の1の金額を支払う必要もありません。
離婚交渉で夫から借金の負担を要求されたときには、はっきり断ると良いでしょう。 -
(2)夫が借金しているいくつかパターン
妻に夫名義の借金について、財産分与により負担することはないとしても、他の理由によって妻に負担が及ぶ可能性があります。
夫の借金には、夫が個人的な事情によって借金をするパターン、妻が夫の借金の連帯保証人となっているケースも考えられます。また、夫婦の共同生活を維持するために借金するパターンもあります。それぞれによって離婚後の借金の取扱いが異なるので、以下ケースごとにみていきます。 -
(3)夫が単独で作った借金は分与されない
まずは、夫が単独で借金したケース、たとえばギャンブルのためにサラ金からお金を借りた場合や投資に失敗して借金した場合、会社の営業費の立て替えがかさんで借金した場合などを取りあげます。このような場合には、上記の原則通り、妻には何の責任も及びません。
離婚したからと言って、夫の借入先の消費者金融やカードローン債権者から妻に督促が来ることはありませんし、夫から「2分の1を負担してほしい」と言われても断ることができます。 -
(4)妻が夫の借金の連帯保証人になっている場合
これに対し、妻が夫の借金の連帯保証人や保証人になっている場合には注意が必要です。この場合、妻は「(連帯)保証人」としての地位にもとづいて責任を負うからです。
連帯保証人とは、主債務者と同様に責任を負い、負債について全額の支払い義務を負う人のことです。たとえば、自宅を購入するときに住宅ローンを設定するケースがありますが、そのとき、妻が夫の住宅ローンの連帯保証人になっているケースが多いです。
この場合、主債務者である夫が住宅ローンの返済をしなければ、債権者は妻に対して全額の支払い請求をしてきます。連帯保証人は、債権者に対して「夫に先に請求するように」などと反論できませんし、自分の負担部分も主張できません。ローンの全額を支払う必要があります。ただし、支払った分は、後に夫に対して返還請求することができます。
また、妻が夫の負債の「連帯債務者」となっている場合もあります。連帯債務とは、複数の債務者が、全体の負債の返済義務を負うことです。たとえば住宅ローン借入をする場合などに妻を連帯債務者とするケースがあります。
連帯債務の場合、離婚後に債権者から支払い請求が来たら、妻も残ローン全額の支払い義務がありますが、自分の負担割合を超えて支払いをしたら、超過分は夫に対して返還請求することができます。 -
(5)婚姻生活を送るうえで必要となった借金
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負うとされています(民法761条)。
つまり、日常生活を送る際に発生した「日常家事債務」については、夫婦の一方が負った場合には、法律上当然に連帯債務が発生するとされているのです。
日常家事債務とは、日常生活を送る際、夫婦生活を維持するために必要に応じて負担した債務です。たとえば家賃や光熱費の支払い、食費や最低限の被服費、子どもの教育費やその他の生活必需品を購入するために負った債務をいいます。
したがって、日常家事債務にもとづく連帯責任は、夫婦が離婚した後も残ります。夫婦の生活を維持していくために夫がやむなく借金した場合などには、離婚後も妻に責任が及び、支払いをしなければならない可能性があるのです。
以上のように、夫が借金したとき、借金の種類や原因によっては離婚後も妻に引き継がれてしまう可能性があります。住宅ローンやその他の借入について、連帯保証や連帯債務の心当たりのある場合には、離婚手続きを進める前に、各種の契約書を探して内容をチェックしておきましょう。
「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
3、夫の借金が将来子どもの負担になる?
離婚するときに夫婦の間に未成年の子どもがいる場合、母親(妻)が子どもを引き取って親権者になることが多いです。すると、妻が夫の借金の支払いをしなくて良いケースであっても、「子ども」に夫の借金が引き継がれてしまう可能性があるので、注意が必要です。子どもと夫は「親子関係」となるので、夫が亡くなったときには子どもが夫の相続人になるからです。
夫が離婚後、死亡するまでの間に借金を完済していたら子どもに引き継がれることはありませんが、借金した状態で死亡したら、子どもが法定相続分に従って夫の借金を負担しなければなりません。子どもが引き継ぐ借金は、夫の死亡時に残っていた借金額が基準となります。離婚時の借金ではありません。
そこで、夫が離婚後に借金を繰り返して借入額が増えていた場合には、その増えた金額が基準となり、子どもが多額の借金を引き継ぐ可能性があります。
また、夫が再婚した場合には、夫の新しい配偶者や再婚相手との間の子どもも相続人となります。この場合、前婚の子どもと新しい妻との子どもの法定相続割合はまったく同じです。たとえば、夫が再婚して子どもが2人生まれ、子どもが3人となった場合、それぞれの子どもが3分の1ずつ夫の借金を相続することとなります。
もちろん、夫の借金については、相続放棄の手続をとることによって、負担することを防ぐことも可能ですが、相続放棄は、相続人であることを本人が知った日より3か月以内にしなければならないので、注意が必要です。
4、夫の借金を理由に離婚しても養育費をもらえる?
夫が借金している場合、子どもの養育費をきちんと支払ってもらえるか心配になる方もおられます。
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(1)夫に借金があっても養育費支払い義務がある
まず、借金があっても養育費の支払い義務はあります。子どもの親権者にならなかった親は子どもを実際に監護養育することはなくなりますが、子どもとの親子関係が切れない以上、子どもの生活を維持する必要があるためです。
養育費は生活保持義務という強い義務であり、養育費の支払い義務者は子どもに対し「自分と同水準の生活」を送らせる必要があります。そこで、夫が住宅ローンなどを抱えていて返済が苦しい状態でも、サラ金やカードローンの借金を負っているとしても、そういったことは基本的に度外視して、養育費を請求できます。
養育費の金額は、夫婦のお互いの収入の金額に応じて決まります。家庭裁判所が養育費の算定基準を定めているので、こちらの表にあてはめて計算すると良いでしょう。参考:養育費計算ツール
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(2)夫が自己破産しても養育費支払い義務が残る
夫が借金をしている場合、自己破産してしまうケースがあります。この場合、養育費も免除されてしまうのではないか、心配される方が多いです。
自己破産によって負債の責任を免れることを「免責」と言いますが、養育費は、自己破産によっても免責されません。破産法上、「非免責債権」という免責がなされたとしても責任を免れない債権があり,養育費や夫婦の婚姻費用、税金や健康保険料などの債権はこれにあたるとされているからです。
自己破産までに養育費の滞納がある場合にも、自己破産によって免責されないので滞納額を全額請求することができますし、自己破産の手続き中にも養育費の支払いを請求し続けることができます。
もちろん、手続き後も養育費の支払いを受けられます。養育費支払い義務が公正証書や調停調書、判決書などによって明らかになっている場合には、夫が必要な支払いをしないときに給料や預貯金を差し押さえることによって養育費を回収することも可能です。 -
(3)養育費減額調停について
ただし、夫に養育費の支払能力が無くなった場合には、夫の方から養育費減額調停を起こされる可能性があります。養育費減額調停が申し立てられると、家庭裁判所で養育費の金額を決め直します。
夫が離婚後失業したり病気になったりして、離婚時には予測できなかった事情変更によって養育費の支払いができなくなった場合には、養育費の減額が認められる可能性が高いです。夫が自己破産をして生活保護を受けるようになった場合などには、養育費の支払いが停止されます。
ただ、「借金しているので養育費の支払いができない」という理由によっては調停をしても養育費が減額されることがありません。また、養育費減額調停で養育費を決め直すときにも、家庭裁判所の定める養育費の算定表を使って計算します。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
5、まとめ
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以上のように、夫の借金で離婚した後、夫の借金の負担が妻に及ぶことは基本的にありません。しかし、夫の借金の連帯保証人になっている場合や、夫婦の日常家事債務で夫が借金している場合には、妻にも負担が及ぶ可能性があります。
離婚後思わぬ不利益を受けないようにするためには、離婚時に負債の負担方法についても取り決めておくべきです。対応に迷われたときには弁護士がアドバイスいたしますので、お気軽にご相談下さい。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
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[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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