配偶者が離婚に応じてくれなかったら…あなたが希望すれば離婚できる5つの理由
配偶者との離婚をあなたが決意しても、配偶者が離婚に応じてくれない、ということは多々あります。離婚は必ずしも、あなたひとりが要求するだけでは成立しないため、まずは互いに話し合い、説得していく必要があります。
しかし、民法は、一方が離婚を拒んでいても離婚できるという場面を5種類定めています。
今回は、相手が離婚を拒んでいても離婚が認められうる「法定離婚事由」についてご案内します。
目次 [非表示]
離婚が成立する条件
原則として一方の意思だけでは離婚できない
離婚を成立させるためには、3つの方法があります。
まず、最初に考えることになるのが、日本でもっとも多い「協議離婚」です。
協議離婚とは、民法763条で「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」規定されているとおり、夫婦が互いに話し合い、離婚に合意するものです。
つまり、結婚したときと同様、当事者ふたりが離婚することに同意するということです。原則として一方の意志だけでは離婚できないと言われているのは、このためです。
配偶者と協議によって離婚することが合意できなければ、家庭裁判所で行われている調停制度を利用する「調停離婚」を目指すことになります。調停においては、互いに言い分を調停委員に伝え、互いの主張の落としどころを調停委員が提案するという流れです。
ここでも基本は話し合いであり、どちらか一方だけが離婚をしたいと主張しても、すんなり離婚できるわけではありません。ただし、次の段階となる裁判の基盤となる性質もあることから、民法上で定められた離婚事由を軸に判断されていくことになります。
調停でも離婚の合意が得られなければ、審判離婚、もしくは裁判離婚となります。審判や裁判で「あなたの離婚請求を受理する」という判決がなされた場合、相手が離婚したくないと主張していても離婚することができます。
相手が拒否しても離婚しうる法定離婚事由とは
民法は、審判や裁判において離婚が認められうる「法定離婚事由」について、以下のように規定しています。
-
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 1号 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 3号 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- 5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
- 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
配偶者が、これら5種類の事由にあてはまった場合、たとえ配偶者が離婚に納得していなくても、その配偶者との離婚が認められうるという趣旨の規定です。
この規定は、最終的な判断基準として機能するため、協議段階で弁護士が介入したときや調停の場においても、主張の根拠となります。
一方、あなた自身が、これらの事由に該当すると評価され「有責配偶者」として扱われる場合、あなたからの離婚請求は、原則として認められません。
相手が不貞行為をしていたとき
不貞行為(民法770条1項1号)
「不貞な行為」とは、自由な意思に基づいて配偶者以外の異性と性的な関係を結ぶこと、いわゆる不倫・浮気を指し、強姦されたような自由な意思に基づかないケースは該当しません。また、異性との行為であることが前提のため、同性と性的な行為を行っても不貞にはあたりませんが、民法770条1項5号「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
もっとも、性的な関係に至らないと評価される行為の証拠しかない場合、不貞行為があったとの証明とは認められない可能性もあります。
- SNSやメールで仲よくやりとりをしているログ
- 手をつないで道を歩いていた
一方、誰が見ても性行為を伴う関係があると判断できる具体的な内容メールや、ホテルに同行して出入りしている写真などであれば、不貞行為の証拠と認められやすくなります。
不貞の疑いがある場合、廃棄されてしまう前に証拠を集めることをおすすめします。
以下の「不倫・浮気の慰謝料を請求したい方へ」のページでは、より詳しく慰謝料請求に関するポイントや注意点を解説しています。あわせてご一読ください。
不貞行為を理由に離婚できる一例
配偶者による不貞行為によって、婚姻関係が破壊された場合が典型です。
相手から悪意の遺棄を受けていたとき
悪意の遺棄(民法770条1項2号)
民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」として、互いに扶助義務を負うことを定めています。
悪意の遺棄とは、この夫婦間における相互扶助義務を正当な理由がないのに果たしていなかったケースに適用されます。
悪意の遺棄を理由として離婚できる一例
具体的には、以下のような状況があると判断されたとき、悪意の遺棄があったとして離婚の訴えが認められる可能性があります。
- 収入があるのに生活費を支払わない
- あなたが専業主婦なのに生活費を渡さない
- あなたが病気で働けないのに医療費などを渡さない
- 互いの合意がないのに別居を始めた
- 理由なく家出を繰り返す
- あなたを家から閉め出し、帰宅できないようにする
一方、次のようなケースでは悪意の遺棄として認められません。
- 単身赴任による別居
- 収入が少ないため、医療費を工面できない
- 病気で働けないため、生活費を渡せない
配偶者が3年以上生死不明の状態であるとき
生死不明(民法770条1項3号)
生死不明状態とは、完全に行方不明となっていて、生死もわからない状態を指します。
配偶者と連絡が取れなくても住民票などをたどれば居場所がわかる場合、あるいは、居所が不明でも生きていることは明確にわかっている場合は、生死不明にはあたりません。
3年以上生死不明を理由として離婚する前に
配偶者が、居場所だけでなく、生きているのか死んでいるのかわからない状態が3年以上続いていることを証明できれば、離婚が認められます。
もっとも、配偶者に財産があり、お子様がいる場合などは「失踪宣告」の利用も検討してください。
失踪宣告とは、民法30条以下に規定されている制度で、行方不明の人を法律上死亡したことにするものです。失踪宣告には、生死不明状態が7年間明らかでない場合に適用される「普通失踪」と、戦争や震災、船の沈没などの危難にあったことが明らかになったまま1年が経過したときに適用される「特別失踪」があります。
失踪宣告を利用した場合、配偶者が残した財産を相続人が相続できるようになります。
一方、民法770条1項3号を根拠に離婚した場合、通常の離婚と同じ扱いになるので注意が必要です。
配偶者が回復の見込みがない強度の精神病にかかっているとき
回復の見込みがない強度の精神病(民法770条1項4号)
「回復の見込みがない」との文言からもわかるように、単に配偶者が精神病であると診断されただけでは離婚することはできません。
「悪意の遺棄」で解説したとおり、夫婦関係にある間は互いに扶助しあわなければならず、精神病で苦しんでいるときにも、支えあうのが原則とされています。
しかし、例外的に、意思の疎通も難しい精神病にかかってしまい、回復の見込みがないと認められるような場合には、夫婦関係の継続を強制できないと判断されるのです。
回復の見込みがない強度の精神病を理由に離婚できる一例
前述したとおり、民法770条1項4号を理由として離婚する場合は、「回復の見込みの有無」がもっとも重視されます。うつ病やパニック障害など、適切な治療を受けることで回復の見込みがある精神病の場合は、民法770条1項4号を理由として離婚することは難しくなります。
さらに、民法770条1項4号を理由に離婚を求める場合、離婚後の相手の生活にも配慮する必要がある点には注意が必要です。
過去の判例では、不治の病にかかった配偶者と離婚する際、離婚後の生活や療養に至るまで、できる限り変わらない環境を保てるための配慮が必要であり、その目途がつかなければ離婚できないという判断を下しています。
言い換えれば、配偶者がこれまでと変わらない環境で治療に専念でき、生活できる環境さえ整えることができれば、離婚が認められるということです。
婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)
民法770条1項の1号から4号までは、離婚が認められるべき場合を具体的に定めています。
しかし、それらに該当しなくても、配偶者が夫婦関係の修復が難しくなるほどの行動をしていたというケースは多々あります。その場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして民法770条1項5号を理由として離婚が認められる可能性があります。
夫婦関係を継続できないと感じる理由は人それぞれですが、あくまで裁判所において「婚姻を継続できないほどの重大な理由である」と認められる必要があります。性格の不一致なども含まれますが、それだけでは「重大な事由」と認められない可能性が高いです。
婚姻を継続し難い重大な事由を原因として離婚できる一例
次のようなケースで「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められる可能性があります。
もっとも、それ自体が重大な事由といえるかだけでなく、他の事情(暴言、浪費癖など)も考慮したうえで、離婚が認められるかを判断するのが原則です。
ドメスティック・バイオレンスやモラルハラスメントなど
配偶者からの虐待があったと判断されるケースです。
直接暴力を振るわれるDVや、言葉や態度で精神的に追い詰められるモラハラなどがあり、危険を感じて避難したような場合は、通常、民法770条1項2号の「悪意の遺棄」とは評価されず、むしろ配偶者のDVやモラハラ行為が「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められる可能性があります。
配偶者の親族からの虐待を、配偶者は知っているのに放置した・助長していた
上記のDVやモラハラに近い事例です。配偶者が間接的にでも虐待に加担したといえるような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められる可能性があります。
性の不一致、セックスレス、性行為の強要
嗜好が異なっていたり、強要したり、拒み続けている場合は、婚姻を継続できない理由であると判断される可能性があります。
そのほかには、以下のような事情も「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められる可能性があります。
- アルコール中毒・薬物依存
- 犯罪による服役(特に、長期間の場合)
- 過剰な宗教活動
- ギャンブルや浪費
もし配偶者が離婚に応じない場合、これまでにご紹介した「法定離婚事由」を根拠に離婚を求めていくことになります。争われた場合には、証拠を揃えることが必要となることもあり、一筋縄ではいかないこともあります。
自分だけでは証拠を揃えて離婚を求めることが難しいと考えた場合には、ひとりで悩まず、離婚問題に詳しい弁護士に相談して適切なアドバイスとサポートを受けることをおすすめします。