離婚で裁判になったとき「和解」を選ぶメリットは?
「離婚しよう」と自分が決意しても、相手が合意してくれないために離婚がすすまない、という事態はしばしば起こります。
夫婦で話し合って離婚の合意ができない場合には、最終的に裁判まで発展してしまう可能性もあり、裁判で徹底的に争うとなると、結果が出るまでに時間もかかるだけでなく、金銭的にも精神的にも大きな負担も生じてしまいます。
しかし、裁判中であっても「和解」を成立させることで、裁判につきものの負担を軽減することができるのです。
本コラムでは、和解による離婚を行う方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説いたします。
1、離婚するための4つの手続きと、和解離婚
離婚には、当事者である夫婦が話し合いを行う「協議離婚」と、第三者である裁判所が介入する「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」、あわせて4種類が存在します。
もっとも多いのが協議離婚であり、離婚全体の約9割を占めています。次に調停離婚、裁判離婚と続きます。審判離婚は年間100件程度と、最小数になっています。
以下では、それぞれの手続きの流れや概要について、解説いたします。
●協議離婚
協議離婚とは、夫婦間で話し合い(協議)を行ったうえで、「合意」が成立した場合に行う離婚のことです。
協議離婚は夫婦二人が納得すれば成立するため、家庭裁判所での手続きなどは不要となります。市区町村の役場に離婚届を提出して、その離婚届けが正式に受理された段階で、離婚が成立します。
●調停離婚
調停離婚とは、夫婦間での離婚協議がまとまらなかった場合に、家庭裁判所に対して「離婚調停」の申し立てを行う方法です。
日本では、夫婦間の合意がまったく成立していない場合であっても、離婚訴訟をいきなり起こすことはできません。訴訟の前には、必ず離婚調停を行って夫婦間で話し合いを行うことが求められるのです(これを、「調停前置主義」といいます)。
離婚調停では、調停委員を交えて、夫婦それぞれで個別に話し合いが行われます。夫婦それぞれの言い分が1人ずつ聞かれるため、お互いに顔をあわせる必要がなく、比較的冷静に話し合いがすすむ可能性が高いのです。
この離婚調停の末、夫婦間で離婚の合意がとれると、調停が成立します。そして、調停の成立と同時に、離婚も法律的に成立するのです。戸籍の変更は調停成立後に届け出を行うだけ、という仕組みになっています。
裁判所を利用するとはいえ、調停の成立は、あくまで夫婦間の合意によります。したがって、合意にまで至らなければ、調停離婚は成立しません。また、調停では夫婦たち本人が必ず出頭しなければ成立しない、というルールがあります。
したがって、直前まで離婚の合意がされていたとしても、調停成立の日にどちらかが裁判所に出頭しなかった場合、調停離婚をすることはできないのです。
●審判離婚
調停離婚が成立しない場合には、審判離婚を行う方法があります。
審判離婚とは、調停の経緯をふまえたうえで「審判による離婚が妥当である」と判断した家庭裁判所が、離婚を認めるための「審判」を行う制度です。
夫婦の片方が離婚について争っており合意がとれていない場合には、審判離婚はできません。審判離婚が成立するのは、離婚に関して実質的に合意がとれているが、どちらかが入院あるいは入獄しているなどの特別な事情があり、裁判所に出頭できない場合のみになります。あくまで特殊な状況に対応するための制度であるので、審判離婚は全国で年間100件程度しか成立しないのです。
調停離婚と同様に、審判が行われた時点で、審判離婚は成立します。
●裁判離婚
夫婦間で合意がとれないため協議離婚や離婚調停が成立せず、審判離婚ができるような状況でもない場合には、家庭裁判所に「離婚訴訟」を提起するという手段があります。
訴訟離婚を成立させるためには、婚姻の状況が民法で定められた「離婚事由」に当てはまる場合に限ります。
離婚事由の具体的な内容は、以下の通りです(民法770条1項)。
- 相手方配偶者に不貞行為があったこと
- 相手方配偶者に悪意で遺棄されたこと
- 相手方配偶者の生死が3年以上明らかでないこと
- 相手方配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
原則的に、上記の離婚事由に該当しない場合は、訴訟離婚が成立することはありません。
さらに、離婚事由に該当する場合であっても、家庭裁判所が「婚姻を継続するべきだ」と判断した場合には、訴訟離婚が成立しない場合があるのです。
審理の結果、離婚事由が認められて、判決が確定した段階で、正式に離婚が成立することになります。
また、離婚訴訟の被告側(訴訟を提起された側)が、訴訟の途中で原告側(訴訟を提起した側)の請求を全面的に受け入れた場合には、その時点で離婚が成立して、裁判は終了となります。このようなかたちで成立する離婚は「認諾離婚」と呼ばれます。
そして、訴訟手続き中であっても、当事者同士で「離婚をする」旨についての和解が成立すれば、離婚ができるのです。これを、「和解離婚」といいます。
和解離婚と認諾離婚の詳細については、後述で改めて説明いたします。
2、離婚裁判を起こすための具体的な流れは?
離婚裁判を起こすために必要となる条件から、裁判の終了にいたるまで、具体的な流れを解説いたします。
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(1)離婚裁判を起こすための条件
先述した通り、日本の家庭裁判所には調停前置主義が存在するため、離婚裁判を起こすためにはその前に離婚調停を行うことが前提とされています。
したがって、たとえ夫婦間の協議で合意が成立しなかった場合にも、まずは離婚調停を行ってもういちど話し合うことが必要とされるのです。 -
(2)離婚裁判を起こす前の準備
離婚裁判を起こすためには、以下の書類を準備する必要があります。
- 訴状
- 夫婦の戸籍謄本
- 離婚調停不成立調書
くわえて、離婚事由に該当する事情が存在することを立証する証拠も必要とされます。
また、裁判を起こす前に、以下の費用を支払う準備もしておきましょう。
- 裁判提訴手数料(印紙で納付)
- 予納郵券(裁判所からの書類送付に用いる郵便切手)
- 弁護士費用(弁護士に依頼する場合のみ)
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(3)家庭裁判所への提訴
離婚裁判は、原則として、夫婦どちらかの住所地を管轄している家庭裁判所に提起します。
訴訟を提起するためには、上述した必要書類や印紙・郵券を裁判所に郵送または直接持参して、提出することが必要になります。
提出された訴状は、不備がないかどうか家庭裁判所でチェックされた後に、被告に送付されます。口頭弁論が開始されるのは、そこから約1か月後となります。 -
(4)口頭弁論と尋問
口頭弁論とは、裁判の場で、原告側と被告側が自身の主張や反論を行ったり、言い分を裏付けるため証拠を提出したりする手続きのことを指します。口頭弁論の開催頻度は、一般的には、1か月に1回程度になります。
口頭弁論では、最初に原告側が提出した訴状の内容について、被告側が反論して、それに対して原告側が再反論する……という流れが繰り広げられます。主張は主に書面で行われるため、自分の側の主張を記した「準備書面」を事前に作成したうえで、裁判所と相手方に提出することが必要になります。
また、口頭弁論の後には「尋問」という手続きが行われます。
尋問には、離婚の当事者に対して行われる「当事者尋問」と、当事者以外で離婚に関する事情をよく知っている人に対して行われる「証人尋問」の二種類があります。
尋問は、法廷にて当事者や承認が弁護士や裁判からの質問に口頭で答える形式で進行します。尋問で発言したことは証拠として採用されて、裁判所の判断の材料となるのです。 -
(5)離婚裁判の終了
離婚裁判が決着する方法は、「判決」、「和解」、「訴えの取り下げ」、「認諾」のいずれかとなります。
口頭弁論は、幾度か繰り返されたのちに、双方の主張と反論、そしてそれを裏付ける証拠がすべて出そろったと家庭裁判所が判断した段階で、終結します。その後、裁判所が双方の言い分をすべて判断した場合に、「判決」が下されます。
判決の結果に不服がある場合は、高等裁判所に控訴をすることができます。ただし、控訴には、判決書の送達から2週間以内にしなければならないという期限の定めがあります。
また、判決が出る前に、裁判官から「和解」が勧告されることもあります。和解勧告にしたがって、双方が改めて話し合ったのちに、離婚の合意がとれれば訴訟は終了となります。
「訴えの取り下げ」とは、訴訟の途中で原告が訴訟そのものを取りやめる行為です。ただし、いったん訴訟が開始すると、訴えの取り下げをするためには被告の同意も必要となるため、一方的に取り下げることはできません。
3、裁判離婚することのメリットとデメリットは?
裁判離婚にはメリットとデメリットがあります。まず、メリットとして以下の2点が挙げられます。
①裁判所による、強制力のある確定的な判断を得られる。
離婚裁判を提起するためには、事前に協議や調停などで夫婦間の話し合いが行われていることが前提となります。
逆にいえば、訴訟にまで至った段階では、もはや話し合いで合意が成立する余地は少なくなっているはずです。しかし、離婚裁判を行うことで、合意の成立が困難な状況であっても、家庭裁判所という第三者が加わることで決着を目指すことができるのです。
さらに、家庭裁判所により出された判決には、強制力が存在します。相手の同意を必要とせずに離婚を行うという点が、裁判離婚の最大のメリットといえるでしょう。
②法律の専門知識に基づいた、客観的で公平な判断が下される。
協議や調停などにおける話し合いでは、お互いの主張と反論が延々と続くだけで、生産的な結論につながらない事態になるおそれがあります。
特に離婚問題では、感情的なもつれが悪化してしまい、話し合いがいつまでも平行線をたどることも珍しくありません。
しかし、裁判離婚では裁判官が客観的な証拠や法律的な考え方に基づいたうえで、判決を下します。当事者である夫婦としても、専門家による公平な判断が下されるために、納得感を得られる可能性が高いでしょう。
一方で、デメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
①時間や費用がかかるため、金銭的・精神的な負担が発生する
裁判手続きにおける最大のデメリットは、終結までに長い時間を要するという点です。
離婚裁判には一般的に1年以上かかることが多く、長引いて2年以上かかることもまれではありません。離婚までに何年もかかるということは、その間、離婚のことに悩まされ続けるということであるため、精神的な負担は多大なものとなるでしょう。
また、裁判に伴う費用の支払いも、経済状況によっては大きな金銭的負担となる可能性があります。
②離婚事由が存在しないと、裁判では離婚が認められない可能性がある。
先述した通り、裁判離婚が成立するためには、離婚事由に該当する事情が存在すると家庭裁判所に認められる必要があります。逆にいえば、離婚事由がない場合には、裁判をしても離婚することはできないのです。
また、裁判においては、当事者の主張を裏付ける証拠が重要となります。たとえ「離婚事由が存在する」と自分では思っていても、証拠によって証明できなければ、裁判離婚は成立しないおそれがあるのです。
4、離婚訴訟中に和解することのメリットとは?
離婚裁判における和解には、離婚訴訟中に夫婦間の合意がとれた場合に成立する「和解離婚」と、被告が原告の言い分をそのまま受け入れることで成立する「認諾離婚」の2種類が存在します。
認諾離婚が成立する例は少ない一方で、和解離婚は、数多くの離婚訴訟で実際に成立しています。和解離婚は、一般的に当事者にとってメリットがある方法であると考えられているからです。
具体的には、以下のようなメリットが存在します。
①離婚が早期に決まる可能性が高い
前述の通り、裁判で判決が出るまでには1年から数年の時間が必要とされます。
しかし、和解離婚であれば、判決が出る前に訴訟を終わらせることができます。長い裁判は原告と被告の双方にとって精神的にも金銭的にも大きな負担となるため、和解離婚を選択して早期解決が行われることが多いのです。
②相手が譲歩してくれる可能性がある
和解を選択した場合、相手の側も態度を軟化させて、子どもの親権や財産分与などについて譲歩が得られる事例が多くあります。そのため、和解離婚では、お互いがより納得できる結果に近付きやすくなるのです。
③裁判離婚よりも条件が良くなる可能性がある
一般的に、裁判離婚と比べて和解離婚の方が離婚の条件が良くなる可能性が高いといえます。
慰謝料などについては一定の譲歩が必要となりますが、和解で相手と金額の合意が得られていれば、相手が実際に支払いを行う見込みは格段に高まります。そのため、お金を受け取れる確実性が高くなるという点も、和解離婚のメリットといえるのです。
5、和解離婚を目指すなら弁護士に相談すべき理由は?
離婚裁判は精神的かつ金銭的な負担が大きいために、和解などの方法でできるだけ早く決着をつけたい、と考える方も多いでしょう。
弁護士に依頼することで、法的な根拠に基づいた適切な主張を行うことができ、手続きの負担を減らせるほか、口頭弁論なども有利に展開できます。そのため、自分が望むような判決に近付くことができるのです。
そして、家庭裁判所による判決のみならず、原告側と被告側との間で成立する和解離婚についても、弁護士に依頼することで和解が成立したり和解案を自分にとって有利なものにできたりする可能性が高まります。和解の内容について弁護士に確認させたり、相手方との交渉に関する戦略について弁護士に相談したりすることができるからです。
そのため、和解離婚を目指している場合にも、まずは信頼できる弁護士に相談することが重要になります。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
6、まとめ
本コラムでは、離婚の裁判手続きの流れや、和解離婚のメリットなどについて解説いたしました。
離婚裁判では判決が出るまでに1年から数年の時間がかかり、精神的にも金銭的にも多大な負担が生じます。そのため、「有利な判決を裁判所に出してもらう」ことにこだわらず、場合によっては和解離婚を目指すことも検討することが、離婚を検討している方にとっては最善の戦略であるといえるのです。
ベリーベスト法律事務所の弁護士であれば、ひとりひとりの個別の状況に寄り添い、裁判の状況や相手方との交渉の状況などを戦略的に考慮しながら、柔軟な対応を行うことができます。
裁判離婚を検討されている方や、離婚裁判が長引いて和解離婚を検討されている方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にまでご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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