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夫婦財産契約(婚前契約)の基礎知識と弁護士へ依頼するべき理由

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更新日:2022年02月21日  公開日:2021年04月08日
夫婦財産契約(婚前契約)の基礎知識と弁護士へ依頼するべき理由

欧米では、夫婦財産契約のことは「プレナップ」と呼ばれ、富裕層や著名人などの間で普及しています。これまでに耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

夫婦財産契約は、主に離婚時の財産分与で揉めることがないようにするために利用される契約書です。日本では民法において、夫婦財産契約制度が設けられていますが、利用している夫婦は少ない状況です。しかし、夫婦ともに実業家である場合など、婚姻前のお互いの資産が多い場合には、婚姻前に将来の財産の分け方について話し合っておくメリットは、非常に大きいと言えます。

本コラムでは、夫婦財産契約で決めることができる事柄や注意点、実際にはどのような手順で作成していくのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、夫婦財産契約(プレナップ)を結ぶべき理由

夫婦財産契約(プレナップ)とは、どのような契約のことをいうのでしょうか。また、夫婦財産契約を結ぶメリットがあるのでしょうか。詳しく見ていきます。

  1. (1)夫婦財産契約(プレナップ)とは

    夫婦財産契約とは、婚姻しようとする男女が、婚姻前にする契約を意味します。
    厳密には、婚姻中の財産の管理方法や離婚時の財産分与、広い意味では、家事の分担などについての取り決めなども含めた婚姻前の契約を意味し、“婚前契約”と呼ばれることもあります。

    夫婦財産契約を締結していないときは、夫婦の財産は、民法に基づいて、次のように分類されます(法定財産制)。


    【特有財産】
    夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中に相続や贈与などで得た財産

    【共有財産】
    夫婦のいずれに属するか明らかでない財産


    日本では、夫婦財産契約を結んでいる夫婦は少ないため、大多数の夫婦は民法の規定に基づいて、法定財産制を前提としているといえます。

  2. (2)法定財産制の不都合性

    法定財産制を前提とすると、特有財産は財産分与の対象とならず、共有財産のみが財産分与の対象となります。そして、特有財産に該当しないものはすべて共有財産とされますので、特有財産に該当しない財産は、財産分与の対象とされ、離婚する場合は夫婦で分ける必要が生じます。

    このように聞くと、離婚の際に確保したい財産がある場合には、当該財産を特有財産だと主張すれば良いとお考えになるかもしれません。しかし、裁判所の判断を受ける際には、特有財産であると認められるためには、該当する財産が特有財産であるということを立証しなければなりません

    たとえば、親から相続した不動産のようなものであれば、不動産登記を確認すれば明確ですので、特有財産の立証は容易です。一方、立証が難しいのは、預貯金などのケースです。婚姻時の預貯金が離婚時にもそのまま一切変動なく残っているのであれば立証は容易ですが、婚姻期間中に一切触れていないということは少なく、婚姻期間中の入金や出金によってその残高には変動があるのが通常です。
    そして、婚姻時の残高と離婚時の残高を比較して、その差額が特有財産であると主張するだけでは、特有財産であるとは認められません。その場合には、婚姻開始時から破綻時までのすべての取引履歴を開示して、残高が一定の額よりも下回ったことがないことなどを示すなどして、特有財産であることを立証していかねばなりません。婚姻期間が短ければよいですが、長期になると取引履歴がない場合もあり、立証は非常に困難です。

    また、財産分与にあたっては、共有財産をどのような割合で分けるかということも問題になりますが、実務上は2分の1の割合で分けるのが一般的です。
    もっとも、会社経営者といった個人の特殊な才能や能力、医師、弁護士などの特別な資格によって夫婦の財産が形成されたという事情があるときには、財産分与の割合を修正するということも検討できます。ただし、財産分与の割合修正を主張する側が、その具体的な事情を主張・立証しなければなりませんが容易ではありません

  3. (3)夫婦財産契約のメリット

    夫婦財産契約のメリットは、主に離婚時の財産分与のトラブルを防止するという点にあります。すなわち、夫婦財産契約によって、あらかじめ特有財産と共有財産の範囲を明確にしておくことで、財産分与における対象財産選定のトラブルを回避することが期待できます。

    たとえば、会社経営者の方は自社株式を保有していることがありますが、共有財産として財産分与の対象に含まれてしまうと、離婚後も元配偶者が会社の意思決定に関与することになり、円滑な会社経営を阻害するおそれがあります。しかし、夫婦財産契約において、自社株式については特有財産とするなどと決めておけば、争いを事前に回避することができます。

    また、夫婦の一方の保有資産が多く、婚姻期間中に資産運用によって多額の資産を形成する可能性があるような場合には、対象財産の選定だけでなく、財産分与の割合についても夫婦財産契約で決めておくことと良いでしょう。このような取り決めをしておくことで、万が一離婚することになった場合でも、夫婦双方の寄与割合に応じた妥当な財産分与割合を導くことができます。

    このように、特に資産家の方においては、将来の保険として婚姻前に夫婦財産契約を検討する価値はあるといえるでしょう。

2、夫婦財産契約の法的な効力と有効性

夫婦財産契約には、どのような法的効力があるのでしょうか。夫婦財産契約で取り決めることができる内容や、その有効性について説明します。

  1. (1)夫婦財産契約で定めることができる内容

    夫婦財産契約では、民法760条から762条までに定められている法定財産制とは異なる夫婦独自の内容を定めることができます。

    • 婚姻費用の分担(民法760条)
    • 日常家事に関する債務の連帯責任(民法761条)
    • 夫婦における財産の帰属(民法762条)


    この他、家事や育児の負担、浮気・不倫があったときの慰謝料の金額、離婚時の親権・養育費などについても定めることができます。

  2. (2)夫婦財産契約で定めることができない内容

    前述のように、お互いが合意をすればその内容は自由に定めることができますが、公序良俗に反するような内容を定めたときには、無効になることがあります。
    たとえば、婚姻の本質を否定するものや、第三者を害するおそれがあるものは無効となります。具体的には、次のような条項は無効になると考えられます。

    • 同居・扶助の義務を否定する条項
    • 著しく不平等な条項
    • 日常家事債務の連帯責任を否定する条項
    • 夫婦どちらかの申し出によって自由に協議離婚できる旨の条項
  3. (3)登記をする必要はある?

    民法756条では「夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない」と規定しています。

    登記をすること自体は、夫婦財産契約の成立要件とはされていません。登記をしていなくても夫婦間では有効です。しかし、法定財産制と異なる財産の帰属を定めたときには、登記をしなければ配偶者以外の第三者に権利を主張することができなくなってしまいます。つまり、登記をしていなければ、不当に財産を処分されてしまったとしても、それを取得した第三者から取り戻すことはできなくなってしまうのです。
    夫婦財産契約においては、財産関係について取り決めがなされることがほとんどですので、必ず登記をするようにしてください。

    なお、夫婦財産契約を公正証書にしておけば、登記はいらないと誤解されている方もいますが、公正証書は公証役場において公証人が作成する公文書であり、民法が定める「登記」とは全く別のものです。そのため、公正証書で定めたからといって、第三者に対してその内容を主張できるわけではありません。

    また、一般的に公正証書を作成するメリットとして、裁判手続きを経ることなく強制執行を可能にするという効果が挙げられますが、夫婦財産契約については、強制執行を可能にする効力は与えられない可能性が高いと言えます。
    もちろん、公正証書としておくことで、実際に離婚する際に、婚前契約の締結やその内容を立証することが容易になりますから、一定の効果はありますが、登記をしておかなければ安心はできません。

3、夫婦財産契約を婚姻後(結婚後)に変更できるのか

すでに婚姻をしている方で、今から夫婦財産契約を作りたいと考える方もいるでしょう。また、婚姻前に夫婦財産契約を締結したものの事情が変わったため、その内容を変更したいと考える方もいるかもしれません。そのようなケースについては、どのように対処するとよいのでしょうか。

  1. (1)夫婦財産契約を変更することはできるのか

    民法758条1項は「夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない」と定めています。したがって、夫婦財産契約の内容は原則として変更することはできません
    これは、婚姻後の変更を認めると第三者に不測の損害を与えるおそれがあることや、夫婦の一方が他方による威圧によって変更を迫られる危険があるという理由です。

    ただし、例外はあります。夫婦財産契約によって夫婦の一方が財産の管理を委ねられている場合において、その者が管理の失当により財産を危うくしたときには、財産の管理者を自己に変更するように家庭裁判所に請求することができます(758条2項)。また、管理者の変更とともに、共有財産の分割を家庭裁判所に請求することができます(758条3項)。

  2. (2)婚姻後に夫婦財産契約を締結することができるのか

    民法755条は、夫婦財産契約については、「夫婦が、婚姻の届出前に」契約をするということを要件としています。そのため、民法が定める夫婦財産契約を婚姻後に締結することはできません

    もっとも、夫婦財産契約という形式でなければ、夫婦がお互いに合意した内容において、公序良俗に反しない範囲で自由に契約を定めることができます。
    ただし、婚姻後に夫婦間で結んだ契約については、民法754条において、いつでも夫婦の一方から取り消すことができるとされていますので、夫婦財産契約の拘束力とは大きく異なるという点に注意が必要です

4、夫婦財産契約を作成する場合に弁護士へ依頼するメリット

夫婦財産契約は、原則として婚姻後に内容の変更をすることは認められていません。そのため、契約締結にあたっては将来のあらゆる状況の変化を想定して作成をすることが重要になります。

表現や内容が曖昧であれば、その解釈が問題となり、結局は法定財産制を前提とした財産分与をしなければならないという事態が生じる可能性があります。将来の紛争を防止するために夫婦財産契約をしたにもかかわらず、結局はトラブルになってしまえば何の意味もありません。
また、婚姻前に離婚について話し合うということに対して、一方が難色を示すこともあるでしょう。当事者だけで話し合いをしてしまうと、感情的になってしまったり誤解が生じてしまったりするなど、不要なトラブルにつながるおそれがあります。

法律の専門家である弁護士であれば、それぞれの夫婦の状況を踏まえた上で、適切な内容の夫婦財産契約を提案できるだけではなく、法的にも有効な内容で契約書を作成することができます。その他、弁護士が介入することで、落ち着いて話し合いができ、お互いが納得いく契約書になることも期待できるでしょう。
当事者間で合意できた内容について、将来のトラブルが生じないように適切な文言、表現で契約書を作成するというお手伝いもできます。

夫婦財産契約は、婚姻前にしか作成することはできません。夫婦財産契約の作成を検討されている方は、お早めに弁護士にご相談ください。

5、まとめ

夫婦財産契約(プレナップ)は、日本においては、まだ広く普及している制度ではありません。しかし、婚姻前に契約をしておくことによって、不測の事態に備えることができます。特に、経営者の方や資産家の方は、離婚時に財産分与で揉めることが多いため、夫婦財産契約が果たす役割は大きいと言えます。

夫婦財産契約を結びたいと考えている方は、ベリーベスト法律事務所まで、ぜひご相談ください。ご夫婦が納得いく形で夫婦財産契約を結べるよう、しっかりとサポートいたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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