「自営業」の配偶者と離婚。 養育費の計算で異なるポイントは?
自営業者の配偶者と離婚する場合、子どもの養育費を計算するに当たっては、給与所得者とは異なる注意点が存在します。
配偶者の所得を漏れなく把握し、かつ適切な計算方法を用いて、不利にならないように養育費を取り決めましょう。
今回は、自営業者の配偶者と離婚する場合における、養育費の計算方法や注意点を、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、自営業者と給与所得者の年収算定方法は異なる
養育費を算定するに当たって、大きな要素となるのが『年収』です。
夫婦の年収バランスによって、養育費の金額は大きく変動します。まずは、自営業者の年収をどのように捉えるべきかについて、基本的な考え方を押さえておきましょう。
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(1)自営業者の『年収』とは?
一般に、自営業者の年収とは、いわゆる売上から必要経費を差し引いた金額として理解されています。確定申告の際にも、自営業者の所得を計算する際には、売上から必要経費を控除することが認められています。
たとえば、1年間の売上が800万円、必要経費が300万円であったとします。この場合、1年間の所得(年収)は500万円と考えることができます。
『必要経費を控除する』という自営業者の考え方は、会社から受け取った給与がそのまま年収と捉えられる会社員とは大きく異なる部分といえます。 -
(2)実際に支出していない控除は所得に加算して年収を求める
自営業者について養育費額の算定をする際には、確定申告書の課税される所得金額を参照しますが、養育費の算定に用いる収入は、この「課税されるべき所得金額」と全く同じではありません。
自営業者にはさまざまな所得控除が認められており、各種所得控除を活用すれば、所得税・住民税を軽減できるというメリットがあります。
ただし、確定申告における所得控除の中には、会計上、計上されるお金や青色申告控除など、現実に費用を支出していないものなどが含まれています。これらの所得控除については、養育費の計算上は考慮すべきでないため、『課税される所得額』に加算して年収を求めることになります。
その他、医療費控除など算定表の計算の中で既に特別経費として既に考慮されているものや、小規模企業共済等掛金控除など養育費の支出に優先させるべきでないものについても加算します。
具体的には、養育費を計算する際には、「課税されるべき所得」に以下の控除金額を加算して行います。
- 雑損控除
- 障害者控除
- 配偶者(特別)控除
- 扶養控除
- 基礎控除
- 青色申告特別控除
- (実際に支払っていない場合には)専従者給与
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済掛金等控除
- 寄付金控除 など
配偶者が自営業者の場合、養育費を請求する際は各種所得控除を漏れなく所得に加算し、適正な年収額を算出したうえで話し合いを行うことが大切です。
2、自営業者が支払う養育費の取り決め方
養育費の算定の際には、裁判所が公表している算定表を用いるのが一般的です。算定表には、給与所得者と自営業者の両方について記載がありますので、自営業者の場合も算定表を用います。
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(1)年収が同じ場合、自営業者の方が給与所得者よりも多くの養育費を支払う
養育費算定表に従うと、自営業者と給与所得者で同じ年収の場合、自営業者の方が多くの養育費を支払うことになります。
これは、年収から年金保険料・税金・住居費・医療費・業務上の費用などを差し引いた『基礎収入』が、自営業者と給与所得者で異なると考えられているためです。
平成30年度の司法研究によると、年収に占める基礎収入の割合は、自営業者が48~61%、給与所得者が38~54%とされています。
自営業者の方が給与所得者よりも、年収に占める基礎収入が多いと考えられるため、同じ年収であったとしても、自営業者の方は給与所得者よりも、養育費をより多く支払う義務を負うのです。
(出典:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について「研究報告の概要」) -
(2)養育費算定表の見方
養育費算定表は、裁判所ホームページで公開されています。
子どもの人数と年齢に応じた表が用意されているので、ご自身の状況に合わせた表を選択してください。
該当する表の縦軸「義務者の年収」と、横軸「権利者の年収」が交差するポイントが、養育費の金額目安となります。なお、義務者とは『養育費を支払う側』をさし、権利者とは『養育費を受け取る側』をさします。
また、当サイト内にも簡単に計算することができる養育費計算ツールをご用意しています。よろしければご利用ください。
算定表は、自営業者と給与所得者では欄が異なるので、間違えないように注意しましょう。
【例】
義務者:自営業者・年収800万円
権利者:会社員・年収350万円
子ども1人
(養育費の目安)
子どもが14歳までは月8~10万円、15歳になったら月10~12万円 -
(3)養育費を取り決める手続き
養育費の金額は、夫婦間での協議によって自由に取り決めることができます。前述したように、養育費算定表の金額を参考にするのが一般的ですが、金額について双方が納得できている場合は、どのような金額で取り決めたとしても問題ではありません。
一方、夫婦間で主張が食い違っており、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停を利用して、解決を図ることができます。
離婚時に養育費を取り決める場合には「夫婦関係調整調停(離婚)」(離婚調停)のなかで話し合い、離婚後に養育費を取り決める場合は「養育費請求調停」を利用します。
3、養育費の支払い義務者が自営業者である場合の注意点
自営業者の配偶者に養育費を請求する場合、所得の内訳にも注意しておくべきといえます。
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(1)特に注意したい経費の中身
勤務先が支払い給与を管理し、源泉徴収を行う給与所得者とは異なり、自営業者は自ら売り上げなどを把握・計算して確定申告を行います。
そのため、事業とは関係のない飲食や物品購入費を経費と計上しているようなケースもあるでしょう。経費が多くなれば、本来よりも所得は低いと判断されてしまいます。
このような行為は、帳簿やお金の出入りを詳しく調べなければ、実態を明らかにすることは容易ではありません。 -
(2)提示された年収に納得できない場合
配偶者が自営業所の場合、帳簿や預貯金口座の入出金履歴などをすべて提出させ、徹底的に調べることも検討する必要があります。また、婚姻期間中の生活費などを参考にして、配偶者の実質的な年収が提示されたものよりも高いことを主張する方法も考えられます。
実態ベースでの養育費の支払いに配偶者が応じない場合には、弁護士のサポートを得たうえで離婚調停・養育費請求調停を活用することをおすすめします。
適切な証拠を提出しつつ、審判への移行も辞さない姿勢で粘り強く交渉すれば、適正額の養育費支払いで合意できる可能性は高まるでしょう。
4、自営業者の元配偶者から養育費が支払われない場合の対処法
すでに取り決めた養育費が途中で支払われなくなった場合、強制執行による回収を目指します。
ただし、強制執行の際には債務者財産を特定する必要があります。元配偶者が自営業者の場合は所有する財産を把握するのが難しいことがあります。
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(1)強制執行を申し立てる
裁判所に強制執行を申し立てるためには、「債務名義」(民事執行法第22条)を取得する必要があります。
強制執行認諾文言を記載した公正証書は、「執行証書」と呼ばれる債務名義として、そのまま用いることが可能です(同条第5号)。そのため、当事者間の話し合いで養育費を取り決めた場合は、公正証書にして強制執行を認諾する旨の文言を入れておくことが重要です。
当事者間で合意して強制執行認諾文言付き公正証書にしていない場合には、強制執行を直ちに行うことはできず、まずは養育費請求調停を行う必要があります。
調停で合意した場合や審判で定められている場合には、調停調書や審判書が債務名義となりますので、支払われない場合には直ちに強制執行手続きを進めることができます。 -
(2)差し押さえる財産を特定できない場合
強制執行を行うためには、債務者の財産を特定しなければなりません。
元配偶者がどのような財産を持っているのかわからない場合は、「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を利用することが考えられます。
特に第三者からの情報取得手続では、金融機関や公的機関などから、元配偶者の所有する財産(不動産・給与債権・預貯金債権)に関する確度の高い情報を取得できます。
財産開示手続・第三者からの情報取得手続の申し立てなどは、弁護士のサポートを得るとよいでしょう。
5、まとめ
自営業者が支払う養育費については、給与所得者のケースとは異なる計算の考え方が採用されています。また、自営業者の場合は所得の内訳がわかりにくいなど、支払いを受ける側にとっては、気を付けなければならない点が多くあります。
そのため、自営業者の配偶者に養育費を請求する場合は、事前に弁護士へご相談いただくことがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所では、配偶者との離婚をご検討中の方のために、随時法律相談をお受けしております。適正な条件による離婚を円滑に成立させるため、経験豊富な弁護士が親身になってサポートしますので、お気軽にお問い合わせください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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