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妊娠中だけど「離婚したい!」親権や養育費について注意しておくべきこと

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更新日:2024年05月27日  公開日:2018年10月19日
妊娠中だけど「離婚したい!」親権や養育費について注意しておくべきこと

夫の不倫が原因で妊娠中に離婚した場合、子どもの親権や戸籍はどうなるのでしょうか。慰謝料はもちろん、出産にかかる費用や出産後の当面の生活費、養育費などは請求できるのでしょうか。
本コラムでは、妊娠中の離婚にあたって妻が知っておきたいポイントや注意点を弁護士が解説していきます。

目次

  1. 1、子どもの親権は夫婦のどちらに?
    1. (1)離婚後に出産した子どもの親権は母親
    2. (2)元夫が親権者となることは可能か?
  2. 2、子どもの戸籍について
    1. (1)婚姻中に妊娠し、出産した場合は父の戸籍へ
    2. (2)離婚後300日以内に生まれた場合も父の戸籍へ
    3. (3)離婚後300日を経過した後に生まれた場合は母の戸籍へ
    4. (4)離婚後300日以内に出産があり、別の男性と再婚する場合は再婚相手の戸籍へ
  3. 3、養育費の請求にあたっての注意点
    1. (1)親子間の扶養義務
    2. (2)婚姻中(離婚する前)に生まれた場合の養育費の請求について
    3. (3)離婚後300日以内に生まれた子どもの養育費の請求について
    4. (4)離婚後300日経過後に生まれた子どもの養育費請求
  4. 4、元夫が認知に応じない。強制認知と手続の流れ
    1. (1)認知とは
    2. (2)任意認知とは
    3. (2)-1 届け出による認知
    4. (2)-2 遺言による認知
    5. (2)-3 任意認知は原則としていつでもできる
    6. (3)強制認知とは
    7. (3)-1 強制認知はなぜ必要か
    8. (3)-2 強制認知の手続と流れ
    9. (4)強制認知のメリットとデメリット
    10. (4)-1 強制認知のメリット
    11. (4)-2 強制認知のデメリット
  5. 5、妊娠中の離婚で元夫に請求できるもの
    1. (1)出産費用や出産後の生活費用
    2. (2)養育費
    3. (3)慰謝料
    4. (4)その他(財産分与等)
  6. 6、妊娠中の離婚で母親が受けられる各種支援制度
  7. 7、まとめ

1、子どもの親権は夫婦のどちらに?

まず、妻が婚姻中に妊娠し,その妊娠中に夫婦が離婚した場合、親権は、元夫と元妻のどちらが持つのか見ていきましょう。

  1. (1)離婚後に出産した子どもの親権は元妻

    妻が婚姻中に妊娠し,その妊娠中に夫婦が離婚した場合、その離婚後に生まれた子どもの親権は、生まれたときから元妻が持つと決められています。これは、子どもの誕生が離婚から何日たっていようとも変わりません。
    なお、親権とは、原則として監護権(子どもを実際に手元で養育する権利)を含んでいますので、生まれた後に子どもを実際に育てる権利も親権者である元妻が持っています。

  2. (2)元夫が親権者となることは可能か?

    では、妻が婚姻中に妊娠し,その妊娠中に夫婦が離婚した場合,離婚した後に生まれた子どもの親権を元妻から元夫へ変更することは可能でしょうか。
    答えとしては、可能です。元夫と元妻が協議をすることで、親権を元妻から元夫へ変更することができます。
    もし、元夫と元妻の間で親権についてうまく協議が整わない場合、元夫又は元妻は、家庭裁判所に対して,調停・審判を請求する必要があります。

2、子どもの戸籍について

次に、妻が婚姻中に妊娠し,その妊娠中に夫婦が離婚した場合、子どもの戸籍の取り扱いがどうなるのか解説していきます。

  1. (1)婚姻中に妊娠し、出産した場合は父の戸籍へ

    妻が婚姻中に妊娠し、出産後に離婚した場合は、出産届を提出した時点で、元夫の戸籍に実子として登録されている状態です。たとえ、もう家にいない元夫であっても、元夫の戸籍に父子関係が記載されています。
    ただし元妻は、離婚時に妻が親権者となっている場合、子どもを自分の戸籍に移して自分の氏を名乗らせることが可能です。
    これを、子どもの氏の変更届と言います。子どもの戸籍を移すのに、元夫の許可を得る必要はありません。

  2. (2)離婚後300日以内に生まれた場合も父の戸籍へ

    婚姻中に妊娠したかどうか分からない場合でも、離婚から300日以内に出産し、出産時点で再婚していない場合、元夫の戸籍に実子として登録されます。元妻としては、子どもの氏の変更届をすることによって、子どもを自分の戸籍に移すことができる点も、婚姻中に妊娠した場合と同じです。

  3. (3)離婚後300日を経過した後に生まれた場合は母の戸籍へ

    一方、妻が婚姻中に妊娠したかどうか分からず、子どもが離婚から300日を超えて生まれた場合は、最初から元妻の戸籍に入ります。このとき、元夫の認知がなければ、戸籍の父の欄は空白となり、子どもは、いわゆる非嫡出子という地位に立ちます。この状態では、元夫と子どもは法律上、赤の他人であることに注意が必要です。つまり、法律上の「父と子」として扱われず、養育費の請求や、遺産の相続ができません。

  4. (4)離婚後300日以内に出産があり、別の男性と再婚する場合は再婚相手の戸籍へ

    令和6年4月1日に改正民法が施行され、夫と離婚してから300日以内に別の男性と再婚し、その後に出産した場合は、その再婚相手となる男性が子どもの父親と推定されるようになりました。つまり、再婚相手の戸籍に出産した子どものことが記載されます。

3、養育費の請求にあたっての注意点

子どもを育てていくには現実問題として、相当なお金が必要となります。また、小さな子どもを育てながら母親が働くにはかなりの制約があり、フルタイム勤務が厳しいケースも多いと言えるでしょう。その結果、十分な収入が得られず、不安定な生活を強いられれば、子どもも母親も苦しい思いをすることになってしまいます。ここでは、養育費の請求について詳しく解説していきます。

  1. (1)親子間の扶養義務

    母親が一人で小さな子どもを育てていく場合、まず思い浮かぶのが元夫に対する養育費の請求でしょう。
    親子間には扶養義務があり、子どもが未成熟の間は、親が子どもを扶養して育てる義務があります。
    扶養義務は、親権を誰が持っているかとは関係なく、親子であることを理由に認められるものです。したがって、元夫に養育費を請求できるかどうかは、生まれた子どもと元夫との間に「法律上」の親子関係があるかどうかによって決まります。

  2. (2)婚姻中(離婚する前)に生まれた場合の養育費の請求について

    夫婦が離婚した場合でも、法律上の親子関係があれば、扶養義務があります。
    婚姻中(離婚する前)に生まれて、出生と同時に両親の戸籍に入った子どもは、生まれたときから元夫と法律上の親子関係があります。いったん親子関係が成立すると、その後に親が離婚しても親子の関係が消えることはないので、元夫から子どもへの扶養義務が残ります。この扶養義務を根拠に、子どもから元夫へ養育費を請求できるわけです。

  3. (3)離婚後300日以内に生まれた子どもの養育費の請求について

    子どもが離婚後300日以内に生まれた場合も、まったく同様です。離婚してから300日以内の出生児は、元夫の子どもとしてまずは元夫の戸籍に入ります。
    この時点で、元夫との間に法律上の親子関係が生じているので、元夫に養育費を請求することが可能です。なお、出生後に子どもの戸籍を元夫から母親に移しても、変わらず養育費を請求できます。
    しかし、離婚後300日以内に再婚し、その後に出産した場合は、再婚相手の子どもとして推定される(再婚相手の戸籍に入る)ことになります。本当の父親が元夫であり、元夫に対して養育費を請求したい場合は、嫡出否認などの手続きが必要です。

  4. (4)離婚後300日経過後に生まれた子どもの養育費請求

    一方、出産前に再婚せず、離婚から300日経過後に子どもを産んだ場合、たとえ血縁上は元夫と子どもが間違いなく親子であっても、法律上の親子関係はありません。
    非嫡出子の状態では、元夫が実の父親であっても養育費を請求できないため、まずは子どもを認知してもらう必要があります。 これは、もともと結婚していない男女から生まれた子どもについても、同様です。

4、元夫が認知に応じない。強制認知と手続の流れ

元夫が認知に応じない場合、どのような手段を採ることができるのか、解説していきます。

  1. (1)認知とは

    認知とは、離婚から300日経過後に生まれた子どもについて、その元夫が自分の子どもであると認め、法律上の親子関係を発生させることをいいます。認知には、(1)任意認知と(2)強制認知の二種類があります。

  2. (2)任意認知とは

    まずは、任意認知と手続について詳しく見ていきましょう。

  3. (2)-1 届け出による認知

    任意認知とは、元夫が自分の意思で自発的に、子どもの父であることを認めることを指します。
    任意認知をすれば、元夫と子どもの間に法律上の親子関係が発生し、元夫には子どもに対する養育費の支払い義務が生じるわけです。また、子どもは元夫の相続人の一人になるので、元夫に万が一のことがあれば、子どもとして遺産をもらうことができます。
    任意認知は、市町村役場に「認知届」を出して行います。婚姻届や離婚届と同じような仕組みと考えてよいでしょう。

  4. (2)-2 遺言による認知

    任意認知は、遺言によってすることもできます。遺言は、遺言を作った人が亡くなった時点で効力が生じます。したがって、子どもは、元夫の死亡とともに法律上元夫の子となります。もちろん、すでに元夫は亡くなっていますから、子どもが親に養育費を請求することはできません。ただ、子どもは、元夫の相続人の地位を取得しますので、相続分を請求する権利を得るわけです。

  5. (2)-3 任意認知は原則としていつでもできる

    原則として、任意認知はいつでも行うことができます。まだ妊娠中で胎内にいるときも、成人していても、さらには子どもが死んだあとでさえも、一定の条件さえ満たせば認知ができるのです。
    ただ、胎内にいる出生前の子どもについては、母の承諾が必要です。
    また、子どもが成人している場合は、その子本人の承諾が必要です。
    そして、子どもがすでに死亡している場合は、その直系卑属(父から見れば孫やひ孫など)があるときに限り、認知をすることができます。

  6. (3)強制認知とは

    続いて強制認知と、その手続について詳しく見ていきましょう。

  7. (3)-1 強制認知はなぜ必要か

    強制認知とは、元夫から任意に認知をしてもらえない場合に、裁判所を通じて、強制的に認知させる制度です。
    強制認知をすれば、元夫には扶養義務が発生し、自分の遺産をその子に残すことになります。離婚した元妻との間にできた子どもには養育費を払いたくない、遺産も残したくない、という男性はいるわけで、その男性が認知を拒めば、その子どもは実の親である父から見捨てられた状態になります。
    しかし、すべての子どもには、父母がいて、どの子も同じように父と母から扶養を受けて育つ権利があります。その権利を実現させるため、元夫の意思に反してでも認知をさせる制度、それが「強制認知」なのです。

  8. (3)-2 強制認知の手続と流れ

    このように、強制認知とは、元夫の意思に反して子どもの認知を求める制度ですが、手続としてはまず、家庭裁判所に認知を求める調停を申し出ることから始まります。
    調停では、調停委員を介して、当事者同士で話し合いを行います。その結果、合意に至れば審判という形で終了します。
    相手がどうしても認知を拒み、合意が得られない場合は裁判に進みます。この裁判を「認知の訴え」といいます。
    認知の訴えでは、当事者の関係、妊娠の経緯といった事情に加えて、最近ではDNA鑑定がしばしば用いられています。DNAによる親子関係の鑑定はかなり精度が高いと考えられていますので、父子関係があるという鑑定結果が出れば、判決で父子関係が認められる可能性が高まります。

  9. (4)強制認知のメリットとデメリット

    強制認知を行う場合のメリットとデメリットについて、見ていきましょう。

  10. (4)-1 強制認知のメリット

    元夫が認知を拒むと、強制認知をしない限り、子どもには法律上の父がいないことになります。戸籍の父の欄は空白のままで、子どもにとっては誰が父なのかわからないままということもあり得ます。
    強制認知が認められれば、子どもにはれっきとした法律上の父ができます。戸籍に父と母が明記されることになりますから、そのこと自体による子どもの心理的な効果は見逃せません。
    もちろん、認知によって元夫に養育費を請求でき、元夫が亡くなったときには遺産も取得できるという経済的なメリットも大きいといえます。

  11. (4)-2 強制認知のデメリット

    一方で、強制認知は必ず家庭裁判所の手続を経る必要があります。したがって、手続が複雑で、調停にしろ、裁判にしろ、時間がかかる点がデメリットです。
    また、強制認知は、元夫が認知を嫌がっている場合の手段ですから、争いに勝って強制認知が認められとしても、元夫と子の関係がすぐさま円満になるとは期待できません。このような状態で相手に養育費を請求しても、実際に支払ってくれるかどうかはまた別問題です。
    また、法律上の父は別居している子どもと面会交流する権利が認められています。したがって、母としては相手に会わせたくない場合でも、相手から子どもとの面会を求められ、トラブルになる可能性もあります。
    さらには、相続人の地位を得ることも、かえって、子どもを将来の相続紛争に巻き込んでしまうという見方もできます。

    参考:子どもの認知に関するお悩みやトラブルでお困りの方はご相談ください

5、妊娠中の離婚で元夫に請求できるもの

妊娠中に離婚する場合、金銭面で元夫に請求できるものにはどんなものがあるか見ていきましょう。

  1. (1)出産費用や出産後の生活費用

    夫婦間にはお互いを扶養する義務があります。この扶養義務を根拠に、妻は夫に対して生活費(婚姻費用といいます)を請求できます。
    もっとも、婚姻費用の請求は、あくまで夫婦間の権利なので、離婚すれば請求できません。たとえ妻が妊娠中であっても離婚してしまえば夫婦関係は解消されます。したがって、離婚後には原則として、夫に生活費を請求することはできません。
    出産費用も、生活費の一部に該当しますから、離婚後に元夫に請求することは、法律上は困難です。もっとも、相手が任意に払ってくれる可能性もありますので一度は請求してみる価値があるでしょう。

  2. (2)養育費

    子どもが生まれた後は、法律上の父子関係さえあれば、元夫に対して養育費を請求できます。養育費は、元夫と母双方の収入や職業と、子どもの年齢や人数によって決まります。お互いが収入を開示することが前提ではありますが、仮に相手が収入を隠すような場合は、賃金センサス(平均賃金)を基準として計算することもあります。

  3. (3)慰謝料

    離婚の原因が、不貞、暴力など、違法なものである場合は、元夫に慰謝料を請求できます。
    離婚の原因が、性格の不一致やすれ違いなどであれば、お互いに慰謝料は請求できません。

  4. (4)その他(財産分与等)

    離婚の際には、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を分け合うことになっています。いわゆる「財産分与」の制度です。分与する財産は、婚姻中に増やした預金や婚姻中の収入などを元手に購入した不動産、株式、車などです。原則として、夫婦が2分の1ずつに分割して受け取ることになります。
    財産分与は、離婚の原因や妊娠の有無とは関係なく請求できる権利です。
    また、厚生年金のいわゆる報酬比例部分を分割する年金分割という制度もありますので、忘れずに手続きをする必要があります。
    妊娠中に夫と金銭的な交渉をするのは、かなりの負担ですが、まずはどういった権利があるのか知っておくことは重要です。

6、妊娠中の離婚で母親が受けられる各種支援制度

母親が、妊娠中に離婚してしまって子どもをひとりで育てなければいけない場合、国や地方自治体による様々な援助を受けられる可能性があります。
例えば、児童扶養手当、住宅費助成手当、医療費手当、就学費手当といった各種手当を支給する制度があります。生活自体が困難な場合には、生活保護を利用することも十分考えられます。
また、公共交通機関利用料金、上下水道利用料、あるいは税金の減免といった制度もあります。
これらの支援制度は、国が全国一律に行っている制度もあれば、地方自治体が独自に行っている制度もあります。また、制度の内容も、毎年変更される可能性があります。詳しくは、都道府県や市町村の福祉関係課等にお問い合わせください。

7、まとめ

妊娠中に離婚することは勇気のいることです。離婚と出産という、女性の人生の重大な出来事が重なり、これからいったいどうなっていくのか、その不安はとても大きいことでしょう。しかし、妊娠中に不安やストレスが増大することは母体にとっても胎児にとっても望ましくありません。また、生まれてきた子どもにとって、母親の明るい笑顔ほど大切なものはありません。
妊娠中は、たとえすべてがうまくいっていても不安になるものです。ましてや離婚を考える状態ならば決して一人で抱え込むようなことはなさらず、まずは信頼できる方に相談してみてください。
ベリーベスト法律事務所では、離婚で悩み、不安いっぱいの状態から、少しでも明るい一歩へ踏み出せるように、お一人おひとりのお話を親身にうかがっています。ぜひ一度ご相談にいらしてください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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