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子の連れ去りで損害賠償請求は可能? 裁判例とともにポイント解説

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更新日:2024年07月31日  公開日:2024年07月31日
子の連れ去りで損害賠償請求は可能? 裁判例とともにポイント解説

配偶者に無断で子どもを連れて別居したり、親権者に無断で元配偶者が子どもを連れ去ったりする行為は、未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性があります。

子どもを連れ去られた場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。家庭裁判所に対する調停の申立てや、刑事告訴・損害賠償請求など、子どもを取り戻すための対応を迅速にサポートいたします。

本記事では、子どもを連れ去られた場合の違法性や対処法などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、子の連れ去りは違法なのか?

「子の連れ去り」が問題となるのは、主に以下のいずれかのケースです。

  • 婚姻中の夫婦の一方が、配偶者に無断で子どもを連れて別居する場合
  • 夫婦が離婚した後、親権者でない側が親権者に無断で子どもを連れ去る場合


どちらの場合でも、親権者(夫婦の共同親権である場合を含む)に無断で子どもを連れ去る行為については、未成年者略取・誘拐罪(刑法第224条)が成立する可能性があるほか、損害賠償責任が発生することもあります

  1. (1)未成年者略取・誘拐罪

    未成年者略取・誘拐罪は、未成年者を生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移す行為について成立する犯罪です。法定刑は「3か月以上7年以下の懲役」とされています。

    未成年者略取・誘拐罪の保護法益は、「未成年者本人の自由および安全」であると解する見解が多数説です。

    したがって、親権者(監護権者)の意思に反していたとしても、子どもの意思に沿っていれば、子どもを連れ去っても未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性は低いと言えます。これに対して、子どもの意思に反して子どもを連れ去った場合には、未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性があります。

    たとえば以下のようなケースでは、子の連れ去りが未成年者略取・誘拐罪として処罰され得ると考えられます。

    • 子どもの身体を拘束し、または暴行や脅迫を加えた上で連れ去った場合
    • 子どもを騙し、または誘惑して連れ去った場合
    • 子どもを虐待しようとする意図を有した状態で、それを秘して連れ去った場合
    など
  2. (2)不法行為(損害賠償)

    子の連れ去りが違法である場合は、子ども本人および連れ去られた側の親は、連れ去った側の親に対して不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求できます。

    損害賠償の対象となるのは、主に子の連れ去りによって被った精神的損害(慰謝料)です。

2、子の連れ去りに関する裁判例

子どもの連れ去りが問題となった、以下の2つの裁判例を紹介します。


  1. (1)東京地裁令和4年3月25日判決

    親権者の元夫(原告)に無断で、元妻(被告)が子どもを連れ去った事案です。

    元妻側は、元夫による自身への虐待があったことに加えて、子どもにも虐待が及ぶ可能性があったために子どもを連れ去ったと主張しました。さらに、離婚後も復縁を予定した内縁状態であったため、離婚前の共同親権の状態と同じであるとして、不法行為は成立しないと主張しました。

    しかし東京地裁は、子どもの親権者は元夫であると認定した上で、親権者ではない元妻の連れ去り行為により、子どもと不法に引き離されることがないという元夫の利益を侵害したと判示して、元妻側に110万円の損害賠償を命じました。

    さらに東京地裁は、元妻に対して子どもの連れ出しを助言した代理人弁護士についても、共同不法行為の成立を認定しました。

  2. (2)東京高裁平成29年2月21日決定

    夫が子どもを連れて別居したため、妻が家庭裁判所に対して監護者の指定と子の引渡しを求める審判を申し立てた事案です。審判に対して即時抗告が行われたため、東京高裁で審理されることになりました。

    東京高裁は、夫が妻とのいさかいにおいて非難されることに耐えられず、子どもを巻き込んで家を出たことを認定しました。

    その上で夫の行動には、子どもの監護養育を第一に考え、夫婦間で真摯に話し合い、関係の修復に努力しようとする姿勢が見られないと指摘し、別居を決めるに際して子どもの福祉を考慮したとは認められないと判示しました。

    さらに東京高裁は、子どもに環境を激変させる負担を与えたほか、母親との連絡を絶っている点につき、子どもの成育に極めて不適切であると認定しました。

    上記の検討を踏まえた上で東京高裁は、夫が子どもを連れて家を出た行為は、監護者としての適格性について大いに疑問を抱かせるものであるとして、子どもの監護権者を妻と指定し、夫に対して妻への子どもの引渡しを命じました。

3、子どもを連れ去られたときにできること

(元)配偶者に子どもを連れ去られたときは、以下の対応を検討しましょう。


  1. (1)子の引渡し調停の申立て

    (元)配偶者に対して子どもの引渡しを求めるためには、家庭裁判所に対して子の引渡し審判を申し立てましょう。離婚前の連れ去り別居の場合には、次の監護者指定審判も併せて申し立てる必要があります。

    離婚前で、監護者が未確定の状況であれば、子の引渡し審判では、子どもの年齢・性別・生活・就学の有無・生活環境などを考慮して、子どもの福祉という観点から、子どもの監護者が決定され、監護者側に子どもを引き渡すよう命じられます。正当な理由なく、また、事前の協議もなく子どもを連れて別居をしたという経緯があれば、それも考慮されます。
    離婚後で、既に単独親権になっているのであれば、原則として、親権者側に引き渡すよう命じられます。

    審判の前に、子の引渡し調停を行うこともできますが、子の引渡しは緊急性の高い事案と言えますので、通常は、調停は行わずに、審判を申し立てます。

    参考:「子の引渡し調停(審判)を申し立てる方へ」(裁判所)

  2. (2)監護者指定調停の申立て

    離婚前に、一方配偶者が、子どもを連れて別居を開始したという場合には、上記の子の引渡しの審判と併せて、監護者指定の審判を申し立てます。
    監護者指定の審判は、両親のうちどちらが子を監護するか(子と同居して世話をするか)を決定する手続きです。

    監護者指定調停では、なぜ自分を監護者とすべきなのかを説得的に主張することが重要です。双方の親の子どもに対する関わり方・経済状況・監護を補助してくれる方の有無や状況・子どもの意向などを踏まえて、弁護士と相談しながらどのような主張をすべきかを検討しましょう。

    参考:「子の監護者の指定調停(審判)を申し立てる方へ」(裁判所)

  3. (3)刑事告訴

    (元)配偶者が子どもの意思に反して連れ去った場合には、未成年者略取・誘拐罪で刑事告訴することも検討することもあり得ます(刑事訴訟法第230条)。特に、離婚後に親権者が子どもを監護していた状況で、親権者でない親が連れ去ったという場合には、未成年者略取・誘拐罪が成立する可能性が高くなりますので、すぐに警察に相談しましょう。

    刑事告訴をすると、司法警察員(警察官)によって事件に関する書類および証拠物が検察官に送付されます(同法第242条)。犯罪を疑わせる有力な証拠がある場合には、捜査に動いてもらえる可能性があります。子どもの所在がわからない、(元)配偶者が子どもに暴力を振るう可能性があるといった場合には、警察に相談することが効果的となるでしょう。

  4. (4)損害賠償請求

    子どもの連れ去りによって被った損害については、(元)配偶者に対して損害賠償を請求できることがあります。子ども本人の損害についても、親権者であれば法定代理人として代わりに損害賠償を請求可能です。

    損害賠償請求に当たっては、子の連れ去りが違法・不当であることに加えて、実際に被った損害の大きさについても主張しなければなりません。子の連れ去りに関する事実関係や過去の裁判例などを総合的に考慮して、損害賠償請求の金額を決めましょう。

4、離婚問題は弁護士に相談を

夫婦が離婚する際には、財産分与・慰謝料・婚姻費用などに加えて、子どもに関しても親権・養育費・面会交流の方法などを決める必要があります。また、離婚後に子どもに関する紛争が生じた場合にも、早急に対応する必要があります。

離婚の際の協議において、バランスよく協議を行い、適正な内容で取り決めを行うため、離婚後も含めた紛争を解決するためには、弁護士のサポートが欠かせません特に、(元)夫婦間で主張が激しく対立している場合には、弁護士への相談を強くおすすめします

弁護士は、離婚に際する離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の各手続きや、子どもに関する監護者指定審判やこの引渡し審判について全面的に代行し、紛争を解決するためのサポートを行います。離婚条件の交渉等はもちろん、子どもに関する紛争についても、過去の裁判例などを踏まえつつ、依頼者のご希望ができる限りかなうようサポートいたします。

配偶者との離婚をご検討中の方、お子様に関する紛争についてお悩みの方は、離婚問題の解決に実績のあるベリーベスト法律事務所までお早めにご相談ください。

5、まとめ

親権者に無断で子どもを連れ去る行為は、配偶者や元配偶者であっても違法となる可能性があります。子の連れ去りには未成年者略取・誘拐罪が成立し得るほか、被害者である子ども本人や親権者は損害賠償を請求できる場合があります。

連れ去られた子どもを連れ戻すためには、家庭裁判所に対して子の引渡し審判や監護者指定審判を申し立てましょう。

家庭裁判所における調停・審判を有利に進めるためには、(元)配偶者による連れ去りが違法・不当であることを説得的に主張しなければなりません。弁護士のサポートを受けながら、調停等に臨むための準備を十分に整えましょう。

ベリーベスト法律事務所は、子の連れ去りに関するご相談を随時受け付けております。突然子どもを奪われてしまった方のご心情に寄り添い、弁護士が親身になってご対応いたします。家庭裁判所への調停申立て・損害賠償請求・刑事告訴など、幅広い手続きにご対応可能です。

連れ去られた子どもを取り戻したい方や、子どもを連れ去った(元)配偶者に対して損害賠償を請求したい方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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