【民法改正】法定養育費とは? いつから導入? 制度のメリットを解説

法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めがなかったとしても、法律で定められた金額を元配偶者に請求できる制度です。改正民法の施行により、令和8年5月までに法定養育費制度が導入されます。
法定養育費制度が導入されれば、今まで諦めていた方も、未払いの養育費問題が良い方向に進む可能性があります。養育費を受け取りたいシングルマザーやシングルファザーの方にとって、役立つ制度であることは間違いありません。
本コラムでは、改正民法によって新たに導入される法定養育費について、メリットや計算方法、支払われないケースなど、ベリーベスト法律事務所 離婚専門チームの弁護士が解説します。
目次を
1、法定養育費とは? 民法改正による導入時期とメリット
法定養育費とは、離婚時に養育費支払いのルールを定めなかったとしても、法律の規定によって元配偶者に養育費として一定額を請求できる制度です。令和8年5月までに、改正民法の施行によって法定養育費の制度が導入されることが決まっています。それまでに法定養育費の金額も定められることになっています。
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(1)法定養育費の導入を含む、改正民法の概要
法定養育費制度の導入などを定めた改正民法は、令和6年5月17日に成立し、同月24日に公布されました。
改正法によって新たに導入されるのは、主に以下の3つの制度です。① 離婚後の共同親権
従来は、離婚後の子どもの親権者は、父母のいずれか一方とする必要がありました(=単独親権)。
改正民法の施行後は、親権者を父母の双方と定めることができるようになります(=共同親権)。
② 養育費に関する一般先取特権
「一般先取特権」とは、他の債権者よりも優先して自分の債権の弁済を受ける権利です。
改正民法により、養育費債権について、この一般先取特権が付与されます。養育費が未払いとなっている場合は、調停や審判などの手続きを行わずに強制執行を申し立てられるため、相手の財産からスムーズに養育費を回収できるようになります。
③ 法定養育費
離婚時に養育費を定めなかった場合でも、法律の規定によって最低限の養育費を請求できるようになります。
共同親権の詳細は、「【離婚後の共同親権とは】いつから始まる? メリット・デメリットを解説」のコラムで解説しています。あわせてご一読ください。
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(2)法定養育費の導入時期
法定養育費は、改正民法の施行によって新たに導入されます。
改正民法の施行日は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において、政令で定められます。改正民法が公布されたのは令和6年5月24日であるため、令和8年5月23日までに施行される予定です。 -
(3)法定養育費のメリット
法定養育費が導入されると、離婚時に養育費に関して取り決めを行っていない場合でも、法律の規定に従って養育費を請求できるようになります。
離婚成立を急ぐあまりに養育費の取り決めを後回しにしてしまったケースや、相手に支払いを拒否されて養育費の請求を断念するケースは多々見受けられます。
こうした状況にある人も、法定養育費が導入されれば、相手との間に取り決めがなくても養育費を請求することが可能です。子育てに励むシングルマザーやシングルファザーにとって、法定養育費の制度は大きな助けとなるでしょう。
お悩みの方はご相談ください
2、法定養育費はいつからいつまで発生する? 計算方法は?
2章では、法定養育費はいつからいつまで支払われるのか、またどのくらいの金額を受け取れるのかについて解説します。
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(1)法定養育費は、離婚の日にさかのぼって発生する
法定養育費は、離婚の日にさかのぼって請求することが可能です。
たとえば、離婚成立の2年後に「法定養育費を請求したい」と考えた際は、その時点で2年分をまとめて支払うよう求めることができます。もちろん、将来にわたる期間の法定養育費を請求することも問題ありません。 -
(2)法定養育費の受け取り(支払い)が終わる時期
法定養育費は、以下のいずれかの日が到来するまで発生します。
- 父母の協議により、養育費の分担についての定めをした日
- 養育費の分担についての審判が確定した日
- 子どもが成年(18歳)に達した日
法定養育費はあくまでも、家庭の状況に応じた養育費の分担を定めるまでの暫定的な制度です。そのため、父母の協議や家庭裁判所の審判によって養育費の分担が決まれば、法定養育費が発生しなくなります(法定養育費の代わりに協議や審判で決まった養育費の支払いが始まります)。
また、子どもが成年(18歳)に達したときも、法定養育費を請求できなくなります。
子どもが大学や専門学校などに進学する場合でも、その時期に法定養育費を請求することはできません。その前に父母間で話し合い、適正な養育費を取り決めることが望ましいです。 -
(3)法定養育費の計算方法はどうなる?
法定養育費の金額は、「子どもが最低限の生活を送るために必要な費用」を基本として、子どもの人数やその他の事情を考慮し、法務省が定める基準に基づいて算出されます。
ただし、その基準は現時点で公表されていません。そのため、法定養育費の計算方法や金額は、改正民法の施行が近づいた段階で公表される見込みです。
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3、法定養育費が導入されても、支払われないケースはある?
養育費の取り決めをせずに離婚し、子育てしている人にとって、法定養育費は大いに役立つ制度です。しかし法定養育費は、必ず請求できるわけではありません。一定の場合には、法定養育費の支払いを拒否することが認められているためです。
なお、正当な理由なく法定養育費の支払いを拒否する相手に対しては、改正民法によって養育費に付される「一般先取特権」を活用すれば、スムーズに強制執行を申し立てることができます。
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(1)法定養育費の支払いを拒否できるケース
以下のいずれかの状況にあることを証明すれば、法定養育費の全部または一部の支払いを拒むことが可能です。
- 支払能力を欠くために法定養育費を支払えない
- 法定養育費の支払いによって生活が著しく窮迫する
また家庭裁判所は、義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の全部または一部の支払いの免除、支払いの猶予その他相当な処分を命ずることができます。
病気や失業などの事情で経済的に苦しい状況にある相手に対しては、法定養育費を請求できないことがある点にご留意ください。 -
(2)未払い養育費を回収するには「一般先取特権」を活用
離婚前に取り決めがあったにもかかわらず、約束どおりに相手が養育費を支払わないケースは後を絶ちません。改正民法の施行後は、法定養育費の支払いを拒否する場合が想定されます。
先述のとおり、養育費を強制的に回収しやすくする新制度として、改正民法によって養育費債権の「一般先取特権」が導入されます。一般先取特権とは、他の債権者よりも優先して自分の債権の弁済を受けられる権利です。
養育費債権に一般先取特権が付与されると、確定判決などで支払義務が決まっていなくても、直ちに養育費債権の強制執行を申し立てることができるようになります。
強制執行の手続きでは、相手の財産が裁判所によって差し押さえられたあと、その財産の換価処分によって得たお金を養育費として受け取ることが可能です。
法定養育費にも一般先取特権が付与されるため、法律に従った金額をスムーズに回収できるようになります。養育費の未払いに困った際は、一般先取特権を活用して強制執行の申し立てができるようになることを覚えておきましょう。
4、民法改正を控えている今だからこそ、弁護士に相談するメリット
令和8年5月までに施行される改正民法により、離婚に関する法制度は大きく変化します。離婚が成立する時期によって適用されるルールが異なるため、これまで以上にたくさんの事柄を検討しなければなりません。
特に改正民法の施行が近づいた段階で離婚を考え始めた場合は、施行前に離婚した方がいいのか、施行後まで待つべきなのかに悩むこともあるでしょう。
後悔のない離婚を実現するには総合的な判断が求められるため、弁護士に相談してアドバイスを受けることがおすすめです。
弁護士は、共同親権・養育費債権の一般先取特権・法定養育費など、改正民法によって新たに導入される制度を踏まえたうえで、よりよい条件で離婚を成立させるための戦略を検討いたします。実際の離婚手続きへの対応も、弁護士が全面的にサポートするので安心です。
シングルマザーやシングルファザーになってから「こうしておけば……」と後悔する方は少なくありません。離婚を考えている方は、しっかりと法改正の情報をキャッチアップできている弁護士にご相談いただくとよいでしょう。
お悩みの方はご相談ください
5、まとめ
法定養育費とは、調停や審判、訴訟などの法的手続きを経ることなく、元配偶者に対して請求できる最低限の養育費です。
改正民法により、令和8年5月までに法定養育費が導入される予定となっていますが、法定養育費の具体的な金額や計算方法は、これから制定される法務省令によって定められます。
法定養育費はあくまでも最低限のものに過ぎず、できる限り離婚時において、家庭の状況に合わせた養育費を取り決めることが望ましいです。
特に法改正を控えている現在では、通常時に比べて検討すべきことが多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、離婚に関するご相談を随時受け付けております。離婚を考え始めた方や、相手から離婚を求められてお困りの方は、離婚専門チームの知見・経験豊富な弁護士が多数在籍する当事務所までご相談ください。
なお、ご来所いただいての弁護士相談だけでなく、お客さまのご都合に合わせてZoomや電話を活用したオンライン相談も可能です。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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