熟年離婚する前に知っておきたい。離婚後の「生活費」について
熟年離婚したいと思ってはいても、「今後の生活費がどうなるのか…」と心配されている方もいることでしょう。
年金はどうなるのか、財産分与はどのように進めるのかなど、検討事項は多岐にわたります。
本コラムでは、熟年離婚後の生活費に焦点を当てて弁護士が解説していきます。
1、ひとり暮らしの生活費。いくらくらいかかる?
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(1)1ヶ月あたりの平均生活費
熟年離婚を考える際にもっとも気になることは経済的な問題です。実際、これからのひとり暮らしでどの程度の生活費がかかるのか知ることは、老後の設計のためには大変重要です。
国の家計調査統計によると、35歳から59歳の単身世帯の場合、男女問わず、1ヶ月あたりの平均消費支出額は約18~19万円、60歳以上の単身世帯では、約15万円となっています。(e-Stat家計調査より)
2、熟年離婚するとき、夫からもらえるお金とは?
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(1)慰謝料
離婚する際には、必ず慰謝料がもらえるわけでありません。特に熟年離婚を決意する場合は、よほどのつらい思いや、耐えられないという気持ちから離婚の決意をするはずです。
しかし、それでもそのすべてが慰謝料の根拠になるわけではなく、あくまで下記のような事情がある場合に限られています。
- 浮気・不倫(不貞行為)
- 暴力
- 扶助・協力義務違反(生活費を渡さない、家庭を放置して顧みない)
- 性交渉の拒否
仮に上記のような事情があった場合の慰謝料額の相場はどれくらいでしょう。
この点について、裁判では、慰謝料の金額は「離婚に至った原因の内容」「結婚の期間の長さ」「相手方の資力・収入」など、さまざまな事情を総合的に考慮して決定されます。
たとえば、不貞を理由とする場合は、不貞期間が長かったり、浮気相手が妊娠出産しているといった事情があれば慰謝料が増額される傾向にあります。
また、結婚期間が長ければ長いほど、相手の収入が多ければ多いほど、一般的に慰謝料額は高く認められる傾向にあります。実際の金額としては、不貞が理由の場合は100万円~300万円くらいが多いでしょう。
なお、不貞や暴力など、慰謝料の原因があったことを主張立証するのは、あくまで請求する側の責任です。いくら口頭で「こんなひどい目にあった」と伝えても、証拠がなければ裁判所としても一方的な言い分を採用するわけにはいきません。 離婚を考え始めたら相手の行動などから証拠になるものはないか、気を付けておくことも大事です。 -
(2)財産分与
離婚とは、結婚生活の清算です。したがって、婚姻中にふたりで築いた財産は離婚に際して分け合って清算することになります。
なお、慰謝料は特殊な事情がある場合に限って認められるものですが、財産分与は夫婦で築いた財産があれば必ずそれを分与するのが基本的なルールです。
熟年離婚の場合は、それまでに築いた財産が多岐にわたる可能性があります。それらを一つひとつ整理して、分け方や金額を決めていくことになります。
財産分与は熟年離婚後の生活費の糧となる重要なものです。慌てて離婚することなく、しっかり検討する必要があります。
①財産分与の対象となる財産
離婚に伴って分与の対象となる「財産」とは、夫婦が結婚してからともに築いた財産です(夫婦共有財産といいます)。結婚してから夫婦それぞれが稼いだ給料や、給料をもとにして取得した財産がこれにあたります。
たとえば、生活費をためた銀行預金や、結婚後に買った自宅不動産、車、有価証券、家財など全てです。
また、特に熟年離婚では退職金が問題となります。退職金は、現実に受取金額と受け取り時期が明らかになっているような場合は分割が認められます。また、夫がすでに退職金を受け取っている場合は、預金などに形を変えた退職金を分与することになります。
他方、婚姻生活と関係なく築いた財産は、共有財産には当たりません。したがって、離婚の際に分与する必要もなく、分与を求められたら拒むこともできます。具体的には、結婚前の預金をためて残していた場合、自分の親族の相続で転がり込んだ遺産などが該当します。
なお、夫婦の間に未成熟の子どもがいる場合、離婚後には養育費を請求することもできます。
②財産分与の時期
財産分与は離婚してからでも行うことはできます。しかし、請求できる期間は離婚から2年以内という期限が決まっています。
離婚後のバタバタした期間で2年はあっという間に過ぎてしまいます。また、離婚して他人になると、相手の資産状況や収入を確認することも、急に難しくなります。夫婦である間に、相手の財産をしっかり調べてきちんと財産分与についても取り決めをしたうえで離婚するようにしましょう。参考:
3、離婚する前に決めておきたい、年金について
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(1)年金分割とは?
離婚時の年金分割制度が整備され、年金分割を生活費のあてにした熟年離婚後の生活設計を考える女性も増えています。しかし、年金分割は、夫がもらえる年金の半額をまるまる妻がもらえるわけではありません。
分割対象となるのは、厚生年金、いわゆる2階建て部分のみであり、基礎年金の部分は分けられません。また、婚姻期間中の年金だけが対象なので、たとえば、夫は22歳から働き始めたものの、結婚が32歳だったという場合、22歳から32歳までの間は、夫婦協力して厚生年金保険料を納めたとは言えないので、この間の年金は分割されません。その結果、熟年離婚後に、年金分割で妻が受け取れる金額は思ったより少なく、生活費には不足することが多いのです。
一般的なサラリーマン家庭の場合、月数万円程度とみておいていいでしょう。
また、このまま少子高齢化が進むと、将来の年金額そのものが減っていく可能性が高く見込まれます。その点からも、夫の年金分割があるから熟年離婚しても生活費は大丈夫、という考えはやや危険かもしれません。
なお、自営業者など、そもそも厚生年金加入履歴がない場合は、そもそも分割自体ができませんので、自分で生活費を確保する手段が必須です。 -
(2)分割額の確認方法
熟年離婚で年金分割を行った場合、実際いくらもらえるのか知りたいという方が多いです。
一定の条件を満たせば、年金事務所で手続きを行うことで見込み受取額を試算してもらうことができます。もちろん、年金制度自体が少しずつ変動していますので、あくまで見込み額ではありますが、将来の生活費として参考にはなるでしょう。
年金分割の基礎知識や具体的な請求方法については、「熟年離婚に踏み切る前に!年金受給のために考えておきたい年金分割の基礎知識」をご参考になさってください。
4、まとめ
熟年離婚という言葉もすっかり聞きなれるようになりました。実際、夫の定年や子どもの独立をきっかけに、熟年離婚を考え始める方は大変増えています。残りの人生は、せめて自分の好きにしたい、夫との窮屈な生活は考えられない、という思いも共感を得る時代になっています。
しかし、老後のひとり暮らしは、まず、健康面でのリスクもあります。ふたりで暮らせば、いざというときに助けてくれる人がいるわけですし、体力が衰えたときも支え合う関係が維持できるかもしれません。
そして、何より、お金の問題は重要です。ひとり暮らしでもふたり暮らしでも生活費自体は大きく変わらないのに対し、収入はひとりになると大きく減ってしまいます。
親が生活費に困ると、子どもたちや親族の生活費にしわよせがいくリスクがあります。また、離婚してしまうと、夫が先に死亡した場合でも、その遺産をもらう権利を失ってしまいます。
こうしたことから、特に専業主婦の熟年離婚は、特に生活費の観点からよくよく考えて慎重に選択していくことが重要です。それでも離婚を希望される場合は、ご自身が損をしたり、生活費に困ったり、悔いを残すことのないよう、ぜひ弁護士などに相談されることをおすすめします。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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