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自営業者が離婚する際の財産分与や注意点について弁護士が解説

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更新日:2024年02月27日  公開日:2021年08月17日
自営業者が離婚する際の財産分与や注意点について弁護士が解説

自営業者が離婚をする場合には、一般的なサラリーマンの家庭とは異なる配慮が必要になります。
自営業者の場合には、収入や資産が公私で混同していることも少なくなく、一般的に資産が多くなる傾向がありますので、財産分与や婚姻費用・養育費の金額が高額化し、争いになることがあります。また、配偶者を従業員として雇用している場合には、離婚後の雇用関係の処理も問題になります。

このように、自営業者が離婚をする場合には、さまざまな問題が生じる可能性がありますので、何の知識もなく離婚を進めてしまうと、思わぬ不利益を被る可能性があるので注意が必要です。

1、自営業者(経営者)が離婚する際の財産分与

自営業者が離婚をする際の財産分与は、基本的には通常の財産分与と同様に進めていきますが、注意が必要な点もあります。
まずは、自営業者が離婚をする際の財産分与について説明します。

  1. (1)財産分与とは

    財産分与とは、夫婦が離婚する際に、夫婦の一方が他方に対して婚姻期間中に築いた財産の分与を請求する制度のことをいいます(民法768条1項)。

    民法では、夫婦別産制を基本としており、「婚姻中に自己の名で得た財産は、その者の特有財産とする」としています(民法762条1項)。夫婦別産制のもとでは、一方の名義の財産がもう一方の名義の財産を上回るといった、夫婦間の経済的格差が生じてしまいます。婚姻中であればそのような経済格差が生じても家庭内で調整できるので問題ありませんが、離婚時にそのままの状態では、名義財産の少ない側が不利益を被ることになります。
    そこで、離婚に際して夫婦間の経済的格差を調整するために、一定額の財産給付を求めることを認めたものが財産分与の制度です。

  2. (2)財産分与の種類

    財産分与の種類には、以下の3つの種類があります。

    ① 清算的財産分与
    清算的財産分与とは、夫婦の共有財産を財産形成・維持に対する夫婦の貢献度に応じて分配するというものです。一般的に財産分与というと清算的財産分与を指すことになります。

    ② 扶養的財産分与
    扶養的財産分与とは、離婚後の配偶者に対する経済的援助を目的としてなされる分与のことをいいます。離婚後は、夫婦間の扶養義務は消滅するため、本来は、元配偶者を経済的に援助する義務はありません。しかし、離婚によって一方が経済的に困窮すると認められる場合には、例外的に扶養的財産分与が行われることがあります。

    ③ 慰謝料的財産分与
    慰謝料的財産分与とは、離婚にあたって有責性のある配偶者に対して慰謝料の意味で請求する財産分与をいいます。たとえば、不貞行為(浮気・不倫)が原因となり離婚に至ったようなケースです。
    しかし、実務上は財産分与ではなく、離婚慰謝料として請求するのが一般的なため、慰謝料的財産分与が問題になることは少ないといえます。

  3. (3)財産分与の割合

    財産分与の割合をどうするのかについては、法律上明確な決まりはありません。そのため、基本的には、当事者が話し合いをして自由に決めることができます
    話し合いで決まらない場合には、調停、審判、裁判で決めることになりますが、その際には、財産分与の割合は2分の1にするのが一般的です。これは、夫婦の財産形成に対する貢献度が等しいという考え方に基づいており、たとえばサラリーマンと専業主婦の夫婦であってもこの割合は変わりません。

  4. (4)財産分与の対象になり得る財産

    財産分与の対象になり得る財産は、夫婦が婚姻生活中に築いた財産に限られます。これらを「共有財産」といいます。
    共有財産かどうかは、どちらの名義であるかという形式で判断をするのではなく、夫婦が協力して形成した財産かどうかという観点から判断していくことになります。そのため、独身時代にためた預貯金や、親からの相続によって得た財産については、夫婦の協力とは無関係と考えられるので、基本的には財産分与の対象外となります。

    なお、財産分与の対象となる共有財産としては、次のようなものが挙げられます。

    • 現金
    • 預貯金
    • 株式や投資信託などの有価証券
    • 不動産
    • 保険(生命保険、学資保険など)の解約返戻金
    • 退職金
    • 自動車
    • ゴルフ会員権 など
  5. (5)事業の借金はどう考える?

    事業用財産と個人用財産が、いずれも個人名義の財産だった場合、事業用財産についても、財産分与の対象に含まれる可能性があります。その場合には、事業用財産だけでなく事業用の負債も含めた総額が財産分与の対象になります。

    もっとも、事業用財産が無条件に財産分与の対象に含まれるわけではありません。事業用財産と負債が財産分与の対象財産に含まれるのは、事業を配偶者とともに行っていたケースや、事業用財産と個人用財産を明確に区別せずに管理していたなどの事情がある場合です。

    参考:財産分与についてもっと知りたい方はこちら

2、財産分与における共有財産の範囲

財産分与の対象財産は、夫婦の共有財産に限られますが、自営業者の場合には特殊性があります。

  1. (1)自営業者の配偶者は年金分割の対象にならない?

    年金分割とは、夫婦が離婚をした場合に、婚姻期間中に加入していた厚生年金または共済年金の分割をできる制度のことをいいます。

    年金分割の対象は、厚生年金と共済年金に限られ、国民年金や厚生年金基金は対象外です。自営業者が加入する年金は国民年金のみとなるので、自営業者の夫婦では、年金分割の対象が存在しないということになります。つまり、年金分割を求めることができません。

    もっとも、自営業者の多くは、国民年金のみでは老後が不安であるなどの理由から、国民年金基金、確定拠出年金、保険会社の年金保険などに加入していることがあります。これらについては、年金分割の対象にはなりませんが、財産分与の対象財産に含まれます。そのため、これらの年金については、年金分割ではなく財産分与で調整されることになります。

  2. (2)会社名義の財産は財産分与の対象になる?

    財産分与は、夫婦の財産を清算する制度ですので、財産分与の対象財産は、個人の財産だけであり、会社名義の財産は財産分与の対象にはなりません。しかし、個人の財産と会社の財産が明確に区別されていないなどの事情がある場合には、例外的に財産分与の対象に含まれる場合があります。

    また、夫婦のどちらかの名義で会社の株式を保有している場合には、会社名義の財産ではなく、個人名義の財産になります。そのため、婚姻期間中に取得したものであれば、夫婦の共有財産として財産分与の対象に含まれます。

  3. (3)事業の債務について配偶者が連帯保証人になっている場合

    個人事業主が金融機関から借り入れをする際に、配偶者を連帯保証人として事業資金の借り入れを行うことがあります。しかし、個人事業主の夫婦が離婚をしたからといって、自動的に連帯保証人から外れるわけではありませんので、離婚後も原則として連帯保証人の地位は存続します

    連帯保証人を外してもらうためには、代わりの保証人をたてるなどしたうえで、金融機関の承諾を得なければなりませんが、容易ではありません。離婚後も事業資金の連帯保証人であり続けるというのはあまりに酷な事態ですので、そのような場合には、財産分与の増額などによって対応するのが現実的であるといえます。
    連帯保証人というリスクを引き受けてもらう以上は、事業主としては一定程度の金額を財産分与に上乗せして支払う必要があるといえるでしょう。

3、自営業者(経営者)が離婚する際の注意点

自営業者が離婚をする場合には、財産分与以外にも注意点があります。

  1. (1)婚姻費用は適正額を支払う

    婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を送るために必要になる費用のことをいいます。婚姻関係を解消するまでは、夫婦は互いに婚姻費用を分担する義務がありますので、収入の多い方が少ない方に対して婚姻費用を支払わなければなりません。

    婚姻費用をいくらに設定するかについては、夫婦が話し合いによって自由に決めることができますが、話し合いで決まらない場合には、裁判所が公表している婚姻費用の算定表を用いて計算するのが一般的です。算定表では、子どもの人数と夫婦双方の収入を基準として、婚姻費用の相場を求めることができます。

    自営業者の場合には、確定申告書の「課税される所得金額」が年収にあたりますが、実際には、さまざまな控除がなされています。そのため、基礎控除や青色申告控除などの実際には支出していない費用を、「課税される所得金額」に加算をしたものが、婚姻費用の算定で用いる年収と考えます。

    算定表では、個人事業主の年収が1567万円までが記載されており、年収が1567万円付近の個人事業主は、算定表の上限に近い婚姻費用を支払う必要があります。また、算定表の上限を超える年収を得ている場合には、算定表の上限で算定すべきという考え方と上限を超えて算定すべきという考え方があります。どちらの考え方を採用するかによって、個人事業主が負担すべき婚姻費用の金額は大きく異なってきますので、算定表の上限を超える年収を得ている個人事業主の方は、弁護士に相談をすることをおすすめします

    参考: 婚姻費用計算ツールはこちら

  2. (2)離婚を理由に配偶者を解雇することはできない

    個人事業主(会社経営者)の場合には、妻を従業員として雇用していたり、役員として選任したりしていることも少なくありません。離婚にあたって従業員や役員の地位はどうなるのでしょうか。

    ① 配偶者を従業員にしている場合
    配偶者を従業員として雇用している場合には、夫婦間であったとしても労働契約が存在します。そして、労働者を解雇するためには、労働契約法16条に基づき厳格な解雇規制が適用されます。夫婦が離婚をしたというのはあくまでも夫婦の個人的な事情ですので、それを理由として労働者を解雇することはできません。
    もっとも、離婚後も一緒に働くというのはお互いにやりづらい部分がありますので、解雇ではなく有利な退職条件とすることによって退職させるという方法が考えられるでしょう。

    ② 配偶者を役員にしている場合
    配偶者を役員として選任している場合には、会社と配偶者との間に委任契約が存在します。
    役員については、任期途中で解任することも可能ですが、正当な理由なく解任した場合には、損害賠償請求をされるリスクがあります。夫婦が離婚をしたという事情は、役員を解任するための正当な理由にはなりませんので注意が必要です。
    そのため、役員としての任期が満了するまでの間は、そのままの状態にしておくことが安全です。

  3. (3)一方が無償で仕事をサポートしていた場合

    自営業者の配偶者が自営業者の仕事を無償でサポートしていたような場合には、雇用契約に基づき未払い分の給料の請求ができる場合があります。
    これは、離婚とは別の請求になりますので、離婚調停や離婚裁判では、扱うことができない事項です。もっとも、協議離婚であれば、未払いの給料も含めて話し合いをすることができますので、解決金の支払いに含めて考えることもできます。

    また、配偶者による無償のサポートがあったおかげで、事業がうまくいき一定の資産を形成することができたという場合には、財産分与の割合で考慮されることもあります。財産分与の割合は原則として2分の1ですが、財産形成・維持に対する貢献度に応じて修正することは認められていますので、配偶者から財産分与割合の修正を求められる可能性もあります。

4、自営業者(経営者)の離婚について弁護士ができること

自営業者が離婚をする場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)適切な財産分与や婚姻費用の金額を算定してもらえる

    前述したように、自営業者の場合には、財産分与や婚姻費用の算定において複雑な計算になることが多い傾向にあります。婚姻費用については、算定表を基準にして婚姻費用の相場を知ることができますが、算定表の上限を超える収入を得ている場合には、婚姻費用の標準算定方式に従って計算をしなければならず、一般の方では正確に計算するのは難しいでしょう。

    また、財産分与についても事業用財産や負債をどのように扱うのか、配偶者が連帯保証人になっている場合にはどのように扱えばよいかなどの複雑な問題があります。
    自営業者の場合には、通常の離婚とは異なるこれらの問題が多数生じますので、不利な離婚条件にならないようにするためにも弁護士の助言を得て適切に進めていくことが重要です。

  2. (2)交渉から裁判まで任せることができる

    個人事業者の方は、経営を一手に引き受けていることが多く、日々の業務に追われて、自分だけでは離婚の話し合いに対応する余裕がないことも多いでしょう。
    弁護士に依頼をすることによって、弁護士が離婚についての話し合いの窓口になりますので、個人事業者の方が配偶者と話し合いをしなければならないという手間やストレスから解放されます
    話し合いで解決できない場合であっても、離婚調停から離婚裁判まで、離婚に関する一連の紛争が解決するまでサポートしてもらうことができます。

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5、まとめ

自営業者が離婚する場合には、共有財産の範囲や配偶者との雇用関係の処理において複雑化するケースが多くあります。また、婚姻費用については高額化する可能性が高いため、適切な離婚条件を定めるためには、弁護士のサポートが不可欠でしょう。

ベリーベスト法律事務所では、離婚専門チームが組まれており、ご相談者さまからのあらゆるご要望やお悩みに適切に対応できる体制を整えています。自営業者の方で離婚問題を抱えている方は、豊富な経験・実績を有するベリーベスト法律事務所までご相談ください

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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