子どもの連れ去り別居は違法? 対処法や親権獲得について解説
帰宅したら、家にいるはずの子どもの姿が見当たらない。
保育園へ迎えに行ったら、すでに配偶者が連れて行ってしまっていた。
配偶者が勝手に子どもを連れて別居を始めてしまった。
子持ち夫婦が離婚を決意したとき、「母親か父親、どちらが子どもの親権を持つのか」という点が問題となります。
母親も父親もお互いに親権を持ちたいと考えるケースでは、話し合いが平行線となってしまうことも少なくありません。話し合いがまとまらない結果、どちらかが勝手に子どもを連れ去り、別居するという強硬手段を取るケースもあります。
本コラムでは、連れ去り別居の違法性と、配偶者に子どもが連れ去られたときの対処法等について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、連れ去り別居とは?
連れ去り別居とは、配偶者のどちらかが相手の合意なく、子どもを連れて勝手に別居してしまうことです(連れ去り別居という法律用語があるわけではありません。あくまで、別居の態様を表す言葉です)。
現在の法律では、子どものいる夫婦が離婚する際には、子どもの親権者を決めることが求められています。そのため、両親がともに子どもの親権者になりたいと希望して、話し合いが平行線となっている場合、離婚届の提出はできません。
そこで、強引に子どもの親権を取ろうとして、一方が連れ去り別居を強行することがあります。子どもを巻き込んだ大きなトラブルへ発展してしまうのです。
2、子どもの連れ去り別居で違法となる可能性があるケース
もしあなたが連れ去り別居をされてしまった側であれば、「子どもを誘拐された」と感じることでしょう。大切な子どもを勝手に連れ去られたのですから当然です。
とはいえ、子どもにとっては連れ去りを行った側も親です。以前は、親権を決める際に連れ去りを行った側の「生育環境の現状維持」や「監護実績」といった事情が重視され、連れ去られた方が泣き寝入りせざるを得ないケースも多く発生していました。
しかし、子どもの連れ去り別居が社会問題化し、日本がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)締結の検討を始めたことから、その状況は変わっていきました。日本がハーグ条約を締結した平成25年からは、家庭裁判所でも、子連れ別居の状況や原因の確認を以前よりもしっかりと行うようになったのです。
では現在、「連れ去り別居」は法律的にはどのように解釈されるのでしょうか。子どもの連れ去り別居が違法とされるケース、違法とされないケース、それぞれの状況を知っておきましょう。
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(1)連れ去り別居が違法だと解釈されるケース
両親が互いに合意していない状況において子どもを連れ去る形で別居した場合は、基本的に違法な連れ去りと解釈されると考えてよいでしょう。
具体的には以下のようなケースです。
- 保育園や小学校から相手に無断で子どもを連れだした
- 子どもを待ち伏せして連れ去り別居を強行した
- 面会交流後、子どもを監護親の元に帰さない
そもそも、連れ去り別居は、「未成年者略取罪」
と呼ばれる刑法224条の構成要件に該当する可能性のある行為です。刑事告訴され、起訴されたとなると、理屈上は3月以上7年以下の懲役が課せられます。
とはいえ、夫婦間の争いで、告訴まで至るケースは多くありません(親告罪であるため、告訴がなければ罰せられることはありません)。離婚前であれば、相手にも親権があるため、略取に該当せず、刑法224条の構成要件にはあたらないと解釈されることもあります。
刑事手続きの問題とは別に、違法な連れ去り別居であると家庭裁判所で認められれば、連れ去り別居を強行した側が親権者としての適格がないと判断されることもあります。 -
(2)連れ去り別居が正当なものであると解釈されたケース
次のようなケースであれば、あなたが合意していない連れ去り別居であっても、違法ではないと判断されることもあります。
- あなたが子どもを虐待していた
- あなたが配偶者に対してDVを行っていて、子どもへの影響が懸念されていた
つまり、子どもの生命身体に危険が生じる得る場合などには、違法ではないと判断されることがあるのです。
相手が連れ去り別居をした際に、相手があなたからDVを受けていた等の主張をして、連れ去り別居を正当化しようすることもありえます。その際は、その主張が虚偽であることを強く主張する必要があります。
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なる場合がございます。
3、親権を獲得するために知っておきたい親権者となる条件
子どもの親権は、なによりも子どもの利益を最優先として考えるべき事項です。つまり「跡継ぎである」「養育費を払いたくない」等の理由は親権を判断する要素にはなりえません。
具体的に、子どもの親権を得るために求められる必要最低限ともいえる条件を知っておきましょう。
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(1)子どもへの愛情
愛情は形に見えないものなので、見える形で示さなければなりません。そこで「どれだけ子どもの育成環境に適した環境を作ることができるか?」「自身の生活リズムを子どもに合わせられるか?」等の客観的な状況が重視されることになります。
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(2)収入・資産等の経済力
子どもを育てていくためには、経済力も欠かせません。生活に困窮すれば子育ては難しくなりますし、子どもの教育費次第で、子どもの将来が変わることもあります。
そのため、経済力がある側が親権者にふさわしいと考えられる傾向にあります。ただし、養育費等で十分に補える場合はこの限りではありません。 -
(3)手助けしてくれる人の有無
あなたが子どもに寄り添った生活を送れるよう準備をしていても、不意の病気や事故等、ひとりでは対応しきれないこともあるでしょう。
そのとき、あなたの代わりに子どもの面倒を見てくれる方がいることは、子どもにとって大きなメリットになります。典型例としては子どもの祖父母等、親権を希望する親の親族の援助がどの程度得られるのかという点が重要です。 -
(4)親権者の心身の健康状態や性格等
いくら子どもへの愛情があっても、あなたが体調不良や心身が落ち込んでいる状態に陥れば、子どもを育成することは難しくなります。そのため、親権を求めていても、子どもが成人する前に親権者が果たすべき責任を担えない可能性があるケースでは、親権を得ることが難しくなります。
もちろんDVがあった、育児放棄(ネグレクト)していた等の事情がある場合にも、親権を得ることは難しくなります。 -
(5)今後の生活環境
離婚によって、これまでの生活環境が一変する方も少なくないでしょう。「(2)収入・資産等の経済力」にも関わることですが、引越す場合の引越し先や、生活環境、学校生活等も考慮されます。
たとえば住む場所が仮住まいで、頻繁に引越しが必要な環境であれば、親権を持つにあたって不利な事情とされるおそれがあります。 -
(6)子どもの年齢や性別、発育状況に適した生活ができるかどうか
日本では、「子どもの養育のためには母親が傍に居ることがふさわしい」と考えられる節があり、特に子どもが幼ければ幼いほど、親権は母親優先となる傾向があります。乳幼児であればなおさら、親権争いの場は母親が有利となるでしょう。
しかし、母親が育児放棄をしていたり、父親が主体となって育児をしていたりする場合には、この限りではありません。子どもの状況に合わせた生活をさせられるかが一つのポイントとなります。 -
(7)現状維持に近い状態で今後も生活できるかどうか
子どもが問題なく養育されている場合には、現状を維持しようとした判断がされることが多いです。「現在、子どもが落ち着いた生活を送っていられるのであれば、生活環境を変える必要はないし、変えることで子どもに負担をかけてしまうのも避けたい」という考え方です。
既に片方が子どもを育てているのであれば、現状維持という観点からはその者が親権を持つにあたって有利となります。 -
(8)子ども本人の意見や意思
子どもの年齢が15歳を超えている場合、家庭裁判所では子どもの意思を聞くことになり、状況にもよりますが、子どもの意思は尊重されます。
15歳未満であっても、学童期以降は、子どもの意見も参考にされます(調停では、調査官という裁判所の職員が子供と親のかかわり方をチェックしたり、子供の意見を聴取したりすることもあります)。
4、合法的に子どもと暮らすためには?
「どうしても離婚後も子どもと暮らしたい!」と思い詰めた末、連れ去り別居を強行することを考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、連れ去り別居は違法な連れ去りとなり、かえって不利になってしまうことにもなりかねません。どうすれば子どもと一緒に暮らすことができるのでしょうか。
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(1)話し合いで決める(協議)
まずは別居前に冷静な話し合いを行い、相手(離婚相手)に自らが子どもと生活することを納得してもらうことです。
相手が納得した状態で、子どもを連れて別居すれば、それは連れ去り、といった評価を受けることはなく、何ら問題にはなりません。養育実績も積めるため、後の離婚協議の際に親権が問題になったとしても、現状維持の原則に則り、親権を得られる可能性が高まります。 -
(2)子の監護者の指定調停
スムーズに相手が納得してくれればよいのですが、「子どもは母親が引き取るものだ」と相手(特に母親)が譲らず、その結果連れ去り別居に至ることもあるようです。話し合いをしても結論が出せない場合は、家庭裁判所を通じて判断を下してもらうことができます。
その場合は、最寄りの家庭裁判所へ足を運び、「監護者指定調停」を申立てましょう。
「監護者指定調停」では、子どもと一緒に暮らして生活する「監護者」を決めるための話し合いを、審判官、及び調停委員を介して行います。あくまでも話し合いなので、調停委員が結論を出すことはありません。
調停を通じて話し合っても結論が出ないときは、調停は不成立となり、「監護者指定審判」へ移行します。 -
(3)子の監護者の指定審判
「監護者指定審判」では、家庭裁判所の審判官が、どちらが監護者としてふさわしいかを判断し、適切な監護者を指定してくれます。
判断基準は、「3、親権を獲得するために知っておきたい親権者となる条件」で解説した、親権者となる条件と同じと考えられています。実際の判断材料は、監護者指定調停で行われた話し合いの内容を参考にします。
子の監護者の指定審判であなたが指定されれば、相手が納得しなくとも、合法的に子どもと一緒に暮らすことができます。 -
(4)離婚調停・訴訟
子の監護者と親権者は、似ているようで異なります。親権そのものは、離婚が成立するまでは子の両親がふたりで行使するものだからです。よって、実際に離婚をするときには、改めて親権について話し合うことになりますが、多くのケースでは、子どもの育成環境が変化しないよう、別居時に決めた監護者が、そのまま親権者になります。
少しでも早く離婚を成立させたい場合は、監護者指定調停ではなく「離婚調停」を申し立て、親権や養育費、財産分与等をまとめて話し合うというケースもあります(むしろ、実務的にこちらのケースの方が多いでしょう)。
離婚調停もあくまで調停官・調停委員という第三者を介した話し合いですが、夫婦ふたりや家族等を通じて話し合って離婚を決める協議離婚とは、大きく異なる点があります。
調停を通した話し合いで離婚が成立した場合は「調停離婚」となり、調停を通じて決めたことを書面に記した調停調書が発行されます。調停調書は強い効力を持つ書類(簡単に言えば判決と同じ効力を持つことになります)になりますので、万が一相手が約束を破って子どもの連れ去りを行おうとしたとき等には、訴えることで強制的にこれをやめさせることができます。
また、調停での話し合いで合意を得られないときは、裁判を起こすことになります。裁判では親権者指定も行ってくれますので、訴訟についても視野に入れておいた方がよいでしょう。
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5、もし夫や妻が子どもの連れ去り別居をしたら?
監護者や親権を決める話し合いをしている最中や、何の前触れもなく突然、子どもを連れ去り別居しはじめたときは、どうしたらよいのでしょうか。
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(1)監護者指定・子の引渡し審判申立て(審判前の保全処分を含む)
まずは子どもの安全を確認し、相手がどのような状態なのかを見極める必要があります。
話し合いで引き取れる場合は、その方がよいケースもあるでしょう。子どもの命や心身に危険が及びそうな場合(連れ去った相手に刑事上の罪が成立するような場合等)は、警察に相談することも考えられます。
話し合いで解決する余地がある場合は、離婚前であれば「子の引渡し調停」を申し立てることになります。前項で説明した「監護者指定調停」も同時に申し立てましょう。
ただし、調停は月に1度程度しか開催されません。決定までに時間がかかり、相手に養育実績を与えてしまうことになります。また、子どもを連れ去る相手と話し合いが上手くいく可能性もそう高くはないでしょう。
そこで、監護者を速やかに決定してもらえるよう「監護者指定・子の引渡し審判」を申し立てると同時に、「審判前の保全処分」の申立ても行います。審判の決定が下るまでにも時間がかかるため、決定前に仮の処分を下してもらうための手続きです。これらの申立ては、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
万が一離婚後に、あなたが親権者、監護権者となっているにもかかわらず、相手が子どもを連れ去り別居しはじめたときも、速やかに「子の引渡し審判」と「審判前の保全処分」を申し立てましょう。 -
(2)人身保護請求
相手が話し合いに応じなかったり、速やかに保護する必要があったりするときは、「人身保護請求」の申立ても考えられます。
本来、人身保護請求は、子どもへの虐待が疑われる場合等を想定したものですが、一度は合意した親権を奪おうとするケースでも適用できることがあります。ただし、人身保護請求は、原則として、弁護士を代理人として行わなければなりません。 まずは弁護士にご相談ください。
6、まとめ
今回は、子どもの親権獲得や連れ去り別居について、詳しく解説しました。
大切な子どもが心身共に健康に育っていくためには、安定した生活環境が欠かせません。なによりも子どものことを第一に考え、話し合いを進めていくことが最重要です。
相手方が、話し合いに応じずに連れ去り別居を行った際には、速やかに弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、離婚問題に関する豊富な経験と実績を有する弁護士が多数在籍しています。知見のある弁護士が親身になってサポートいたしますので、お困りの際には、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。
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- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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