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離婚時におさえておくべき年金分割の基本と注意したいポイント

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更新日:2024年10月09日  公開日:2021年02月18日
離婚時におさえておくべき年金分割の基本と注意したいポイント

40代、50代、60代で離婚を選択する場合に、特に気を付けておきたいのが年金分割の手続きです。

年金分割の手続きをすることによって、離婚時に婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割することができ、将来にもらえる年金額が増える可能性があります。

特に、長年専業主婦(主夫)として家庭を支えていた方は、年金分割をしなければ、わずかな国民年金だけで生活をしなければならないおそれがあります。経済的な問題や負担を抱えることなく老後の生活を充実させるうえで、年金分割は重要な制度なのです。

本コラムでは、離婚時におさえておくべき年金分割の基本と注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、年金分割の種類は「合意分割」と「3号分割」

まず、年金分割制度の概要と、年金分割の種類(「合意分割」と「3号分割」)について解説します。

  1. (1)年金分割制度の概要

    年金分割制度とは、夫婦が離婚をする際に婚姻期間中の「厚生年金保険料納付記録」を分割することができる制度のことをいいます。

    日本の公的年金制度は、国民年金(1階部分)、厚生年金(2階部分)、企業年金(3階部分)という3階建ての構造になっています。このうち、年金分割の対象になるのは、2階部分である厚生年金です。1階部分である国民年金や3階部分である企業年金については年金分割の対象外になります。

    また、年金分割は保険料納付記録を分割するという制度であり、将来もらうことができる年金額を単純に半分にする、というものではありません。
    ただ、専業主婦やパート労働による収入しかない方にとっては、年金分割をすることによって将来の年金額が増えるというとても重要な効果があります。特に婚姻期間が長い場合には、年金分割によって将来受け取ることができる年金の金額は大きくなります。

    したがって、離婚時には必ず年金分割を行うようにしましょう。

  2. (2)合意分割と3号分割の違い

    年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。

    ① 合意分割とは
    合意分割とは、夫婦の合意または裁判所の判断によって分割割合を定めて、婚姻期間中の厚生年金保険料納付記録を分割する制度です。

    合意分割は、夫婦が共働きである場合や平成20年3月31日以前に国民年金の第3号被保険者期間がある(専業主婦の期間があるなどの)場合に選択されます。
    また、合意分割をするためには、以下の要件を満たさなければなりません。

    • 平成19年4月1日以降に離婚をした夫婦であること
    • 夫婦の合意または裁判により年金分割割合を定めていること


    なお、合意分割によって定めることができる年金分割割合の上限は50%までとされています。たとえ夫婦の合意があったとしても50%を超える年金分割割合を定めることはできないので注意が必要です。

    ② 3号分割とは
    3号分割とは、国民年金の第3号被保険者からの請求によって、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する制度です。

    3号分割は、国民年金の第3号被保険者であった期間のある方、つまり専業主婦など、会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者に扶養されている期間のある方が単独で請求を行うことができます。
    専業主婦が会社員の夫に対して請求するケースが典型的です。

    また、3号分割をするためには、以下の要件も満たす必要があります。

    • 平成20年5月1日以降に離婚した夫婦であること
    • 平成20年4月1日以降に国民年金の第3号被保険者期間があること

2、分割方法別|年金分割の手続き方法

それでは、合意分割と3号分割のそれぞれについて、具体的な手続きの方法を説明します。

  1. (1)「合意分割」の手続き方法

    合意分割をする場合の手続きは①~④の順に行います。

    ① 情報通知書の請求
    合意分割をする際には「年金分割のための情報通知書」が必要になります。
    年金分割のための情報通知書は、最寄りの年金事務所に次の書類を提出することで請求することができます。

    • 年金分割のための情報提供請求書
    • 請求者本人の基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにするための書類(例:年金手帳、基礎年金番号通知書、マイナンバーカード)
    • 婚姻期間などを明らかにするための書類(戸籍謄本。事実婚の場合は住民票等)


    なお、年金分割のための情報通知書は、請求から3~4週間で交付されます。

    ② 合意または裁判による年金分割割合の定め
    合意分割をする場合には、上限50%の範囲内で年金分割割合を定める必要があります。
    年金分割割合は、夫婦間の話合いによって合意することもできますし、家庭裁判所の調停や審判、離婚訴訟において取り決めることも可能です。

    なお、夫婦間で合意できれば、50%の範囲内で自由に年金分割割合を定めることができますが、調停・審判・訴訟では年金分割割合は50%とされるのが一般的です。

    ③ 年金事務所での手続き
    年金分割割合を定めることができたら、必要書類を持参して、最寄りの年金事務所で年金分割の手続きを行いましょう。夫婦の話し合いによって合意した場合で、公正証書ではなく夫婦間の合意書のみの場合には、夫婦がそろって年金事務所に行き、請求手続きを行わなければなりませんので注意しましょう。

    〈必要な書類〉

    • 標準報酬改定請求書
    • 請求者本人の基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにするための書類(例:年金手帳、基礎年金番号通知書、マイナンバーカード)
    • 婚姻期間などを明らかにするための書類(戸籍謄本。事実婚の場合は住民票等)
    • 請求日から1か月以内に作成された生存を確認できる書類(戸籍謄本、住民票等)
    • 年金分割の合意を明らかにするための公正証書、調停調書、審判書など
    • (当事者間の合意書による場合)運転免許証などの本人確認書類


    ④ 標準報酬改定通知書の受領
    年金分割の手続きが完了すると、「標準報酬改定通知書」が送付されます。これで合意分割の手続きは終了です。
    ただし、実際に年金分割後の年金を受給することができるのは、65歳になってからです。

  2. (2)「3号分割」の手続き方法

    3号分割をする場合には、合意分割のような面倒な手続きをする必要はなく、書類の提出のみで完了します。

    ① 年金事務所での手続き
    離婚後に次の書類をそろえて、年金事務所に提出します。

    • 標準報酬改定請求書
    • 請求者本人の基礎年金番号またはマイナンバーを明らかにするための書類(例:年金手帳、基礎年金番号通知書、マイナンバーカード)
    • 婚姻期間などを明らかにするための書類(戸籍謄本。事実婚の場合は住民票等)
    • 請求日から1か月以内に作成された生存を確認できる書類(戸籍謄本など)


    ② 標準報酬改定通知書の受領
    年金分割の手続きが完了すると、「標準報酬改定通知書」が送付されます。
    これで3号分割の手続きは終了となります。

    実際に年金分割後の年金を受給することができるのは65歳になってからという点は、合意分割の場合と同様です。

3、離婚時に年金分割をしておくべき理由

年金分割は、離婚する時点で行っておいたほうが良いのでしょうか。その理由を、確認していきましょう。

  1. (1)年金分割には請求期限がある

    年金分割には、離婚をした日の翌日から2年以内という期限があります
    請求期限を経過してしまうと、原則として、年金分割を請求することはできなくなってしまいます。

    請求期限内であれば離婚後に年金分割の手続きをすることも可能だとはいえ、2年という期限はあっという間に過ぎてしまうものです。また、離婚してしまった後では、元配偶者と連絡をとることが難しくなってしまうこともあります。
    したがって、できる限り、離婚についての条件を決める際に年金分割の手続きも完了させておきましょう。

  2. (2)合意分割では手続きに時間がかかる

    合意分割をする場合には、「年金分割のための情報通知書」の取得をしたうえで、(元)配偶者との合意が必要になります。離婚後に年金分割を行おうとしても、合意を得るのに時間がかかっているうちに請求期限が過ぎてしまう可能性があります。

    したがって、離婚時に年金分割を終えることができるように、早めに準備を進めておくことが大切です。

  3. (3)離婚後では相手が応じてくれないリスクが生じる

    離婚するタイミングであれば、親権や養育費、財産分与など他の離婚条件に関する話し合いの流れで、年金分割についても定めることができます。
    しかし、離婚してしまった後には、そもそも連絡する機会が少なくなるのが通常であり、話し合う機会をもつことも難しくなります。

    また、年金分割以外の離婚条件が決まっていれば『年金分割をしてくれないなら、代わりに財産分与はこうしてほしい』といったように、他の離婚条件を交渉材料に使うこともできません。年金分割は、元配偶者にとってはメリットがないので、なおさらに話し合いは難しなることが予想されます。

    なお、協議による合意が成立しない場合には、調停や審判によって年金分割を行うこともできますが、そのためには時間と費用がかかります。
    年金分割についてお困りの場合は、早めに弁護士に相談してみましょう

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4、年金分割ができないケースはある?

注意したいのは、年金分割は請求できないケースもあることです。ご自身がケースに当てはまらないか、事前に確認しておきましょう。

  1. (1)年金分割の請求期限切れ

    前述したとおり、年金分割の請求をする場合には、離婚をした日の翌日から2年以内に行う必要があります。年金分割の請求期限を過ぎてしまった場合には、年金分割をする権利があったとしても、その権利を行使することができなくなります。

    年金分割は、離婚届を市区町村役場に提出しただけでなされるわけではありません。離婚後に年金事務所で手続きを別途に行う必要があります。忘れずに手続きを行うようにしましょう。

  2. (2)配偶者が自営業者である場合

    年金分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録です。厚生年金以外の国民年金や企業年金については、年金分割の対象にはなりません。
    したがって、婚姻期間中の厚生年金記録がない場合には、年金分割を請求することはできないのです。

    たとえば、婚姻期間中配偶者がずっと自営業者である場合には、年金分割はできません。現在は自営業者であっても、以前は会社員だった時期があるという場合は、その期間中の厚生年金の保険料納付記録は年金分割の対象となります。

  3. (3)年金分割の申し立てをしない旨の合意がある場合

    合意分割で、当事者間において『年金分割の按分割合を定める調停や審判の申し立てをしない』と合意した場合、その合意は効力を持ちます。したがって、離婚時にこのような合意があった場合には、年金分割の調停や審判の申立てをすることができませんので、結果として合意分割をすることはできません。
    ただし、年金分割の請求権は公法上の権利であるため、『申し立てをしない』ということに言及せず、『年金分割をしない』としただけの場合は、年金分割の請求をすることは妨げられません。

    なお、3号分割の場合には、相手方の合意を必要としない手続きであり、当事者の合意によって請求権を失わせることはできません。

5、まとめ

年金分割という制度を利用することによって、老後の年金額を増やせる可能性があります。特に専業主婦(主夫)の方が離婚する場合には、年金分割をしないと老後にわずかな年金しかもらえなくなる可能性があります。
老後の生活の不安を解消するためにも、年金分割は必ず請求しましょう

ベリーベスト法律事務所では、離婚問題について経験豊富な弁護士が多数在籍しています。年金分割をはじめとした離婚に関するお悩みについても、最適な解決方法をご提案いたします。
年金分割や、その他の離婚条件など、離婚に関して不安がある方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください


なお、「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。

適切な分配・損をしないために離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください
この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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