「年金分割のための情報通知書」 請求から取得までの流れを解説
離婚するときに、婚姻期間中に夫が支払ってきた厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦間で分割することができる制度を年金分割制度と言います。
平成20年3月以前の期間についてこの制度を適用するためには、事前に情報通知書を取得しておくことが必要となります。
本記事では情報通知書の概要や、請求から受け取りまでの流れについて弁護士が詳しく解説します。
1、年金分割制度の申請に必要な情報通知書とは
年金分割制度とは離婚の際に、婚姻中の標準報酬額が多かった方の配偶者が少なかった方の配偶者に年金の納付実績を分ける制度です。すなわち、年金自体を分割するのではなく、分割を受けた側は、分割された分の保険料を納付したものと扱われ、それを前提として、将来、老齢厚生年金の支給額が算定される、ということを意味します。
たとえば、サラリーマンの夫と専業主婦の妻の場合、夫が支払ってきた厚生年金保険料の給付実績の方が妻の実績を上回ります。そこで、夫側の給付実績を妻の給付実績に分割します。
これにより、専業主婦だった妻も、分割された分の保険料を納付したものと扱われ、分割後の額を前提に将来の老齢厚生年金の支給額が計算されますので、結果として、分割されなかったときに比べて、後々の年金額が大きくなることになります。
年金分割を行う際は、夫婦間で、分割の割合を取り決めなければなりません。
通常は、夫婦間の話し合いで決定します。しかし、話し合いで決まらなければ、家庭裁判所の調停や審判、裁判で決定する必要があります。
この割合を決めるために必要な年金に関する情報が記載されているのが、年金分割のための情報通知書と呼ばれる書類です。
情報通知書では、標準報酬額(標準報酬月額と標準賞与額の合算)が多い方(年金分割をする側)を第1号改定者、標準報酬額が少ない方を第2号改定者と表示し、それぞれの氏名や生年月日、基礎年金番号が記載されています。
また、婚姻期間や対象期間標準報酬総額、対象期間なども記載されており、これらが、離婚した場合の将来の年金額を計算するための基礎的な情報となります。
年金分割に関する協議をする際はもちろん、協議がまとまらず、調停や審判、裁判になった時にも、申立て等の際に、この情報通知書が必要になります。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
2、情報通知書の請求から取得までの流れ
情報通知書を請求するためには、年金事務所等の窓口で情報通知書の請求手続きを行う必要があります。夫婦そろっていく必要はなく、夫婦のいずれかが行けば取得できます。
なお、年金事務所(旧社会保険事務所)はどこも大変混んでいて、予約をせずに訪問すると、何時間も待たされたり、翌日以降に出直すように言われたりします。事前に電話で予約を取っていくようにしましょう。
一般的に、請求手続きに必要な書類は以下の通りです。
- 年金分割のための情報提供請求書
- 請求者本人の国民年金手帳、年金手帳または基礎年金番号通知書
- 婚姻期間を確認できる書類(戸籍謄本など)
- 事実婚関係にある期間に係る情報提供を請求する場合は、世帯全員の住民票の写し等の事実婚関係を明らかにすることができる書類(「未届けの妻」と記載された住民票の写し等)
ただし、場合によっては、上記の他に書類が必要となることもありますので、必ず事前に直接確認するようにしましょう。
「年金分割のための情報提供請求書」は年金事務所で入手できます。また、日本年金機構のwebサイトから自分でダウンロードすることもできます。
その他の書類は、いずれも市役所などで手に入れられる書類ですので事前にしっかり準備しておきましょう。なお、相手配偶者の年金手帳はなくても大丈夫です。
これらの書類がそろったら、いよいよ請求に移りますが、請求場所は働き方によって異なります。
会社員の方は地域の年金事務所か年金相談センター、国家公務員共済組合の組合員の方は現在勤務している各省庁の共済組合(退職後は国家公務員共済組合連合会年金相談室)、地方公務員共済組合の組合員の方は、現在所属している共済組合又は過去に所属していた共済組合、私立学校教職員共済組合の組合員の方は日本私立学校振興・共済事業団共済事業本部広報相談センター相談室となります。
書類をそろえて申請を行うと、各機関により被保険者ファイルの確認が行われ情報通知書が作成されます。なお、請求してから情報通知書が郵送されてくるまでの期間も異なっていますが、おおむね1週間から1か月程度です。
情報通知書は、離婚前は、請求者のみに届きます。請求したこと自体は他方配偶者には知られません。すでに離婚している場合は、両者それぞれに届きます。
なお、情報通知書とともに、被保険者記録照会回答票も交付されます。
3、年金分割のために情報通知書が必要ではない場合とは?
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(1)日本の年金の仕組み
日本の年金制度は、いわゆる「3階建て」と呼ばれる構造をしています。
1階部分は国民年金です。20歳から60歳までの全ての国民に加入義務があり、すべての年金の土台になることから基礎年金とも呼ばれています。2階部分は、公務員や会社員など、いわゆるサラリーマンが加入する厚生年金です。
公務員は、平成27年以前は共済年金制度でしたが、現在では厚生年金に一元化されています。厚生年金とは、政府が管掌する制度で、一定の条件を満たした場合に加入が義務付けられるものです。
1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金を合わせて公的年金といいます。これに対し、3階の部分は個人または企業単位で任意に加入する私的年金です。各企業で設定している企業年金や、一元化前の公務員の職域加算などが該当します。これが日本の3階建て年金の仕組みです。 -
(2)年金分割の対象
3階建ての年金のうち、年金分割の対象は原則として2階部分の厚生年金保険に限られます。ただし、3階部分のうち、一元化前の公務員の職域加算部分だけは年金分割の対象となります。
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(3)年金分割の種類
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。
●合意分割
「合意分割」制度とは、夫婦当事者双方の合意または合意ができないときは裁判手続き(調停や審判、訴訟)によって、按分割合を定めて、婚姻期間中の厚生年金納付記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度です。
合意分割をするには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録があること
- 当事者双方の合意または裁判手続き(調停や審判、訴訟)によって按分割合を定めたこと
3号分割と異なって、平成20年4月1日より前の婚姻期間も対象に含まれます。また、分割按分の割合も、当然に2分の1ではなく、当事者の協議によって合意する必要があります。ただし、5割を超えることはできません。
●3号分割
3号分割とは、婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金第3号被保険者期間中の厚生年金記録がある場合に、配偶者である第2号被保険者が負担した厚生年金記録を自動的に2分の1に分割するものです。
国民年金の被保険者は、次の3つに分類されます。
- 1号被保険者 日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者で、2号、3号のいずれにも該当しない人です。具体的には、20歳以上の学生、自営業者などが該当します。
- 2号被保険者 厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方です。ただし、65歳以上の老齢基礎年金などを受ける権利を有している方は除きます。
- 3号被保険者 2号被保険者の配偶者で主として2号被保険者の収入により生計を維持している者(2号被保険者に扶養されている配偶者)です。代表的には、会社員と結婚して専業主婦(主夫)をしている方は3号被保険者です。
上述した3号分割の申請ができるのは、平成20年4月1日以後に3号被保険者であった期間のある方に限られています。
3号被保険者期間があるかどうかについては、記録から明らかなことですので、当事者間の合意は不要であり、年金分割を求める一方配偶者が、請求者の現住所を管轄する年金事務所に対して分割改定請求を行うと、平成20年4月1日以後の第三号被保険者期間の厚生年金記録が自動的に2分の1に分割されます。 -
(4)3号分割では情報通知書は不要
3号分割を請求する場合には、情報通知書は不要です。
ただし、注意いただきたいのは、分割のための情報通知書や当事者間の合意は不要ですが、年金事務所の窓口で分割請求の手続きを行うことは必要です。忘れずに行いましょう。
4、年金分割の申請には期限があるので注意!
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(1)年金分割の申請期限
合意分割の場合も、3号分割の場合も、年金分割の申請には離婚成立の翌日から2年という期限があります。2年を超えると、いかなる手続きをしても年金分割ができなくなりますので、できるだけ早く手続きを進めることが大切です。
よくある失敗例としては、調停離婚や裁判離婚で年金分割を定めた場合に、その後、年金分割の申請をしないまま2年が経過してしまったというものです。
裁判所のような公的機関が分割割合について決定したのだからとすっかり安心してしまい、年金事務所での手続きを自分でしなくてはいけないということを忘れてしまいがちです。
この場合でも、2年という期間制限は厳格であり、さかのぼって請求することはできません。
どのようなかたちで離婚した場合にも、年金分割を実際に実現するためには、離婚してから2年以内に、当事者が自分で年金事務所に足を運んで請求手続きをしなければならないということです。忘れずに請求を行いましょう。 -
(2)例外措置
ただし、例外措置があります。
離婚から2年を経過するまでに審判や調停を申し立て、本来の請求期限が経過後、または本来請求期限経過日前の6か月以内に審判確定、調停成立した場合には、審判確定、調停成立の日の翌日から6か月以内であれば請求が可能です。
したがって、年金分割の合意をせずに離婚し、もうすぐ2年がたちそうだという場合には、一刻も早く、年金分割の情報通知書を取り寄せて、年金分割の調停や審判の申立てをする必要があります。
なお、分割のための合意又は裁判手続きによる按分割合を決定した後、分割請求前に当事者の一方が亡くなった場合は、死亡日から1か月以内に請求を行わなければなりませんので、注意しましょう。 -
(3)年金分割の申請に必要な書類
年金分割を請求する際には次のような書類が必要となります。
●合意分割の場合- 標準報酬額改定請求書
- 標準報酬額改定請求書にマイナンバーを記入したときはマイナンバーカード等、請求書に基礎年金番号を記入したときは年金手帳又は基礎年金番号通知書
- 夫婦の婚姻期間を明らかにできる資料(戸籍謄本など)
- 請求日前1か月以内に作成された、夫婦ふたりの生存を証明できる書類(戸籍謄本など)
- 事実婚関係にある期間の合意分割を請求する場合は、その事実を明らかにできる書類(住民票等)
- 年金分割を明らかにできる書類(話し合いにより割合を定めた場合は双方が署名押印した合意書、公正証書の謄本等。裁判手続きによる場合は、審判書の謄本や調停調書の謄本等)
- 年金分割の請求をされる方の本人確認書類
●3号分割の場合
- 標準報酬額改定請求書
- 標準報酬額改定請求書にマイナンバーを記入したときはマイナンバーカード等、請求書に基礎年金番号を記入したときは年金手帳又は基礎年金番号通知書
- 夫婦の婚姻期間を明らかにできる資料(戸籍謄本など)
- 請求日前1か月以内に作成された、夫婦ふたりの生存を証明できる書類(戸籍謄本など)
- 離婚をしていないが、事実上離婚状態にあることを理由に3号分割を請求する場合は、その状態にあることを明らかにできる書類
- 事実婚関係にある期間の3号分割を請求する場合は、その事実を明らかにできる書類(住民票等)
詳細は、年金事務所にご確認ください。
上記のとおり、年金分割には夫婦の婚姻期間を明らかにできる資料として戸籍謄本が必要です。
この戸籍謄本は、離婚の届出がなされてからすぐにできるものではありません。1~2週間程度かかるのが通常です。離婚の届出をする際に、どのくらいで戸籍の記録が更新されるのかを確認するとよいでしょう。
5、まとめ
特に婚姻歴が長い熟年離婚の女性側にとって、年金は将来の生活に大きな影響を与える大事なポイントです。新しい人生に向けて後悔しないためにも、離婚の際には、預金や不動産などについての財産分与だけでなく年金分割についてもしっかりと取り決めましょう。
話し合いがまとまらないときには、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。離婚問題の解決実績が豊富な離婚専門チームがサポートいたします。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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