離婚公正証書を作成する際のポイントは? 知っておきたい注意点
公正証書で離婚協議書を作成しておくと、離婚後のトラブル防止につながります。
なかでも、財産分与や養育費に関する支払いが滞った場合に、スムーズに強制執行に移行できるのは特筆すべきメリットでしょう。
この記事では、離婚公正証書を作成するメリット、注意点、具体的な記載事項から、離婚公正証書の作成を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
1、養育費の現状と公正証書作成のメリット
夫婦が離婚をする場合でも、子どもに対する親の扶養義務は継続するため、非同居親は同居親に対して養育費を支払う義務があります。
しかし実際には、養育費の受給率は低迷しており、経済的に困窮しているひとり親世帯は少なくありません。以下より、養育費支払いの現状や、離婚時に公正証書を作成する効果を解説します。
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(1)養育費の受給率は低い
平成28年度の「全国ひとり親世帯等調査」の結果によると、母子世帯において養育費の取り決めがあるケースは半数以下の42.9%となっています。
[参考:「平成28年全国ひとり親世帯等調査結果報告 17 養育費の状況」(厚生労働省)]
離婚後に母子世帯になっている場合、一般に父親よりも母親の収入が少ない傾向にあるため、養育費を定める必要性が高いと考えられます。現に、母親が「自分の収入等で経済的に問題がない」ために養育費を取り決めていないと回答した割合は2.8%にとどまっています。
それにもかかわらず、半数以上の母子世帯が養育費を取り決めていない理由はなんでしょうか。主な回答は以下の項目です。
- 相手と関わりたくない(31.4%)
- 相手に支払う能力がないと思った(20.8%)
- 相手に支払う意思がないと思った(17.8%)
この結果を見ると、本来は養育費を受け取る権利があるにもかかわらず、養育費の支払いを受けられていない方が多いことがうかがえます。
さらに、現実の受給率は低迷しており、「現在も養育費を受けている」との回答が24.3%、「養育費を受けたことがある」との回答が15.5%にとどまります。
「養育費を受けたことがある」の回答の中には、子の就職などによって養育費の支払いがストップしたケースもあると思われますが、まだ必要な中で支払いが止まってしまったケースもあるでしょう。そう考えると、養育費を受け取る権利がある人に対して、実際に適正な養育費を受けられている人の割合はかなり低い実態があると考えられます。 -
(2)離婚届の書式改定|しかし効果は未知数
政府の検討会議では、養育費の支払い状況が芳しくない状況の改善策について検討が行われていました。
この検討結果を受けて、2021年から離婚届にQRコードが記載されるようになりました。QRコードをスマートフォンで読み取ることで、離婚後の養育費支払いなどの情報サイトにつながるようになっており、離婚する夫婦への啓蒙が意図されています。
しかし、当事者に対する強制力等を伴うものではないため、その具体的な効果は未知数です。 -
(3)離婚時に公正証書を作成するメリットは?
離婚後にきちんと養育費などを支払ってもらうためには、離婚時に公正証書を作成することが有効です。
公正証書を作成することには、主に以下のメリットがあります。
① 離婚条件に関する合意内容を明確化できる
養育費を含む離婚条件を書面に書き起こすことで、どのような内容の合意が行われたかが明確になります。
② 原本紛失の可能性がない
公正証書の原本は公証役場で保管されるため、紛失の可能性がありません。
③ 不払い時にはスムーズに強制執行へ移行できる
万が一養育費などの不払いが生じた場合には、裁判などを経ることなく、そのまま強制執行へ移行できます。ただし、強制執行には、後述する「強制執行認諾文言」の記載が必要です。
2、離婚公正証書を作成する際の注意点
離婚公正証書は、養育費などの不払いを防止するための高い効果がありますが、作成時には以下の点に注意が必要です。
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(1)一度作成したら撤回できないため締結は慎重に
離婚公正証書は契約書の一種であり、その内容は当事者双方を拘束します。一度離婚公正証書を作成したら、当事者双方の同意がない限り、原則として撤回はできません。
そのため、離婚公正証書の内容は慎重に検討しましょう。将来を見越した適切な公正証書を作成するためには、離婚問題の解決実績がある弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)強制執行認諾文言の重要性
離婚公正証書の大きなメリットのひとつに、養育費などの不払い時にすぐに強制執行へ移行できる点があります。
ただし、公正証書を用いて強制執行をするためには「強制執行認諾文言※」の記載が必要です(民事執行法第22条第5号)。
強制執行認諾文言とは、債務者が約束を守らなかった場合、直ちに強制執行に服する旨の記述です。たとえば、以下のように記載します。
本書の当事者が、本書に定める義務の履行を怠った場合、直ちに強制執行に服することを受諾する。 -
(3)強制執行が可能となる義務は限定されている
強制執行認諾文言付きの公正証書によって、強制執行が可能となる義務は、金銭の一定額の支払債務などに限定されています(民事執行法第22条第5号)。
執行証書によっては強制執行できない債務については、訴訟などを経て強制執行する必要があるので注意しましょう。
<執行証書によって強制執行できるもの>- 金銭的な財産分与
- 養育費
- 婚姻費用
<執行証書によって強制執行できないもの>- 不動産明渡しなどの財産分与
- 子との面会交流
3、離婚公正証書に記載すべき事項
離婚公正証書に記載しておくべき主な事項を紹介します。離婚後に揉めることがないように、必要な事項を漏れなく記載しておきましょう。
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(1)離婚をする旨の合意
大前提として、離婚をする旨の合意を明確に記載します。それと併せて、離婚届の提出方法なども記載しておくとよいでしょう。
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(2)財産に関する事項
財産に関する記載事項としては、以下のものが挙げられます。
① 財産分与
夫婦の共有財産をどのように分けるかを記載します。なお、婚姻中に取得した財産であれば、どちらかの単独名義で取得した場合であっても、原則として財産分与の対象です(民法第762条第2項)。
② 慰謝料
夫婦のどちらか一方が離婚の原因を作った場合、相手の精神的損害を補償するために、慰謝料の支払いを取り決めることがあります。
③ 年金分割
婚姻中の期間に係る厚生年金保険の記録も、財産分与の一環として、夫婦間で分割されます。なお、仮に取り決めがない場合でも、3号分割の対象期間については、年金事務所で「3号分割」を請求できます。
[参考:「離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)」(日本年金機構)]
④ 婚姻費用
離婚に先立って夫婦が別居していた場合、別居期間に係る生活費の清算について取り決めることもできます。 -
(3)子どもに関する事項
夫婦に子どもがいる場合、以下の事項を漏れなく取り決めておきましょう。
① 親権者
親権者は、夫婦のどちらか一方に定める必要があります(民法第819条第1項)。
なお、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所が子の利益を最優先に考慮したうえで、どちらか一方を親権者と定めます。
② 養育費
非同居親から同居親に対して、子の養育に必要な費用を支払う旨を定めます。養育費の金額は、夫婦双方の収入や子の人数・年齢などによって決めるのが一般的です。
[参考:「養育費・婚姻費用算定表」(裁判所))]
③ 面会交流の方法
非同居親が子と面会する頻度・方法・時間などを定めます。 -
(4)清算条項
清算条項とは、離婚公正証書に定めるもののほか、夫婦間には債権債務関係がないことを確認する旨の規定を意味します。
離婚後に元夫婦間でのトラブルを防止するためにも、離婚公正証書のまとめとして、清算条項を必ず規定しておきましょう。この条項を入れると、合意前の事柄について何らかの請求をすることが原則としてできなくなりますので、合意内容に漏れがないかについては慎重に確認しましょう。参考:公正証書にする方法や費用
4、離婚公正証書の作成を弁護士に依頼するメリット
離婚公正証書をスムーズかつ適切に作成するためには、弁護士への相談をおすすめします。離婚公正証書の作成を弁護士に依頼する主なメリットは、以下のとおりです。
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(1)離婚条件の協議を適正に進められる
離婚の際には、さまざまな離婚条件について、夫婦間で交渉し取り決める必要があります。
しかし、当事者同士の話し合いでは、なかなか合意にいたらないケースも少なくありません。弁護士が代理で交渉したり協議に同席したりすることで、相手から不利な条件を押し付けられないよう、法令や裁判例に基づいて離婚協議を進めることができます。 -
(2)精神的な負担を軽減できる
離婚協議は、離婚する相手との交渉になるため、当事者には大きな精神的負担がかかります。弁護士に依頼すれば、離婚協議におけるやり取りを全面的に代行してもらえるため、精神的な負担はかなり軽減されるでしょう。
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(3)他士業よりも対応範囲が広い
離婚公正証書の作成は、行政書士や司法書士に依頼することもできます。ただし、公正証書に記述する離婚条件で揉めてしまい、調停や訴訟に進めることになった場合に、代理人になれるのは弁護士だけです。
したがって、離婚条件の交渉から依頼する場合には、弁護士に依頼するのが適切だと言えます。弁護士に依頼すれば、条件について揉めたときの見通しを含めて総合的な観点から離婚に関するトラブルを防止、解決するため、さまざまなアドバイスを受けられますので、まずは弁護士へご相談ください。
5、まとめ
離婚公正証書を作成し、養育費などの支払い義務を明確に記載しておくことで、不払い時の回収可能性が高まります。
ただし、離婚公正証書を作成する場合には、記載漏れなどによってトラブルが発生したり、不利な条件を受け入れてしまったりする事態を避けるために、弁護士に相談や依頼をすることが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、離婚案件を専門的に取り扱うチームが、相手方との交渉や公証人とのやり取りなど、必要な手続きをトータルでしっかりサポートいたします。離婚で公正証書の作成をご検討の方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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