産後離婚の際に覚えておくべきこと|産後クライシスは法定離婚事由?
子どもを出産した直後は、産後クライシスなどが原因となって、産後離婚をする夫婦が多い時期です。
出産後に離婚をする場合、さまざまな準備や手続きなどが必要となるため、しっかりと把握したうえで進めることが大切です。
本記事では産後離婚の際に決めるべきことや手続きの流れ、離婚前に覚えておきたいことなどをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、産後離婚において、産後クライシスは法定離婚事由になる?
「産後離婚」とは、子どもを出産してから間もない時期に離婚することをいいます。出産直後の時期は、産後クライシスなどを理由に離婚するケースがあります。
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(1)産後離婚の主な原因となる「産後クライシス」
「産後クライシス」とは、出産後2~3年程度の間に、夫婦関係が急激に悪化してしまうことをいいます。
育児に関する貢献度や意識の違い、仕事と育児のバランス、子どもに意識が集中するあまり配偶者(夫または妻)への配慮がおろそかになること、ホルモンバランスの変化などが原因で、産後クライシスに陥ってしまう夫婦が少なくありません。
産後離婚をする多くの夫婦が、産後クライシスを原因として離婚をしているようです。 -
(2)産後クライシスは法定離婚事由に当たるか?
離婚を検討しているものの配偶者が離婚に同意しない場合に、裁判(訴訟)を通じて離婚が認められるには、以下のいずれかの法定離婚事由が必要です(民法第770条第1項)。
- ① 不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ 配偶者の生死が3年以上不明であること
- ④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
産後クライシスは、夫婦の関係性が悪化した状態にすぎないため、それ自体は法定離婚事由には該当しません。
また、「産後うつ」(=出産後一定期間、極度の悲しみを感じたり、以前行っていた活動への興味を失ったりする病気)は精神病の一種であるものの、通常は短期間で回復することが多いため、産後クライシスと同じく法定離婚事由には当たりません。
ただし、産後クライシスや産後うつに嫌気が差して、配偶者が何らかの具体的な問題行動をした場合には、法定離婚事由に該当することがあります。
たとえば、配偶者が自分以外の異性と性的関係を持った場合(=不貞行為)や、外出が常態化して家にほとんど帰ってこなくなり、生活費も支払わなくなった場合(=悪意の遺棄)などです。
2、産後離婚をする際に決めるべきこと|慰謝料請求は可能?
産後離婚をする際には、さまざまな離婚条件を取り決める必要があります。具体的には、以下の離婚条件について詳細を決めておきましょう。
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(1)財産分与・年金分割
「財産分与」とは、夫婦の共有財産を公平に分けることをいいます。婚姻中に取得した財産は、贈与をされたものや相続をしたものなど一部の例外を除いて財産分与の対象です。
また、厚生年金保険への加入記録についても、「年金分割」を請求できます。
財産分与(年金分割を含む)の割合は半分ずつとするのが原則で、専業主婦の方や、配偶者より収入が少ない方も、原則半分の財産分与を受け取れます。 -
(2)慰謝料
「慰謝料」とは、精神的な損害に対する賠償金です。
離婚において慰謝料の支払いが行われるのは、原則として夫婦のうちいずれか一方が離婚原因を作った場合のみです。産後クライシスの状態だけを理由に離婚する場合には、慰謝料は発生しません。
しかし、産後クライシスが動機となって、配偶者に不貞行為や悪意の遺棄(生活費の不払い、家に帰らない、育児を放棄する)などの問題行動が見られた場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。慰謝料の金額は問題行動の内容や婚姻期間などによって変動します。 -
(3)親権
離婚後の子どもの親権者は、父母のうちいずれか一方とする必要があります。
親権者は協議によって決めるのが原則ですが、協議がまとまらない場合には、養育の状況などを総合的に考慮したうえで、裁判所が親権者を決定します。 -
(4)養育費
離婚後に子どもと同居する親は、同居しない親(元配偶者)に対して養育費を請求できます。養育費を計算する際には、裁判所が公表している「養育費算定表」を用いる方法が一般的です。
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(5)面会交流の方法
子どもの情操教育の観点から、子どもと同居しない親とも定期的に面会させることが望ましいと考えられています。
面会交流については、以下の事項などを決めておきましょう。- 頻度
- 場所
- 受け渡し方法
- 宿泊の可否
- 普段の連絡の可否、連絡方法
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(6)婚姻費用
離婚の際に決めることとは異なりますが、離婚前に別居期間を設ける場合、収入の少ない方は収入の多い方に対して、別居期間中の生活費(婚姻費用)を請求できます。他方配偶者よりも収入が多い場合も、収入が多い側が子どもと同居しているのであれば、婚姻費用を請求できる可能性があります。
婚姻費用を計算する際には、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を用いる方法などが一般的です。
参考:婚姻費用計算ツール
3、産後離婚をする場合の流れ
産後離婚をする場合、以下の流れで進めていきます。
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(1)離婚協議
まずは夫婦間で話し合い(=離婚協議)、離婚する旨と離婚条件についての合意を試みましょう。
協議離婚が成立すれば、市区町村役場への届け出によって、理由のいかんにかかわらず離婚できます。法定離婚事由に当たらない産後クライシスや産後うつを理由とする離婚も、協議離婚であれば可能です。
離婚の合意が調った場合には、離婚条件を記載した離婚合意書を作成しましょう。
このとき、執行認諾文言という特別な文言を入れた公正証書によって離婚合意書を作成すれば、財産分与や養育費などが不払いとなった際にも、直ちに強制執行を申し立てることができるので安心です。 -
(2)離婚調停
離婚協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。
離婚調停では、民間の有識者から選任される調停委員が夫婦双方の主張を公平に聴き取り、離婚の旨および離婚条件に関する合意が調うようにサポートします。
夫婦間の合意が成立したら、合意内容が調停調書に記載されて離婚が成立します。調停が成立した場合には、成立後10日以内に、市区町村役場へ離婚届を提出します。 -
(3)離婚裁判
離婚調停も不成立に終わった場合には、離婚裁判(離婚訴訟)を提起します。離婚裁判は、裁判所の離婚判決によって強制的な離婚を目指す手続きです。
離婚裁判において離婚判決が言い渡されるのは、法定離婚事由を立証できた場合に限られます。産後クライシスの状態にあるというだけでは法定離婚事由として認められませんが、不貞行為や悪意の遺棄などを立証できれば、裁判離婚が認められます。弁護士のサポートを受けながら、十分な準備を整えたうえで離婚裁判に臨みましょう。
4、産後離婚をする前に覚えておきたいこと
産後離婚をしようとする場合、育児休業中であるケースも多いです。その場合、離婚に伴う復職と育児が重なり、生活上の負担が大幅に増えることがあります。
大幅な負担増が見込まれる場合には、実家に援助を頼むことも選択肢のひとつです。また、離婚せずに別居にとどめ、配偶者から婚姻費用の支払いを受けることも考えられますので、さまざまな選択肢を検討しましょう。
産後離婚をしてシングルマザーになった場合は、以下の各種手当や控除を利用できる場合があります。
中学校卒業までの児童を養育している方が受給できます。
参考:「児童手当制度のご案内」(こども家庭庁)
② 児童扶養手当
原則として、18歳になる年度までにある児童を監護しているひとり親の方が受給できます。
参考:「児童扶養手当」(東京都福祉局)
③ ひとり親控除
合計所得金額が500万円以下のひとり親の方は、所得税・住民税の課税に関して35万円の所得控除を受けられます。
参考:「No.1171 ひとり親控除」(国税庁)
④ 自治体の児童育成手当、住宅手当、医療費助成
ひとり親の方を対象として、自治体独自の手当や助成制度が設けられていることがあります。
など
5、産後離婚を検討している方は弁護士にご相談を
産後離婚について弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
- 離婚条件に関して、法的な観点からアドバイスを受けられます。
- 配偶者との離婚協議を代理で行ってもらえるため、精神的な負担が軽減されます。
- 離婚調停や離婚訴訟の対応を一任できるため、労力が軽減されます。
- 弁護士が法的な根拠に基づく主張を行うことで、有利な条件で離婚できる可能性が高まります。
産後の離婚は精神的にも体力的にも負担が大きいでしょう。そのような場合も、弁護士に依頼することで、弁護士が代理人として配偶者と協議をしたり、適切な条件で離婚できるよう検討・主張したりすることができるので、負担を軽減しながら進めることができます。弁護士は、状況に応じて適切なアドバイス・サポートをいたします。産後離婚を検討している方は、早い段階で弁護士にご相談ください。
6、まとめ
育児などで疲弊している状況で産後離婚を検討する際には、弁護士に依頼することで心身の負担が軽減されます。弁護士が法的な根拠に基づく主張を行うことで、有利な条件での離婚が成立する可能性が高まりますので、早い段階で弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、離婚に関するご相談を受け付けております。産後離婚をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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- 2010年12月16日
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