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地主が所有する土地は、離婚時に財産分与の対象になるか?

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更新日:2021年07月15日  公開日:2021年07月15日
地主が所有する土地は、離婚時に財産分与の対象になるか?

地主の方が離婚をする場合、最大の財産であるはずの「土地」が財産分与の対象になってしまうと、経済的に大きな損失を被ってしまう可能性があります。

実際には、地主が所有する土地は、結婚前から所有しているものが多いため、財産分与の対象外となることが多いです。しかし、いざというときのために、土地の財産分与に関する法律上の取り扱いについて日頃から把握しておくことは重要だといえます。

本コラムでは、地主が所有する土地は離婚時に財産分与の対象になるかどうかを中心に、離婚における財産分与の注意点についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。

1、地主が離婚する場合は財産分与に要注意

地主の方が離婚をするときには、どのような財産が財産分与の対象になるかという点について、事前によく確認しておくことが大切です。
まずは、財産分与の基本的な知識から解説いたします。

  1. (1)財産分与とは?

    財産分与とは、夫婦が共同で築き上げた財産を分ける手続きです(民法第768条第1項)。
    通常、夫婦が婚姻期間中に得た財産は、どちらか一方の名義で所有されています。しかし、婚姻期間中に取得した財産については、単独名義であっても、配偶者の協力を前提として築くことができたものであると考えられています。
    そのため、離婚時には、婚姻期間中に夫婦のいずれかが取得した財産は原則として共有財産と評価され、分与しなければなりません

  2. (2)財産分与の3つの要素

    専門的には、財産分与には以下の3つの要素が含まれると解釈されています。

    ① 清算的財産分与
    夫婦が共同で築き上げた財産を清算するという要素

    ② 扶養的財産分与
    離婚後の一定期間、収入が少ない側の生活保障を行うという要素

    ③ 慰謝料的財産分与
    離婚の原因を作った側が、相手方に生じた精神的損害に賠償するという要素


    このうち中核になるのは、清算的財産分与です
    片方が病気であるとか、経済力が乏しいという理由がある場合には、扶養的財産分与の観点から分与の内容が修正されることがありますが、この例はそれほど多くはありません。
    また、慰謝料的財産分与については、財産分与とは別に「慰謝料」を請求することができ、そちらで解決することが多いため、財産分与として考慮することはあまり多くはありません。

  3. (3)財産分与は「共有財産」を「2分の1」ずつ分けるのが原則

    清算的財産分与の考え方からすると、財産分与を行う際には、夫婦が共同で築き上げた財産を2分の1ずつ分けるのが基本となります。

    民法上、財産分与の対象となるのは、夫婦の「共有財産」です。夫婦の共同名義の財産はもちろん、いずれか片方の名義の財産であったとしても、それが婚姻期間中に取得されたものである限り、夫婦の共有財産と推定されます(民法第762条第2項)。
    たとえば、婚姻期間中に取得した不動産・株式・車・家・宝飾品は、特段の事情がない限り、すべて夫婦の共有財産として財産分与の対象となるのです。

    これに対して、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産や、婚姻中に自己の名で(夫婦の協力とは無関係に)得た財産は「特有財産」となり、財産分与の対象外となります

    参考:財産分与についてもっと詳しく知りたい方はこちら

2、地主の所有する土地は「特有財産」?「共有財産」?

地主の方が離婚する際に持っている土地が財産分与の対象となるかどうかは、他の財産と同じく、その土地が「特有財産」と「共有財産」のどちらであるかによって判断されます

  1. (1)結婚する前から所有している土地は「特有財産」

    結婚する前から土地を所有していた場合には、その土地は地主の「特有財産」として財産分与の対象外となります。
    婚姻期間外に取得した財産は、配偶者の協力の下で獲得したものではありませんので、財産分与の対象にならないのです。

  2. (2)相続や親族からの譲渡によって取得した土地は「特有財産」

    婚姻期間中に取得した土地であっても、その土地を取得した原因が、相続や親族からの譲渡である場合には、やはり地主の「特有財産」として財産分与の対象外となります
    通常、相続や親族からの譲渡によって取得した土地は、夫婦の協力とは無関係に取得したもの、すなわち「自己の名」に基づいて獲得したものとして評価されるためです。

  3. (3)婚姻期間中に親族外から購入した土地は「共有財産」?

    婚姻期間中において、相続や親族からの譲渡ではなく、親族外から購入した土地は「共有財産」と評価される可能性があります。
    婚姻中に親族外から購入した土地が「共有財産」になるかどうかは、購入資金の性質によって判断されます。土地の購入資金が、婚姻中に取得した現金や預貯金を原資としている場合には、その現金や預貯金が「共有財産」と評価される以上、それをもとに購入した土地も「共有財産」になり、財産分与の対象になります。

    これに対して、地主が婚姻前から所有していた現金や預貯金を原資としている場合には、その現金や預貯金はもともと「特有財産」であるため、土地も「特有財産」と評価されることになります。

    ただし、多くの場合では、土地購入の原資が「共有財産」であるか「特有財産」であるかがはっきりとせず、明確な判断ができません。
    婚姻中に取得した土地について、土地購入の原資が婚姻前の預貯金や現金であることを証明できない場合には、共有財産とされ、財産分与の対象となります。
    そのため、新たに購入する土地を財産分与の対象外とするためには、婚姻前の預貯金は婚姻期間中の預貯金とは完全に別に管理し、土地を購入する際の支払いも婚姻前の預貯金口座から直接振り込むなどして、原資を明確にしておく必要があります

  4. (4)土地の運用益は「共有財産」になり得る

    土地自体は地主の「特有財産」である場合にも、婚姻期間中に土地を運用することによって生じた利益は、夫婦の「共有財産」と判断され、財産分与の対象となる可能性が高いといえます

    まず、運用に夫婦の協力がある場合には、その利益は夫婦双方の寄与があると考えられ、運用による利益は共有財産となります。運用が生計の手段である場合には、運用による利益は共有財産となります。
    たとえば、土地を第三者に貸している場合には、婚姻期間中に、賃貸人として賃借人から得た地代等の収益は、共有財産として財産分与の対象となる可能性が高いと言えます。

    また、所有している土地で駐車場を運営しているような場合も、婚姻期間中に駐車場から得た収益は財産分与の対象になる可能性が高いと言えます。

3、地主の配偶者が不倫した場合の離婚条件について

離婚には、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」があります。
それぞれの方法における離婚の成立条件について、解説いたします。

  1. (1)「協議離婚」「調停離婚」は合意があれば可能

    日本において、夫婦が離婚をする場合には、話し合いによって離婚自体や離婚条件を合意して離婚する「協議離婚」がもっとも一般的です。
    協議離婚では、夫婦が合意さえすれば、どのような理由であっても離婚をすることができます。

    協議が不調に終わった場合、調停委員を介して裁判所で話し合いを行う調停を申し立てます。調停で離婚が成立することを「調停離婚」と呼びます。
    調停離婚も協議離婚と同様に、あくまでも夫婦間の合意によって離婚を成立させる手続きです。そのため、どのような理由であっても、夫婦が合意さえすれば、調停離婚は成立します。

  2. (2)「裁判離婚」は離婚事由を証明する必要がある

    夫婦の一方が一貫して離婚を拒否しつづけている場合や、離婚条件について折り合えなかった場合には、協議離婚や調停離婚が成立しないため、離婚訴訟(裁判)を提起することになります。離婚裁判(訴訟)を行うには、調停を先に行わなければなりません。

    そして、裁判で離婚が認められるには、法定の離婚事由(民法第770条第1項各号)があることが必要です。
    離婚事由には複数の種類が存在しますが、そのなかのひとつが「不貞行為」、すなわち一般的には不倫と呼ばれるものです(同項第1号)。つまり、不倫の事実を証拠により証明することができた場合には、原則として裁判離婚が認められることになります。

    参考:離婚の種類(協議、調停、審判、裁判)と手続きの流れを弁護士が解説

4、配偶者が不倫をした場合、離婚時の財産分与に影響はある?

もし配偶者の不倫が原因で離婚することになった場合には、配偶者に対する恨みや怒りの気持ちから、「相手に与える財産をできるだけ減らしたい」と考えても無理はないことです。
しかし、前述の慰謝料的財産分与の観点はほとんど考慮されませんので、不倫の事実が財産分与の金額に影響することは、基本的にはありません。
ただし、不倫をした配偶者に対しては、慰謝料を請求できる可能性があります。

  1. (1)不倫の事実は財産分与にほとんど影響しない

    これまでにも述べてきた通り、財産分与では「夫婦が共同で築き上げた財産を公平に分ける」という「清算的財産分与」の考え方が基本となります。

    離婚の責任がどちらにあるかは、夫婦の共有財産に対する貢献度とは無関係です。慰謝料的財産分与という考え方はありますが、ほとんど考慮されませんので、離婚の責任がどちらにあるかということが財産分与の金額に影響を与えることはほとんどありません。

    したがって、配偶者が不倫をしたことが離婚の原因であったとしても、財産分与の割合や金額を減らすことはできないと考えられています。

  2. (2)別途配偶者に対する慰謝料請求は可能

    財産分与とは別に、不倫をした配偶者に対しては慰謝料を請求することができます。

    不貞により離婚した場合の慰謝料の相場は100~300万円程度であり、財産分与によって相手が持っていく財産が多額である場合には「焼け石に水」と感じられる金額であるかもしれません。
    しかし、財産分与の金額や内容に関する交渉に有利に働く可能性もありますので、慰謝料は請求しておくとよいでしょう

    財産分与や不倫の慰謝料請求を含めて、すこしでも有利な離婚条件を獲得したい場合には、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします

5、まとめ

地主の方が離婚をする場合には、「自分の土地は財産分与の対象になるか」が最大の関心事でしょう。

通常、結婚前に取得した土地や、相続、親族からの譲渡によって取得した土地は「特有財産」となり、財産分与の対象外となりますただし、財産分与の対象となるかどうかは、他の財産と同じく、その土地が「特有財産」と「共有財産」のどちらであるかによって判断されます

ベリーベスト法律事務所では、地主など資産規模が大きい方が離婚する際には可能な限り資産を防衛できるように、さまざまな観点からサポートを行います。
配偶者との離婚をご検討中の地主の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にまでご相談ください

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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