妊娠中に離婚したら子どもの親権や戸籍はどうなる? 弁護士が解説
「おなかに赤ちゃんがいるけど、もう耐えられない」「本当にちゃんとした父親になってくれるのかが不安」「妊娠中だけど、夫と離婚したい…」
妊娠中に夫との離婚を考えてしまう自分に、罪悪感を抱いていませんか。口に出さないだけで、離婚しようかと悩んでいる妊婦の方は、意外と少なくありません。
しかし離婚となれば、あなたの今後はもちろん、おなかの子どもにも影響を与えることになります。まずは、本当に離婚したほうが良いのかどうかを見極める必要があるでしょう。
本コラムでは、妊娠中に夫と離婚するデメリットや、子どもの親権・戸籍の扱い、離婚後に請求できる慰謝料や養育費などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
もし離婚を選択したとしても、入念な準備が必要です。あなた自身はもちろん、おなかにいる子どもの将来のためにも、一度深呼吸をして、ぜひこのコラムを参考にしてください。
1、「なぜ離婚したいのか」を改めて考えたほうがよい理由
衝動的に離婚してしまい、後悔してしまうというケースは少なくありません。
また、法律的な側面からも、離婚したい理由を明確にしておく必要があります。夫婦が合意の上離婚をするのであれば、お互いが離婚届に署名・捺印し、提出することで離婚が成立します。しかし、もしあなたが離婚したくても、夫が拒否した場合、最終的には裁判で争う可能性もあります。
裁判になったときには、民法770条で定められている「法定離婚事由」を満たしていなければ、離婚は認められません。
妊娠中であればなおさら、そうでなくても、まずは離婚したい理由を明確にしておく必要があるのです。
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(1)ホルモンバランスのせいかも?
妊娠中は、あなたの体すべてが、赤ちゃんを育てるために機能を切り替えます。子宮とともにおなかはふくらみ、血液も赤ちゃんへ酸素や栄養を送るようになり、出産間近になれば、胸も母乳を出す準備を始めます。つわりもその反応のひとつです。
体はもちろん、精神的な部分をつかさどるホルモンバランスも、これまでとは全く異なった働きをするのです。
あなた自身もおそらく、妊娠してからは、妊娠前とは違うと感じることが増えたのではないでしょうか。ちょっとしたことで疲れやすくなったり、悲しくなったり、イライラするようになった……という方は少なくありません。いわゆるマタニティブルーと呼ばれる状態です。
さらに、無意識のうちに、赤ちゃんを守るため、夫だけでなく男性全般が苦手になってしまったというケースもあります。
また、出産を控え、子どもの無事を心配したり、体の不調に悩まされたり、産後の育児などについて考えたりと、現在、あるいは将来の生活に対する不安が日々高まっているのではないでしょうか。その結果、離婚の言葉が頭から離れなくなったというケースも少なくないでしょう。
もし、妊娠中の夫の言動や態度に不安や不満があるのであれば、まずは、あなたの気持ちを、夫に話してみてはいかがでしょうか。
不安を受け入れると同時に解決策を思案し、コミュニケーションをとる努力をしてくれるかもしれません。あなたひとりで不安を抱える必要は一切ありません。
また、説明できない漠然とした不安が苦しい、死のイメージが脳裏から離れない……という場合は、離婚を決断する前に、かかりつけの産婦人科や心療内科の医師に相談しましょう。妊娠中でもできる治療はあるといわれています。 -
(2)DVやモラハラで苦しんでいませんか?
もし、あなたが今抱えている不安を夫に話せないほど、まともに会話ができない状態であれば、少し状況が変わってきます。
あなたの不安を一笑される、自分のほうが苦労していると主張される、さらにののしられる……などのケースです。場合によっては、妊娠してから満足に家事ができなくなったことを理由に、殴られたり蹴られたりと暴力を振るわれているケースもあるでしょう。
この状況は、妊娠してから始まったというケースより、以前からそうだったというケースの方が多いかもしれません。いずれにせよ、典型的なDVやモラハラです。
DVやモラハラがあるのであれば、あなたの心と命を守ることが、子どもの将来を守ることにつながります。DVやモラハラに対応してもらえる公的な相談機関や弁護士を利用して、離婚の準備を進めることも選択肢のひとつです。 -
(3)夫が不倫している!
妻の妊娠中に夫が不倫していた……というケースも残念ながら少なくありません。
反省して、夫婦関係の修復に力を注いでくれるのであれば、あなた自身はつらい状況ではありますが、少し猶予を見てもよいかもしれません。ただし、慰謝料請求には時効があります。今我慢しても、数年後、関係を修復できずに離婚という結果となったとき、慰謝料請求ができなくなる可能性もあります。
傷ついた気持ちを少しでもいやすためだけでなく、万が一の場合を見据えて、不倫をした夫自身や、夫の不倫相手へ慰謝料を請求しても良いでしょう。
しかし、夫が不倫したことを開き直っていたり、反省していなかったり、堂々と不倫相手のもとへ入り浸っているような状況であれば、妊娠中であっても離婚を考えたほうがよいかもしれません。
以下の「不倫・浮気の慰謝料を請求したい方へ」のページでは、より詳しく慰謝料請求に関するポイントや注意点を解説しています。あわせてご一読ください。
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(4)夫が働けるのに働かない、家事もしない
特別な事情がないのに、夫がヒモ状態になっているケースです。収入があるのに生活費を渡さず、家庭を顧みないケースも同じように考えられるかもしれません。
もちろん、夫が健康を害していて働けないケースや、将来のために勉強中の学生であって、あなた自身もそれに合意しているというケースは当てはまりません。
子どもができたら変わってくれるだろう、働いて家計を支えてくれるようになるのでは……と考える方も少なくないようです。しかし、子どもが生まれれば、あなたひとりで行動できる時間はさらに減ります。経済的にもお金がかかるようになるため、離婚のために動くことすら難しくなります。今のうちに、離婚を視野に入れた行動を起こしておくことも検討する必要があります。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
2、妊娠中、離婚するデメリットを知っておこう
もし、離婚したほうがよいのでは……? と思われているようでしたら、この章を参考にしてみてください。
これらをデメリットに感じない、自分でなんとかできるという計画が明確にある、デメリットを踏まえても離婚したほうがよいと思うという場合には、漠然とつらい結婚生活を送るよりも離婚を選択したほうがよい可能性が高まります。
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(1)経済的に苦しくなる可能性が高い
一般的に、ひとり親家庭の貧困率は高くなると考えられます。
理由として、女性の労働賃金が低いこと、子どもがいるため長時間の労働が難しいことなどが挙げられます。特に、婚姻中に専業主婦となっている場合、婚姻前からキャリアが途切れてしまっているため、再就職をしても同年代の人より収入が少なくなってしまいがちです。
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概要」
また、子育てには純粋にお金がかかります。子どもへの愛情は必要不可欠ですが、子どもを養育するためのお金がなければ、困ることが必ず出てくるでしょう。
子どもの将来を見据え、安定した生活を送り、十分な教育をするためには、いくらお金があっても困ることはありません。そのためにも、ひとりより夫婦ふたりで力を合わせて子どもを育てることが望ましいともいえます。 -
(2)子どもの預け先と仕事探しが難しい
今妊娠していて、これから離婚するとなれば、産前産後も仕事をし続けなければ収入が途絶えることになります。
実家に子どもを預ける、在宅で仕事することが可能であれば問題ないのですが、そうでなければ、まずは保育所の確保が必要不可欠です。しかし、0歳児保育はお金もかかり、まだまだ対応している預け先が少ないのが現状です。
また、現在の正社員募集状況を見ると、残業を前提としているケースが多いようです。しかし、子育てしながら働く場合は、保育所や保育園などで決められた時間に迎えに行かなければなりません。残念ながら、理解のある職場ばかりではないのが現状であり、これから仕事を探す場合は特に、就職することそのものが難しくなる可能性が高いでしょう。
もし離婚を選択するのであれば、仕事や子どもの預け先をあらかじめ準備しておく必要があるでしょう。 -
(3)ひとりで3役をこなす強さが求められる
結婚していれば、父親の役割は夫が担います。しかし離婚後に子どもが生まれれば、状況は変わります。
あなたは、子どもの前では母親と父親と両方の役割をこなす必要がありますし、家計を維持するためにも、働く社会人としての側面が求められるようになるのです。
3、妊娠中に離婚したら子どもはどうなる?
妊娠中に離婚を考えたとき、一番気になるのは、生まれてくる子どもの将来ではないでしょうか。
離婚後、子どもが生まれた場合、いわゆる父親がいない子どもになってしまい、戸籍や将来に影響が出るのではないかと考えて、離婚をためらってしまう方もいるかもしれません。
では、具体的に、法律上、子どもの戸籍や親権などはどうなるのかを解説します。
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(1)子どもの戸籍の扱いを知っておこう
法律では、結婚している男女の間で生まれた子どもを「嫡出子」、結婚していない男女の間で生まれた子どもを「非嫡出子」と呼んでいます。
かつては、嫡出子と非嫡出子の間には、相続面で大きな差別がありました。非嫡出子が相続できる財産は嫡出子の2分の1と決められていたのです。しかし、これは憲法14条1項の定める法の下の平等に反すると判断され、現在では相続上の不利益は消えています。
妊娠中に配偶者と離婚した場合、離婚後に生まれてきた子どもの戸籍については、民法772条で以下のように定められています。
第772条
- 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
- 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
- 第一項の場合において、女が子を懐胎したときから子の出生のときまでの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
- 前三項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。
●離婚後、300日以内に出産した場合
離婚してから300日以内に出産した際は、元夫が子どもの父親であると推定されます。よって、あなたの子どもは、夫側の戸籍に嫡出子として登録されることになります。
生まれてきた子どもは元夫の戸籍に入るため、母親である自分の戸籍に入れたい場合は、お住まいの地域にある家庭裁判所へ足を運び、子の氏の変更許可の申立てをした後、入籍届を提出しなければなりません。
ただし令和6年4月1日の民法改正後、離婚後300日以内に再婚かつ出産する場合は、再婚相手との子ども(再婚相手が父親)と推定されるようになりました。
元夫との子どもではない場合、嫡出否認の訴えなどにより、親子関係を否定することが可能です。
●離婚後、300日が過ぎたあとに出産した場合
子どもは非嫡出子として、母親の戸籍に入ることになります。
非嫡出子の場合、父親の認知を得なければ、子どもにとって次のデメリットがあります。- 子ども自身の戸籍の父親の欄が空欄になる
- 父親の相続人になれない
- 父親の戸籍に入り、父親の姓を名乗ることができない
- 父親の扶養の請求ができない(父親から養育費をもらえない)
子どもの将来に大きく関わってくることが多いため、可能な限り認知をしてもらったほうがよいでしょう。
任意に認知をしてもらえない場合にも、強制的な認知を求める方法もあります。 -
(2)子どもの親権は誰になる?
原則、離婚後産まれた子どもの親権は、母親が得ることになります。 しかし、父親が親権を求め、あなたが応じれば、子どもの親権を父親に渡すことは可能です。
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
4、離婚したら請求できるものを知っておこう
妊娠中に離婚するデメリットは「2、妊娠中、離婚するデメリットを知っておこう」で説明しました。
そのうえで、離婚するメリットのほうが大きいと判断できれば、離婚に向けた準備を進めましょう。しっかりと準備をして挑めば、離婚後の生活にも役立ちます。
DVなど、生命や精神への影響に鑑みて、早急に離婚したほうがよいケースでない限りは、時間をかけても確実に準備を行うことをおすすめします。
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(1)慰謝料がもらえる条件を知っておこう
離婚原因が相手にあるケースでは、慰謝料を請求できる場合があります。
具体的には、以下のケースなどで慰謝料の支払いが認められています。- 夫が不倫している(性的な関係を伴う交際がある)
- 夫からのDVがあった
- 夫から悪意の遺棄を受けた(生活費を渡さない、家を追い出されたなど)
子どもを抱えて生活する以上、お金は少しでも多くあるほうがよいものです。慰謝料の請求ができる可能性があれば、その根拠となる証拠をしっかり手元に集めておき、確実に請求できるよう、準備をしておくことをおすすめします。
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(2)財産分与は忘れずに!
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で築き上げた財産を分け合うことをいいます。該当する財産は貯蓄や不動産、株、車などで、原則、夫婦が2分の1ずつに分割して受け取ることになります。
たとえあなたが専業主婦で、直接お金を稼ぐ立場ではなかったとしても、あなたが家事に専念していたからこそ、夫は仕事に専念できたのであって、あなたには、財産分与を受ける権利があります。
また、ケースによっては、ローンや借金など、マイナスの財産も分け合う例もあります。
婚姻前の貯蓄や、遺産などの相続によって得た財産は、個人の財産となるため、分与対象とはなりません。判断が難しい場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
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(3)養育費の請求と約束は必ず行おう
養育費は、あなた個人の生活費ではなく、生まれてくる子どものために支払われるお金です。一般的には、子どもが成人するまで請求することができますが、子どもを大学に通わせる場合など、成人後も養育費が必要な場合に、相手が支払いに応じてくれるのであれば、この限りではありません。
子どもと離れて暮らす親にとっては、子どもへの愛情を形として示すことができる、数少ない手段となります。
きちんと支払ってもらえるよう、離婚する前に約束をして、書面化しておきましょう。 -
(4)シングルマザーが受けられる公的支援
公的な福祉支援として、離婚後、ひとり親家庭となる世帯主が受けられるものがあります。
以下のような支援が該当します。
- 「児童育成手当」など、一定のお金が地方自治体から受給できる支援
- 「母子及び父子福祉資金貸付金」など、満20歳未満の子どもを扶養するひとり親が利用できる融資
- 「ひとり親家庭等医療費助成制度」など、一定年齢以下の児童を養育するひとり親家庭等への医療費補助
- 「公営住宅優遇措置」など、公営住宅へ優先的に入居できるサービスなど
具体的な支援内容は、全国一律ではありません。
お住まいの自治体やあなたの収入によって異なります。金額やサービスの内容などをあらかじめ知っておきたい場合は、離婚後、生活をしていく予定である自治体のホームページなどをチェックしておくとよいでしょう。
5、まとめ
妊娠中に夫と離婚すると、子どもに影響を与えることになります。また、慰謝料や養育費、子どもの戸籍のことなどについても、考えなければなりません。
妊娠中は誰でも、不安が大きくなったり、精神的に不安定になったりすることがあります。そんな状態を2人で支え合い、乗り越えてゆくこともまた、夫婦に与えられた試練であるともいえるでしょう。
しかし、不安を分かち合うことができない関係性であったり、さらに不安が大きくなったりするような状態であれば、離婚を考えたほうがよいのかもしれません。その場合は、専門機関へ相談してみることもひとつの手です。
もし離婚を決意しても、夫への恐怖心が強く離婚に向けた交渉が難しい場合や、財産問題など状況が複雑な場合は、離婚問題に強いベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
あなたとおなかにいる子どもが将来的に損をしてしまわないよう、弁護士が親身になってサポートいたします。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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