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離婚する際の財産分与 「親から相続した遺産」は対象になる?

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更新日:2022年06月08日  公開日:2021年09月21日
離婚する際の財産分与 「親から相続した遺産」は対象になる?

夫婦が離婚をする際には、財産分与によって婚姻期間中に形成した財産を分け合うのが一般的です。しかしお互いの財産のなかには、亡くなった親から相続した財産が含まれていることもあります。

そのため、離婚を検討している方の中には「親から相続した財産も財産分与で分けなければならないのか」と心配になっている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、財産分与と遺産分割の違いや、相続した財産が財産分与の対象になるのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、財産分与と遺産分割の違い

財産分与と遺産分割は、いずれも財産を分けるという面では共通するものですが、まったく別の手続きです。以下では、財産分与と遺産分割の違いについて説明します。

  1. (1)財産分与とは?

    財産分与とは、夫婦が離婚をする場合に、婚姻期間中に形成した夫婦の共有財産を分け合う手続きのことをいいます(民法768条1項)。
    原則として、財産形成・維持に対するお互いの貢献度は同程度であると考えられていますので、財産分与では、対象となる財産を2分の1の割合で分与することになります。これは、夫がサラリーマンで、妻が専業主婦という夫婦であっても変わりありません。

  2. (2)財産分与と遺産分割の違い

    遺産分割とは、被相続人が死亡した場合に、被相続人が有していた相続財産を法定相続人が遺産分割協議などによって分割する手続きのことをいいます。
    財産分与と遺産分割では、それぞれが登場する場面が大きく異なってきます。財産分与は、離婚の際の手続きであるのに対して、遺産分割は相続時の手続きです。それぞれの手続きを混同して理解している方もいますが、財産分与と遺産分割は、まったく別の手続きです。

    これから離婚を考えている方は、財産分与を考えなければならないとご理解ください。

2、相続した遺産は財産分与の対象か

遺産分割(相続)によって取得した財産については、離婚時の財産分与でどのように扱われるのでしょうか。

  1. (1)相続した遺産は特有財産となり、基本的には財産分与には含まれない

    婚姻中の夫婦の財産には、「共有財産」と「特有財産」があります。夫婦の協力とは無関係に形成した財産を「特有財産」と言い、「共有財産」とはそれ以外に夫婦が婚姻期間中に取得した財産のことを言います。財産分与の対象となるのは、共有財産のみで、特有財産は原則として財産分与の対象には含まれません

    特有財産の例としては、独身時代の現金・預貯金、親から援助を受けた住宅購入資金、別居後に取得した財産などがあり、亡くなった親から相続した財産も特有財産に含まれます

  2. (2)例外として財産分与が認められる可能性も

    亡くなった親から相続した財産については、特有財産にあたりますので、上記のとおり原則として財産分与の対象にはなりません。
    しかし、特有財産であっても、配偶者の協力や貢献によってその価値が増加したり、維持された場合には、配偶者の貢献度に応じて、例外的に財産分与の対象になることがあります。

3、財産分与の対象となる資産とは?

財産分与の対象は、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産です。
共有財産であるかどうかは、夫婦どちらの名義であるかによって判断されるのではなく、婚姻中に取得した財産であるかによって判断されます。婚姻中に取得した財産であれば、前述の特有財産でない限りは、共有財産として財産分与の対象になります。

具体的には、以下のような財産が財産分与の対象財産として、存在する可能性があります。

  1. (1)現金・預貯金

    婚姻期間中に得たものであれば、どちらの名義になっていたとしても財産分与の対象になります。
    ただし、特有財産については対象にはなりませんので、親の相続で得たものや独身時代に貯めた預貯金は、財産分与の対象外です。

  2. (2)株式や投資信託などの有価証券

    株式や投資信託などの有価証券は、婚姻後に購入したものであれば財産分与の対象になります。
    婚姻前に購入した株式は特有財産であり、婚姻後にたまたま高騰したとしても、それは配偶者の協力によるものではありませんので財産分与の対象にはなりません。

  3. (3)不動産

    不動産は、夫婦どちらの名義であるかを問わず、特有財産に当たらない限りは、婚姻中に取得した不動産は共有財産として財産分与の対象になります。
    不動産の財産分与をするケースでは、対象財産が自宅の土地・建物であることが大半ですが、住宅ローンの負担が残っていることが多いため、住宅ローンの負担をどうするのかなどを含めて解決しなければならず、複雑な問題が生じることがあります。

  4. (4)生命保険

    生命保険は、掛け捨て型ではなく積み立て型であれば財産的価値がありますので、財産分与の対象に含まれます。その価値は、離婚時や別居時の解約返戻金額で把握することが一般的です。
    生命保険は、独身時代に加入したものを婚姻後も継続しているということがありますが、このような場合には、解約返戻金の総額のうち、婚姻期間に対応する部分のみが財産分与の対象となります。

  5. (5)退職金

    退職金は、既に退職をして支払われている場合には、現金ないし預金として財産分与の対象に含まれます。まだ在職中であるという場合には、将来退職金が支払われる蓋然性が高いといえる場合に限り、財産分与の対象に含まれることになります。
    ただし、生命保険の場合と同様に婚姻期間に対応する部分のみが財産分与の対象となります。

4、財産分与におけるトラブル事例

財産分与をする際には、以下のようなトラブルが生じることがありますので、注意が必要です。

  1. (1)相続した遺産を配偶者が「財産分与の対象だ」と言って話し合いがまとまらない

    亡くなった親から相続した財産は、特有財産にあたりますので、財産分与の対象には含まれないのが原則です。そのため、当該財産が特有財産であると主張する側は、当該財産が親から相続したものであることを証明することによって、財産分与の対象から除外することができます

    親から相続したものが不動産であれば、登記簿を確認することによって所有権の変遷は明らかになりますので、特有財産を立証することは容易です。しかし、相続した財産が現金や預貯金であった場合には、共有財産である現金や預貯金と混然一体となり、どの部分が特有財産部分であるのかが容易に判別することができないことがあります。
    親から相続した現金や預貯金を別の口座で管理していたということであればよいですが、生活費口座などに一緒に混ぜてしまった場合には、特有財産の立証は困難になってしまいます。特有財産の立証ができない場合には、最終的には共有財産として財産分与の対象になります

  2. (2)相続した土地に夫婦で建てた建物がある

    親から相続によって取得した土地については、特有財産として財産分与の対象外ですが、その土地上に夫婦が建てた建物がある場合には建物をどうするかが問題になることがあります。
    土地と建物は、容易に分離することができないものですので、基本的には両者をセットにしてどのように処理をするかを考えていかなければなりません。

    土地を所有する側が建物に引き続き居住する場合には、建物の評価額の半分を支払うことによって、土地と建物を引き継ぐことが可能です。反対に土地を所有する側が建物から出ていくという場合には、相手方配偶者には土地を利用する権利がありませんので、土地を購入するか借地代を支払うなどの方法によって建物に居住することになります。
    また、お互いに建物に居住する予定がないという場合には、土地と建物をセットで売却し、建物の売却代金に相当する部分を財産分与で分けるという方法もあります。

  3. (3)相続した建物を維持するために、配偶者が特別に貢献していた

    相続をした建物は、特有財産にあたりますので、原則として財産分与の対象外となります。しかし、例外的に、配偶者の協力や貢献によって価値が増加したり、維持されたりした場合には、財産分与の対象になることがあります。
    たとえば、相続した際には人が住める状態ではなかった建物について、婚姻期間中に夫婦の貯金で大幅なリフォームを行ったという場合には、不動産の価値は配偶者の貢献により上昇していますので、配偶者の貢献度に応じた財産分与がなされる可能性があります。

  4. (4)相続したペットは財産分与の対象になるのか

    ペットは生き物ですが、法律上は「動産」としてその他の遺産と一緒に相続の対象となります。財産分与の際にも同様に、分与の対象になります。親などから相続したペットの場合は、原則として特有財産にあたりますので、財産分与の対象にはなりません。
    夫婦で愛情をもって育ててきたとしても、法律上は相続した側の特有財産と評価されますので、争われた場合には、相手方配偶者は財産分与によってペットを取得することはできません。

5、財産分与が話し合いで解決できない場合は調停を検討

どのように財産分与を行うかについては、まずは夫婦が話し合いを行います。
しかし、財産分与の対象財産の選別やその評価に争いがある場合には、話合いによって解決することができないこともあります。そのような場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることによって解決を図ることになります。

  1. (1)調停で財産分与を行うメリット

    財産分与の話し合いがまとまらない場合には、離婚前であれば離婚調停の申し立てをして、その中で財産分与についての話し合いを行います。離婚後であれば、離婚後2年間は財産分与を請求することが可能ですので、財産分与請求調停を申し立てることになります。
    調停を申し立てることによって、時間と費用はかかりますが、以下のようなメリットがあります。

    ① 相手と直接顔を合わせる必要がない
    離婚時の財産分与については、離婚に伴う感情的な対立もあることから、当事者同士が直接顔を合わせて話し合いをすると、冷静な対応ができず、なかなか話し合いがまとまらないことがあります。

    調停は、裁判官および2名の調停委員が間に入って調整をしてくれますので、当事者が直接顔を合わせて話し合いをする必要がありません。利害関係のない第三者が間に入ることによって、冷静な判断が可能となり、スムーズな話し合いをすすめることができるといえるでしょう。

    ② 調停の内容に従わない場合には強制執行が可能
    調停でお互いが合意した内容については、調停調書という書面に記載されます。調停調書に記載された内容については、判決と同様の効力がありますので、合意内容に従わない場合には、裁判手続きを経ることなく強制執行することができます。

    財産分与が争点となる場合には、金銭の支払いが生じることが多いため、将来の不履行に備えて強制執行が可能になる調停を利用することには大きなメリットがあります。

  2. (2)調停で財産分与を行う際の流れ・注意点

    財産分与に関する調停は、離婚調停と財産分与請求調停の2つがありますが、基本的な流れは共通しています。

    ① 調停の申し立て
    調停を申し立てるためには、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して調停申立書などの書類一式と郵便切手、収入印紙を提出します。

    ② 第1回調停期日
    調停の申し立てから1~2か月程度で第1回調停期日が開催されます。当事者は、指定された日時に裁判所に行き、調停委員を介して話し合いを行います。調停では当事者が同席することは原則としてなく、調停委員が当事者から別々に話を聞くことになります。
    1回目の調停で話合いがまとまるということはあまりありませんので、2回目以降の期日が指定されて第1回目の調停は終了となります。

    ③ 2回目以降の調停期日
    2回目以降も同様に話し合いを進めていき、争点となっている事項について調整をしていくことになります。調停は、話し合いの手続きですから、お互いに自己の主張に固執していては解決することが困難となります。そのため解決のためには一定程度の譲歩は必要です。

    ④ 調停成立または不成立
    調停期日を重ねていき、話し合いがまとまった場合には調停が成立し、合意した内容は調停調書にまとめられることになります。
    話し合いがまとまらない場合には、調停が不成立となります。財産分与請求調停の場合には、自動的に審判の手続きに移行しますが、離婚調停の場合には、別途離婚訴訟を提起して、財産分与について附帯処分の申立てをする必要があります。

6、財産分与を弁護士に依頼するべき理由

財産分与を検討している方は、以下のような理由から弁護士に依頼することをおすすめします。

  1. (1)弁護士に依頼することで財産を探すことができる

    財産分与をするためには、お互いの財産を把握することが重要となります。しかし、長年婚姻生活を共にしていた夫婦であっても配偶者の財産をすべて把握していることはまれですので、自分の知らない隠し財産を保有しているという可能性もあります。

    弁護士に依頼をすることによって、弁護士会照会を行うことができるほか、調停での調査嘱託の手続きもスムーズに行うことが可能となります。これによって相手が任意に開示しない財産を突き止めることができる場合もあります。

  2. (2)自分で交渉するよりも、多くの財産を得られる可能性がある

    財産分与の割合については、原則として2分の1とされていますが、配偶者の一方の特殊な技能により高収入であるなど共有財産の維持・形成に特別の貢献をした場合には、その貢献度に応じて財産分与の割合を修正することがあります。
    また、現金や預貯金などであれば評価は単純ですが、財産分与の対象に不動産が含まれている場合には、その評価をどのようにするかによって、最終的な財産分与の金額は大きく異なってきます。

    このように、財産分与にあたっては、正確な法律の知識がなければ、不利な内容で合意をしてしまう可能性があります。なるべく損をせずにより多くの財産を得たいとお考えの場合には、弁護士にご相談、ご依頼されることをおすすめします

  3. (3)調停に同席し、主張をサポート

    調停は、話し合いの手続きではありますが、自分の主張を裁判官や調停委員に理解してもらうためには、主張書面を提出したり、それを裏付ける証拠を提出すべき場面も多くあります。
    調停という限られた時間のなかで、自分の主張を説得的に展開していくためには、弁護士のサポートが重要です。
    初めての調停ではどのような主張をして、どのように対応すればよいかなど不安なことが多いと思いますが、弁護士は調停に同席し、その場であなたにアドバイスを行うほか、調停委員と直接話し、必要に応じて主張書面や証拠の提出も行いますので、その点でも安心です。

7、まとめ

相続した財産は、原則として財産分与の対象にはなりませんが、相手方が強く主張する場合には、話し合いでは解決せずに調停など裁判所での手続きに発展する場合もあります。
ベリーベスト法律事務所では、多くの離婚案件を取り扱っており、知見も豊富です。離婚時の財産分与についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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