夫が出て行き別居! 生活費(婚姻費用)をもらう方法や注意点を解説
夫(配偶者)が一方的に家を出て行った場合や、離婚に向けて別居を始めた場合には、生活費などについて夫の収入を頼ることができず、経済的に苦しい状況にある方もいらっしゃるかもしれません。
このような場合には、出て行った夫に対して「婚姻費用」を請求できる可能性があります。弁護士に相談して、適正額の婚姻費用を請求しましょう。
今回は、別居のために出て行った夫に対して請求できる婚姻費用につき、計算方法・請求方法・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、別居のため出て行った夫にも、生活費(婚姻費用)の支払い義務はある
夫婦は資産や収入などに応じて、婚姻から生じる生活費などの費用(=婚姻費用)を分担する義務があります(民法第760条)。
同居している夫婦は、日々の生活の中で自然と婚姻費用を分担するケースが大半でしょう。これに対して、別居中の夫婦は通常、独立の生計を営みますので、別居中の生活費として、婚姻費用を請求し、支払ってもらうことで分担します。
夫が勝手に出て行って別居が始まった場合、夫の方が収入が多いとき、夫の方が収入は少ないけれど、自身が子供と一緒に生活しているときなどには、夫に対して、婚姻費用を請求することができます。
▼以下の動画で、婚姻費用請求に関するポイントや婚姻費用分担請求の方法についてわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
2、婚姻費用の金額の決め方
別居中の夫婦間で精算すべき婚姻費用の金額は、「婚姻費用算定表」を用いて決定することが一般的です。
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(1)婚姻費用算定表を用いて計算する
「婚姻費用算定表」とは、裁判所が公表している婚姻費用の算定表です。夫婦の収入バランスや子どもの人数・年齢に応じて、大まかな婚姻費用の金額を計算できるようになっています。
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(2)事例解説|適切な婚姻費用の金額
以下の3つの例を用いて、婚姻費用算定表に基づく婚姻費用の計算方法を解説します。いずれも共働きですが、妻の収入よりも夫の収入が多いケースです。
- 例①:子どもがいない場合
- 例②:子ども(10歳)が1人いる場合
- 例③:子ども(15歳と10歳)が2人いる場合
<例①>- 夫の年収は500万円(給与)
- 妻の年収は400万円(給与)
- 子どもなし
子どもがいない場合は、婚姻費用算定表のうち「表10」を用います。
収入の多い側(夫・500万円・給与)を義務者、少ない側(妻・400万円・給与)を権利者とすると、婚姻費用の適正額は1か月当たり「1~2万円」です。
<例②>- 夫の年収は500万円(給与)
- 妻の年収は400万円(給与)
- 子どもが1人(10歳)、妻と同居
14歳以下の子どもが1人いる場合は、婚姻費用算定表のうち「表11」を用います。
子どもと同居しない側(夫・500万円・給与)を義務者、同居する側(妻・400万円・給与)を権利者とすると、婚姻費用の適正額は1か月当たり「4~6万円」です。
<例③>- 夫の年収は500万円(給与)
- 妻の年収は400万円(給与)
- 子どもが2人(15歳と10歳)、いずれも妻と同居
15歳以上と14歳以下の子どもが1人ずついる場合は、婚姻費用算定表のうち「表14」を用います。
子どもと同居しない側(夫・500万円・給与)を義務者、同居する側(妻・400万円・給与)を権利者とすると、婚姻費用の適正額は1か月当たり「8~10万円」です。
3、婚姻費用を請求する方法
別居中の婚姻費用の請求は、まず夫婦間で話し合いを試み、まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判を利用するという流れで行うことも多いですが、いきなり調停を申し立てる方法を取ることもできます。
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(1)夫婦間での話し合い
まずは夫婦の間で、別居中の婚姻費用の精算について話し合います。婚姻費用算定表を参考に、金額・支払い時期・支払い方法を明確に取り決めることが大切です。
なお後述するように、婚姻費用についての合意が成立した場合は、その内容を公正証書にしておくことをおすすめします。 -
(2)婚姻費用の分担請求調停・審判
婚姻費用についての話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用の分担請求調停を申し立てることができます。調停委員が夫婦双方の主張を聴き取ったうえで、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートしてくれます。
調停が不成立となっても、家庭裁判所の審判によって、婚姻費用の金額を決めてもらえます。
婚姻費用の分担請求調停・審判では、互いの収入を正しく反映した資料を提出することが大切です。夫が収入を低く申告するなど、不審な点がある場合は弁護士にご相談ください。
参考:「婚姻費用の分担請求調停」(裁判所)
お悩みの方はご相談ください
なる場合がございます。
4、別居中に婚姻費用を打ち切られないために注意すべきこと
別居中に婚姻費用の支払いを打ち切られてしまうと、収入の少ない側は途端に生活が困窮してしまいます。婚姻費用の打ち切りを回避するためには、以下の各点を念頭に置いておきましょう。
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(1)婚姻費用に関する合意内容を公正証書化する
婚姻費用の金額・支払い時期・支払い方法などについて合意した場合は、合意書にしておくことが大事です。さらに、その内容を公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書としておくことで婚姻費用に関する合意内容が明確になります。また、執行認諾文言という決まった文言を入れておくことにとって、婚姻費用の不払いが発生した際には直ちに強制執行の申し立てが可能になる点も、公正証書としておくことの大きなメリットです(民事執行法第22条第5号)。 -
(2)支払いが滞ったら強制執行を申し立てる
婚姻費用について執行認諾文言付きの公正証書とした場合や、調停や審判で決定した場合には、万が一婚姻費用の支払いが滞った場合は、裁判所へ強制執行を申し立てることができます。
強制執行の申し立てに当たっては、「債務名義」が必要となります。これらの債務名義がない場合は、まず調停・審判などを通じて債務名義を取得する必要があります。<債務名義の例>- 強制執行認諾文言が記載された公正証書(=執行証書)
- 離婚訴訟の確定判決
- 離婚訴訟において作成された和解調書
- 離婚調停や婚姻費用の分担請求調停の調停調書
- 婚姻費用の分担請求に関する審判書
また、婚姻費用の強制執行を申し立てる際には、義務者の財産を特定しなければなりません。預金口座や勤務先などの情報を、同居している段階からできる限り調べておくとよいでしょう。
義務者の財産の特定が困難な場合は、財産開示手続(民事執行法第196条以下)や第三者からの情報取得手続(同法第204条以下)を申し立てる方法があります。
強制執行の際には、弁護士にご依頼いただくのがスムーズです。弁護士にご依頼いただければ、必要な準備や手続きへの対応を、全面的に代行いたします。
5、別居中、離婚に向けてすべき準備
離婚を視野に入れて夫と別居する場合、将来的な生活や手続きを見据えて、以下の準備を整えておきましょう。
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(1)離婚後の生活費のめどをつける
婚姻期間中の生計を夫が支えていた場合、離婚後はご自身の収入だけで生活するめどを立てなければなりません。
生活や子どもの養育などに必要な費用を計算・確認し、それを賄えるだけの収入源を確保する必要があります。収入が不足する場合は、転居や契約の見直しなどによって支出をカットするとともに、転職や副業などで収入を増やせるかどうかも検討するとよいでしょう。 -
(2)財産分与の対象財産を把握する
夫のほうが多くの収入を得ている場合、離婚時に財産分与を受けられる可能性があります。
財産分与の対象となるのは、原則として夫婦のいずれかが婚姻期間中に取得した財産です。夫が勤務先から得ていた収入(預金)も、婚姻期間中に対応するものは財産分与の対象となります。
夫と同居している間に、できる限り財産分与の対象財産に関する情報・資料の収集に努めましょう。 -
(3)求める離婚条件を検討する
婚姻費用や財産分与のほか、離婚時には慰謝料・年金分割・親権・養育費などの離婚条件を取り決めます。
離婚条件の適正な水準については、裁判例や離婚実務などに照らして、具体的な事情を考慮したうえで大まかな目安が定まります。どのような離婚条件を提示すべきかわからない場合は、弁護士がアドバイスいたしますのでご相談ください。 -
(4)離婚問題の解決実績がある弁護士に相談する
夫との離婚を目指す場合は、離婚問題の解決実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士を通じて離婚の手続きを進めることで、適正な条件で離婚できる可能性が高まります。また、夫と直接やり取りをする必要がなくなり、家庭裁判所における手続きも弁護士に一任できるため、ご本人のご負担は大幅に軽減されます。
夫との離婚を検討している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
6、まとめ
夫婦関係に亀裂が入り、夫が出て行って別居が始まった場合は、婚姻費用の請求を検討することができます。さらに、離婚を視野に入れた法的な検討を行うことも大切です。
ベリーベスト法律事務所は、婚姻費用の請求や離婚に関するご相談を随時受け付けております。離婚問題の解決実績を豊富に有する弁護士が、ご事情やご希望に応じて丁寧にご対応いたします。
夫が家から出て行ってしまった方、夫との離婚を希望している方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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