断捨離を理由に離婚? 夫の物を勝手に捨てた妻の法的責任について
最近では「断捨離」によってミニマリスト的な生活をする方が増えています。妻が断捨離にはまって夫の大切な所有物を勝手に捨ててしまった場合、夫は妻に離婚を求めることができるのでしょうか?
さらに妻に対して損害賠償請求をしたり器物損壊罪などの刑事責任を追及したりできるのかも問題です。
この記事では、妻が勝手に夫の大切な持ち物を断捨離した場合に離婚できるのか、また他人の持ち物を捨てた場合の法的責任について、弁護士が解説いたします。
1、断捨離で離婚の危機に陥る可能性がある?
「そもそも断捨離が理由で夫婦関係に危機が訪れるケースなんてあるのか?」と思われるかも知れません。
しかし、実際に妻の断捨離によって夫婦が離婚するパターンがあります。
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(1)夫の趣味の大切なものを妻が勝手に捨てた
断捨離にはまった妻が夫の部屋に勝手に入り、夫の趣味の自転車や車用品、プラモデル、ゲームなど大切にしている物を無断で捨ててしまうパターンがあります。妻自身は「部屋の片付け」くらいの気持ちであっても、旦那は激怒して妻への信頼感を失い、夫婦関係が悪化します。
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(2)妻が断捨離依存症になって普通の生活ができなくなる
妻が断捨離にはまって依存状態になり、何でも断捨離してしまうケースがあります。料理器具など生活に最低限必要なモノまで捨ててしまい、普通に家族で暮らしていくことすら難しくなります。仕事に必要な物だけ1つの箱やカバンに入れて残し、あとは全部捨ててしまう方もいます。こうなると夫が妻を見る目も変わってしまい、心が離れていきます。
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(3)妻が子供の物まで捨ててしまう
妻が断捨離にはまると、子供にも影響が及びます。おもちゃだけではなく学校や習い事で使っている物、家族の思い出の品まで捨ててしまい、家族全体の関係に亀裂が入ってしまいます。
断捨離にはまってしまった妻は、周囲の人間関係に配慮したり相手の気持ちを考えたりすることができなくなるケースが多々あります。夫はそんな妻とやっていけないと感じ、離婚を検討し始めます。
2、夫の「特有財産」を断捨離してはいけない
妻が夫の所有物を勝手に捨てた場合、犯罪その他の違法行為になるのでしょうか?
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(1)特有財産を捨てると違法
犯罪や違法行為にあたるかどうかは、捨てられた物が夫の「特有財産」になるかどうかで変わります。特有財産とは、結婚していても夫婦どちらか一方の固有の所有となる物です。
夫婦が婚姻中に協力して得た財産で、「夫婦どちらかの物」と決めなかった物は「共有財産」です。共有財産については妻にも権利があるので、捨ててしまっても必ずしも違法ではありません。
しかし特有財産は違います。夫の特有財産について、妻は権利を持たないので、勝手に捨てたら違法です。 -
(2)共有財産の例
結婚してから夫婦で一緒に買った自転車や子供の物、ポートレイト、食器、調理器具、家電製品、家具 など
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(3)特有財産の例
夫婦のどちらかが結婚前から持っていた物、親からもらった物、結婚後でも相手とは無関係に個人的な趣味として自分のために購入した物 など
3、夫の私物を勝手に捨てた・売った妻の法的責任は?
妻が断捨離で夫の私物を勝手に捨てた場合、妻には法的な責任が及ばないのでしょうか?刑事責任と民事責任に分けてみてみましょう。
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(1)刑事責任
妻が夫の物を勝手に捨てると「器物損壊罪」が成立する可能性があります。器物損壊罪は他人の物を「損壊した」ときに成立する犯罪ですが、捨てた場合にも「損壊」と評価されます。ただし器物損壊罪が成立するにはある程度価値のある物である必要があるため、がらくたのような物や古くなった洋服を捨てた場合などには罪になりません。
また器物損壊罪は「親告罪」であり、被害者による告訴がないと罪に問えないので、夫が刑事告訴しない限り妻が逮捕されることはありません。
一方妻が断捨離で旦那の物を勝手に売ってお金を自分のものにしたら「窃盗罪」や「横領罪」が成立する可能性もあります。ただし「親族相盗例」といって同居の親族の場合には刑が免除されるので、実際には妻が夫の持ち物を売却してお金を自分のために使っても処罰を受けさせることは不可能です。 -
(2)民事責任
夫の物を勝手に捨てた断捨離妻には民事責任が発生しないのでしょうか?
民事責任とは、損害賠償責任のことです。他人の物を勝手に処分すると他人に損害を与えるので、処分した加害者は被害者に賠償金を払わねばなりません。
ただ通常夫婦の家計は1つになっているので、夫が妻に損害賠償請求をしてもあまり意味はありません。ただし離婚するなら夫婦の財産が分けられるので、賠償金を獲得する意義が発生するでしょう。
また賠償金の金額は、基本的に「捨てられた物の時価」によって算定します。捨てられた物の「当時の時価」が低ければ賠償金を請求することは難しくなります。夫本人にとっては宝物であっても世間的に見て無価値であれば損害賠償請求は不可能です。
このように妻が断捨離にはまって夫の物を捨てたとしても、法的な責任を追及するのはハードルが高くなります。
4、断捨離を理由に離婚することは可能か?
妻があまりに断捨離にはまると、夫はこれからの人生を考え直してしまうものです。このまま妻と歩んでいくことを考えられなくなったとき、離婚できるのでしょうか?
これについては「離婚方法」によって異なります。
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(1)協議離婚、調停離婚の場合
協議離婚であれば、どのような理由であっても離婚できます。特に「不倫」などの明確な離婚原因がなくても、当事者両名が離婚に納得していればかまいません。調停でも同じで、夫婦双方が離婚を受け入れれば離婚が成立します。
妻の断捨離が理由でも、妻のことを信頼できないという理由でも、あるいは妻の方から夫を断捨離したくなったからという理由でもかまいません。特に明確な理由はないけれど、もう一緒に生活したくないといって離婚する方もおられます。 -
(2)裁判離婚の場合
妻が断捨離にはまって夫が離婚したいと希望しても、妻が離婚を拒絶するケースがあります。また妻の方から夫に離婚を求め、夫側が離婚を受け入れないケースもあるでしょう。
このように「どちらか一方が離婚を拒絶する」場合には、協議離婚はできません。
調停でも夫婦双方が離婚に納得する必要があるので、妻が「絶対離婚を受け入れない」と主張するなら調停離婚も不可能です。
そうなると裁判で離婚するしかありません。裁判離婚するには「法定離婚理由」が必要です。法定離婚理由とは、民法が定める裁判上の離婚原因です。具体的には以下の5種類があります。
●不貞
肉体関係を伴う不倫です。断捨離妻が別の男性と不倫していたら離婚できる可能性があります。
●悪意の遺棄
婚姻関係を破綻させる意図を持って相手を見捨てることです。断捨離妻が夫婦関係を終わらせてやろうと思って家出した場合などには離婚できる可能性があります。
●3年以上の生死不明
妻が3年以上「生死不明」となったら離婚できます。
●回復しがたい精神病
妻が重度の統合失調症や躁うつ病などで改善の見込みがないケースです。パニック障害やノイローゼなどの心身症、断捨離依存症では離婚できません。
●その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
妻が断捨離しているからといっては、通常上記の4つには該当しません。そこで5つめの「婚姻関係を継続し難い重大な事由」があるかどうかが問題です。
「婚姻関係を継続し難い重大な事由」は、上記の4つに準じるような大変重大な事情のみが該当すると考えられています。
「妻が断捨離にはまって夫が大切にしている物を捨てた」というだけでは通常離婚理由は認められないでしょう。
ただ当初の夫婦不和の理由は断捨離であっても、それが理由で夫婦関係が極端に悪化して別居に至り、長期間が経過して夫婦の実態が失われている状況であれば、裁判で離婚できる可能性があります。
5、断捨離を理由に離婚する場合の手順について
妻の断捨離を理由に離婚する場合、どのように進めていけば良いのか手順を説明します。
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(1)協議離婚
まずは妻と話し合って「協議離婚」を目指しましょう。協議離婚であれば、断捨離でもその他の理由でも離婚できます。また離婚届けを役所に提出するだけなので手続きも簡単です。
協議離婚するためには、まずは妻に「離婚」を納得させる必要があります。なぜ離婚したいのか、離婚を避けられない理由などを説明する必要があるでしょう。
手続的には役所で「離婚届」をもらってきて必要事項を記入し、夫婦それぞれが署名押印して役所に提出すれば完了します。女性側は離婚後の姓や戸籍を選ばないといけないので、妻が届出をすることが多いです。ただし妻に任せると離婚届を提出しないおそれがあると考えられる場合は、夫も一緒について行った方が良いでしょう。 -
(2)離婚調停
協議では妻が離婚に応じてくれないケースも少なくありません。断捨離にはまった女性自身はそれが悪いと思っていないためです。
そういったケースでは、離婚調停を申し立てて家庭裁判所で離婚の話し合いを行いましょう。調停では、2名の調停委員が間に入って離婚の話し合いを進めてくれます。
調停で妻が離婚に納得すれば調停離婚が成立します。 -
(3)離婚裁判
調停でも妻が離婚を受け入れない場合には、離婚裁判を起こし、判決で離婚を認めてもらうしかありません。
離婚裁判では、先に紹介した「法定離婚理由」がないと離婚できないので注意が必要です。
断捨離妻と離婚したくても明らかな法定離婚理由がないなら、すぐに裁判を起こさず、別居をして様子を見るのも1つの方法です。そうして「夫婦関係が破綻した状態」を作り出してからあらためて離婚調停や訴訟を起こした方が、離婚できる可能性が高くなります。
6、まとめ
妻の手で自分の大切な物を断捨離された場合、夫は大変な精神的ショックを受けるものです。しかし断捨離した女性自身はあまりたいしたことだと思っていないケースが多いですし裁判しても「断捨離」だけが理由では離婚が認められにくいです。
断捨離をきっかけとして損をしないように離婚するためには、法的な知識が必要です。
弁護士であれば、離婚の方法や注意点を把握しており不利にならないように離婚を進めていくことができます。
妻の断捨離に耐えかねて離婚を検討されているなら、一度弁護士に相談して法的アドバイスを受けられることをお勧めします。
- 所在地
- 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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