知っておきたい「養育費の内訳」 適切な金額を受け取るための請求方法とは

子どものいる夫婦が離婚する場合、毎月の養育費の金額が主な争点のひとつです。
養育費を算定する際には、裁判所が公表している養育費算定表がひとつの基準となります。
しかし、養育費算定表の金額の内訳には含まれない費用も存在するため、請求する際には特別にかかる費用も考慮した上で金額を検討、請求することが重要です。
今回は、養育費に含まれる費用の内訳や、適正額を請求するためのポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、養育費に含まれる費用
離婚時に、子どもと一緒に暮らす側(同居親)がそうでない側(非同居親)に対して請求できる「養育費」には、子どもの養育に必要となるさまざまな費用が含まれています。
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(1)養育費とは?
養育費とは、監護者が子どもを守りながら生活したり、教育を受けさせるために必要な費用のことです。
親権者は、子どもの監護・教育を行う権利を有するとともに、その義務を負っています(民法第820条)。それと同時に、親は子どもに対して、直系血族としての扶養義務を負っています(民法第877条)。
夫婦が離婚をすると、いずれか一方の親は親権を失うため、前者の監護・教育義務を負わなくなります。その一方で、後者の直系血族としての子どもに対する扶養義務は、離婚後も存続します。
親権者でない親は、子どもと同居しないため、基本的には日々生活する中で生活費等を直接支出することはないでしょう。
そこで、直系血族としての扶養義務を履行する代替的な方法として、養育費を支払うことになります。 -
(2)養育にかかる費用の内訳
養育に係る費用の内訳としては、以下の「衣食住に必要な経費」「学校教育費」「医療費」などがあります。
① 衣食住に必要な経費- 衣服代
- 食費
- 家賃
② 学校教育費
- 入学金
- 学費
- 教材費
- 塾代
- 習い事の費用
- 留学費用
③ 医療費
- 通院治療費
- 入院費
- 薬剤費
子どもと同居していない親には、子どもが経済的に自立するまでの期間、上記の各費用を子どもと同居している親と同様に負担していく義務があります。
一般的には、子どもが就職して収入を得られるようになるまでの期間、養育費を支払う必要があると考えられています。
2、養育費算定表に含まれる費用・含まれない費用
養育費の支払いは、毎月決まった額を支払うのが一般的です。養育費の具体的な金額の算定に当たっては、裁判所が発表している「養育費算定表」が参考となります。
ただし、養育費算定表の金額には、含まれる費用と含まれない費用がある点に注意が必要です。
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(1)養育費算定表とは?
養育費算定表とは、裁判所が発表している、養育費の金額目安を示した表です。
(参考:「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所))
東京・大阪の家庭裁判所に所属していた裁判官の研究報告がベースとなっており、夫婦の収入・子どもの人数・年齢に応じて、標準的に必要と考えられる養育費の金額が示されています。
養育費算定表はあくまでも目安であり、夫婦間の合意によって異なる養育費を定めることもできます。
また、養育費に関する家庭裁判所の審判でも、個別的な事情を考慮して、算定表から算出される金額とは異なる養育費が定められる場合があります。 -
(2)養育費算定表に含まれる費用の内訳
養育費算定表に基づいて計算される養育費の金額には、標準的な生活費や学費などが含まれています。
養育費算定表に含まれる費用の、具体的な内訳は、以下のとおりです。
- 標準的な食費
- 標準的な住居費
- 標準的な水道光熱費
- 標準的な衣服購入費
- 義務教育にかかる費用
- 公立高校の授業料
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(3)養育費算定表に含まれない費用の内訳
これに対して、家庭の教育方針などによっては発生しない費用や、突発的に必要となる費用などについては、養育費算定表に基づいて計算される養育費の金額に含まれていません。
養育費算定表に含まれない、費用の具体例は以下のとおりです。
- 私立学校の入学金、授業料
- 大学の進学費用
- 部活動の費用
- 習い事の費用
- 進学塾に通う費用
- 海外留学する費用
- 病気やケガの治療にかかる費用
進学塾や習い事の費用など、養育費の金額を話し合う際にすでに継続的に発生しているものについては、養育費の額を算定する際に増額事由として考慮される可能性があります。
また、突発的な病気やケガに伴う治療費や入院費用、大学進学の際の費用などについては、予測できる範囲で事前に負担割合を合意することもありますし、発生した際に特別費用として別途請求できる場合もあります。
3、養育費としては請求できない金銭の例
養育費にはあくまでも、子どもの監護・教育に必要な費用のみが含まれます。
それ以外の費用を、養育費として請求したり、養育費を増額する理由として主張したりすることはできません。
離婚時に請求したいと思われる方がいらっしゃるものの中で、養育費には含められないものとして以下のものがあります。
これらの金銭を請求したい場合には、養育費以外の理論構成をとる必要があります。
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(1)自分自身の生活費
離婚後は、元配偶者に対しては扶養義務がありませんから、原則として元配偶者に対して生活費を支払う必要がありません。逆に言えば、元配偶者から生活費の支払いを受けることはできません。
なお、離婚前に別居をしている期間がある場合には、当該期間は別に暮らしているものの婚姻関係は継続していますので、お互いに扶養義務があり、原則として、収入の少ない方は多い方から「婚姻費用」として生活費を支払ってもらうことができます(民法第760条)。
婚姻費用についても、養育費と同様に、裁判所が算定表を公表しています。
(参考:「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所)) -
(2)慰謝料
慰謝料は、不法行為(民法第709条)に基づく精神的損害を賠償する金銭であるため、養育費とは請求根拠が全く異なります。
したがって、慰謝料の支払義務があるとしても、それは養育費を増額する理由にはなりません。
なお、離婚のケースでは、不貞行為やDV・モラハラなどがあった場合に、被害者から加害者に対し慰謝料の請求がなされ、それが認められることがあります。
これに対して、離婚の原因が性格の不一致であるなど夫婦の一方だけに離婚の原因があると言えない場合には、慰謝料請求は認められない点に注意しましょう。 -
(3)学資保険
学資保険は、教育資金の原資になり得るものの、それ自体は積立貯金や投資などに近い性質を有します。また、離婚前に積み立てたものは両親の共有財産です。
したがって、学資保険に関する権利は、養育費として分与を求めるのではなく、財産分与(民法第768条第1項)の問題として処理することになります。ただし、当事者間で養育費に加えて支払うなど合意ができるのであれば、そのようにしても問題はありません。
4、離婚時に適切な養育費を請求するためのポイント
養育費の金額は、算定表に沿って合意するのが簡単ではありますが、増額・減額すべき具体的な事情がある場合には、個別の事情を考慮して金額の合意をすることが重要です。
養育費算定表に基づく金額よりも多めに養育費を請求したい場合には、以下のポイントに留意して対応しましょう。
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(1)特別にかかる費用を考慮の上で金額を提示する
個別の具体的な事情により、通常の養育費相当額を超えて負担してほしい費用がある場合には、その内訳を明示して請求すると良いでしょう。
習い事や塾の費用、医療費など、どの費用がどのくらい必要になるかを、具体的な根拠ともに提示したうえで相手に請求することで相手の同意を得ることができる可能性が高まりますし、話し合いや調停でまとまらず審判や訴訟になった場合に、特別にかかる費用を考慮した上での金額が認められる可能性があります。 -
(2)弁護士に離婚協議の代理を依頼する
離婚協議において、養育費の金額を含めた離婚条件を取り決める際には、弁護士に依頼することが効果的です。
弁護士に依頼すれば、法的根拠を踏まえつつ、個別の家庭環境に応じた、適切な金額の養育費を請求できます。
他の離婚条件についてもバランスよく交渉してもらえるほか、相手と直接話す必要がなくなり、精神的負担が軽減される点も大きなメリットです。
養育費の交渉など、離婚に向けた話し合いを行う場合は、一度弁護士にご相談ください。
お悩みの方はご相談ください
5、離婚後に事情変更があった場合や、養育費の支払いが途絶えた場合の対処法
一度養育費を取り決めたとしても、その後に元夫婦双方の状況が変わったり、養育費の支払いが途絶えたりといったトラブルが発生する可能性があります。
事情変更や養育費の支払い遅滞が発生した場合には、以下の対応をとりましょう。
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(1)事情変更時は協議・調停・審判による養育費の変更が可能
養育費の額は、親や子の状況について、当初の合意時に想定していなかった事情の変更が生じた場合には変更されることがあります。
具体的には、以下のような事情変更が生じた場合、元配偶者に対して、養育費の増額または減額を請求できます。
- 元夫婦間の収入バランスが変化した場合
- どちらかが再婚して子どもができた場合
- どちらかが再婚して、再婚相手の子どもと養子縁組をした場合
養育費の減額・増額に関する話し合いをしても合意ができない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることも可能です。
調停でも合意に達しなければ、家庭裁判所が審判を行い、養育費の増額・減額を認めるかどうかと変更後の金額について判断します。 -
(2)養育費の支払いが途絶えたら、強制執行により回収する
養育費の支払いが途絶えた場合には、「債務名義」(民事執行法第22条第1項)を持っていれば、裁判所に相手の資産を差し押さえて回収する「強制執行」という手続きの申し立てができます。
債務名義とは、強制執行などの手続きを申し立てる場合に、その強制執行の前提となる文書のことです。
養育費に関しての債務名義としては、養育費に関する強制執行認諾文言が記載された公正証書(執行証書)を持っていれば、その書類を債務名義として強制執行の申し立てに用いることができます(同項第5号)。
また、調停で合意した場合には調停調書、審判で決定した場合には審判書が債務名義となります。
これらがない場合には、支払督促や訴訟を通じて債務名義を取得しなければなりません。
養育費の増減額に関する協議・調停・審判や、債務名義の取得や強制執行の申し立ては、弁護士にご依頼いただければスムーズに対応できます。
ベリーベスト法律事務所では、初回ご相談無料で養育費回収のためのサービスをご用意しております。ご依頼いただいた場合には、元配偶者と直接会うといった精神的ストレスがなくなりますし、元配偶者の連絡先が分からない場合も対応可能です。債務名義がなくても諦めることはありません。
6、まとめ
養育費の内訳には、子どもの監護・教育に必要となるさまざまな費用が含まれています。
養育費算定表は、養育費を計算する際の参考とはなりますが、個別具体的な事情によって増額できる可能性がありますので、安易に合意せず、弁護士にご相談のうえで進められることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、離婚に関する法律相談を随時受け付けております。
養育費についても、金額・内訳等を法的根拠とともに整理して、適切な額の請求を行います。
配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- 所在地
- 〒106-0032 港区 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
- 設立
- 2010年12月16日
- 連絡先
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[ご相談窓口]0120-663-031※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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