慰謝料請求について(女性のための離婚)

離婚する際に、もらえるはずの慰謝料をもらえなかったり、相場を大きく下回る慰謝料しかもらえなかったりすることは、とてももったいないことです。

心のキズを金銭で償ってもらうことは、気持ちをリセットして新たなスタートを切るためのひとつのけじめとして、重要なポイントです。離婚後に後悔しないために、慰謝料の請求方法や請求する際の要点を理解しておきましょう。

離婚に伴う慰謝料とは

離婚に伴う慰謝料とは、離婚によって被る精神的苦痛による損害の賠償です。離婚原因である個別的な有責行為により生じた精神的苦痛に対する損害の賠償と離婚により配偶者の地位を失うことから生じた精神的苦痛に対する損害の賠償の両方を含みます 。判例上、離婚に伴う慰謝料は、不法行為(民法709条)にもとづく請求と捉えられています。したがって、民法709条の要件を満たさなければ請求することができません。
もっとも、法律実務では、両者は明確に区別して扱われてはおらず、一体のものとしてとらえられています。
つまり、離婚の慰謝料でいえば、離婚に至る原因に関して妻の権利や利益を侵害する違法な行為が何ら認められない場合は、夫に対して慰謝料を請求することはできません。また、慰謝料は夫が妻に対して支払うべき金銭ということでもなく、妻のほうに離婚の原因となる不法行為が認められる場合は、妻から夫へ慰謝料を支払うケースもあります。

離婚慰謝料の請求方法

離婚慰謝料の支払いや金額については、まずは夫婦間の話し合いで決定されます。しかし、相手方が慰謝料の支払いを拒んだ場合や支払われる慰謝料の金額に納得できない場合は、家庭裁判所へ調停の申し立てを行い、調停でも話し合いがまとまらない場合は、最終的に訴訟を起こして裁判で争うことになります。

ただし、慰謝料の請求は、民法709条・710条にもとづく損害賠償請求の一部であると考えられるため、慰謝料の支払いのみを問題として訴訟を起こす場合は、家庭裁判所ではなく地方裁判所に提訴する必要があります。もちろん、離婚に付随する問題として、離婚裁判の際に同時に解決してしまうことも可能です。

夫以外に慰謝料を請求できる相手

離婚に至る原因によっては、夫以外にも慰謝料を請求できる場合があります。

夫の不倫相手

配偶者の不貞行為が原因で離婚に至ったとしたら、当然、その不倫相手もその責任を負うことになります。したがって、配偶者だけではなく、その不倫相手にも離婚慰謝料を請求することが可能です。

ただし、不倫相手にも慰謝料が請求できるのは、不倫相手が“夫に配偶者がいることを知っていたか知りえた”不場合のみです。そのような場合でなければ夫婦関係を破綻させようとすることについて、不法行為の成立要件である故意若しくは過失があるとはいえず、離婚に至ったことに対して不倫相手に責任はないことになります。

また、夫とその不倫相手から慰謝料を二重取りすることはできず、片方から慰謝料が満額支払われた場合には、もう片方には請求できません。

夫の親族(舅や姑など)

たとえば、夫の両親と同居していて舅や姑から暴力や陰湿ないじめ・嫌がらせなどを受けていた場合、それが離婚の原因であれば、夫の親族である舅や姑にも慰謝料を請求できる可能性があります。慰謝料が発生する暴力やいじめとは、単に身体的なものだけを指すのではなく、モラルハラスメントといった精神的な暴力も含まれます。

離婚慰謝料を請求できるケースとできないケース

離婚慰謝料を請求するには、離婚に至った原因に対して相手方が責任を負っている必要があるため、たとえば、性格や価値観が合わない、夫が家事を一切手伝ってくれない、などといった程度の離婚理由では、慰謝料請求が認められない可能性があります。
以下のような離婚原因の場合は、夫への慰謝料請求が認められる可能性が高いケースだといえます。

  • 夫に不貞行為(浮気や不倫)があった
  • 夫が重度のアルコール・ギャンブル依存症など著しい浪費癖がある
  • 夫から日常的に暴力を受けていた
  • 妻が経済的に困窮することを分かっていながら、あえて生活費を渡さなかった(勝手に家を出て行った)

夫に不倫されても慰謝料を請求できないことがある?

浮気や不倫といった不貞行為は離婚慰謝料が発生する代表的な離婚原因ですが、場合によっては、不倫されても夫に対して慰謝料額が大幅に減額されることがあります。それは、離婚に至るまでに妻のほうにも過失が認められる場合です。

たとえば、婚姻中に妻が夫へ日常的に言葉の暴力を振るっていたり、妻のほうも不倫をしていたりした場合、夫にも妻に対して慰謝料を請求する可能性があります。そして、慰謝料請求が認められ、双方に離婚の原因があるときは、それぞれの過失が相殺されるため、場合によっては、慰謝料が大幅に減額されることになります。

すでに婚姻関係が破綻していた場合

また、夫が別の女性と交際をはじめたときにはすでに婚姻関係が破綻していた(別居中など)場合、たとえその女性が婚姻の事実を知りながら夫と不倫していたとしても、不倫相手に慰謝料を請求できないことがあります。なぜなら、すでに婚姻関係が破綻していたならば、一般的に、不倫の事実は婚姻関係の破綻に関係ないと考えられるためです。

もっとも、別居していることが常に婚姻関係が破綻していることにはなりません。夫婦には同居義務があるため、別居は、婚姻関係が破綻している状態だとも思えます。しかし、単身赴任などの時には、離れて暮らしていても、夫婦が協力して生活しているので、婚姻関係が破綻していることにはなりません。

セックスレスを理由に慰謝料を請求できる?

離婚に伴う慰謝料を請求できるかどうかで度々問題となるのが「セックスレス」です。性交渉をもつことも婚姻生活をしていくうえで重要な要素といえます。女性の場合には、特別な理由もないのに拒み続けられることで、「自分には女性としての魅力や価値がないのかもしれない」と精神的なダメージを抱えやすいといえるかもしれません。
例えば、夫が心身ともに健康でありながら何の理由もなく長期間にわたって性交渉を拒み続けた場合には、夫婦関係を継続していくことは難しいといえ、慰謝料請求が認められる可能性があります。また、夫が婚姻以前から性的不能であることを隠して結婚した場合、夫から自分の意思に反して異常な性交渉を強制された場合なども、慰謝料を請求できる可能性があります。

離婚に伴う慰謝料を請求する際の注意点

請求期限がある

離婚慰謝料は離婚後でも請求できますが、離婚が成立してから3年の時効によって消滅してしまう点に注意が必要です。また、特に注意したいのが、不貞行為による離婚の請求期限についてです。

夫だけでなく不倫相手にも慰謝料を請求したい場合、不貞行為によって離婚に至り、配偶者の地位を失ったことに対しての慰謝料は、離婚成立後3年以内であれば請求できます。もっとも、不貞行為が同棲というように一定期間継続している場合、不貞行為そのものに対して受けた精神的苦痛に対する慰謝料の請求は、「一方の配偶者が同棲関係を知ったときから3年」の時効によって消滅します。

離婚に伴う慰謝料の時効を止める方法

離婚慰謝料の時効の進行を止める手段として、2つの方法があります。

  1. 相手方に慰謝料を支払うよう催告し、6ヶ月以内に訴訟を提起する
  2. 訴訟を提起する

①の方法をとると、慰謝料を支払うよう催告した時点で時効が中断します。また、②の方法をとると、その時点で時効が中断します。なお、①は、催告したことの証拠を残すために、内容証明郵便で行うのが望ましいです。
裁判を起こせば時効を中断できるとはいえ、裁判で勝訴するためには、相手方の非を証明する証拠を集める必要があり、期限内に裁判を起こせない可能性もあります。時効の完成が目前に迫っている場合は、まず内容証明郵便を送り、その後の6ヶ月の猶予期間で裁判の準備を進めるべきです。

また、請求期限を過ぎて離婚慰謝料を払ってもらえなかったということがないように、できる限り離婚前に、慰謝料の取り決めを交わしておくことも大切です。

調停や裁判が長引くなら「婚姻費用分担請求」を

離婚に伴う慰謝料は高額なイメージを持っている人は多いかもしれませんが、実際に慰謝料として支払われる金額は、それほど高くはありません。

そのため、離婚に伴う慰謝料を請求する際は、離婚協議中や離婚後の生活費についても考慮しておかなければなりません。夫が慰謝料の支払いに応じない、自分が夫の提示する慰謝料額に納得できない、といった理由から調停や裁判が長引きそうな場合は、「婚姻費用分担請求」を行うことで、当面の生活費を確保するようにしましょう。

婚姻費用とは、簡単にいえば婚姻生活における日々の生活費のことです。この生活費には、子どもの養育費や教育費も含まれます。
夫婦である以上、婚姻中の生活費は二人で分担する義務があり、この義務をそれぞれが負うべきであることは、たとえ別居中であっても変わりません。ただし、夫婦二人の収入に格差がある場合は、通常、収入の多いほうが少ないほうへ婚姻費用を支払うことになります。

婚姻費用分担請求は、家庭裁判所へ調停を申し立てることで手続きが可能です。夫の収入が自分の収入よりも多い場合は、慰謝料請求の手続きと並行して、婚姻費用分担請求も進めておきましょう。また、婚姻扶養分担請求を行うことが、夫に対して「離婚成立までの生活費を払うことを考えたら、早く慰謝料を支払ったほうがいいかも…」という圧力になる可能性も大いにあります。

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