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離婚の慰謝料に税金(贈与税・所得税)はかかる? 税法上の扱いを解説

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更新日:2022年08月17日  公開日:2018年11月26日
離婚の慰謝料に税金(贈与税・所得税)はかかる? 税法上の扱いを解説

人生において大きな波乱のひとつである離婚。
それだけでも体力気力を要する出来事ですが、慰謝料請求などを行うことになれば、さらにハードルが上がります。多大な時間をかけて慎重に交渉していくその工程は、決して楽なものではありません。

その結果、慰謝料を受け取れることが決まったとき「慰謝料をもらっても、贈与税などの税金で大半をとられてしまうのでは?」「慰謝料って非課税?」などの疑問を抱く方は多いのではないでしょうか。

離婚という大波を乗り越え、慰謝料を受け取った、もしくは慰謝料を受け取ることが決定したのであれば、心置きなく受け取りたいものですよね。
そこで今回は「離婚で受け取った慰謝料に税金はかかるのか?」という疑問について、具体的なケースごとに、弁護士が解説します。

1、離婚の慰謝料は、原則「非課税」!

誰かからまとまった金銭を受け取ったとき、基本的には税金がかかるものです。
たとえば身内が亡くなったことにより財産を受け取ったときには「相続税」、個人から受け取った場合は「贈与税」、会社などの法人から受け取ったものであれば「所得税」などが、お金を受け取ったときに払う必要がある税金のひとつです。

しかし、慰謝料は性質が異なります。そもそも慰謝料とは、命・肉体・自由・名誉・貞操など、相手に不法な侵害を与え、離婚の原因を作った方が精神的損害を与えられた方へ、賠償として支払うものです。

基本的に、離婚の慰謝料として金銭が支払われるケースは、家庭内暴力(DV)や浮気など、精神的な損害に対する賠償、つまりは補てんとなります。「モノを破損した」などというような事項ではないため、補てんと言われてもピンと来ないかもしれません。しかし、「故意に車を壊された」など、持ち物に損害を受けたケースと同様であると解釈されます。

つまり慰謝料は、「損失・損害を受けたという事実に対する補てん」という性質上、「新たな利益を得る」という税金がかかる行為とは異なります。よって、「『基本的に』税金がかかることはない」のです。それは離婚で受け取った慰謝料についても同様に扱われます。これは、所得税法施行令 第30条で定められています。

ただし、あくまで「『基本的に』税金がかからない」という点に気をつけてください。たとえば損害賠償金とは認められないほど、多額の金銭や不動産を受け取ったケースなど、状況によっては、贈与税などの税金がかかってしまうこともありえます。
ぜひ最後までご確認いただき、税金がかからないように気をつけてください。

2、離婚の慰謝料代わりにもらった不動産に税金はかかる?

離婚の慰謝料として受け取るものは、金銭だけではありません。場合によっては不動産を受け取るケースもあるでしょう。住んでいたマンションや土地といった資産を慰謝料、もしくは財産分与として受け取る可能性のある方は多くいらっしゃいます。
離婚に伴う慰謝料として、もしくは財産分与として不動産を受け取った場合は、税法上、どのような扱いになるのでしょうか。

結論から言うと、離婚に伴う不動産の慰謝料・財産分与は、金銭で受け取る慰謝料同様、基本的に税金はかかりません

慰謝料については先にご説明したとおりです。
一方、離婚と同時になされる財産分与は、「これまで婚姻中の生活においてふたりで築いた財産を分割したもの」であり、また同時に離婚後の生活保障の一環とみなされ、慰謝料の一部であるとも考えられています。これらを総合し、「財産分与請求権に基づいて受け取ったものであり、相手から贈与されたものではない」とみなされるのです。

●財産分与とは?
離婚に伴い、同居・協力および扶助の義務を定めた「民法第752条」、婚姻費用の分担について定めた「民法第760条」、夫婦間における財産の帰属について定めた「民法第762条」に基づき、婚姻中に協力して蓄積した財産を清算する性質のものです。民法第768条、民法第771条に基づいて分与されます。

●財産分与請求権とは?
民法768条に明示された権利のひとつです。協議上の離婚について定められた第771条も準用されます。そのため、特に自宅不動産を慰謝料として譲渡された場合は、非課税となると考えてよいでしょう。

<民法768条第1項>
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

ただし、不動産を受け取った際も、金銭を受け取ったときと同様、状況によっては税金がかかってしまうケースがあります。

3、離婚の慰謝料で税金がかかるケースとは?

基本的に、金銭や不動産で離婚の慰謝料や財産分与を受け取っても「非課税」となるケースが多いものですが、一部のケースで、贈与税や所得税、不動産取得税などの税金がかかってしまうことがあります。
事前にしっかり確認をしておきましょう。

  1. (1)婚姻期間と比較して慰謝料が過大だと判断されたケース

    慰謝料や財産分与という名目で受け取った金額が多すぎると第三者に判断された場合、贈与税がかかります。
    慰謝料や財産分与は、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産なのか、受けた精神的損害に見合ったものなのかなどを考慮されます。各家庭によって所得はもちろん、事情は異なるものです。そこで、「すべての事情を考慮してもなお多すぎる」と課税庁が判断した場合、その多すぎる部分に贈与税がかかることになります

    たとえば、「夫の財産が不動産含め5000万円あり、婚姻期間が2年間の夫婦が離婚する際、夫の財産のすべてを妻に渡したケース」などは、慰謝料・財産分与が過大であるとみなされてしまうことがあります。
    そのときは、夫婦として作り上げた財産以上の部分に別途贈与税、もしくは譲渡所得にまつわる税金がかかってしまうのです。

  2. (2)自宅の不動産の所有権を離婚成立前にもらったケース

    これまで居住していた自宅を、慰謝料もしくは財産分与として譲渡された場合、前述したとおり、基本的に受け取った側には税金はかかりません。しかし、一部の例外があります。

    それは、離婚が成立する前に慰謝料もしくは財産分与として自宅の不動産を受け取ったケースです。この場合、受け取った側に贈与税がかかってくるのです。
    ただし、以下の3つの条件すべてに当てはまる場合は、2,000万円の配偶者控除が受けられます。


    • 婚姻期間が満20年以上
    • 受け取った不動産が居住用であること、もしくは居住用不動産を取得するための金銭の譲渡を受け、その金銭で居住用不動産を取得した
    • 不動産を受け取った人、または金銭で取得した人が、受け取った翌年の3月15日までその不動産に住んでいて、その後も住み続ける見込みがあること


    もともと贈与税には年間110万円までの基礎控除があります。そのため、配偶者控除を適用できれば、2110万円まで非課税、つまり「贈与税はかからない」ということになります。ただし、別荘やセカンドハウス、そのほかの不動産には適用されません。

  3. (3)不動産の登記手続き関連で税金がかかるケース

    純粋に夫婦の財産を分割する目的で受け取った、自宅以外の土地やマンションなどの建物をはじめとした不動産には、基本的に不動産取得税はかかりません。しかし、慰謝料や受け取る側の生活保護を目的として、不動産を受け取った場合は、不動産取得税がかかります。

    この金額は意外と大きく、土地および住宅は固定資産税評価額の3%です。そのほか、土地の場合は固定資産税評価額の半分の3%、建物は新築であれば1200万円の控除の特例を受けることができます。価値のある不動産ほど、支払わなければならない税金が高くなる可能性があるということです。

    また、受け取った不動産の登記を申請するために税金がかかります。これを「登録免許税」と言いますが、こちらは固定資産税評価額の原則2%かかることを覚えておきましょう。

    不動産は時価であり、売買取引される金額は時期によって変わるものです。また、ローンの有無などによっても手続きなどが大きく変わります。受け取る際は、特に注意が必要です。あらかじめ離婚の際に「不動産取得税や登録免許税は分与したほうが支払う」などの取り決めをしておくことをおすすめします。

  4. (4)離婚が偽装離婚だったと判断されたケース

    戸籍上で離婚をしたとしても、その離婚が事実とは反していると判断されると、贈与税がかかる対象となります。「贈与税や相続税を免れるために離婚した」とみなされるためです。

    たとえば、「どちらかが多額の借金をしてしまったため、財産を守るために財産分与をして離婚をした」、それから「どちらかが遺産相続をしたが相続税が払いきれないため、慰謝料として財産を分けて離婚をした」、「戸籍上では離婚したものの、実質的な内縁状態が続いている」などのケースが当てはまります。

  5. (5)慰謝料を支払う方が税金を払わなければいけなくなるケース

    受け取る側であれば基本的に非課税となる慰謝料や財産分与ですが、支払う側は立場が異なるため、以下3つのケースで贈与税や譲渡所得税などがかかることがあります。

    手持ちが足りず、親など第三者が代わりに慰謝料を払った
    慰謝料を支払う側がほかの方から譲渡を受けて慰謝料を支払ったとみなされるため、贈与税がかかることがあります。

    第三者から見て「高すぎる」と判断される額の慰謝料を渡した
    脱税や資産隠し、偽装離婚を疑われる原因にもなります。

    不動産(譲渡益が3000万円までの居住用不動産を除く)や有価証券など、金銭以外で慰謝料を支払った
    渡した不動産や有価証券の価値によって、税金がかかってくるかどうかが変わります。受け取る側にも関係してしまうことなので、専門家に相談したほうがよいでしょう。

    「慰謝料を支払う側が払う税金」については、受け取る側には関係がない話だと思うかもしれません。しかし、特に不動産に絡んだ税金は、一気に数百万〜1千万円以上にもおよぶこともあり、莫大な金額になりがちです。すると、トータルで受け取れる額が変わってしまうことにもなりかねません。
    ここはぜひ協力して、支払う税金をできるだけ抑えたほうがよいのではないでしょうか。

4、離婚で慰謝料をもらったら書面に残しておこう!

金銭で受け取った慰謝料は非課税となるので、一般的に確定申告の必要はありません。

しかし、後日調査が入った際など、税金逃れではないということを証明するためにも、離婚協議書は作っておきましょう。税務署から通知や問い合わせが来た際、正式な離婚協議書があれば説明しやすいですし、慰謝料や財産分与であることを証明できるため、課税されることはありません。

なお、自宅を含めた不動産を慰謝料・財産分与した場合は、受け取った側も渡した側も、必ず確定申告をしておくことを強くおすすめします。確定申告を行うことによって、あらかじめ控除が受けられる可能性があります。
ただし、確定申告を行わなくても、不動産の所有権移転登記などを行ったあと、およそ3か月から6か月ほどで、お住まいの都道府県税事務所から納税通知が届きます。その際は、離婚協議書や提示された必要書類などを持参して、財産分与や慰謝料などの説明を行ってください。
改めて申告を行う必要があるケースもあります。

5、養育費は非課税?所得税や贈与税はかかる?

さらに離婚後、毎月受け取ることになるケースが多い養育費について、実際の収入にみなされるなど、税金の支払いに影響するのか、気になる方も多いでしょう。

結論から言えば、子どもに対する扶養義務を果たすために支払われる養育費は、原則的に非課税となります。所得税はもちろん、贈与税もかかりません。 その根拠は、以下のとおりです。

所得税
非課税所得の内容を規定した所得税法第9条では、1項15号で「学資に充てるため給付される金品および扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」を挙げています。

贈与税
相続税法第21条の3第1項2号で「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」として、課税価格に算入しないことが明言されています。

ただし、養育費を一括払いで受け取ることになったときは、税金がかかることがあります。念のため、弁護士や税理士に確認しておいたほうがよいでしょう。

さらにもうひとつ、気をつけるべき点があります。
養育費を毎月受け取っているとき、ひとり親家庭が受けられる代表的な手当である「児童扶養手当」の申請や手続きを行う際は、養育費で受け取った金額の申請が求められます。あなた自身の所得のほか、養育費の一部(東京都千代田区の場合、養育費の8割)が所得として加算され、実際の支給額が計算されることになり、受け取っている養育費の金額によっては、児童扶養手当の支給対象から外れてしまうこともあります。

あなたが支払うべき税金、主に所得税や贈与税などには影響はありませんが、一部手当の支給額に影響があることは覚えておきましょう。

6、まとめ

今回は離婚時に受け取った慰謝料にかかる税金について解説しました。
離婚とともに発生する慰謝料や財産分与を金銭のみで受け渡しした場合は、税金に関してさほど心配することはありません。しかし金銭ではなく不動産や有価証券などで譲渡したケースにおいては、かかってくる税金の基準が変わり、やや複雑になります。

離婚する際は必ず、慰謝料や財産分与について、離婚協議書などの書面に残しておきましょう。手続きなどで不安がある場合は、弁護士や税理士に依頼したほうがトータルで出費を抑えることができるはずです。
ベリーベスト法律事務所では、離婚問題の対応経験が豊富な弁護士が、税理士とも連携し、状況に適した対応が可能です。ぜひご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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