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定年退職をきっかけに離婚。知っておきたい“熟年離婚の財産分与”

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更新日:2024年11月14日  公開日:2019年06月27日
定年退職をきっかけに離婚。知っておきたい“熟年離婚の財産分与”

定年退職のその日、自宅に帰った夫に妻から手渡された離婚届と1通の手紙「私もあなたから退職したい」。

夫の定年退職は、夫婦の大きな転機であり、それをきっかけに離婚する夫婦も少なくありません。
しかし、長年働いてやっと定年退職を迎えるや否や、妻から離婚を切り出された夫のショックは大きいでしょう。

離婚はやむを得ないとしても、年金や住宅などどのように分与すれば良いのでしょうか。知っておきたい、熟年離婚における財産分与の考え方を、弁護士が解説していきます。

1、高額な退職金。妻に渡す必要がある?

熟年離婚、特に定年退職を迎えたタイミングで離婚することになる場合、気になるのが退職金を分けなければならないのかという点でしょう。そもそも、退職金は、離婚の際に妻と分け合う必要があるのでしょうか。

離婚時の財産分与の対象財産は、夫婦が結婚してから共同で築いた財産です。
とすると、長年働いたことで積み上がってきた定年退職時の退職金も、夫婦2人で築いたものと評価し、原則として財産分与の対象になると考えられています

退職金の分与額は、以下の式で計算します。 退職金全額ではなく、あくまで結婚してからの定年退職までの期間に対応する部分だけを分けるための計算式です。


  • 退職金総額×婚姻期間÷会社で働いた期間×2分の1(財産分与割合を2分の1とした場合)


たとえば、勤続年数が40年で婚姻期間は35年、退職金総額は3000万円という夫婦の場合は次のとおりです。


  • 退職金3000万円×35年÷40年×1/2=1312万5000円


この点については、定年退職の時期(退職金の支払い時期)がもっとも重要なポイントになります。
以下、具体的に考えてみましょう。

  1. (1)退職金を受け取っている場合

    すでに定年退職済みで、受け取った退職金がそのまま残っている場合は、それをそのまま上記の計算式にあてはめて計算のうえ分与します。
    支給済みの退職金が、預金や自動車など、別の財産に形を変えて残っている場合があり、この場合は、その形を変えた財産を分与することになります。

    定年退職から時間が経過しており、すでにローンの返済や生活費として使ってしまったという場合には、その財産自体が消えてしまっているので分与することはできません。

  2. (2)退職金をまだ受け取っていない場合

    (2)-1 すぐに受け取る場合
    定年退職が間近に迫っており、すぐに退職金が入ってくることが、その金額も含めて確定している場合は、上記の計算式で算出された金額をそのまま分与することになります。

    (2)-2 支払いがこれから先の場合
    まだ在職中で、定年退職金の支払いはこれから先の話という場合はどうなるのでしょうか。 この場合は、支払いまでの期間や金額の算定可能性から判断します。

    つまり、退職金が支払われることが確実で、定年退職と退職金支払い時期が近づいており、勤務先の退職金規定などから現時点での退職金が実際に算定できるような場合には、分与することになる可能性が高まります。
    公務員や大企業など、退職金の支給に関する規定がはっきりしており、退職金の支払いが確実であろうと思われるケースでは認められやすくなっています。

    参考:退職金の財産分与

2、長年専業主婦だった妻。年金はどうなる?

  1. (1)年金分割とは?

    年金分割とは、夫婦が婚姻中に支払ってきた年金保険料の金額に応じて、離婚後、おのおのが受け取ることとなる年金受給額を調整する制度です。

    夫が会社員や公務員で、厚生年金に加入していた場合は、婚姻期間中の年金が分割対象となります。会社を通じて年金保険料を納めたのは、妻の内助の功(こう)があったからだと考えられるからです。
    妻がずっと専業主婦で、自分自身として年金を納めていなくても、ふたりで払ったものとみなして、離婚時に分けることになるわけです。

    なお、分割の対象となるのは「婚姻期間中に支払った年金保険料に対応する部分」に限られるので、受け取ることができる年金額のすべてが半分ずつになる制度ではない点にご注意ください。

  2. (2)年金分割ができるケース

    年金制度は複雑ですが、以下の条件を満たしている場合は、離婚時の年金分割が認められます。


    1. ①夫が第2号被保険者として「厚生年金」(共済組合の組合員であった期間を含みます。)に加入している
    2. ②妻が、夫の加入している年金の「第3号被保険者」(第2号被保険者の被扶養配偶者)である
    3. ③婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある=厚生年金に加入していた実績があるという意味
  3. (3)年金分割ができないケース

    下記の場合は、離婚時の年金分割制度の対象とならず、分割はできません。

    ①加入していたのが夫婦ともに、「基礎年金」のみの場合
    基礎年金部分は、年金分割の対象ではありません。会社員や公務員ではなく、自営業者や非正規雇用者であって厚生年金に加入実績がなければ分割対象がないため分割できません。

    ②厚生年金部分以外の「年金基金」や「確定拠出年金」の分割
    年金事務所で行う、離婚時の年金分割制度の対象にはなりません。ただし、夫婦間で話し合って決めていく「財産分与」の対象としては検討の対象に入ります。通常は、支給額を開示して、夫婦で分け合うことが想定されます。

    ③配偶者が婚姻前に支払っていた厚生年金
    夫婦で協力して年金を納めたことが分割の理由です。したがって、分割の対象は、「婚姻期間中の年金のみ」となります。

  4. (4)注意点

    仮に夫が婚姻中に厚生年金に加入しており、上記の分割条件を満たしていたとしても、以下のような場合には分割ができません。

    ①平成20年3月以前に結婚した方で、分割合意書が作成できない
    平成20年4月以降の婚姻分は、夫の合意がなくても妻が一方的に届け出をすることで分割できます。
    しかし、平成20年3月以前の婚姻期間分は、分割に関する夫婦の合意書面(又は裁判所の調停調書等)が必要となり、その書面が作成できなければ、分割できません。

    ②離婚から2年以上経過してしまった場合
    年金分割は、離婚から2年以内に年金事務所で手続きをしなければなりません。ただし、2年を経過する前に家庭裁判所に年金分割に関する申立てをすれば、2年を経過しても、裁判の確定後1か月以内に年金事務所で手続を取ればよいことになります。

    参考:離婚時の年金分割についての基礎知識

3、熟年離婚の財産分与。自宅や車はどう分割するか

財産分与とは、夫婦共有財産を、夫婦それぞれの貢献度に応じて分け合うことをいいます。 なお、財産形成に対する貢献度は、ほとんどの場合、夫婦それぞれ半々とされています。
妻が専業主婦であった場合でも、ほぼ5割の分与が認められています。

夫からすれば稼いだのは自分だけだから半分はおかしいという意見もあるようですが、妻が家のことを全て担って共同生活を営んできた以上、夫婦半分ずつとするという考え方が主流です。
また、不貞をした、暴力をふるったなどの離婚原因を作った側からでも、財産分与の請求は認められます。慰謝料請求とは異なり、財産分与とは、単純なお金の清算に過ぎないからです。

  1. (1)財産分与の対象となる財産

    財産分与の対象になるものの具体例 共有財産:夫婦が婚姻中に協力して形成した資産のこと 現金や預貯金・家電や家具・不動産・宝石や時計・株や有価証券・生命保険や学費保険・自動車や自転車・年金・退職金

    財産分与の対象となる「財産」とは、夫婦が結婚してからともに築いた財産です(夫婦共有財産といいます)。
    結婚してから夫婦それぞれが稼いだお金や、それをもとにして取得した財産がこれにあたります。
    給料や定年退職時の退職金を貯金したものや、給料を元手にして購入した不動産、車なども夫婦共有財産です。

  2. (2)財産分与の方法

    (2)-1 不動産
    婚姻期間中に不動産(土地と建物又はマンション)を取得した場合には財産分与の対象になります。不動産はそれ自体を分けることが困難です。よくある分け方は以下のとおりです。

    ①不動産を売り払って得られた売却益をふたりで分ける方法
    不動産を任意売却の方法で売ってしまう方法です。住宅ローンを完済し、手数料などを差し引いて、残った利益をふたりで分けます。

    ②夫婦の一方が不動産を取得し、財産価値の半分を他方に支払う方法
    不動産の評価額は客観的に見て合理的と思われる市場価格を査定した額などが目安にされますが、査定額で争いになる場合は不動産鑑定士に依頼する場合もあります。
    なお、いずれにしても、住宅ローンが残っており、不動産の価値よりもローン残高が上回る(オーバーローン)場合は、財産分与の対象としないことが一般的です。

    (2)-2 車
    婚姻期間中の収入から車を購入した場合は、名義人が誰であるかに関わらず共有財産として財産分与の対象になります。車の財産分与についても不動産と同様に、車を売却して売却益を分ける方法と、車を一方が取得して、他方に車の評価額(時価)の半分を渡す方法があります。

    車の価値には査定額が用いられることが一般的です。中古車買い取り店やディーラーに持ち込んで査定を受ける方法、車の評価額の一覧表(レッドブック)を用いる方法などがあります。 なお、不動産と同じくローンが残っている場合、査定額とローン残額を差し引いた金額をお互いの貢献度合いに応じて分けるのが一般的です。そしてオーバーローンの場合は、財産分与の対象としないことが一般的です。

    (2)-3 その他の財産
    預貯金は、別居時または離婚時の残高を2分の1で分けて分与します。また、生命保険に解約返戻金がある場合は、やはり別居時や離婚時の返戻金を調査し、それを等分で分け合うことになります。

  3. (3)隠し財産がある場合

    現金などで相手にわからない資産がある場合に、これを隠したまま離婚したらどうなるかという質問がよくあります。財産分与は、本来は婚姻中に形成した資産を全て分ける制度ですから、隠したまま離婚するのは好ましいことではありません
    もっとも、財産分与の請求は、離婚時から2年以内にしなければ時効によって権利が消滅します。したがって、離婚から2年を経過すれば、その後に財産が発覚しても相手から請求されることはありません。


    「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与について詳しく解説しています。ぜひご参考ください。

    適切な分配・損をしないために離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください

4、財産分与でもめてしまったら!?

財産分与について決める方法は、以下の3つに分けられます。

  1. (1)まずは話し合い

    まずは、当事者同士で話し合いの機会を持つことです。財産分与はお互いの財産を開示することが前提です。したがって、まずは相手が把握する財産を全て開示してもらうこと、そのうえで、双方の分与額をきちんと計算して協議することが重要です。
    最終的に、話し合いで合意ができた場合は、後からの争いを防ぐために、離婚協議書という形で文書にしておくことが一般的です。

  2. (2)裁判所で話し合う(離婚調停)

    離婚について、特に財産分与について、冷静に話し合うことはかなり難しいのが実情です。お互いが財産をできるだけ多くもらいたいと思うのも当然ですから、当事者間では話が進まないこともよくあります。このような場合には、裁判所の調停制度を利用することで、冷静に話し合いができます。

    調停では、お互いに顔を合わせることはありません。調停室には交互に呼ばれて別々に話を聞かれますし、待合室も別です。直接のやりとりを避けて、お互いの言い分を調停委員を通じて伝えることで、冷静に合意を形成していくのが調停の役割なのです。

  3. (3)裁判で争う(離婚裁判)

    調停まで進んでも、お互いに納得のいく合意に至らずに終わってしまう場合もあります。調停とは、あくまで話し合いの場を提供する場所に過ぎず、最終的に裁判所が結論を出してくれるわけではないのです。調停でも決着がつかない場合には、裁判に進むことになります。

    離婚裁判では、それまでの離婚調停の記録は移行せず、また1からスタートです。離婚に加えて、財産分与請求、年金分割請求、慰謝料請求、また、未成年の子がいる場合は養育費についても、あらゆる事項を解決することができます。 お互いの主張が食い違う点については、裁判官が証拠に沿って判断し、当事者はこれに従う必要があります。

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5、まとめ

夫の定年退職は、夫婦の大きな転機であり、それをきっかけに離婚する夫婦も少なくありません。
長年働いてやっと定年退職を迎えるや否や、妻から離婚を切り出された夫のショックは大きいでしょう。

しかし、一般的に妻からの離婚の決意は固いことが多く、修復の可能性は高くありません。できれば冷静に話し合って、お互いに納得のいく形で離婚問題を整理していくほうが望ましいでしょう。
妻が専業主婦であった場合は、特に財産分与が大きな争点になります。

なお、離婚を切り出した側は、事前にインターネットの記事などからかなり情報を収集している場合が多いものです。

切り出された側も、速やかに正しい情報をもとに相手の要求に対処していく必要があります。

適切な分与方法を決めるにあたってお困りの方は、ぜひベリーベスト法律事務所までご相談ください定年退職時の財産分与や熟年離婚に詳しい弁護士が、お客さまのご要望をうかがいつつ、最適なアドバイスをいたします

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話]03-6234-1585
[ご相談窓口]0120-663-031
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
URL
https://www.vbest.jp
  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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