男性が離婚協議を有利に進めるためには

離婚協議において男性側が不利というのは本当なのでしょうか。ネットを見ると「勝ち目はない」「あきらめた方が良い」と書かれているけれども、本当に対抗策はないのでしょうか。そんなことはありません。あきらめざるを得ない点はあきらめつつも、主張できる部分はしっかりと主張をしていくことが大切です。ここでは、男性の立場から、離婚協議を有利にすすめるためのポイントについて説明します。

妻から離婚を切り出されたときの注意点

妻から離婚を切り出されたときの注意点

妻から離婚を切り出されたときに男性がもっとも注意しなければならないのが婚姻費用の問題です。妻が専業主婦である場合や、妻の方が夫よりも収入が低い場合、夫は妻に対して生活費を負担する義務があり、これを法律上、婚姻費用といいます。

問題は、離婚協議中であっても、正式に離婚が成立するまでの間は、夫はこの婚姻費用を負担し続ける義務があるということです。離婚協議中であっても同居している場合は婚姻中とさほど変わらないとは思いますが、別居している場合は、生活費として一定額を妻に振り込む等の方法で支払わなければならなくなります。

逆にいうと、妻側からすれば、正式に離婚してしまえば婚姻費用は受け取れなくなることから、早期に離婚を成立させたいという事情(例えば別の人と再婚したい場合等)がない限り、婚姻費用を受け取ることのできる期間が長くなるので、離婚協議が多少長引いても問題ないと考える傾向にあるのです。中には、敢えて離婚協議を長引かせて婚姻費用を払い続けさせようなどと考えている場合もあるので注意が必要です。

この婚姻費用の問題に対応するためには、財産分与や慰謝料等の条件面で合意できなくても、まず離婚を成立させるということを検討する必要があります。財産分与や慰謝料について合意できないと離婚できないわけではなく、財産分与や慰謝料については、離婚成立後でも交渉が可能だからです(これに対し、未成年の子どもがいる場合の親権者についてだけは、離婚時に決めておかないと離婚が成立しません(民法819条1項))。

調停や裁判への対応

離婚協議について相手と直接話し合いができる場合はよいのですが、直接話し合いをすることが困難で、調停や裁判を申し立てられてしまうと、そのために裁判所に出頭しなければならなくなります。当然ながら、調停や裁判は平日に行われますが、多くの男性は、平日に仕事を抱えていますから、仕事の都合をつけて裁判所に出頭しなければならないという負担が生じます。

この負担を回避するためには、弁護士に依頼をして、調停や裁判に代わりに出頭してもらうという方法があります。もちろん、少なくとも弁護士との打ち合わせのための時間を割く必要は生じますが、調停や裁判に毎回自分で出頭するよりは負担も減るといえます。

男性側の離婚戦略

妻と話し合いをする機会を設ける

妻から離婚を持ちかけられた場合は、まず妻としっかり話し合いをする機会を設けることが大切です。妻が「離婚」の二文字を口にするときは、それに対する夫の反応を見ているということもありますし、本当は引き留めて欲しいと思っている場合もあります。にもかかわらず、妻が「離婚」という言葉を口にしても、「何を馬鹿なこと言っているんだ」とか「悪い冗談はよせ」などと言ってしっかり妻に向き合わなかったことで、妻が最終的に離婚を決意したという例は少なくありません。
離婚話が出るのは妻からの普段の結婚生活に対するSOSかもしれませんから、これを見逃さずに、しっかりとキャッチして、妻の話を聞いてあげることも大切です。

離婚することが避けられない場合は離婚の成立を優先させる

妻と話し合いをしても離婚が避けられない場合や、夫の側も離婚に同意している場合は、早い段階で離婚だけを成立させてしまうのがよいでしょう。前述のように、離婚が正式に成立するまでの間は、婚姻費用を支払う義務がありますし、財産分与等の話は離婚が成立してからでも行うことができるからです。

夫側から調停や裁判を起こす

離婚協議をしながら婚姻費用だけは払ってもらおうという妻(もしくは妻側の弁護士)の中には、離婚協議については裁判外で行いつつ、婚姻費用の分担請求だけは裁判所に申し立てをする、という方法を採ることがあります。このような場合に、裁判外での離婚協議が一向に進まないと、延々と婚姻費用を支払うはめになります。そのような事態を避けるために、夫側から離婚の調停や裁判を起こすというのも一つの方法です。

婚姻費用は常に支払わなければならないのか

既にご説明したとおり、離婚協議中に別居している場合、夫の収入の方が多ければ、離婚が成立するまでずっと妻に対して婚姻費用を支払わなければなりません。
ただ、裁判例では、別居に至った原因がもっぱら婚姻費用を請求する側にある場合には、婚姻費用の分担義務が軽減される、または婚姻費用の分担義務が存在しないとするものもあります。しかし、実際に裁判の現場で、別居の原因が片方だけにあると判断されることは稀で、多くの場合、双方に共に原因があるというように判断されてしまいます。

これに対して、例えば家を出て行った妻が浮気をしているような場合は、妻が有責配偶者(婚姻の破綻につき、もっぱら又は主として責任のある配偶者)となります。有責配偶者からの婚姻費用の分担請求は、権利の濫用として認められないとする裁判例や、認められるとしてもその額は通常に比べると低くなるとする裁判例があります。ですから、妻に浮気の疑いがあるときは、その証拠をしっかりつかんでおくことが大切です。

離婚に伴う様々な問題

離婚をすること自体は決まったとしても、離婚に伴って夫婦間で取り決めを行う必要がある問題がいくつかあります。その点について、男性側が気を付けるべきポイントを説明します。

子どもの親権について

子どもの親権については、一般的に女性の方が有利と言われており、その点は否定のしようがありません。特に、男性は、平日夜遅くまで働いていることが多いことから、実際に子どもの面倒を見ることができるのか、という点が問題になります。

どうしても子どもの親権が欲しいという場合は、上記のような問題点をカバーするために、例えば自分の両親と同居するなどして、自分が仕事をしているときも、しっかりと子どもの面倒をみることができるという環境を整備することが大切です。

ただ、特に子どもが幼い場合には男手で子どもを育てるのは実際問題として大変な側面もありますから、親権自体はあきらめる代わりに、面会交流の回数等をしっかり確保するように交渉するということも重要になってくるといえます。

養育費について

女性が子どもの親権者となった場合、男性側に一定額の養育費を支払う義務があることは否定できませんし、それが真に子どものためであり、また、適切な額であれば、支払いたくないという男性は少ないと思います。ただ、養育費とはいえ、結局、元妻に支払うことになるので、本当に子どものために使っていないのであれば支払いたくないと思われる方がいるのも無理はありません。

ただ、だからといって、養育費の用途を元妻に逐一報告させることは法律上は困難です。そこで、養育費の支払い方法について、単に毎月○○円を支払う、というのではなく、例えば、学校の学費や塾の費用等を、父親が、全額、直接学校や塾に支払うことで養育費の支払いに代える等の方法を取ることによって、実際に何に使われているかをはっきりさせるという方法を選択することが考えられます。
どうせ支払わなければならない養育費なのであれば、納得して支払いたいというのが男性側の本音なのではないでしょうか。

財産分与・慰謝料について

住宅ローン付きの家は売ってしまうのも一案

婚姻中に夫名義で住宅ローンを組んで家を購入した方が離婚する場合、その家をどうするかが問題になります。仮に夫名義でローンを組んでいたとしても、夫婦で暮らすために購入したのですから、残っている債務も夫婦で負担するのが原則です。しかし、これは夫婦間の問題であって、金融機関からすれば、あくまで名義人である夫にローンの支払いを請求してきます。ですから、仮に、今後のローンを妻が負担することを約束して家の名義を妻に変えたとしても、もし妻がローンの支払いを怠れば、ローンの契約者である夫に請求が来てしまうのです。

中古住宅は、よほど立地が良いとか、何か付加価値があるとか、繰り上げ返済を多くしている等の事情がない限り、住宅ローンの残債を大幅に超えた価格で売れることはほとんどなく、むしろマイナスになることの方が多いのが実情です。
ですから、離婚時に思い切って家を売却し、マイナスとなった分の2分の1は妻に負担してもらう(もし妻に支払い能力がなければ、夫が妻に支払わなければならない別の慰謝料等の金銭と相殺する)というのも一つの方法といえるでしょう。

男性側の弁護士の選び方

妻と話し合いをする機会を設ける

離婚裁判においては、離婚成立まで婚姻費用を請求できる点や、未成熟の子どもの親権を得やすいなど、女性側に有利な点が少なくありません。そのせいか、弁護士の中には、男性側に付きたがらない弁護士もいますし、仮に付いてくれても、男性側だからという理由だけで、依頼者に対し、初めからあまり勝ち目のないなどと言う弁護士もいることは事実です。

しかし、離婚において、妻側が今後どのような請求をしてくる可能性があるか、仮に裁判になったらどのような判決が想定されるかといった点についてしっかりと見通しを立てることができる弁護士であれば、いたずらに離婚協議を長引かせて、時間も費用もかかった上に、精神的な負担も大きかったなどという結果を避けることが可能です。ですから、そのためには、まず相談の段階で、複数の弁護士と会って意見を聞いてみることをおすすめします。

医療の世界でも、すぐに手術を選択する医師と薬を使って治すことを考える医師とがいるように、法律の世界でも、選択する方針は弁護士によって様々です。あなたの一生を左右しかねない重要な問題なのですから、セカンドオピニオンを求めることはむしろ当然ともいえます。また、男性はつい男性の弁護士に依頼したくなりますが、弁護士を職業にしている女性の中には、必ずしも女性の味方というわけではなく、むしろ男性的な考え方をする弁護士もいます。

性別や年齢にとらわれることなく、複数の弁護士に相談してみて、自分が信頼できる弁護士を探すことが、離婚協議を有利に進めるための第一歩ともいえるでしょう。

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