妻と離婚することを想定し、ネットや書籍などを調べていると、必ず「有責配偶者」という言葉に出会うことでしょう。
感覚的によい言葉ではなさそうだということが理解できたとしても、法的にはどのような意味があるのかなど、その詳細を説明できる方は少ないのではないでしょうか。
そこで、今回は特に男性が離婚する際に知っておきたいキーワード、「有責配偶者」について解説します。
有責配偶者の基本知識
有責配偶者の意味
単純に「有責」という言葉を辞書で引くと、「ある事について責任があること(三省堂/大辞林 第三版)」とあります。離婚のシーンにおける「有責配偶者」とは、婚姻関係破たんの原因について主として責任のある配偶者のことを言います。
有責配偶者がいない離婚もある
婚姻が互いの合意の上で行われる一方、離婚もまた双方の合意により行われるものです。これについて、民法第763条は、「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と定めています。つまり離婚とは、婚姻したときと同様、夫婦双方で合意し、責任を持って行う契約なのです。
ですから、性格の不一致などどちらかが離婚原因となる行動を起こしたという事実がない場合には、「『有責配偶者』が存在しない離婚」ということになります。
どのような行動を起こしたら「有責配偶者」となるのかは、以下の「有責配偶者となってしまう場合」で詳しく解説いたします。
有責配偶者は慰謝料を払う必要がある可能性も
「有責配偶者である」と本人が認めた場合、もしくは本人が認めていなくても裁判や調停の場で認定された場合には、慰謝料の請求が認められることがあります。
慰謝料は、有責配偶者による不法行為によって受けた心の傷を慰謝するためのものです。まれに、「先に離婚を要求した人からは慰謝料請求できない」、「慰謝料は男性が払い、女性が受け取るもの」だと思い込んでいる人もいるようですが、どちらも関係ありません。相手が有責配偶者であれば請求できる可能性がありますし、あなたが有責配偶者であれば支払わなければならない可能性があるものです。
ただし、慰謝料請求そのものが行われなければ、実際の支払いは免れることになります。また、互いが有責の場合など、特別な事情があれば、交渉によって減額できる場合もあります。慰謝料請求の交渉は難航を極めることも多いため、弁護士に依頼したほうがスムーズに解決できる傾向にあります。
有責配偶者から離婚はできない?
結論をいえば、自ら離婚原因を作った有責配偶者からは、離婚を請求することはできないのが原則です。有責と受け取られる言動を行ったことにより相手を傷つけた上、相手が望まない離婚を求めることは、社会正義に反すると考えられているためです。
もちろん、有責配偶者が離婚したいと考えること自体は止められません。しかし、有責配偶者が離婚を求めて裁判所で争ったとしても、相手に一切の非がなければ特別な事情のない限り離婚することが認められることはありません。
もしご自身が有責配偶者で、それでも離婚したいとお考えであれば、「有責配偶者から請求した離婚が認められるためには」の項をご覧ください。
有責配偶者となってしまう場合
一方的に離婚を請求できる条件と類似
有責配偶者とされるのは、民法770条1項で定められている相手に離婚を求めることができる条件とほぼ同一の場合であるといえるでしょう。
民法770条1項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
これらはすべて、民法で定められている婚姻による契約内容を違反するものであり、相手を傷つける行為であると考えられるため、通常は有責配偶者となりますが、その中でも特に多いのが、「① 配偶者に不貞な行為があったとき。」と「②配偶者から悪意で遺棄されたとき。」の2つです。
次の項より、具体的にどのような行為によって有責配偶者とされるのかを解説します。
不貞行為をした人
一般的に、「浮気」や「不倫」と呼ばれる行為をした人が、有責配偶者となります。
これは先に記載した民法770条1項のうち、「①配偶者に不貞な行為があったとき。」にあてはまるものです。
ただし、手をつないでいた、SNSやメールなどで仲良くやり取りをしていた、などの理由では民法上の「不貞な行為」には該当せず、有責配偶者とされることはまずないでしょう。
裁判などで離婚を争うことになった場合には、複数回に及ぶ性行為を伴う交際があったという事実を証明する証拠が必要です。とはいえ、完全なる現場を押さえることは難しいでしょう。そこで、裸のツーショット写真がある、ホテルや相手の家などで数時間一緒に過ごしていた、という事実など、一般常識的に見て、性行為があったとみなされる行為をしていた証拠を提出し、「不貞な行為があった」ことを主張していくことになります。
配偶者に対し、悪意の遺棄をした人
民法770条1項に記されている「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく同居・協力・扶助義務を履行しないことをいいます。結婚し、家庭を育んでいくなかで、必要なサポートや協力を行ってこなかった場合には、「悪意の遺棄」があったということになります。
そもそも、結婚はただ家族になるというだけでなく、民法で定められた婚姻の規定を守るという契約です。
どんな契約かといえば、第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定めています。さらに第760条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」とも定めています。
婚姻に関する民法の規定を基準とし、以下の行為があったと認められた場合には「悪意の遺棄」をしたとされ、有責配偶者となる可能性があります。
- 理由なく一方的に別居する
- 理由なく家出を繰り返す
- 専業で家事を担う配偶者に生活費を渡さない
- 病気やケガで働けない配偶者を扶養しない
- 健康な配偶者が家事もしないし、仕事もしない
- 共働きなのに家事を配偶者だけに押し付けている
ただし、単身赴任や互いの話し合いによる別居、DVからの避難などの場合は、悪意の遺棄とはみなされません。
3年以上配偶者の生死が不明な人
「③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。」(民法770条1項3号)は、配偶者が行方不明になってから3年以上経過しているわけですから、婚姻を継続させる意義がないとみなされ、待っているほうから離婚請求ができることになります。
この場合、行方不明になっている人が便宜上「有責配偶者」とされます。居場所だけでなく生死すら不明なので、話し合いはもちろん、調停を行うこともできません。慰謝料請求などは行えませんが、裁判を行うことで離婚することができます。
ただし、このケースにあてはまるのは、船などによる遭難など、本当に生死がわからない、居場所を確認するすべもないという場合だけに限られます。生きているのは知っているものの、ただ帰宅せず、どこに住んでいるのかわからないなどのケースでは本号には該当しませんが、別途悪意の遺棄とみなされる可能性があります。
暴力やDVがある人
ドメスティック・バイオレンス(DV)がある場合も、「⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」に該当し、離婚を請求できることがあります。
当然のことですが、殴るけるなどの肉体的な暴力をした加害者はもちろん、相手を貶める言葉を繰り返す、性行為を強要する、などの相手を精神的に追い詰めることを行ってきた加害者も、「有責配偶者」となります。
被害者となっていた側が避難しても、「配偶者に対してしつけをしている」「夫婦なら普通の会話だ」と考えるなど自覚がないケースが多く、そういったケースでは日記や医師による診断書、録音などの証拠が有効になることも多くあります。
また、夫婦間のDVではなくとも、「配偶者の親族からのDVや連日の嫌がらせがあるのに配偶者が止めない・助長させる」、「子どもに対する暴力がある」などのケースもあるでしょう。当然のことながら、この場合も、「悪意の遺棄」もしくは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、有責配偶者とみなされます。
有責配偶者から請求した離婚が認められるためには
有責配偶者から離婚はできない?で解説したとおり、原則、裁判所は有責配偶者からの離婚請求は認めません。しかし、あくまで原則であり、例外はあります。以下の3つの条件をすべて充たす場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。
すでに夫婦関係が破たんしているとき
長期間にわたる別居状態が事実としてある場合、離婚を認められやすくなります。
過去の判例を紐解くと、7~8年以上別居状態が続いているケースにおいて、離婚が認められたものがあります。ただし、家庭内別居や連絡を取り合っている状態の場合には、夫婦関係が破たんしているとは判断されず、離婚することは認められない可能性が高くなります。
経済的に自立できない子どもがいないとき
親にとっても、社会にとっても、子どもは宝です。力を合わせて健全に育英しなければなりません。そのため、いくら別居期間が長くとも、未成年で経済的に自立できない状態の子どもがいる場合は、有責配偶者から離婚請求をしても、認められることはありません。
しかし、夫婦で養育すべき子どもがいない場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。
相手の生活保障などをしっかり行ったとき
有責配偶者自身が自らの非を認め、被害者となっていた配偶者が離婚後も生活に困らない状況を作ることで、離婚請求が認められることがあります。
これは、被害者が離婚によって、路頭に迷ったり、生活が貧窮したり、精神的に追い詰められるなどの状況に陥ることは、社会正義の観点から許されるべきではないと考えられているためです。保障の度合いはケースバイケースですが、慰謝料や財産分与などによって賄っていくことになります。
妻から離婚や慰謝料を要求されていて対応に悩んでいませんか?もしかしたら、「自分は有責配偶者だが、可能であれば離婚したい」とお考えかもしれません。離婚という大きな問題に直面し、どうすべきかを迷ったときには、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。法律に則り、あなたが抱える離婚問題を全力でサポートいたします。