離婚拒否をしたいとき

妻から離婚を希望され、混乱していることでしょう。しかし、今このとき、冷静に対処できなければ、取り返しのつかない結果になってしまうこともあります。

そこで今回は、妻からの離婚請求を拒否する方法について解説します。

離婚拒否は可能なのか?

あなたに非がなければ可能

特に理由がなく、一方的に離婚を要求し、離婚に至らせることは、民法では認められていません。結婚するときもそうだったように、離婚するときも、以下のとおり、互いの同意が必要であると、民法で明記しているためです。

第763条
夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

ここに登場する協議とは、夫婦間で行われる話し合いのことを指します。つまり、話し合いを行い、互いに納得しなければ離婚できないというわけです。もちろん、詐欺や強迫によって結婚に至った場合はこの限りではありません。

つまり、妻が希望していても、あなたが拒否し続けていれば、離婚はできないということになります。

ただし、次の項で紹介するように、あなた自身が離婚原因を作ってしまっているケースにおいては、離婚を拒否できないことがあります。

離婚拒否が難しくなる条件

結婚は、法律上「婚姻」と呼ばれており、夫婦関係になることを合意することで成立します。民法では、婚姻できる年齢から婚姻できる条件、家庭内における協力や財産の扱いまで、細かに定められています。そのため、婚姻を行った時点で、互いにそれらを守るという約束をしたということになっています。

しかし、これらの約束を片方が破ってしまったとき、夫婦関係の維持が難しくなります。そこで民法では「裁判上の離婚」として、お互いの合意に基づかなくても離婚が可能な事由を次のように規定しています。

第770条
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
  • 1号 配偶者に不貞な行為があったとき。
  • 2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  • 3号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
  • 4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
  • 5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

これらは「法定離婚事由」と呼ばれています。つまり、あなたが「法定離婚事由」に当てはまる行為をした「有責配偶者」であれば、あなたの妻はあなたとの合意がなくても離婚を請求でき、その訴えは認められてしまう可能性が高いです。

もしあなたが有責配偶者であれば、離婚の話し合いが裁判に至った場合、あなたから離婚を拒否することはできません。では、それぞれがどのような内容なのかを詳しく解説します。

1号 配偶者に不貞な行為があったとき。

不貞とは、簡単に言えば浮気や不倫のことを指します。婚姻すると同時に、互いが貞操を守る義務を課せられています。その約束を破った有責配偶者との結婚生活は難しいと解釈されるわけです。つまり、あなた自身が浮気をしていたら、離婚を拒否することは難しいということになります。

2号 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

ここでいう「悪意」の「遺棄」とは、正当な理由なく、民法第752条で定められている「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」という同居、協力及び扶助の義務を果たしていないという意味です。生活費や資産に関しては、民法第760条でも「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と、明記されています。

具体的には、「専業主婦や病気の妻に生活費を渡さない」、「理由なく別居している」、「家出を繰り返す」、「共働きなのに家事を一切行わない」、「妻を家から締め出す」などの行為をあなたが行っていれば、離婚を拒否できない可能性が高まります。

3号 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。

この条文は文字通り、あなたが3年以上行方不明になり、かつ、生死もわからない状況になったとき、妻はあなたとの合意がなくても離婚できるという内容です。特別な事情なしに家出や別居しているなどの場合は、生存していることがわかっているときには、「悪意の遺棄」と判断され、これに当てはまりません。

4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

あなたが治る可能性がほとんどない精神病にかかったときも、妻から一方的な離婚を申し立てることができます。ここでいう回復の見込みのない強度の精神病は、夫婦が相互に協力する義務を果たすことが難しいほどの状態を指しており、治療によって日常生活へ復帰できるとされる一時的な精神病は含まれません。

5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

この条文では、これまで説明した1号から4号までの理由には当てはまらないものの、円満な夫婦関係の継続が難しいと判断されるようなケースを指しています。

過去の判例では、次のような理由が「婚姻を継続し難い重大な事由」と判断されています。

  • ドメスティック・バイオレンス(DV)やモラルハラスメント(モラハラ)をしている
  • 性嗜好の不一致
  • アルコール中毒や薬物依存になっている
  • 過度な宗教活動を行っている
  • 犯罪を行い服役したとき
  • ギャンブルや買い物など、過度な浪費をしているとき
  • あなたの親族が妻を虐待しているのを見過ごしている・助長させているとき

もしあなたがこれまでの結婚生活でこれらに当てはまる行動をしていた場合は、離婚を拒否することが難しくなります。

離婚拒否するためにやるべきこと

離婚届の不受理申出制度を利用する

離婚を強く求める妻が、勝手に離婚届にサインをして提出してしまうということがまれにあります。また、話し合いをしたとき、勢いに負けて離婚届にサインをしてしまったということもあるでしょう。

離婚したい気持ちがあれば大きな問題にはなりにくいのですが、あなたが離婚を拒否したいのであれば、まずは離婚届を勝手に提出できないよう、一足先に手を打っておく必要があります。

役所の戸籍係では、勝手に離婚届を提出するなどの事故を防ぐため、「不受理申出制度」が設けられています。夫婦の本籍地か住民票がある役所の戸籍係に行き、「不受理申出書」を提出しましょう。たったこれだけで、まずは物理的に離婚を拒否することが可能です。

「不受理申出書」は役所の戸籍課でもらえます。まずはすぐに打てる手のひとつなので、妻が勝手に離婚届を提出してしまう可能性がある場合は、提出しておいた方がよいでしょう。

妻が離婚を希望する真の理由を調べる

まずは、話し合いが必要です。妻が離婚したいと希望する理由をしっかり話し合ってください。コミュニケーション不足が原因で離婚を考える妻は少なくありません。そこで互いが納得できる話し合いができれば、離婚回避は難しいことではないでしょう。

また、妻が語る離婚を希望する理由とは別に、真の理由がないかを考えてみてください。本当の理由を口に出さず、黙り込んでしまったり、別の理由を口にしたりする場合も少なくありません。夫が多忙すぎることに不満があっても、言えずに我慢していたというケースもありますし、妻が不貞行為をしていて、自分自身が有利となるよう離婚したがっていたというケースもあります。

離婚を拒否するためにも、まずは、なぜ妻が離婚したがっているのかを、しっかり見極める必要があるでしょう。

突然「離婚したい」と言われてしまえば、慌ててしまう気持ちもわかります。腹が立つこともあるかもしれません。しかし、早急に結論を出さず、慌てず、落ち着いて、冷静に対処することが求められます。対応が難しい場合は、弁護士や離婚カウンセラーに頼るのもひとつの手です。

妻が有責配偶者であれば証拠をそろえる

妻自身が口にしなくとも、妻が不倫をしている、専業主婦なのに家事をしないなど、有責配偶者であることが認められれば、妻からの離婚は認められる可能性は低くなります。

そこでまずは、妻が有責配偶者であれば、その証拠を集めることをおすすめします。妻からの離婚請求を拒否するにしても、最終的に離婚となっても、その証拠があれば、話し合いが有利に進められます。

証拠として認められるのは、日記や録音、メールやSNSなどのログです。もし妻が不貞行為をしていると考えられる場合は、ホテルや相手の一人暮らしの家に出入りする写真は重要な証拠になるので抑えておくとよいでしょう。裁判では、「性行為を伴う交際があった」と判断できる証拠がなければ、不貞行為があったと判断されません。純粋に仲がよい友人であるケースも考えられるためです。早とちりをして相手を責めてしまえば、離婚回避がより難しくなってしまうこともあります。いずれにしても、証拠隠滅をされないよう、慎重に行動してください。

なお、妻が有責配偶者で、あなたに非がない場合は、妻に対する慰謝料請求も可能となります。

自分が有責配偶者だった場合

もし、不貞行為の事実がある、これまで悪意の遺棄やDVを行っていたなど、あなた自身が有責配偶者である場合、原則、離婚を拒否することはできません。

しかし、離婚を全く回避できないわけではありません。話し合いの余地がある間は、謝罪し、交渉することで、夫婦関係を回復することも可能です。

まずは事実をいさぎよく認め、謝罪しましょう。ここで隠そうとしたり、ごまかしたりすれば、妻の態度は硬化し、より離婚回避が難しくなります。それから、自分は離婚をしたくないこと、その理由を誠心誠意伝えましょう。ただし、していないことはしていないとキッパリ伝え、身の潔白を証明しておくことをおすすめします。

また、どんなに責められても、離婚届にサインをしたり、別居したり、暴力を振るったり、暴言を吐くことはやめましょう。これらの行動は離婚への近道となってしまいます。

あなたの言動によって妻が離婚を決意したという現実を認め、妻の言い分を最後まで聞き、どれだけ時間がかかっても、ひたすら謝罪して夫婦関係の回復に努める、という忍耐強さが求められます。

自分から、二度と同じ過ちは繰り返さないという内容の誓約書を差し出すという手もありますが、内容によってはあなた自身が後悔することもあるでしょう。不安な場合は弁護士に相談してから作成することをおすすめします。

夫婦関係を修復する段階別回避ポイント

話し合いの段階

あなたが妻の要望を受け入れ、離婚届にサインをしない限りは、離婚はできません。つまり、あなたが離婚届のサインを拒むだけで離婚拒否は可能です。

もしあなたや妻に有責事由がないのであれば、どうすれば夫婦関係を回復できるのかについて、じっくり話し合うことも重要です。多くのケースがコミュニケーション不足によるものなので、これを機に会話を増やすように心がけてみてはいかがでしょうか。

調停への呼び出しが来たら

離婚のシーンにおいては、調停でも夫婦の意見がまとまらない場合、裁判に進みます。あなたに非がなく、妻が有責配偶者であれば、裁判に至った場合でも、離婚を拒否できます。ただし、調停とは異なり、裁判へ出頭せず、かつ、何らの主張もしないと、相手方の主張がそのまま認められてしまい、離婚が認められてしまいます。

そのため、妻側からの主張に対し、婚姻関係は破たんしていない、夫婦関係が回復できると裁判所に判断してもらえるよう、証拠を示し、反論していく必要があります。専門知識がない個人が裁判への対応をすることは難しいものです。可能であれば、裁判所から訴状を受け取った時点で、弁護士に相談してください。

もしあなたが有責配偶者の場合は、離婚の拒否は難しくなりますが、絶対に離婚を回避できないというわけではありません。法定離婚事由を定めている民法第770条でも「2.裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」と明記しています。

ただし、司法統計上、片方が離婚を望んでいる場合における「夫婦関係調整調停」を経て、夫婦関係が回復したケースは少ないのが実情です。可能な限り、調停へ至る前に離婚を回避する必要があるといえるでしょう。

どうしたらいいのかわからないとき、対応が難しくなったときは、専門知識が豊富な離婚カウンセラーか、離婚問題に強い弁護士に相談してください。個人で対応するよりも、事態解決が期待できます。

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