会社を経営している場合や、不動産を所有している場合、年収が高額になる場合などは、財産分与や養育費、慰謝料などのお金の問題が複雑になることがあります。
複雑なお金の問題は専門の弁護士にご相談することをおすすめします。
高額所得者(年収2,000万円以上)の養育費・婚姻費用
年収2,000万円を超える場合の問題
現在、養育費や婚姻費用の算定は、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」というものを用いて行われています。
この算定表を使うと、夫と妻の年収さえ分かれば、誰でも簡単に、おおよその養育費や婚姻費用を知ることができるため、この算定表を基本に金額が決められるのが一般的です。
しかし、算定表には、高額所得者(給与所得の場合、年収2,000万円超)についての定めがありません。
もともと算定表は、以下の【養育費の計算方法】【婚姻費用の計算方法】に記載する少々複雑な計算式から算定される金額を、誰にでも分かるようにしようという目的のもと、表にまとめたものです。
そうすると、高額所得者(年収2,000万円以上)の場合は、以下の計算式に従って養育費や婚姻費用を算定することになるのでしょうか?
養育費と婚姻費用の一般的な計算方法
養育費の計算方法
基礎収入の計算
基礎収入=税込給与×0.34~0.42(基礎収入割合)
- 基礎収入は、税込収入から公租公課、職業費、特別経費(住居費・医療費)等を控除した金額であり、これらを控除するため、税込給与に0.34~0.42までの範囲の基礎収入割合を掛けることになります。
子どもの生活費
子どもの生活費=義務者の基礎収入×子どもの生活費指数の合計÷(100+子どもの生活費指数の合計)
義務者が負担すべき養育費
義務者が負担する1か月の養育費=子どもの生活費×{義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)}
婚姻費用の計算方法
基礎収入の計算
基礎収入=税込給与×0.34~0.42(基礎収入割合)
権利者世帯の生活費
権利者世帯の生活費=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×{(権利者+子どもの生活指数)÷(権利者+子ども+義務者の生活指数)}
婚姻費用分担額
権利者世帯の生活費-権利者の基礎収入
- 「義務者」=お金を支払う方 「権利者」=お金をもらう方
高額所得者の場合、計算式どおりに支払う必要はあるか
上記計算式の「義務者の基礎収入」というところに着目してみてください。
基礎収入が高ければ高いほど、その分、養育費や婚姻費用も多く支払う必要がありそうです。
しかし、上記の基礎収入割合(0.34~0.42)は収入に応じて変動し、所得が高額になるほど、基礎収入割合は小さくなります。また、高額所得者の場合、そうでない方とは公租公課等の額も異なることから、単純に算定表の予定する基礎収入割合を用いることはできません。
さらに、養育費や婚姻費用の以下のような性格からすると、必ずしも基礎収入が高いほど、その分、多くの費用を支払わなければならない、ということにはならないと考えられます。
高額所得者の養育費について
「養育費」とは、子どもが社会人として自立するまで必要とされる、子どもの養育のための費用です。
養育費には、教育費、医療費、交通費、衣食住費、娯楽費等が含まれますが、このような費用として、例えば1ヶ月に100万円も使うことは、通常あまり考えられません。
そのため、上記計算式を参考に養育費の額を算定した結果、子どもを養育するため通常必要とされる額を大幅に超えることになるような場合、必ずしも計算式をもとにした額を相手方に支払う必要はないものと考えられます。
もっとも、養育費を算定する際には、個別の事情も考慮されます。例えば、相手方が、子どもを公立学校ではなく私立学校に行かせようとしている場合、その家庭の資産の状況からみて、高額所得者の方に私立学校費用を負担させることが相当と認められるような場合には、通常よりも養育費の額が高くなる場合があります。
高額所得者の婚姻費用について
「婚姻費用」とは、婚姻している家庭が、資産・収入・社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。
あくまでも生活費であって、贅沢な生活に使う費用までが含まれるわけではありません。特別の事情がない限り、婚姻費用の額が月額100万円を超えることはないと思われます。
そのため、上記計算式を参考に婚姻費用の額を算定した結果、通常の生活をするのに必要な額を大幅に超えることになるような場合、必ずしも計算式をもとにした額を相手方に支払う必要はないものと考えられます。
もっとも、婚姻費用の算定の際も、個別の事情は考慮されます。
高額所得者(年収2,000万円以上)の財産分与
財産分与とは、離婚の際に、夫婦が結婚生活を共に送る中で協力して築いた財産を分けることをいいます。
そのため、例えば、現在の高額財産が、相手方と結婚してからその内助の功等により仕事の収入がアップしたために生じたものである場合は、夫婦が結婚生活中に築いた財産に当たるものとして、相手方にその額の2分の1を渡さなければならないとされるのが一般的です。
ただ、2分の1ずつ、というのは一つの基準であり、原則として夫婦の間で自由に額の取り決めをすることができます。
また、財産分与の対象は、あくまでも結婚生活中に夫婦が協力して得た財産に限られるものであり、どちらか一方が結婚前に貯めていた預貯金や、結婚後に親や兄弟からもらったもの、相続財産等(これらを特有財産といいます。)は財産分与の対象になりません。
以上のことから、今ある財産が高額である場合、その額の2分の1を、全て相手方に分与しなければならないことにはなりません。
それらの財産を有することになった経緯等を確認した上で、財産分与の額を決定する必要がありますので、高額所得者の方は、相手方に対し、安易に沢山の財産を分与しすぎないよう注意をしましょう。
「離婚時の財産分与は弁護士にご相談ください」のページでは、財産分与の対象になるもの・ならないもの、注意点などについて解説しています。ぜひご参考ください。
弁護士からのアドバイス
このように、年収が2,000万円を超える方についての養育費用、婚姻費用の算定は、上記計算式に当てはめて自動的に算定できるようなものではありません。
具体的事情にもよりますが、実務では、費用を支払う方の年収が2,000万円を超える場合であっても、2,000万円として扱うという運用がなされることもあります。
また、養育費や婚姻費用の額が裁判で争われることになる場合、その額は、最終的には裁判官の裁量に委ねられており、夫婦の生活実態によっても異なります。財産分与も同様です。
年収2,000万円以上を有している方の養育費や婚姻費用、財産分与は、個別的・具体的な事情を考慮して決定されることになることから、上記計算式を参考にしつつも、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。